雪女って、そんなに妖力が高いのか?
大蛇の頭に乗った女性は、優雅に飛び降りた。軽々と着地した。
「つ、紬様!?」
妖狐は驚いて声を張り上げた。
「不思議な組み合わせね。いつ知り合ったのかしら? お姉さん、聞いてないわよ」
紬と呼ばれた女性は困ったように口元に手をあてて少し傾げた。
「ついさっきです!」
里桜は答える。
パリーンっと氷が砕かれる音が響く。凍っていた口の氷を力任せに砕いたのだ。
ギリギリと舞を締め付けてる鱗にも力を込められ、舞は苦しそうな声をあげる。
「ふんっ。あの異質な雪女か。見たところ、噂は本当のようだ。雪女だというのに派手な格好をしていると」
大蛇は目を細め、挑発する。
「まぁ。褒め言葉をありがとう! 可愛いでしょう? お気に入りなのよ」
紬はくるっと一回転する。そんな紬を見て、大蛇は鼻で笑った。
「笑死! 雪女の髪は妖力の源だと聞く。白ければ白いほど妖力が高くなる。それを自ら染めて妖力を弱めるとはなんと愚かで滑稽な」
「そうなの? それよりも、その子をいい加減放したらどうかしら? じゃれつくにしても相手は人間なのよ。死んでしまうわ」
紬は、大蛇の挑発を軽く流して、舞を指差した。舞は締め付けられてぐったりしている。
意識が飛んだんだろう。
「死んでも構わん。どの道、我が食うのだから」
「そう……」
「妖力が弱い雪女など恐れることはない!! 我の血肉にしてやろう」
大蛇は目をギラつかせ、白く鋭い牙を見せる。
「それは困るわ」
紬は地を蹴って、大蛇の目線の高さまで飛び上がった。
大蛇の白く鋭く尖った歯を凍らせる。ピシッとヒビがはいり、粉々に砕け散った。
「!?」
予想外な攻撃で驚いたのだろう、大蛇は目を大きく見開いて紬を見た。
「良いこと教えてあげましょうか。雪女の妖力は生まれ持ったものよ。だから、髪の色とか関係ないの。いるのよね。偏見で決めつけるのって、どうなのかしら?」
紬はニコッと微笑む。
大蛇は何かを言おうとしたが、歯が砕けているので思うように言葉が発せない。
ふぅっと息を吹きかけようとしたら里桜が声を張り上げた。
「お姉さん!! 食べるので、氷漬けはダメです!! せめて八つ裂き程度でお願いします!」
えっ、それ本気だったの!?
というか、座敷わらしが八つ裂きって言っちゃまずくね?
「食べる……?」
紬は驚いたように大蛇を見る。手を叩いて嬉しそうに笑った。
「それは面白い案だわ!」
里桜の提案にのった紬を見て、大蛇は慌てた。
大きく首を横に振って冷や汗が大量に流れている。それも目視できるぐらい。
さっきまでとは態度が違う。
雪女って、そんなに妖力が高いのか?
「大蛇ってどんな味がするのかしらね? 甘いのかしら、それともしょっぱいのかしら……。意外とさっぱりだったりして。ふふっ、どう調理しましょうか」
紬の手にはいつの間にか氷の刀が握られていた。ペロッと自分の唇を舐め、大蛇の味を想像している。
「大丈夫。貴方は幸運よ。だって、私が来たんだもの。それが天狗の湊音くんや鬼の碧生ちゃんだったら今頃は骨も残らないでしょう。でも、私は二人よりも優しいの。すぐに楽にしてあげるから」
その一言で大蛇は涙目になって舞を締め付けていた力を弱める。スルッと舞が地面に一直線に落ちていく。
地面に落ちる直前に、妖狐が駆け出して飛び込む。
妖狐は地面に擦るように転んだが、その上に舞が落ちた。
小さな呻き声が妖狐から聞こえたが、妖狐がすぐに起き上がって舞の心配していたから大丈夫だろう。
「チッ。逃がさないわよ」
大蛇が舞を離したのは、自分が逃げる時間を稼ぐ為だったのだろう。
紬は慌てて去ろうとしている大蛇の鱗が地面についている部分だけ氷漬けにした。
紬は大蛇の首を斬り落とす。
斬られたところが大量に血が吹き荒れる。それは血の雨となって周囲に降り注ぐ。
ズシンっと大蛇の頭が地面に落ちると振動で大地が揺れた。
胴体も地面に崩れるように倒れる。砂埃が舞う。
そんな中、凛々しい顔で優雅に地面に着地した紬は「さて、この状況を話してもらいましょうか?」とにこやかに言っているが、目が笑っていないので多分、怒っているのだろう。
さっきの舌打ちといい、表と裏の顔がありそうだ。
俺は首を斬られた大蛇を見る。
舞を食われなくて良かったが、紬は話をわかってくれるのだろうか。
里桜の話から、話せばわかるだろうとなんとなくで思っていたが……。
口ぶりから察するに、人間をかくりよに連れてくるのは宜しくないと思っているようだし、大蛇をこうもあっさりと倒す強さ……。
それがもし、俺や舞に向けられたなら……。ゾクッと鳥肌が立った。
里桜は俺が不安に思っているのを察したのか、いつの間にか俺の横に立っていて、ギュッと俺の手を握りしめ、心配そうに顔を覗き込む里桜。
里桜はこういうところは変わらない。猫だった時も俺が落ち込んだり、悩んだり、不安に思っていると必ず傍で寄り添ってくれるのだ。
何も言わず、ただ傍で見守っている。俺はそれが心地良くて、安心したんだ。
俺は、首を左右に振って気持ちを切り替えた。
大丈夫だ。俺には座敷わらしの里桜がついているじゃないか。
俺も里桜の手を握り返した。
前回での紬の登場シーンでの里桜の食べる発言は聞き逃してます←




