もしかしたら怒りで恐怖を忘れているのかもしれない
放心している舞の肩に手を置くと、ビクッと肩が跳ねて俺を見た。
「あ……えっと、どう……なんで……??」
言いたいことがまとまってないのか、まだ頭が混乱してて状況が整理できてないようでかなりテンパっている。
だが、いつまでもテンパっていては困る。何せ、大蛇と妖狐が戦っているのだから。
聞いていた限りでは、妖狐の方が大蛇よりも妖力が弱いみたいだから、なんとかしなくてはならないが……。
舞をこのままにしとくわけにはいかない。
「なんで……なんでこんな事するのよ。もう訳わかんない。だって、妖狐は両親の仇みたいなものだったじゃない。なのに……違うって」
「舞に何があったのかは知らないけど、それは妖狐に直接聞いてもいいんじゃないか?」
「でも! 私は人間よ。あんな大きな蛇に敵うわけないじゃない」
舞は声を張り上げた。
俺は、胸に手を当てた。
「だったら、俺が囮になる。そのうちに助ければいいだろ」
俺の発言に反応して、里桜が俺の手を握りしめた。
「!? それはいけません! 私が行きます!! 私が囮になるんです。私は妖ですから、多少の攻撃なら耐えられます」
「それはもっとダメだ」
「私は透和様のお嫁さんでもあります。だから、私は透和様の為ならば危険なことでも致します!」
「嫁とか関係ないだろ。というか、した覚えないから! そうじゃなくても危険な事はさせられない」
埒が明かない。そもそも里桜は嫁の意味をちゃんと理解しているのだろうか?
そんなやり取りをしていると衝撃波により砂埃が舞って、突風が吹き荒れた。
風の抵抗を少しでも和らげるように顔を腕で隠す。
目を凝らして見ると、大蛇の尻尾により地面に叩きつけられた妖狐は身動き取れないでいる。
大蛇は大きな口を開け、妖狐を呑み込もうとしていた。
「~~っ!?」
まずい!! そう思って、走り出そうとしたが、先に走り出したのは舞だった。
さっきまで、あんなにも怯えていたのに。舞の性格だから、もしかしたら怒りで恐怖を忘れているのかもしれない。
舞は大蛇が妖狐を呑み込む直前で飛び込み、妖狐を抱き締める。
地を強く蹴り、前に倒れ込む。
勢いよく倒れたので地に腕や足が擦れる。
大蛇の口は、勢いは止まることなく、地面に突っ込んだ。
衝撃を地面が受け止めるが、その衝撃があまりにも威力が高いのか、土埃が舞、地面が割れ、石が飛び散る。
「な、なんで来たの!? わかってる?? キミは命を狙われ……」
「ごちゃごちゃうるさい!!」
妖狐は上半身を起こして、予想外の展開で焦っている。
だけど、そんな妖狐の頬を思いっきり両の手でペチンと音が鳴るぐらい叩くと、そのまま包み込む。
「いぃった!? え??」
「ふざけんな! 守ってって私が頼んだの? 狙われてるから何? 私はずっと生き地獄だったわよ。しかも、勝手に謝んないでよ! 怒ってる私が馬鹿みたいじゃない」
「あの……その」
「勝手なのよ。自殺した両親も。なんで私には何も言わずに勝手に決めて、居なくなるの? 私の気持ちは無視してさ。私の声もちゃんと聞いてよ! 気持ちを勝手に決めつけて自己解決して、迷惑なのよ」
舞は妖狐の胸ぐらを掴んで言い放つ。怒りに任せているせいか、声が大きいのもあり、俺の耳にもよく聞こえてきた。
数メートルぐらいは、離れているというのに。
地面に擦り付けた舞の腕が痛々しい程、血が滲んでいる。
気付いていないのか、怒りが爆発してそれどころじゃないのか……。
「あんたもあんたよ!! 変にかっこつけるな! かっこ悪いのよ。弱いくせに」
舞は早口で捲し立てる。言い終わる頃には肩で息をしていた。
妖狐は狐の面をしている為、表情が分からないが、困っているのが伝わってきた。
大きな影が舞と妖狐を包む。
大蛇が地面から顔を退け、二人に近付いたのだ。
舞を見る大蛇の瞳が一瞬だけ赤く光った。
まるでーー「自ら獲物が飛び込んで来た」と喜んでいるかのように。
「舞! 離れろ!!」
俺は声を張り上げた。
だが遅かった。蛇の鱗は舞の体に絡みつき、締め上げる。
妖狐は舞の手を必死に掴むが、大蛇は舞の体を持ち上げ更に強く締め付ける。
助けないとと、走った。人間の俺が立ち向かってもどうにもならないのは知っている。それでも、助けたいんだよ!
必死に走っていたが、俺の後ろにいるはずの里桜がいつの間にか大蛇の目の前に光に包まれて現れた。
里桜は俺を見て、クスッと笑う。
「透和様~!! 私、いい事思いついたんです。食べられるなら、逆に食べれば良いと思いませんか? 」
明るく俺に手を振りながらとんでもない発言をする里桜。
いや待て、どうしてそうなった?
「蛇って……美味しそ……じゃなくて、そもそも透和様に止められてますが、料理が出来ないだなんて、思われたら恥ですので」
目をキラキラさせてヨダレを垂らしている里桜は、必死に平常心で言うが、本来の欲は美味しそうだから食べたいのだろう。顔が本心を隠してない。本人は必死に隠してるつもりなんだろうが……。
このシリアス展開でぶっ飛んだ発言をした里桜にその場にいる全員が唖然としていた。
大蛇なんて驚き過ぎて舞の体を締め付ける力が弱まっているようだ。
「そうですよね。お姉さん」
里桜のその言葉と同時に大蛇の口が凍った。
「懐かしい気配を感じたと思ったら、やっぱり里桜だった」
その声はふんわりとしていて穏やかだった。
「あら? 人間を連れてきてしまったのね。人間がいると知れたら食べようとする妖がいるから、人間にとっては危険だって言ったはずなのに。忘れちゃったのかしら?」
大蛇の頭にふわっと乗ったのは二十代ぐらいの女性だった。
艶のある金髪のストレートの髪が風で靡き、ツリ目の灰色の瞳。透明感のある白い肌に肩出しの赤色な着物。
胸の谷間が見え隠れしていて目のやり場に困る。
大蛇の頭に乗った女性は見上げている里桜を見ると、ふふっと苦笑した。
雪女って白い髪に白い着物のイメージが強いのですが、その逆もありなのかなと思っております。
性格って人それぞれですからね!




