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【12月1日 2巻発売】婚約破棄した傷物令嬢は治癒術師に弟子入りします!  作者: 三角 あきせ
二部

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子爵夫人は怒りっぱなしである 13

 あのデビュタントから五日後にクラン家の兄妹の裁判が行われることになった。頭に来ることに、こんな醜聞にしかならない事件にも関わらず、被害者であるエヴァにも出席する様に王妃様から要請の手紙が届いた。王家からの接触はその手紙だけだった。本当にどこまでもこちらを馬鹿にしているとしか言いようがない。


 あの事件の後、毎日殿下からエヴァに届いていた花束や小物は一切届かなくなった。殿下の評価はもう下がりきってしまっていると思ったが、それ以上があるとは思わなかった。


 お父様はあの事件以降は根回しをするからと言って急いで領土に帰った。五日後の裁判には王都に再び来てくれるそうだ。エヴァの今後に関して神殿に身を寄せると伝えたら賛成してくれた。お父様が調べたところ、エヴァが襲われた時、クラフト伯爵令嬢が居合わせたそうだ。また他にもルーク家の人間がいたらしいので、貴族たちにエヴァの醜聞が広まる可能性が高いとはお父様の言だった。

 だから神殿に入ってしっかりとした地位を確立した方が後々遺恨が残らないだろうと言った。そしてもし神殿に入殿しても、二位になれない時は還俗代を出してあげるとも言ってくれた。


 けれど神殿に入るエヴァには心配をさせたくないから、リザム子爵家の爵位を返上することもスライナト辺境伯の領土に引っ越すことも伝えなかった。エヴァが神殿に行って落ち着いたら伝えることにしようとヨアキムと話し合った。


 あの事件以降こちらに全く接触のない殿下と違い、ハルト様は毎日エヴァを訪ねて来てくれた。あの事件の日以降エヴァは随分と憔悴していたが、ハルト様のおかけで随分と落ち着いてきた。ハルト様はたわいない話をたくさんエヴァにしてくれた。その際、邪魔じゃないかとも思ったが、ハルト様に強く勧められて私も臨席した。

 神殿の話やハーヴェー神の話でもするのかと思ったが、「その手の話は入殿してからでいい」と言って、本当に日常的な話を面白おかしくしてくれた。さすが神官様と言うべきか、話し上手だった。少し心配になる程、彼は女性の扱いがとても上手くて、気がつくと私も彼の話を聞くのが楽しみになっていた。

 そんな日を過ごしているうちにエヴァは以前の様に笑顔を見せてくれる様になった。ハルト様には感謝してもしきれない。


 裁判の前日にもハルト様は来てくれた。ハルト様は相談があると言って、私だけでなく、ヨアキムの臨席も望んだ。エヴァが意を決した瞳をして私たちに口を開いた。


「お義父さま、お義母さま、恐らく私の醜聞はもう社交界に広まっていると思うのです。王妃様は私のことをお嫌いですから、これを理由に明日の裁判の場で恐らく殿下との婚約を破棄されると思います。

 だから、その足で私は神殿に入殿したいのです。セオも賛成してくれています」


「彼女の意見に私も賛成です。私から見たら殿下はエヴァンジェリン嬢に執着している様にしか見えません。どの様な思惑があるか私には分かりませんが、早め早めに行動した方が良いと思います」


「そうだね、王家の出方も分からないし、あの王妃様が何を仕掛けてくるか分からないからその方が良いだろうね」


「これ以上こちらを馬鹿にするのも大概にして欲しいですものね。私も賛成よ」


 そう言った後に今までエヴァの出国許可が降りないことを思い出した。


「だけど、ハルト様、エヴァには出国許可が降りていないのです」


「あぁ、今までは騎士団長子息や宰相子息、王太子の婚約者だったから出国許可が降りなかったのでしょう。ただの子爵令嬢を私が神殿に連れて行くのであれば出国許可などは必要ありません。強い魔力を持つ神官候補を連れて行くのだということであれば王家でも止められません」


 ハルト様の心強いお言葉に胸を撫で下ろした。


「そうなんですね、ありがとうございます。どうかどうかエヴァをよろしくお願いします。

 エヴァ、いってらっしゃいな。こんな機会はそうそうないわ。でも忘れないで欲しいのだけど、神殿に入殿しても貴女は私の娘よ、何かあればいつでも相談してね」


 私達の言葉にエヴァは安心した様に笑って、隣に座るハルト様に信頼の目を向ける。その目に応える様にハルト様も優しく微笑み返した。

 そんな二人はお互いを大事に思い合っている様に私には見えた。エヴァが二位以上になれたら、この二人は結婚するかもしれない。それなら私たちも安心できるのに。


 そして裁判の日もハルト様が迎えに来てくれて、エヴァをエスコートしてくれた。エヴァと共に裁判が行われる部屋に入ろうとしたが、門番に止められた。


「王妃様のご命令でエヴァンジェリン嬢は被害者の席にお一人で入っていただく様に言われております」


 どうやらエヴァ以外は王妃様は被害者であるエヴァを一人で立たせようとしていた。あまりのことに絶句したが、門番はこちらを見ながらにやにやしている。どこまでもこちらを馬鹿にしてくる王家には怒りを通り越して諦めにも似た気分が出てきた。

 隣に立っていたハルト様が口を開く。


「へぇ、そうかい。けれど私も当事者の一人だ。彼女を助け出したのは私だからね。だから、私も彼女と一緒に入廷するよ、問題ないね?」


「へぇっ?!いや、王妃様のご命令で…」


「あぁ、それは先ほど聞いたよ。けれどこんなか弱い淑女を一人でこんなところに立たせられないだろう?後で王妃様から君が怒られたら私に無理を言われたと言うといい。

 君の名前は?覚えておくから教えてくれるかな」


「あっ!いえ、そのぅ」


 あたふたする門番を尻目にハルト様は笑った。


「問題ないみたいだね。さて行こうか、エヴァちゃん。リザム子爵、夫人お任せください」


 そう言ってハルト様はエヴァをエスコートして入廷した。私たちはハルト様がエヴァの側にいてくれることに少し安心しながらも、私達が側にいてあげられないことを悲しく思いつつ傍聴席の方へ入廷した。


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