『忘却の都市』 ???
「本日1名、都市警備隊に配属されました。」
物々しい機械が並ぶ部屋で、黒髪の少女は淡々と報告を続ける。
「特に異常なし。不審な動きも見られません。」
「了解。その他に報告はあるか?」
手元の資料を確認しながら答える。
「他にも1名、住民登録された方がいます。こちらは対象外の方です。」
短い沈黙の後、通信の向こうから落ち着いた声が返ってきた。
「了解した。引き続き確認を続けるように。」
そう言って、通信が切られた。
少女は静かに息をつき、モニターから目を離した途端——。
「玲奈っち、疲れたよ~休みたいよ~!」
背後から何かがふいに飛びついてきた。
「急に飛びつかないでください。通信中だったら、どうするんですか。」
——工藤 沙織。私の先輩だ。
背が高くて見た目はすごくしっかりしているのに、なぜか私の前だとこうなる。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんとそのあたりは確認してるから。」
親指を立てて自慢げに話すが、言動が一致していないのはいつものことだ。
その時、少し離れた場所から低い声が飛んできた。
「工藤、神崎が嫌がっているぞ。そろそろ離れてやれ。」
長身のメガネをかけた男性——こちらは田中 樹先輩。
同じ監視業務を担当しているが、田中先輩は工藤先輩とは対照的にいつも冷静だ。
「先程の通信は新しい住民の報告か?」
「そうです。数日前にこの都市に来た男性が、本日付けで都市警備隊に配属されました。」
無言でモニターを見つめた後、ゆっくりと呟いた。
「……都市警備隊か。」
田中先輩のその言葉に、なぜか3人とも一瞬沈黙する。
ふいに思い出したように工藤先輩が口を開く。
「都市警備隊ってことは、指導員がつくはずよね?」
玲奈は手元の資料を再確認する。
「はい。指導員は進藤夏希さんという方だそうです。」
「あー、あの金髪ショートの可愛らしい子ね。彼女なら大丈夫そうね。」
工藤先輩は安心したように笑った。
「ちなみに新しく入ってきた住民ってどんなの?」
玲奈は目の前のモニターを少し操作し、画面に表示する。
「え、思ったより若いわね。二人とも玲奈っちよりちょっと上ぐらい?」
「そうですね、私の2つ上の年齢です。」
それを聞いて、先輩はなぜか落ち込んだ様子を見せた。
「私と玲奈っちってそんなに離れてたんだ……ちょっとショック。で、ちなみに玲奈っち的にこの子たちはどう?」
「......どうとは?」
質問の意図が分からず、聞き返してしまう。
「そら恋愛対象かどうかって意味よ。」
工藤先輩はこういう話が好きだ。何かと恋愛話に持っていきたがる。
「ないですね。」
即答すると、先輩は満足げに笑った。
「お、分かってるね!やっぱ男はもっとダンディさがないと…...」
「それはお前の趣味だろ。」
今まで黙っていた田中先輩が突っ込みを入れる。
玲奈はこのやり取りを見ながら、ほほえましく感じた。
私はこの何気ない日常が好きだ。
そう、私がこの都市に来たあの日から——。




