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【12月1日 2巻発売】婚約破棄した傷物令嬢は治癒術師に弟子入りします!  作者: 三角 あきせ
一部

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ヒロインは青くなる

「奴らが動き始めましたよ」


 サトゥナーとイリアにつけた、一族の監視がダンスを楽しむーー様に見せかけているーー私たちのところへ、やはりダンスをしながら現れ、こそりと告げるとさっとターンをして離れていく。次のダンスが始まったばかりなのでこの場から抜けにくい。


 今日は私の一族の娘、トゥーリー子爵家のイゾルデが、囮として協力してくれることになっている。イゾルデは気の強い娘でイリアに思い切り嫌がらせができるチャンスだと笑っていた。


 彼女はあまり王宮には来ないので接触する機会が少ないが、仲良くなれそうではある。どの程度の腕か念のためやり合ったが、あれなら問題はないだろうとは思う。けれど、世の中に絶対はないので、ついそわそわしてしまう。


 あまり不審な動きをするとサトゥナー達に罠を仕掛けていることがバレる可能性が高い。新たな被害者が出る前にあの愚かな兄妹を捕まえて処罰しなければならない。その上で現当主のファウストを隠居させ、アスランを新しい当主に据える、それが私たちの計画の第一歩だ。


 今のところ、私の一族にはジェイドと手を組んだことはまだ言っていない。ジェイドとアスランもまだ時期尚早だと言う私の意見に賛成してくれた。私が一族に話すのは、ジェイドがエヴァちゃんと結婚して、今一族が画策している策が失敗に終わってからで良いだろうという話で落ち着いている。


 けれどクラン家を追い落としたいルーク家とルーク家に媚を売りたい我が一族は、現クラン家当主と嫡男への監視については疑念の余地もなかったらしく、こうして動いてくれている。


 先程エヴァちゃんに怒られてから何曲目かでようやく奴らが動いた。ーーあまりに踊りすぎて疲れたので曲数をよく覚えてないが、ようやく奴らの尻尾を掴めそうである。

 エヴァちゃんには「今回デビュタントを迎える子を慮ってやって欲しい」と言われたが、まずは危険を排除してからにさせてもらおう。『王子様との一生の思い出』よりも『傷物にならないこと』の方が彼女達にとっては最終的に利益になるだろう。


「ようやく来たな」


「本当に踊り疲れたわ」


「もっと早く動いてくれてたら、僕はイヴに軽蔑の眼差しで見られることがなかったのに」


「私だって絶対に嫌われたとかぶつぶつ言い続ける鬱陶しい男と踊り続けなくてすんだのに」


 ダンスが終わるなり「足を捻った」と私は騒ぎ、手当する名目でジェイドも会場を離れて、騎士達との合流地点へ向かう。そこには6人ほどの騎士達がいた。どの騎士も口が固く、勤務態度も真面目で、腕っ節も強いらしいので、事前にことのあらましは話してある。彼らの選別に関してはアスランがしてくれたので信用して問題ないだろう。

 それから、すぐに一族の男性が走ってきて私たちに告げる。


「どこの令嬢かはわかりませんが、男が令嬢を無理やり、部屋に連れ込んだところを見ました。ご案内いたします」


 報告する男の『どこの令嬢かはわからない』と言う言葉に違和感を覚える。私は一族の人間にきちんと『トゥーリー子爵家のイゾルデ』が囮をするから、彼女から目を離さない様に言ったはずなのだが。不審に思いつつも急いで彼の後を追う。いくらイゾルデでも万一の可能性がある。


 ちょうど馬車付き場へ向かう途中の人目につきにくい部屋の前でとまり、「ここです」と言った。部屋には内からも外からも鍵がかかっており、サトゥナーたちに協力する第三者の存在を感じさせた。それも後から調べなくてはと思う。


 内鍵については、持っていた鍵で解錠できたが、外鍵については合う鍵がなく、しかも魔法も剣も通じないものだった。

 

 「少し、手荒になるが扉を壊すか」とジェイドが呟いたときに、奥からバタバタと足音が聞こえた。奴らの手のものかと身構えたのも束の間、現れたのは鍵を手にしたセオドアだった。


「これを。早く、中を!」


 セオドアは息を切らしながら鍵を手渡す。ジェイドはセオドアを一族の人間と思った様で素直に鍵を受け取り、「礼を言う」と返した。


 その時に、ここまで案内してきた男がにやりと笑いながら私に耳打ちした。


「イゾルデ様よりも適任者がおりました。少しお知らせする時間を遅らせたので、恐らくもう()()()です。これで()()()はいなくなりますよ」


 男の言葉から、この部屋にいるのはイゾルデではないこと、そしてセオドアが登場したことで、この部屋で襲われているのが誰だかわかってしまった。エヴァちゃんだ。

 それ以外にこの男が必死になる女の子なんかいるはずがない。

 

 私がエヴァちゃんについて大丈夫かとジェイドに聞いた時に「一人になるなと言ってあるから大丈夫だよ」と言っていたが、今思うと私が彼女に挨拶した時、()()()()()()()()()()()()()()()、と青くなる。


 ジェイドと共闘することを一族に伝えてなかったせいで、一族はエヴァちゃんも邪魔者として見ていたままだった。しかも、『手遅れ』になるまで彼は見て見ぬ振りをしていたのだ。きっとジェイドはエヴァちゃんを陥れようとした一族を許すまい。


 このことがバレたら特区の話はもう無理だろう。一族の手酷い裏切りなのだ。ジェイドに報告するべきだ、するべきなのだが……。正直に言って私は夢を見てしまった。

 滅びゆく我が同胞達の再興を。言わなければバレないだろうか?いや、もしバレたら最悪彼らと私たちの間で戦が起こるだろうか…?


 どうするのが正しいのだろうか、と思ったが、まずはこの場をなんとか乗り切らなくてはいけない。


 このままジェイドに襲われたのがよりにもよってエヴァちゃんだとわかったら、犯人達は跡形も残らないだろうし、私も騎士達も巻き込まれて良いとこ怪我、最悪死ぬ。ジェイドは下手をしたら初代以上の化け物なのだ。 

 何よりエヴァちゃんが襲われたことが社交界に知れ渡ってしまう。なんとしても今発覚することだけは避けなくては、と心に決める。まずはそこからだ。


 ジェイドは予定通り静かに部屋を開けると驚いて逃げ出そうとしているサトゥナーを始め、その部屋にいる者を捕縛する様、命じる。


 運のいいことに、その部屋のベッドは奥まったところにあり、かつ天蓋がついているので、被害者がどの様な状況かはよく見えない。なんとかこのまま誤魔化しきらなくては!


 もちろん後から被害者が誰かわかった時にジェイドはサトゥナーを殺しに行くだろうが、その時は安全圏に避難しておこう。


「無事か?」


 そう言ってジェイドがベッドに近づいて行く。焦ったところでイリアと目が合う。気に入らない令嬢を兄に襲わせるだけでなく、苦しむ様を見て楽しむつもりでここにいるのだろう。なんて悪趣味な!ジェイドの気を引く意味も込めて「あら、イリア様もここにいるの?どうして?」と声をかけると、ジェイドは弾かれた様にこちらを振り向く。クラン家の現当主を追いやるいい駒が二人もいたと驚いたのだろう。ついでにこの女もサトゥナーと同じ、多少は痛い目を見れば良いのだ。


「いや、来ないで!」


 そんな時に響いた声は案の定、エヴァちゃんの声だった。私は想像がついていたからすぐにわかったが、ジェイドはまだ気づいていない様だった。似た声の子だな、くらいは思ったかもしれないが。

 しかも、恐らくだがエヴァちゃんは私にもジェイドにも気づいている。その上で自分の今の姿を見られたくないと言っているのだ。同じ女として気持ちはよくわかる。しかも、彼女は3馬鹿により身体のあちこちに傷があると聞いたことがあった。恐らくその傷が見える様な状況なのではないだろうか。

 それなら、私やジェイドの目に触れられたくないだろう。


 ジェイドが気付く前に、私は意を決してそこに落ちていたワイングラスのかけらを思い切り踏んづけた。


「いや、痛ーい!なにか刺さった!」


「サラ!誰かサラを治癒術師の元へ!」


 私のことを心配したジェイドが私を抱き抱えて、他の騎士に渡そうとするが、「ジェイドが連れて行って」と駄々をこねてみせる。私の様子に何かを感じたのか、ジェイドはため息を一つつくとそのまま王宮神殿へ向かってくれた。


 その前に騎士にこの場についての指示を残したので、エヴァちゃんは騎士に任せて良いだろうと思った。それに恐らくセオドアもいるので大丈夫だろう。ジェイドに抱え上げられて出て行く時に、ちらりと部屋を見たら、彼女に寄り添うセオドアが見えた。流石に傷ついた女の子に手を出す真似はしないでしょう、と彼を信頼することにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] サラちゃんがもう…事情があるとはいえ、あるとはいえ関係ない他の人を傷つけて味方を騙してまで手に入れた「再興」ってすぐに滅びると思いますが…。 とっても面白いです! すべて終わってからセオドア…
[良い点] 面白いです!! イブはいい子で普通に応援できて、展開も引き込まれる。 更新ワクワクします。 [気になる点] サラが意外にクズ。一本筋の通ったキャラかと思いきや、保身に走るとか。考えなしのス…
[良い点] ここまで何回読み返しても、やっぱりエヴァちゃんはいい子っだったってこと。 幸せになってほしいなぁ。 [気になる点] これでセオドアの善意に見えた行動も実は裏があり、エヴァを利用してるだけっ…
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