『忘却の都市』悠人の選択
しばらくして、溜息をつきながらポットから出てきた。
「あーまあ、仕方ないか。やっぱりそうだよなぁ。」
俺は少し疑問を抱く。
「どうしたんだ?決めていたんじゃなかったのか?」
悠人は苦笑しながら肩をすくめる。
「いや、ほんとは別の職業が良かったんだよな。まあ、適性職業も悪くはないんだけど……。」
ポケットの中で身分証をいじりながら続ける。
「もしかしたら派生の職業の中にもう少しいい感じのがあるかと思ったんだけど、やっぱダメだったわ。」
「……何が適性職業だったんだ?」
悠人は少し間を置いて、苦笑しながら答えた。
「接客業だよ。施設案内スタッフとかも出てきたけど、結局一番適性が高かったのはお店とかの接客業だった。」
俺はその言葉を聞きながら、この装置の仕組みについて考える。
確かに、悠人のコミュニケーション能力は高い。なんとなくこの都市のイメージする住民とは違って、彼は言葉を軽やかに操り、人との距離を縮めるのが得意だと感じる。
確かにこの仕組みは、本当に正しいのかもしれない。
「やりたくないのか?向いてると思うが?」
悠人は苦笑いしながら、今出たばかりのポッドをぼんやりと見つめた。
「まぁな、それは俺も否定しないよ、人と喋るの好きだし。それに適性があるなら楽にできるってことだし……仕方ないか。」
「表示された以外の職業は選べないのか?」
悠人は残念そうに答える。
「適性職業以外から選べるといってもあくまで表示された中から選ばないといけないんだ。まあ、わざわざこうやって最先端の技術で適性職業出してくれてるんだから、その中から選べって話だな。」
その言葉を聞いて、俺はこの都市がこんなにも整然と管理されている理由が、少しだけ腑に落ちた。
本人は最適とされる決められた役割を与えられ、それに見合った最適な仕事をこなす。
そうすれば、都市運営もスムーズにいくし、住民のストレスも少なく秩序が保たれる。
少しドライに聞こえるが、確かにこれ以上の効率的な運営は無い。
俺はそんな事をぼんやり考えながら、次は自分の番だということを意識する。




