王太子は傷物令嬢と結婚したい 6
婚約が無事成立した後に彼女のために用意していたドレスを贈るように手配した。もちろん彼女のサイズや好みは影を使って入手済みだ。恐らく母が文句をつけるために遠からず『王妃教育』の名目で王城に呼ぶだろう。その時にドレスや身なりなどで彼女に恥をかかせたくない。
それに毎朝花や小さな小物をプレゼントする様に手配した。夜寝る前に彼女のことを思いながら、メッセージカードを書くことは毎日の楽しみとなったことは言うまでもない。
そしてイヴとは最低でも3日に一度は親睦目的でお茶会をすることにした。彼女と親しくなるのが1番の目的だが、彼女は何かの危険を感じている様なので、それを告白してもらうつもりでもある。
ある日いきなり、イヴがお願いをしてきた。なんでも言って欲しいと思ったが、彼女の願いは「木の絵を描いて欲しい」だった。
何のために、どの様な絵を書けばいいのか、彼女の意図がわかりかねる。その辺にある木を書けばいいのだろうか?いや、まさか彼女がそんな意味のないことを言うはずはない。だとしたら、何を期待されているのだろうか?
そこまで考えてピンときた。彼女が僕にSOSを求めているのだとしたら、ここ最近で何か事件があったか否かを知りたいのかもしれない。恐らく、それは木が関係する事件なのだろう。
ここ最近で木が関係している事件と言ったら、王家の直轄地の竜木ーー直轄地にしか生えない貴重な木で、金色に近い黄色をしているので、竜の名前がついているーーを密かに伐採し、密輸している件だ。そう言えば、あの場所から港に行くまでの間にリザム邸がある。
あの件なら、僕も昨日視察に行ったから木の特徴などよく覚えている。そう思って切り倒された後、見回りが来たせいか放置されてしまった竜木の絵を描いてみた。きちんと竜木の特徴を捉えて描いた。描きながら、そういえば彼女は小動物が好きだと言っていたな、と思ったので、周りにリスや小鳥の絵も描いた。
できた絵を彼女に見せると、彼女は真っ青になって言葉を失った。やはり、この件か!
彼女は何某かを目撃してしまってのだろう。影からは何も報告がなかったが、聡い彼女だけが気づいてしまったこともあるのだろう。何か考える様に俯いた彼女に思考の助けになれば、と絵を渡しておいた。
そして次のお茶会から彼女はぽつりぽつりと身の危険を僕に知らせ出した。
「例えばなんですけど、バルコニーに出た時に犯罪の現場を見たとします。そしてその犯人と目が合ってしまいました。その後犯人はジェイ様を指差し、一定の動きをしていたとします。
…何をしていたと思いますか?」
なんと、彼女はその場に居合せて、しかも犯人と目が合ってしまったらしい。例えば、などど誤魔化しているが大体においてその様な場合は自分のことを話しているものである。それならば犯人は近いうちにイヴに接触してくるだろう。しかも相手に場所も特定されている。きちんと守らねばなるまい。それに相手を捕まえないことには、彼女も気が休まらないだろう。
「そんな行動を取られたということは、君がいる階を数えていた可能性があるね。君はそんな現場を見たのかい?それはいつ頃?君の部屋は何階なの?」
僕の言葉に彼女は顔色を悪くさせ、想定の話だと答えるが、彼女の顔色を見ればすぐにわかる。想定のはずがない。きっと彼女は誰かを庇っているのだ。誰が彼女をこんなに苦しめるのか、見つけ次第罰を与えねばなるまい。
それと、ひとつ気になることがあった。彼女は僕をよく『殿下』と呼ぶのだ。ジェイと呼んで欲しいと尊称も不要と言っているのにかかわらず、彼女は『殿下』と言う。正直不満である。イヴは僕の伴侶なんだから、きちんと僕を僕として認識して呼んで欲しい。
殿下と呼ばれると他人行儀な気がするので、今度からそう呼ばれる度に彼女に物理的に、より近づこうと思った。だから、イヴにこう告げる。
「次からは間違えるたびにお仕置きをすることにしようか」




