無自覚に煽ってるのが恐ろしい
夏だというのに、風が肌寒く感じるのは、かくりよが神域のような空間だからなのか、それとも緊張による錯覚なのか……。
虫の鳴き声や鳥の声は一切聞こえず、かわりに風に揺れて草と草が擦れる音が聞こえてくる。
コソコソと茂みに隠れている俺と里桜と舞。
注意深く見ているのは、道のど真ん中に不自然にクッキーが置かれている。
落とし穴や紐で罠を作る案もあったのだが、穴を掘る道具はなく、罠を作るにも準備不足だった。
舞が軽食として持参していたクッキーを餌にしておびき寄せようと考えたのだ。
これで上手く行けるとは思えないのだが……。
そもそも妖は人間と違って腹減らないしな。食べなくても生きていける。たまに人間の食べ物が好きで食べる者と人間の味を知ってしまった妖が人間そのものを食べる者がいると聞くが……。
いや、やめておこう。
「これで引っかかるとは思えないんだが」
「はぁ? どっからどう見ても完璧じゃない!! 引っかかるはずよ。クッキーは最強なのよ!! クッキーを馬鹿にする人はクッキーに泣くのよ」
どこからその自信が出てくるんだ?
というか、クッキー大好きなんだろうなというのが伝わってきた。
「まぁ、クッキーは美味しいからな」
「でしょ!」
俺が肩を竦めて肯定すると舞はふふんっと嬉しそうに
胸を張った。
それにしてもだ。舞はたまに小声で「絶対許せない」「ふざけんな」という不穏な事を呟いている。
話しかければさっきみたいに普通に返事してくれるのだが、話さないとブツブツと恨み辛みを呟いているのが少し心配になる。
「聞いていいか?」
「何?」
「……妖狐と出会ってから、よっぽどな事があったのか?」
「そうね、あったわ。だから許せないのよ。妖狐のせいで私は……私は!?」
ギリッと歯を強く噛み締める。俺が思ってるよりも大変な目にあったのだろう。
聞いといてなんだけど、慰めな言葉が思い浮かばない。
中途半端な慰めはかえって相手をイラつかせるだけだ。詳しく知らないし、舞が話したくないのならば無理に聞き出す事はしたくない。
「あの、さ」
話題をさりげなく変えようとしたら里桜が舞の頭を撫でた。
「!? な、何!?」
「大丈夫です! きっと牛乳という万能さんが解決してくれますよ!」
「牛乳?」
「はい! 舞さんは大人だと聞きました。なので、牛乳という万能さんを飲めばーーっもが!!?」
「馬鹿!! 舞を煽るな」
俺は、里桜が勘違いしてるのに気付いて慌てて里桜の口を塞いだ。
だが、時既に遅し。
舞はブルブルと肩を震わせた。顔を真っ赤にして睨みつけられた。
「失礼ね!! 呪いが解けば身長伸びるはずよ!! そうよ。絶対にスタイル良いに決まってるんだから!!」
「……スタイルが良い、ですか? それはすごいです!! 私とあんまり変わらない見た目なのが呪いが解ければ身長伸びるのですね!?」
里桜は俺の手から必死に逃げると、目を輝かせて無自覚に煽ってるのが恐ろしい。
確かに、里桜の身長は百十六センチぐらいで、舞の身長は百四十五センチぐらいだろうが……。里桜、それは言ってはダメなやつだ。
「馬鹿にしてっ!!」
舞はムキになって声を張り上げた。里桜の無自覚天然は他の人から見たらかなり腹立つレベルなのは知ってる。
他の人には見れないだろうからと甘やかして「仕方がない」と見て見ぬふりしたのは俺だ。
「里桜、それは……」
「私、妖としてはまだまだ日が浅いです。ですが、これだけは言えます。妖狐は舞さんを傷付けたくてそうしたとは思えません」
「何も知らないでっ!!!」
「……聞いた事あるのを思い出したんです。神社に住み着く妖狐の話」
里桜の煽りをなんとかしようとしたら、里桜が困り顔で口を開く。
「僕の話? 嬉しいなぁ」
里桜と舞の間にいつの間にか狐の面をつけた少年が座っていた。
気配が全くないからいつの間にか居たことに驚いた。
「あんた!!」
「やぁ、久しぶりだね。また会えて嬉しいよ」
悪びれる様子はなく、普通に接している。やっぱり、無自覚で舞を苦しめていたのか?
「また遊びに来てくれたの?」
ふふっと嬉しそうに舞に話しかける妖狐。舞は俯いて肩をふるふると震わせる。
パチンと音が響く。舞が妖狐の頬を叩いたんだ。
バランスを崩した妖狐は後ろに倒れ、何が起こったのか分からないというふうに叩かれた頬を撫でた。
「遊び……ですって。ふざけんじゃないわよ、あんたのせいで……私の……お父さんとお母さんが……」
ボロボロと泣き出す舞。妖狐は何か言いたそうにしていたが、何も言わない。ただ泣いてる舞を見上げていた。
舞は涙を乱暴に拭いて、走っていく。
「おい、舞!?」
「あっ、待って!! 神社の神域から出たらダメなんだ!!」
妖狐は舞を追って走り出した。俺も里桜を抱っこして走り出した。
妖狐を見失うわけにはいかないので、必死に後を追う。
道がないところを問答無用で進むものだから、木の枝に顔が当たるわ木の根っこが地面から顔を出しているのもあり、何回も足を取られそうになったりした。
やっと、抜け出したと思ったら妖狐が舞を庇うように前に出て、大蛇と睨めあっていた。
大きさは、九メートルぐらいあるだろうか? それぐらい大蛇で人間を丸呑みしそうな程だ。
舞は見たことのないほどの大蛇を見て、尻もちをついて動けないでいる。
「また……邪魔をするのか」
「この子は、僕の友達だからね。簡単に食わせる訳ないじゃん」
大蛇は細長い舌をチロチロと出して話し出す。
またって言ったか? どういうことだ。
「手が出せぬように紋章をつけるとは……」
「な、何? どういう……」
「何も知らないのか。教えてやろう。狐のマークが体のどこかにあるだろう? それはな、妖から気づかれにくくするためのものよ。おかげでうつしよに行っても気配が見つからず諦めておったのだが、かくりよならば別よ。気配は隠せない。何しろ、妖狐みたいな、妖力が弱いものが我の妖力に勝てるわけもない。うつしよならば誤魔化せただろうが、かくりよならば本来の我の妖力が発揮できるのだ。
我は孤独を好む。絶望が大好きでね。気に入った相手を絶望させて、食らうのだ。だが、しっかりと私の呪いは効いていたようだがな」
「え……」
「うつしよだと手が出せなかったが、かくりよならば別よ。食ろうてやる!」
大蛇は大きく口をあけてひと飲みしようとしたが、妖狐は俺と里桜に気付いたのか、動けない舞を抱き上げ、軽い足取りで俺の元に来て、舞を下ろした。
「逃げるんだ。ここは、僕がなんとかしてみせるから」
「ま、待って!?」
「……こんなにまで追い詰めていたなんて思わなかったんだ。ごめんね」
そう言って妖狐は大蛇に向かって走り出した。
里桜ちゃんは無自覚天然さんです( *´ `)
素でとんでない発言したり、行動したりします(笑)




