王太子は傷物令嬢とダンスを踊る
先日までブックマーク150件超えた!わーい!と思っておりました。気づくと800件以上の方がブックマークしてくださっておりました。
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僕とイヴが入場すると、会場は一瞬、しんと静かになった。誰の目もイヴに釘付けである。彼女のあまりの美しさに見惚れるものがほとんどで声も出ない様だ。僕がクスリと笑い、一歩前に歩を進めたら、途端にわっと、大きな歓声が湧き、拍手で迎えられる。
中には『デビュタントなのに青い服なんて』とか『子爵令嬢が…』とか彼女に否定的なことを言う言葉も漏れ聞こえたが、それを言いながらも、彼女達はイヴに憧れを含んだ眼差しを向けていた。おそらく来年以降はデビュタントでも、色々な色のドレスを着込んだ令嬢が増えるだろう。
そして、デビュタントの紹介は着々と進む。サラの紹介の時は正直ドキドキした。サラはイヴを虐めると言っていた。詳しく話を聞かせろと言ったが、「そんなの効果的なタイミングで思いつきでやるからわからないわよ」と返してきたから、いつのタイミングで来るか僕にはわからない。僕にはサラの思考が全く読めない。アスランも無理と言っていたので、僕だけの問題ではないだろう。国王の前やこんな大勢の貴族の前では何もしないだろうが、相手はサラだ。油断ができない。
そして、今日のサラのエスコートはグラムハルトだ。控えの間にいる時から、奴が熱い目でイヴを見ていたことには気づいていた。奴もまたイヴに近づきたいのだろう。一度睨むと、さっと顔を背けたので、これ以上は面倒なことになるなと、他の令嬢の紹介が終わるまで大人しく待つことにした。
令嬢の入場が終わったら、父の挨拶があり、そこでようやく、『僕とイヴの婚約』が発表された。これでひとまずある程度の男の牽制はできるだろう。父のからかい半分の様な紹介に皆はどっと湧いたが、祝い事を口にしながら、仄暗い欲望の籠った目でイヴを見ている男も、憎々しげに彼女を睨んでいる女も見つけた。
彼女に手を出す様な真似をするならただではすまさない。イヴは今日僕の婚約者として正式に発表されたので今後は表立って護衛がつけられる。この様子では、その質と数を精査しなければならないだろう。
父はデビュタントを迎える令嬢に祝いの言葉を向けていくが、敢えてイリアを無視した。これは貴族にとって屈辱的なことであるが、クラン家が王の不興をかって久しいことをほとんどの者が知っている。そのため、誰も何も反応せず粛々と式は続いている。
イリアが憎悪のこもった眼差しでイヴを睨んでいるが、僕がイリアに視線を向けると媚びる様に笑ってきた。
愚かな娘である、王家に嫁ぐには魔力も教養も足りない。しかも、悪事に手を染めており、処女でもないと専らの噂である。そんな娘がシナを作り、媚びを売っても引っかかる王族も高位貴族もいるものかと思うが、どうやら理解していない様である。
異母姉であるイヴに対して思うところがある様だが、イヴはあくまで彼らの兄妹なので、今日のターゲットになることはないだろう。けれど他の男は彼女の美しさに魅了されているものが多く見受けられる。今日は1人にならないように、イヴには後でしっかり釘を刺しておかねばならない。
そんなことをつらつらと思っていたら、ダンスの時間になった。彼女のデビュタントでイヴとファーストダンスを踊るのは僕の長年の夢だった。僕が誘うと彼女は「喜んで」と言って僕の手を取ってくれた。
「こうして君と踊れて嬉しいよ、イヴ。もちろん、他の男にこの役を譲る気なんてなかったけど」
僕が彼女に囁くと、少し驚いた様に目を見張った後、小さく微笑んだ。天使の微笑みである。彼女は「ダンスは得意ではない」と言っていたが、実に優雅に、まるで羽が生えているのではないかと思うほど軽やかに踊る。
僕と相性がいいのだろうか?それとも彼女の謙遜だったのか。
彼女と踊れて嬉しいと思うが、一般的に言われる俗物的なことを思い出してしまい、落ちつかなくなる。
それは『ダンスを踊る時に相性がいい異性は、身体の相性もいい』というものだ。気になって彼女を見ると彼女の頬は上気しており、凶悪的な可愛さを醸し出している。つまり、彼女も楽しんでくれているのだ。それを気にしだすと色々と妄想が止まらなくなりそうだ。平常心を保たねばならない。ならないのだが握っている手や彼女の身体を支える手から、彼女の肢体の柔らかさがわかってしまう。少し視線を下にずらすと、彼女の豊満な胸の谷間が見えた。しまった、この位置からだと見えるのか、と思う。
僕が見るのは正直ラッキーと言うか、当然問題ないが、他の男が見るのは我慢できない。本来なら僕がずーっと隣についていて他の男と踊らせないつもりで注文したドレスだった。今回害虫の駆除をすることがドレスを作成する前にわかっていたら!と思うが、今更後悔しても仕方がない。
イヴには僕とリザム子爵以外の誰とも踊ってほしくないが、僕がそばにいれない以上、今の彼女の身分では断りきれない相手も出てくるだろう。
もう少し、胸元を隠すドレスにすれば良かったが、彼女に一番よく似合うドレスにしたかったし、何より下心もあったことは否定しない。
楽しい時間はあっという間ですぐに1曲目は終わってしまった。けれど、僕たちは婚約者なので2曲踊れるのだ。もう1曲踊ろうと誘う僕に彼女は首を振る。
「この日でないと貴方と踊れない方がたくさんおります。どうぞその方々と踊って差し上げてくださいませ」
いつも思うのだが、彼女は本当に弁えてて、ありがたいと思う反面、少しくらい我儘を言ってくれてもいいのに、と甘やかしたくもなる。けれど今日は確かに時間が惜しいので、彼女の言葉を受け入れることにする。次回こそ2曲続けて踊ってみせる!
彼女の言葉をありがたく受け入れた後に侯爵家のシモンヌ嬢と踊る。横目で確認するとイヴはリザム子爵と踊っていた。子爵にもできるだけ今日はイヴから離れない様にお願いはしているが、彼にも立場があるのでなかなかに難しいだろう。
続いてサラの順番になったので手を取る。
「何か報告は?」
「まだ。それよりエヴァちゃん、見た。初めてあんなに近くに見た。何あれ?本当に人族?生きてるの?」
「当たり前だろう。わかったかい、サラ。僕たちがイヴを大事にする理由が」
「うん、外見は認めざるを得ない。内面まではよく知らないけど。でも、彼女もすごい化け物だね」
「化け物とは言ってくれるな。僕に喧嘩を売りたいのかな?」
「ううん、そうじゃなくてさ。彼女もしかしたらあんた以上の魔力持ちかも…。私達は魔力を研究してたからね、魔力の強さに関しては敏感なんだけど。エヴァちゃんの魔力量えぐい。正直怖いレベル。
今日から正式な婚約者になったんだから、彼女に魔法の勉強させたら?多分下手な護衛をつけるより安全だと思うわ」
イヴの資質の高さに驚きつつも考えてみようと頷く。正直、イヴの身の安全を考えると習わせるべきだろうが、僕との時間が少なくなるならあまり歓迎したくない。
そんなことを思いながら、サラとそのまま無言でダンスを踊る。サラとのダンスは踊りやすい。気心が知れているせいか、かっこいいと思われたいと思っていないせいか、はっきり言って楽である。色んな意味で。
視線をついつい下に向けるとにっこり笑ったサラは思い切り人の足を踏んできた。
「二度目はないっていったよね……?」
痛む足をこらえながら、イヴを横目で見るとグラムハルトとダンスを踊っていた。彼女の身体に他の男が触れるだけでその男を殺したくなる。グラムハルトは彼女に一生懸命何かを告げている様だが、イヴはにこりともしないので安心する。
グラムハルトは彼女と会話をして初めて僕が彼女との関係の構築を邪魔をしていたことに気づいたのだろう、僕を鋭い目で睨んできた。
グラムハルトにつけていた侍従は僕とイヴの婚約の話が出た時点で彼の元から去らせているので問題ないが、今頃気づくなんて愚かにも程がある。
3曲目が終わる。本来ならサラとはここで終わりだが、報告が来ない以上この場に留まり踊り続けなければならないだろう。
再度サラの手を取る。気になってイヴを探したら、今度はまた違う男が彼女の手を取っていた。銀髪でどことなく華がある男である。気に入らないことにイヴはグラムハルトとは違い、その男には笑顔を向けていた。




