王太子は傷物令嬢と結婚したい 1
彼女だ、初めてエヴァンジェリンを見た時、僕は確信した。彼女こそが僕の伴侶、僕の運命、魂の片割れだと。
黄金に光る髪にラベンダー色の瞳、小さな顔は一流の人形師の作でもここまで麗しく作ることは不可能だろうと思わせるほど、精巧な作りをしていた。
彼女の美貌はあまりにも突出しすぎていて、何に例えればいいかわからないほどだった。にも関わらず、彼女の持つ雰囲気は柔らかく優しいもので、彼女が血の通う人間であることを証明していた。
一般に知られてないことだが、強い魔力を持つ人間、特に王族は、自分の伴侶がわかると言われている。父からも「生まれた時にそう決められたに違いないと思えるほど、強烈な衝撃を受けるのですぐわかる」と言われていた。あまり信用してなかったが、実際に彼女を見た瞬間、父の言葉の意味がよく理解できた。こんなに美しい少女が僕の伴侶なんて、とすごく嬉しくなった。
父が言うには側にいればいるほど、伴侶も自分を好きになってくれるらしい。その日がとても待ち遠しい。今の彼女の目には僕はどう映っているだろうか?気になって仕方がない。
目が彼女から離せず、そばにいるだけでこの上なく、幸せな気分になれた。けれど見つけてそばにいるだけではダメなのだ。彼女は美しく、愛らしい。誰もがきっと欲しがるだろう。けれど彼女は僕のものなのだ。誰かに取られないうちに早く手に入れなくてはならない。
父に彼女が伴侶だと告げると、「もう見つけたのか、早かったな」と笑った。そのままとんとん拍子に話が決まるかと思ったが、思わぬ横やりが入った。王妃である母である。母はクラン公爵家と仲が悪いルーク家の出だったので、エヴァンジェリンと僕の婚約に反対したのだ。
どうやら母は親友であるーー私の乳人でもあったーークラフト夫人の娘のサラと僕を結婚させたい様だった。それは国法に反する行為だと父が諭したところ、養子にするなり陞爵させるなりすれば良いと母は笑った。
正直に言ってサラの魔力は高くない。恐らく彼女と私の間では子供ができないだろうし、何より私にとってサラは近所の小猿ーー大猿かもしれないーーと言う感覚しかなく、彼女と結婚なんてとてもではないが考えられない。
王妃とはいえ母は元侯爵令嬢で純粋な王族ではない。だから王家の人間の伴侶への飢える様な感情がわからないのだ。彼女以外を伴侶に迎えるつもりはないことを父に話したが、父は困った顔をした。そう、父にとっての母は運命の伴侶だったから、母の反対を押し切るのが嫌だったのだ。
僕たちは運命の伴侶にとても弱い。はっきり言うと嫌われたくない。べたべたに甘やかして自分がいないと生きていけなくなる様にして、側に縫いとめたいと思っているのだ。その気持ちは今の僕にも十分以上に理解できた。一目見ただけなのに僕もエヴァンジェリンに関して同じことを思ったから。
王族の習性は分かっているが、伴侶の母に嫌われるのも困る、と言う父は保留という形をとった。つまり、エヴァンジェリンは筆頭婚約者候補だが、正式な婚約者ではないと言う立ち位置に収まることになった。
この時に徹底的に反抗してしっかりと婚約者にしておけばよかったとこの後どれほど後悔したかわからない。




