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忘却の都市  作者: HANA
記憶なき都市の入口
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『忘却の都市』 霧崎の選択

「じゃあ、次は霧崎の番だな。」

悠人がそう言いながら、ポットから少し離れた場所で軽く腕を組む。


俺は無言でポットに入り、身分証をかざした。

一瞬、淡い光が広がり、全身がスキャンされる。

そして、目の前にホログラムが浮かび上がった。


しかし——。

「適性職業…警備業、その他適切の職業は…無」


それだけだった。

派生職業は、表示されない。

目の前のホログラムをじっと見つめながら、眉をひそめた。

聞いていた話とは違う。

悠人からは複数の派生職業が表示されたと聞いたが、一つしか表示がない。

念の為、同じ動作を何度か試すが、

「適性職業…警備業、その他適切の職業は…無」

結果は同じだった。

何度やっても恐らく変わらないだろうと思い、静かにポッドから出た。


浮かない顔をしている俺に悠人が少し首を傾げながら尋ねる。

「どうした?霧崎もあまり良くない結果だったか?」

俺はしばらく考えてから、ゆっくりと答えた。

「……警備業しか表示されなかった。」

その言葉を聞いた悠人は、一瞬驚いたように目を見開いた。

「は?たった一つ?派生は?」

「ない。」


悠人の表情が微妙に変わる。

彼はどこかをじっと見つめながら、しばらく黙り込んだ。

そして、小さく息をつきながら言った。

「……警備業か。」

俺はその言葉の響きに、微かな違和感を覚える。

悠人は苦笑しながら肩をすくめた。

「いやさ、俺、本当は都市の警備隊になりたかったんだよ。」

「……警備隊?」

俺は眉をひそめる。


「そう。この都市での警備隊って、決まった勤務時間がないんだ。都市を巡回して異常がないか確認して、何か起きたら対応する。なんか自由そうじゃん。」

そう言いながら、悠人は苦笑した。

「それに、市民や都市を守る側の仕事ってのにも憧れがあったんだけどな。」

俺はそんな悠人の言葉を聞きながら、ふとポッド横近くの受付の女性に視線を向けた。

「すみません。適性職業が一つしか表示されなかったんですが……これって正常ですか?」

係の女性は端末を確認しながら、淡々と答えた。

「ポッドに異常はありません。」

「でも、派生職業も表示されると聞いていたんですが。」

「稀に、適性職業が一つしか表示されない方もいらっしゃいます。その場合は申し訳ございませんが、そちらの職業を選んで頂く必要がございます。」


俺はその言葉を聞きながら、一瞬考え込む。

「派生職業が表示されない理由は?」

女性は端末を軽く確認し、静かに答えた。

「適性データに基づく結果です。それ以上の情報は開示されません。」

俺はゆっくりと息を吐いた。

係の女性に文句を言っても仕方が無い……が、どうしても腑に落ちなかった。

悠人が隣で苦笑しながら肩をすくめる。


「......ま、そういうこともあるのか。結局、俺は接客業で、霧崎は警備業ってわけだな。お互い職も決まったし、これから頑張ろうや。」

そんな事をいいながら、悠人は俺の背中を軽く叩いて先に施設から出ていく。

その背中はどこか少しだけ寂しそうであった。

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