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【12月1日 2巻発売】婚約破棄した傷物令嬢は治癒術師に弟子入りします!  作者: 三角 あきせ
二部

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王太子の前で影は歌う 5

「順番なんて…」


「必要でしょう?今回の失敗をきちんと踏まえていらっしゃいますかな?手が足りないのにあれもこれも救おうとしたことです。

 姫様から見たら、殿下は姫様よりもクラフト伯爵令嬢を優先した様にしか見えておりませんよ。

 何が一番大事ですかな?まずは何を置いてもご自身でしょう。その後は?貴方から逃げてしまった姫様ですかな?心が離れてしまった若君ですか?それとも何か秘密を隠していそうなクラフト伯爵令嬢ですかな?それともクラフト伯爵令嬢と若君と共に約束した特区の創立ですかな?国民と言うのも忘れてはなりませぬな?

 愛してくれているか否かも不明な父親ですか?愚かな母親ですかな?父母よりも先に側近たちですかな?そもそも、ご自身を蔑ろにする両親は必要ですかな?

 よくよくお考えなさい」


 順番…?取り繕っても仕方ない。まず、僕だ。イヴの幸せを願って手を放してあげられない僕が偽善ぶってこの世の何よりもイヴが大事だとは絶対に言えないし、言わない。

 次はイヴ。これだけは変わらない。彼女がいないと僕の生きている意味がない。

 その次は…サラとアスラン。そして魔族の特区の設立だろうかーーいや、三人で約束したからこそ、魔族の特区の設立を大切に感じているだけなのかもしれないーー。神殿の権力を削ぐことも大切だ。


 長と話してみて自分の中の何かがぷつりと切れた気がする。なんだか何かつっかえていたものが吐き出せた様な、目の前がクリアになった気分だった。あぁ、息ってこうやって吸うものなんだ、と思えた。ようやく今後どう動くべきか、自分が何をしたいか思い出してきた。


「そうか、僕は男として『イヴ』が、人として『友人たち』が、王として『賢王』という評価が、欲しかったんだ」


 ついつい口からぽろりとその言葉が漏れた。僕の言葉に長は何も言わなかった。けれど、どこか楽しそうに思えた。

 賢王となる方法として神殿の力を弱め、国の力を強くしようとしたのだ。さらに魔族と人との共生を成功させたらそれこそ後世に名前が残ると思ったのだ。そんな僕の思惑のせいでイヴが傷ついた。引き金になったこの政策を辞めようと一度は考えたけれど、僕はイヴが傷ついたからこそ、中止したくなかったのだ。イヴが傷つき損になるのだけは嫌だった。


 もう一度大きく息を吸ったら、何かが僕の身体を満たしていく気がした。先ほどまで『どうしようもない、イヴを諦めなきゃいけない』と思っていた自分が馬鹿みたいだと思えた。

 そして、もう一度自分の中で、イヴについての長の言葉を繰り返した。『心と身体のどちらかしか手に入れられない』と長は言ったが、本当にそうだろうか?本当にどちらかなら、身体の方が欲しいと思った。けれど長の言うことを鵜呑みにして彼女の全ては手に入れられないと言うことを受け入れたくない。絶対にどちらも手に入れる。そう決めた。先に身体を手に入れることになるかもしれない。けれどどうあっても彼女の全てを手に入れる様に努力しよう。それでもダメなら僕の愛しい小鳥として鳥籠に入れよう。


 それを踏まえて考えてみよう。その次に何を大切にするべきなのだろうか。側近たちに関してはまだ見出してもいないからわからない。見つけてから考えるべきだろう。


 けれど父母に関してだけは認識が変わったと思う。両親に関しても長の言葉を全て鵜呑みにするのは間違っている。けれど、確かに以前から僕とイヴの結婚を反対する両親は邪魔だと思っていた。ならば排除して何が問題なんだろうか。愚かな母にはうんざりしていたし、母のイエスマンの父は碌でもないと思っていた。僕のしたいことがはっきりした今、両親を大事にする必要はないと思えた。母を幽閉以上にするつもりはなかったが、甘かった。


 父母が僕の邪魔になるなら排除すべきだろう。それも中途半端にしてはいけない。徹底的にするべきだ。そもそも母が死んで、何か問題があるだろうか?王家の秘宝である竜木を自分の私欲で密輸する人間だ。

 竜木は黄金のきらきら光るだけの木ではない。表皮をすり潰し、粉にしてそれを紅茶に溶かして飲むと高揚感と酩酊感を得られる。そしてそれは強い依存性を人に与える。末期になると、その薬を1gを手に入れるためならばなんでも言うことを聞く操り人形になる。そんな竜木を巡って殺し合いが起きたこともある。

 神殿と王家で所有権を争い、242代目のクライオス国王である、チャールズ・クライオスが神殿を出し抜いて権利を手に入れた。


 危険だからこそ王家が厳しく管理している。竜木が危険な理由を下手に知らせると愚かな人間が続出するだろうと考えられたため、使用方法を含め全て公開していない。けれど王家の人間はきちんと竜木について教育される。元々王家の人間でなく、出来が悪いと馬鹿にされる母だとて教えられたはずなのだ。

 その竜木を簡単に外に出したのだ。一応おかしな使い方をしていないか跡を追わせたが、購入したものはきらきら光る木ということをありがたがって飾っているだけではあった。けれど下手をしたらその当時と同じとんでもない事態を招いたかもしれないのだ。しかも、理由は自分が美しくいたいためなのだ。情状酌量の余地はない。殺すべきだろう。

 けれど母を死なせることによって父が敵に回ることは避けねばならない。ならば時期を見計らって父母は一緒に排除すべきだろう。父が僕のことを憎んでもいると言うならば、父も油断していないだろう。出来るだけ多くの味方を手に入れてその上で一気に片をつけるべきだ。父の粗も探す必要があるだろう。引っ張れる足は多ければ多いほど良い。


 そして、竜木で思い出した。竜木の粉を飲んだ後に性交をしたらとんでもない快楽を得られると言う。もし、イヴがどうしても僕から逃げるというならば、使ってみるのもいいかもしれない。そうしたら、イヴは僕から離れられなくなる。


「そうそう、良い顔になって参りましたな。ならば、殿下。もう私からの授業は終わりで良いかもしれませんな」


「最後に聞きたい、なぜ今後敵対関係になるであろう僕にこんな話をしてくれたんだ?」


「ふふふふ、そうですなぁ…。それこそ迷える子羊を助けたくなったのかもしれません。

 それにもし万一若君と殿下が決裂した後、若君を殺さなければならないという状況に陥った時に、若君の命乞いをしたいからかもしれませんなぁ」


「長の教え通りの道を進む僕がその願いを聞き届けると思うのかい?」


 僕がせめてもの意趣返しでそう返すと長は、これまで以上に実に楽しそうに笑った。


「いやはや、参りましたな。さすが元来の資質もお有りの方です。たった数分の授業でここまで開眼なさるとは…。

 良いのです、もしその時はさっさと殺しておしまいなさい。情をかけてはなりません」


「多分あなたなら、そう言うと思ったよ。その時はあなたも共に殺すことになるかもしれないのに。

 できれば僕について欲しいけれど、それは望めない様だから」


「ほっほ、クラン家には並々ならぬ恩がありますので、残念ながら殿下の提案には乗れませぬ。けれどもこの翁はそう簡単に殺されはしませぬし、若君とてお守りいたしますぞ。

 …けれどクライオスの王族は獅子です。しかも番を失った者は狂える獅子となります。その様な方にはもしかしたら負けることもあるやもしれませぬなぁ…」


 そうしみじみと呟いた長は先ほどの深い闇を纏った人物とは別の人間に見えた。僕がいままで付き合ってきた長よりも更に小さく見えた。おかしなことに、それがなんとなく寂しい気がした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の幸せのためには王子さまは排除一択ですね! 別に王族自体をすげ替えても良さそうですし。
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