『忘却の都市』 霧崎の疑念
夏希の質問の意図が、正直よく分からない。
それでもしばらく考え、こう答えた。
「……この都市は、きれいで秩序が保たれている。素晴らしい場所だと思う。」
そう口にした瞬間、夏希は何も言わず、ただ霧崎を見つめていた。
沈黙。
「でも——」
俺は続ける。
「整いすぎていて、逆に違和感がある所もある。そう、まるでみんなが“見えないルール”に縛られて生きているような……」
その言葉を口にした瞬間——夏希の目が、一瞬だけ鋭くなった。
しばらくの間、静かに見つめていたかと思うと——夏希はふいに口を開く。
「第一項。都市警備隊は都市の秩序と平和の維持を最優先にすべし。」
急な彼女の変化に霧崎は息を飲む。
その声は淡々としており、まるで機械のように、感情のない声で読み上げられる。
「第二項。都市の運営に関し、不平不満、疑問を持つ住民の行動、言動を確認した際は報告すべし。」
夏希は読み上げながら、霧崎をなおもじっと見つめる。
そして少し間をおいて……最後の言葉が続く。
「第三項。尚、都市警備隊間において上記を確認した場合は、即座に捕縛、連行すべし。」
夏希は静かにその条項を読み上げ——ゆっくりと微笑んだ。
その笑みは薄く、どこか鋭いものを含んでいる。
肉食獣が獲物を観察するかのように、夏希から危険な気配が放たれる——。




