『忘却の都市』 玲奈の回想
私がこの都市に来る前。
——突然の事故に巻き込まれた。
そのとき私は気を失っており、何があったかはほとんど覚えていない。
ただ……後で聞いた話だと死人も出たらしい。
気づけば意識を失い、目が覚めるとこの都市にいた。
医師に「身寄りは?」と聞かれた時、私は何も答えられなかった。
思い出せないのではない。
すでに両親は他界しており、周りに身内は誰もいなかったのだ。
だけど、そんな戸惑う私を、都市の人たちは温かく受け入れてくれた。
住居の手配や食料の支援など、驚くほど丁寧に、必要なすべてを整えてくれた。
しばらくの間は不安だったが、工藤先輩や田中先輩がいてくれたことで、この都市での暮らしを楽しめるようになった。
この都市はとてもきれいで秩序が保たれている。
混乱や争いとは無縁の場所。
私はこんな世界に共感した——そして、秩序を守る仕事があると聞いて、迷わずこの業務に従事することを選んだ。
「玲奈っち、ぼーっとしてるけど大丈夫?」
目の前に工藤先輩が顔を近づけてくる。
「すみません、少し考え事をしてました。」
「考え事?何、恋愛のこと?」
「違います。」
「玲奈っちは相変わらず、真面目だねぇ。」
工藤先輩の軽い口調に、私はクスッと笑う。
この都市に来てから、約一年。
私は、この場所がとても好きだ。




