『忘却の都市』 陽動の瞬間
ついに、エピソード100になりました。
それぞれのエピソードが「500~1500文字」程度ですので、もし興味がございましたら他のエピソードもサラッと読んで頂けると幸いです(^^♪
「……じゃあ、いくぞ。」
悠人は小さく息を吐き、静かに扉に手をかけた。
恐る恐る扉を押し開ける。
扉の先は——誰もいない。
「……ふぅ。」
悠人は、わずかに肩の力を抜いた。
だが——次の瞬間。
「……どなたですか?」
少し先の廊下に、先ほどの少女がまだ残っていた。
悠人はとっさに表情を取り繕う。
「えーっと……ちょっと興味本位で中に入ったら、なんか変なとこに迷い込んじゃって……!」
明らかに怪しい言動——だが、その背後で霧崎たちへ"早く行け"の合図を送っている。
霧崎と夏希は即座に意識を切り替えた。
悠人の無事を祈りつつ、デバイスを起動する。
次の瞬間、2人は無音のまま扉をすり抜け、左手奥のエレベーターへと向かう。
霧崎が言った通り——エレベーターはそこにあった。
すぐに起動させ、乗り込む。
静寂——
今のところ、気づかれた気配はない。
だが——エレベーターの扉が閉まりかけた、そのわずかな隙間で、霧崎は息を詰めた。
研究員らしき数名に囲まれ、悠人が必死に話している姿が見える。
言葉は聞こえない。
だが、その表情だけで、緊張が手に取るように伝わってきた。
悠人のためにも——すぐに目的を果たさなくてはならない。
エレベーターの静かな下降とは裏腹に、霧崎の鼓動は確実に速まっていく。




