遊び人は探し人の居場所を突き止めるようです。
ライズたちは、もちろんそのまま帰ったりはしなかった。
ステーキがこちらを見送っているのを確認しつつ、2人で建物の角を曲がる。
そのまま同時に足を止めると、ライズはサモンに目配せした。
「わかっとるよ」
サモンが壁を背にしてドカッとその場に腰を下ろした。
両手で印を組み、魔法を行使する。
「〝おいでませ〟」
サモンが召喚したのは、何十匹という蚊のような小さな『見張り虫』だ。
小指の先ほどもないそれがふわりと風に乗って移動し、カジノの周囲に『目』としてバラまかれた。
そのままサモンは目を閉じる。
見張り虫の視界とリンクして、カジノの周りを見張り始めたのだ。
ライズは無防備なサモンを守りながら、カジノの方をそっと覗き見る。
ステーキはどうやら中に戻ったようだ。
出てきた場所は隠し扉になっていたようで、今はただの壁のように見えた。
同じ場所から出てくる可能性は低いだろうな、と思いながらも、ライズは目を向け続ける。
そして、ふと思いついたことを実行に移した。
「……〝呼ばれて飛び出て〟」
『ナンヤテー!!』
ポン! と現れてツボからナンヤテがにゅっと顔を覗かせた。
ライズはくりっとした目で見上げてくる彼女に対して、軽く微笑みかけた。
「ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけどさ」
『ナ、ナンヤテ?』
こんな風にお願いをするのは初めてであり、これまでと違う扱いに戸惑ったのかナンヤテはポッと頬を染める。
「ちょっとオレに与えてる幸運の加護を、サモンとフォクさんに分けてくれない?」
『ナンヤテー!?』
ブンブンと首を横に振るナンヤテの頭を、ライズは優しく撫でた。
「頼むよ。今日一日だけでいいから」
彼女に向ける笑みはそのままに、さらに言葉を重ねる。
「やってくれないなら、オレ、遊び人やめちゃうかもよ?」
『ナンヤテーーーー!!』
どうやら自分のことを大層好んでいるらしいナンヤテは、大げさに叫んだ後、しばらく固まった。
そして涙目になりながら、ポウ、と光る。
すると、ライズの中から光の玉が現れて二つに分かれて、一つはサモンの中に、もう一つはヒュン、とその場で消える。
多分フォクのところへ行ったのだろう。
そのままうるうると目に涙を浮かべてこちらを見上げるナンヤテに、ライズは少々バツが悪くなった。
まさかそこまでショックを受けるとは思わなかったので、少し反省する。
「ありがとう、ナンヤテ」
だがこれは、自分が遊び人であり続ける選択の契機になったフォクを助けるために必要なことだ。
泣かせてしまった代わりに、彼女にご褒美を渡そうと隠しポケットから大粒のアメ玉を取り出した。
「これはお礼だよ」
『ナンヤテ?』
アメ玉にキラキラと目を輝かせたナンヤテに向かって、ライズはポン、とそれを放った。
目で追い、ツボに入ったままふわりと浮き上がってぱくん、とナンヤテがアメ玉を口に含むのと同時に、ライズは指をパチンと鳴らした。
「1、2、3。お疲れ様」
『ーーー!?』
アメ玉のせいで口がきけなかったナンヤテは、そのまましゅるん、と姿を消す。
「お、あのデブ出てきたで。……しかしお前も、悪どいマネするなぁ」
「何が?」
ちらりと片目を開けたサモンに向かって首をかしげると、彼はナンヤテのいたあたりを指差した。
「女神様が可哀想やと思わんのかいな? 毎度毎度雑な扱いしよってからに」
「殴るとか言ってた童貞のセリフじゃないと思う」
「やかましいわボケ!!」
教えへんぞこの野郎、とブチブチと愚痴を言うサモンに、ライズは先を促した。
「どこ行った?」
「北に向かっとるな。貴族街の方や。ステーキも一緒に馬車に乗っとる」
「どこまで追える?」
「この街中くらいなら余裕やで」
「よし」
ライズは、片目を閉じたままのサモンが立ち上がるのに肘をつかみながら、馬車の向かった方角へと歩き出した。
おそらくは、フォクのところへ向かうだろうというライズの予測は当たった。
※※※
「で、どないすんねんな?」
おそらくはフォクがいるだろう屋敷のそばについた後、サモンが問いかけてきた。
もともと、ポッティートが住んでいるという場所とは別であり、ほぼ間違いないだろうと思うのだが。
「このまま助けに突っ込む」
「言うと思っとったけどあかんに決まってるやろ」
「何で?」
「あのな」
サモンは呆れた顔をすると、片目を閉じたまま理由をつらつらと並べてくる。
「そもそもや。ここが誰の屋敷かも分からんやろ。ポッティートの持ち物やったらええけど、もしちゃうかった時にバレたらどないする気やねん」
「ごまかすとか逃げるとか」
「おう、ほんでフォクさんさらってお尋ね者になるんかいな。そもそも何のために迎えに来たんや?」
「あ、そっか」
さらって逃げる、だけだとミーツのところに送り届けるまでに手間がかかるのである。
サラやミーツに事情を説明すれば解決はするだろうが、めんどくさいことになるのは間違いなかった。
「でも、サラさんに何かあったら?」
「そうならんために、ほれ」
サモンは、自分の閉じた片目を指さした。
「見張り虫を一匹、ポッティートとステーキにひっつけとる。屋敷ん中までな」
ニヤッと笑った三下賢者は、そのまま言葉を続ける。
「なかなかおもろいことになっとるで」
ライズは軽く片眉を上げると、まじまじとサモンの整った顔を見る。
「なんや」
「お前って本当、女に縁がないことと性格以外は完璧だよね」
「やかましいわアホタレ」




