ヒロインはデビュタントを楽しみにする
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「ジェイド、そろそろデビュタントのドレスの件に話戻したいんだけど」
どうやったらセオドアを秘密裏に葬れるかとアスランに相談しているジェイドを馬鹿の子を見る目で眺めつつ、口にする。
「サラ、ドレスの件は任せる。けれどくれぐれもイヴに恥をかかせない程度で留めてくれ」
ようやく頭が冷えたのか割とまともな回答が返ってきた。
「いい加減に落ち着け、神殿の『ハルト』に手を出した日には全面戦争だぞ」とアスランがジェイドの頭を叩いたからだろう。
壊れた器具はとりあえず殴ると言う古の手法はどうやらジェイドにも有効な様なので今後は私も参考にさせてもらおう。
「ねぇ、サラ。君今すっごい物騒なこと考えただろう?やめてくれ、僕はまだ死にたくない」
「へいへい、ところでさ、私。デビュタントでも色々とやらかそうと思うの。
私の毎日の努力もあって、レイチェル侯爵夫人から最近、ゴキブリを見るような目で見られるようになったんだよね!」
どうだ、私もきちんと仕事をしているだろうと満面の笑みで2人を見ると、2人は信じられないものを見る様な目つきでこちらを見返していた。
「あのレイチェル夫人にそこまで叱られてもめげないあたり、本当にすごいな。僕はこの間、2時間以上叱られただけでげんなりしてるのに」
「おっまえ、淑女が『お台所の黒い悪魔』に例えられていいのかよ?」
「全然問題ないよ、死ぬわけでもないし。目的の前の小さなことでしょう?
それでさ、私、デビュタントの時にエヴァちゃんを苛めようと思うんだ」
「「意味がわからん、帰れ」」
私の言葉に異口同音に反応するジェイドとアスラン。いつも思うのだが、彼女の周りの人間は彼女が好きすぎる。その半分でいいから私にも優しくしてほしい。
「いやいや、だって人間が団結するには共通の敵が必要でしょう?!エヴァちゃんが2人が言う様な品行方正な御令嬢なら、レイチェル夫人をエヴァちゃんの味方につける良い手でしょ?
それに、可哀想なエヴァちゃんに周りが同情するだろうし、エヴァちゃんの王妃の資質?みたいのもうまくいけば宣伝できるし。
なにより!私がそばでエヴァちゃんが見れる!可愛い子なんでしょ〜。ちっちゃい頃からみんなして私から遠ざけようとしてたでしょ!見たい!私も愛でたい!ジェイドがめんどくさいからお友達になりたいとまでは言わないけどせめて近くで見たいの!」
「へぇ、サラ。サラのくせに僕のイヴが見たいとか言うんだ」
すうっと部屋の温度が下がった気がする。本当に心の狭い王子だ。巷ではパーフェクト王子と名高いジェイドだが、皆騙されてる。こいつは自分の婚約者を幼馴染ーーしかも女の子ーーにすら、紹介したくない束縛男だぞ。
「いいじゃない、1回くらい。そのあと意地悪して嫌われる予定なんだから。嫌われるために接触する時くらい、美貌を堪能してもいいでしょ!」
「意地悪をするってエヴァに何する気だ?まさかどごぞの誰か達みたいに傷跡を残す様な…」
「そんなことするわけないでしょう!嫌な女の子を演じるの」
「地のままで接するのか?それならわざわざイヴも緊張してるだろう、デビュタントで近づく必要もないだろう?」
「なんで私の地が嫌な女みたいなことを言うのよ!こう、私はジェイドの幼馴染で貴女よりも彼のことを知ってるんでーす、みたいなことを言うの。それで少し常識外れなことをするのよ、ジェイドと2回以上一緒に踊るとか」
「えぇ、いやだよ。それって僕も一緒に嫌われるパターンじゃないか」
どうも監視役の話を聞いていたら、エヴァちゃんはきちんと言うべきことは言うが、身の程を弁えていて、自分を律することに慣れている令嬢の様なのである。
私だとて可愛い子に嫌われたくないが、嫌な子を演じることで、彼女が常識的な判断ができることや、毅然とした態度が取れることがわかったら、周りも自然とついてくると思うから悪い策ではないはずだ。
それを説明するも、ジェイドはあまり気が乗らない様子なので、きちんと現状を把握させてあげることにした。
「大丈夫、大丈夫。もうすでに嫌われてるから。これ以上嫌われることはそうないわよ、きっと」
「嫌われてない!最近のイヴは僕をちゃんと受け入れてくれてるから!」
「受け入れるなぁ…エヴァには、ものすごーく警戒されているみてぇだけどな」
「あれは違うだろ、傷口を見られたくないってだけで、僕自身が嫌なわけじゃないみたいな口ぶりだったじゃないか!」
私とアスランの指摘にジェイドは思いっきり反論してくる。本当にめんどくさい男である。例え世界にこいつと私だけになっても、絶対にこいつの手だけは取らないと胸を張って言える自信がある。
「それに、多分だけど今回もあいつらが動くと思うから、私たちできるだけ一緒にいて、そろそろあいつらを駆除すべきだと思うんだけど。
これ以上被害者を作りたくないでしょ?」
私の言葉にジェイドの顔つきが変わった。これは1人の為政者の顔だ。為政者としては恐らくジェイドは名君になると私は思っている。だからこそ、彼に期待した。まぁ、エヴァちゃんが絡むと暗君どころか下手したら魔王だけど。
「たしかに目障りな蠅は叩き潰すに限るな。しかもいくら小物とはいえ、獅子が見逃しているのが1番タチが悪い。
なんとかしたいところだが、デビュタント会場は王宮だ。下手な影はつけられないし、会場に護衛を連れて入ることはできない。その上で奴らの動向を掴む術はあるか?」
「奴らの仲間の1人を買収でもしてみるか」
「無理ね。だってそんな犯罪に加担したことがわかったら、お先真っ暗よ。私がその一味の一員なら、1億積まれても買収になんか乗らないわ。下手したら処刑だもん。
私が囮になれれば良かったんだけど」
「やろうとしたことあるのか、なんて無謀な真似を!」
「だって頭にくるじゃない、そう言うゲスな輩って。いざ来たら殺してやろうかと思って狙いやすいところにいたんだけど…」
「「おそわれなかった、と」」
うん、と頷く私にさもあらんとばかりに2人は頷く。こいつら本当に仲がいいなとじろりと睨んでやる。
「多分僕が彼らでもサラは襲わない」
「あぁ、ねぇな。食虫植物でももう少し上手く擬態しているからな」
「2人はエヴァちゃんを基準にしているから、私のことをたくましいとか野生のボス猿とかゴキブリとか言うけど、私だって囮くらいできる可憐さがあると思うのよ」
「いや、そこまでは言ってないよ、せいぜいがとこ、大猿くらいとしか。それにゴキに関しては自分で言い出してなかったか?」
「まぁ、俺は例え世界にお前と2人きりになったとしても、お前を襲うと言う判断だけはしないな。多分、囮作戦をしても囮がお前ならきっと無駄だろうから、とりあえずやめとけ?
虫に刺されるくらいしか成果はないぞ」
虫にすら刺されなかったことは言うまいと私は心に決めた。




