表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【12月1日 2巻発売】婚約破棄した傷物令嬢は治癒術師に弟子入りします!  作者: 三角 あきせ
一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/204

傷物令嬢はデビューする

 デビュタントを迎える令嬢は通常の入り口とは違い、内宮の2階から紹介の後に、階段を降りてくる。今回のデビュタントは、公爵令嬢1人、侯爵令嬢1人、伯爵令嬢3人、子爵令嬢6人、男爵令嬢15人の計26人である。

 通常であれば位の高い令嬢、つまりイリアから入場するものなのだが、今回は私からの入場となるそうだ。本来、令嬢の格がモノを言うデビュタントではたとえエスコート役が誰でも爵位順にお披露目となるのだが、今回は私が未来の王妃になるから、1番でないとならないらしい。

 しかし、私たちの婚約は、まだ正式に発表されてないのだーー王宮などの一部では有名らしいが、まだ、未発表である場合、それは確定していないことになるのだ。

 きっとジェイドが何か手を回したのだろうなとは思うが、もう何も言うまい。どうせ私が何を言っても聞き届けられやしないのだ。


「まぁ、わたくしよりも先にお披露目されるなんて、ずいぶんとご立派な方かと思いきやデビュタントのルールも知らない田舎者なんて、驚きですわね。どこの誰だか存じませんけど、礼儀もご存知ないのね」


 堂々と文句を言うイリア。その隣にいるのは実父だ。ジェイドの婚約者が私になったからシナリオからずれた可能性もあるが、あまり社交に出ない私でもイリアのふしだらな噂を何度か聞いたことがあるので、ジェイドと婚約は元から無理であっただろう。また、彼女の奔放すぎる行動と性格のせいで、公爵家と言えども婚約者が決まらなかったのだろう。


 そもそもイリアの言葉は貴族令嬢としては失格である。婉曲に褒め言葉じゃないか、と思わせる様な言葉でちくちくするのが貴族のやり口である。


 なので、今回文句を言いたいなら『まぁ、貴女が1番にご入場なされるの?お召しのドレスもとても似合っていらっしゃる上、お美しくてこの場の誰よりも輝いていますから当然ですわね?

 あぁ、申し遅れました。私はクラン公爵家のイリアと申しますわ。これからは仲良くしてくださると嬉しゅうございます。

 失礼ですが、貴女さまのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?』とでも言うべきである。


 上記の台詞の中には『掟破りなせいで悪目立ちしている』『デビュタントなのに無駄に着飾りやがって、ルールも知らないのかよ』『公爵家の私よりも先に行くつもりなんてあんた何様よ』が集約されている。


 ちなみに面と向かって挨拶をするか、紹介されない限り相手の名を呼んではいけないとのルールが貴族社会にはあるので、例え相手の名前を知っていても私のことを名前で呼んではいけないのだ。特に公爵家の面々と私は初対面のはずなのだから。


 だからこそ、イリアの様にはっきりと文句でしかない言葉を口にしてしまうと足を引っ張られる羽目になる。


「やあ、クラン公爵令嬢。私の婚約者に何か含むところがある様だね。このドレスは私が彼女のために手ずから用意したものなのだから、ルールを知らない田舎者とは私に対する言葉と捉えさせていただこう。

 どうやら、クラン公爵家は私に対して含むところがある様だね」


 そう言ってジェイドはイリアと実父に微笑みかける。


「その様なことはございませんとも、殿下。

 お綺麗な方ですから、殿下が大事にしまっておきたいお気持ちもわかりますが、ただ、私どもにも事前に一言仰っていただけたら、お互いにスムーズにことが進んだのではございませんかな?」


「ははは、もともとあなたが望んでいた縁だろう、クラン公爵。あなたが望む通りになったんだ。何も問題はなかろう。

 しかし、私の婚約者とわかっておきながら、クラン嬢は暴言を吐いたのかな?」


 イリアはツンとそっぽを向いている。馬鹿なの?早く謝っておきなさいよ、と他人事ながら思う。ジェイドは敵に回してはいけないタイプの人間である。いや、そもそもデビュタントで王家に刃向かうなど阿呆としか言いようがない。ジェイドの相手が馬鹿にしていた異母姉だとわかっているのか、いないのかわからないが、一向に謝る気配のないイリアにジェイドはため息をこぼす。


「実に残念だね、クラン公爵。君は今まで王家の忠臣たる方だと思っていたけど、御令嬢を見る限りでは城の中と外では全く違う考えをお持ちの様だ。後日色々と話をさせていただこう」


 そう言って実父に微笑みかけるとジェイドは扉の1番前に立つ。

 後ろから実父が、「まさかお待ちください。イリア、謝罪なさい」などなど宣っているが、ジェイドはいっそ清々しいほど、無視している。

 私の中では実父は恐ろしく冷徹だが、有能なイメージがあった。しかし、これではただのその辺の雑魚である。こんなのでよく公爵家当主としてやってきたな、と思う。昔から異母兄のサトゥナーとイリアを溺愛していたので、2人のことだけは例外かもしれないが、それでも今の実父は情けないとしか思えなかった。


「ジェイ様、本来であれば私が対処しなければならないところを申し訳ありません」


 そう、本来令嬢同士の争いに殿方が入ってくるのは掟破りである。侮辱されたなら、侮辱された本人が相手をやり込めないといけないのだ。特に私の様に子爵家から王太子の婚約者になる場合は、舐められない様にきちんと振る舞う必要があるのだ。


「いいや、これは私の仕事だよ」


 そう言ってジェイドは微笑う。色々なものを含んだ物言いに問い詰めたくもなるが、ここにはエスコートの方を含め50人以上の人間がいる。下手なことは言い出さない方が良いだろう。


 後ろを振り向く気はあまりなかったのだが、なんとなく後ろの方で何かが動いた気配がしたので振り向いたら、サラが4番目におりーー伯爵令嬢の中では1番前だーー、こちらに向かって手を振っていた。ジェイドの手を少し引っ張り、サラが手を振っているのを教えるが、彼は一瞥すると興味なさそうに前を向いた。


「エヴァンジェリン・クラン・デリア・ノースウェル・リザム子爵令嬢」


「さぁ、出番だよ、イヴ」


 会場に足を踏み入れると一斉に皆がこちらを見る。一瞬シーンと静まり返った後に拍手に紛れて、「子爵令嬢、ですって?」「何故、殿下がエスコートを?」「まぁ、あの青いドレス、デビュタントなのに?」「サラ様がお可哀想…」などなど想像した通りの言葉が飛び交っている。

 表面上はにっこりと微笑んでジェイドの隣にいるが、この後がとても怖い。だから言ったじゃないか、とついつい隣で済ました顔で立つジェイドを非難の籠った目で見つめる。


 いつもはすぐにこちらの意図を気づいてくれて、なんらかの反応を返してくれるジェイドが何も返さないことを不思議に思いつつ、彼の視線の先を追うと、サラが私の一つ前の婚約者であるグラムハルトにエスコートされながら入場していた。

 それを真摯に見つめるジェイドを見て、やっぱり、サラのエスコートをしたかったんじゃない、と不満に思ったが、そんなことは言えず、なんだかモヤモヤしたものが心に残ったままとなった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ