令嬢は裁判に召喚される
デビュタントから5日後、クラン公爵は王家に不敬罪で召喚されていた。
そして私もその場に召喚されることとなった。断ってもよかったのだが、私にはやりたいことがあった。どうせ私は今までも傷物だったのだ。今度は違う意味で傷物になっただけである。
召喚状が届いた時、私はセオに同席をお願いした。彼は訳も聞かずに、快く引き受けてくれた。全くもって今後は彼に頭が上がらないだろう。彼は当然の様に私をエスコートしてくれて、今も隣で私を支えてくれている。
私はジェイドの隣でなく、一段低い場所で待機している。席が離れているということは、やはり、醜聞のある娘は王太子妃として相応しくないということだろう。ジェイドの隣には当然の様にサラが控えていた。そして先日足を怪我したはずなのに、まっすぐ美しく立っている様を見て『あぁ、やはりそうなのか』と思った。
ジェイドは私の傷は治さないが、サラの傷は治すのだ。きっと愛情の差だろう。想定の範囲内だったので、今更傷ついたりはしなかった。
あの日以降今日までジェイドとは会っていない。毎朝届いていた、彼からの手紙も花束もあの事件以降途絶えた。今日久々にジェイドと同じ空間に居合わせたが、彼とは今日会ってから一度も目が合ってない。ジェイドも私も合わせようとしないから、当然だろう。
議題は、『イリアとサトゥナーの不敬罪と実父の監督不行き届き』である。
牢に入れられていたイリアとサトゥナー、そして側仕えの男が数人この場に連れてこられていたが、逃亡防止のためか、しっかりと縄をうたれていた。イリアはほぼ無傷だったがサトゥナーと側仕えの男たちは殴られたのだろうか、着ている服もぼろぼろで、顔も見る影もなく膨れ上がっていた。
一番最後に入ってきた陛下が着席すると、査問会が開始された。
挙げられた罪状は以下の3つだった。
1.王太子の前でその婚約者を馬鹿にするつもりが、結果的に王太子を侮辱した言葉になったこと。それが判明した後も謝罪がなかったこと。
2.さらにその婚約者にワインをかけ、王家が下賜した物を傷つけたこと。
3.最後に、王太子の婚約者を兄を使って襲わせたこと。
私は被害者のため、この場に召喚されたが、正直苦痛しか感じられない。仄かな恋心を抱いていた相手はこちらを見向きもしないし、居合わせる貴族は好奇の目でこちらを見ている者も少なくない。
まだ、現時点の罪状での『襲わせた』は、暴力を振るったとも捉えられる言い方ではあるが、相手は王太子の婚約者である。その様な意味に捉える貴族は恐らくいまい。
実家とは縁を切ったつもりだったが、縁を切った後も暴行に及ぼうとするなどとは考えてなかった。実父の顔もサトゥナーやイリアの顔も正直見ていたくない。ここに来ることを決めたのは私だが、やはり気分の良いものではなく、すぐにでも逃げ出したかった。
私がこうして平気な顔をして立っていられるのは隣で支えてくれるセオのおかげである。不安そうな私の手をセオはぎゅっと握ってくれた。
初めて会った時も、同じ様に握られた。その時は不快だったが、今はただただ心強いばかりだった。




