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【12月1日 2巻発売】婚約破棄した傷物令嬢は治癒術師に弟子入りします!  作者: 三角 あきせ
二部

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王太子の前で影は歌う 3

「殿下が先ほどの策を取れないのであれば次の策はシンプルですな。魔力云々の話はせずに、姫様によく似た背格好と色合いの娘と結婚するのです」


「イヴのそっくりさんが欲しいわけじゃない。僕はイヴが欲しいんだ!」


「ほっほ、何を仰るのやら…。まぁ、姫様ほど美しい娘はおりませんのであくまで金髪で背格好が似ている娘で良いのです。

 その後に、姫様がその娘の位置に立てばよいのです」


 長の言葉に頭に来て言い返すが、長は僕の言葉を受け止めて柔らかく打ち返した。けれど、発言が今ひとつ理解できない。何を言っているのだろうか?


「姫様はあまり外に出られない方でした。ですから、デビュタントと裁判の二回しか公的な場には出ておりません。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()。その後は一貫して誰がなんと言おうと、姫様をその娘だと言い張れば良いのです」


「そんな…それじゃ、イヴと入れ替わったその子はどうなるんだ」


 ぽつりと呟いた僕に闇は笑う。その闇には底がない様に思えて仕方がなかった


「余計なことを喋る口は少ない方が良いでしょう」


 思わず震える僕に構わず闇は歌う様に続ける。もう聞きたくないと思いながらも、僕の中の何かが闇の声に賛同していることがわかる。じわりじわりと僕の中の何かが目覚めていく様な気がした。


「誰も犠牲にしない方法などはありませぬが、他にもうひとつ、この翁が知る方法をお教えしましょう。

 国王の部屋には『たった一羽だけ入れる秘密の鳥籠』があるのです。歴代国王の何人も使っている鳥籠でしてね、国王のためだけに囀る鳥だけが入れます。卵を産むこともありますな。他の誰にも小鳥を見せたくない時だけに使う籠でしてね、食事も水浴びも全て王が手ずから行えるのです。いや、王しか行えませんので、不慮の事故で王が死んだらその鳥も共に死ぬのです。

 実は殿下、貴方のお祖父様が使われておりましたよ」


「祖父が…?」


「ええ、そうです。王家の力が弱まってからは、番と結婚できぬ王も珍しくなかったのです。そもそも王族と結婚ができるのは侯爵家以上の人間というのは王の力が弱まった後に高位貴族たちが定めた法律です。

 お祖父様の小鳥は既婚者でした。『離して欲しい』と泣きながら縋った小鳥をお祖父様は最後まで逃がしてあげませんでしてな、鳥籠に入れたまま、生涯を共にしました。逃げられない様に風切羽を切った後で」


「まさか…だって祖母はルーク家の人間で…」


「小鳥はルーク家の予備のエンガレ伯爵家の娘でした。ルーク家には十分な魔力を持ったリーゼ様がいらしたし、小鳥はお祖父様より五歳年上でした。その為お祖父様に会うことなく、すでにドーレ辺境伯家に嫁いだ身でした。

 番に会ったことのないお祖父様は、番の話を信用せず、リーゼ様と婚約なさいました。

 当時は隣国と戦争しておりましたので、辺境伯夫妻はほとんど社交界に出ることがなかったのですが、とうとう隣国に勝ち、併呑することに成功し、二人は揃って王都に出て……悲劇が起こりました」


 なんの話をしているのだろう……まさか、父は今まで僕が祖母と信じていた人との間の子供ではないと言うのだろうか?だって、運命の番以外と子供が儲けられるはずなどない。


「小鳥を見た瞬間にお祖父様はどうしても手に入れようとなさいましてな…、辺境伯に願われたのですが断られました。まぁいきなり妻を寄越せと言われて差し出す人間の方が少数派でしょうからな。

 小鳥は王家が尊ぶ純潔を失っていたので、結婚をすることが叶わなかったのですが、焦れたお祖父様は彼女を攫って鳥籠に入れてしまいました。

 ルーク家を通じて抗議されましたが、穏やかで優しかったお祖父様は豹変しており、どうしても小鳥を手放さないと頑とかたぎったのです。しかも王家の秘密の鳥籠を見つけることは誰にもできませんでした。だから、ルーク家は仕方なくリーゼ様を妻に迎えることを条件に小鳥のことを諦めたのです」


「待ってくれ。まさか、父は…」


「えぇ、お察しの通りです。お父様はリーゼ様の子供ではありません……籠の中の小鳥、アンジュ様の子供です。

 お祖父様は息子といえどアンジュ様を取られることを嫌い、すぐにお父様をリーゼ様に預けられました。お父様――陛下も随分と闇が深い方ですよ。父親には疎まれ、実母には会えず、義母には憎悪の篭った目で見られたのです」


「リーゼ様と、祖父の間には、何もなかったんだな」


「えぇ、そうです。番を見つけた王族は他の女性とは、まず性行をしませんからな。

 その気になれば殿下もクラフト伯爵令嬢とでも結婚なさって姫様を鳥籠に入れるということもできるでしょう。鳥籠は国王の部屋にあり、国王になった人間であれば簡単に見つけることができるそうですぞ。

 まぁ、他にも歴代国王の番に対しての執着は凄まじいものがありましてな、本来ならば王族の番に手を出す様な愚かな真似はしないものなんですが…」


 なんだか信じていたものが根底から覆される様な話に少し目眩がしたが、それでもあり得ない話ではないと思った。もし、イヴが既婚者だったとしたら、僕も同じ行動に出ただろう。


「ことほど斯様に姫様を手に入れる術はいくつもあるのです。心でなく身体が欲しいのであれば、殿下が王になられれば簡単に手に入れることができるでしょう」


「そうか…、じゃあ僕もできるだけ早く玉座についてイヴを迎えにいかなきゃいけないんだね」


「えぇ、しかしそう簡単に玉座にはつけないでしょう。殿下は『王妃が離宮に籠ったら父もついて行く』と思ってらっしゃる様でしたが、まずそれはないでしょう。

 その証拠に殿下、貴方も姫様と婚約解消した後に地位を投げ打ってでも姫様と共に行かれなかったでしょう?」


「いや、それは…、僕には約束があって…」


「そう、殿下の拘る約束と同じほどの何かが陛下にはお有りなのでしょう。

 それに、先ほど申し上げましたが陛下は歪んだところがお有りの方。殿下に対して愛情もあるでしょうが、同じほど憎悪もお有りなのでしょう」


「憎悪…?父が僕に?」


「さようです、確かに愛した番との子ですから可愛いということは間違い無いでしょう。

 けれど、陛下は親に愛された記憶もなく『正当な血筋ではない』と言われて育たれた方。きちんとした陛下と妃殿下の子供であり、更に初代と比肩すると言われるほどの優れた資質を持つ殿下に対して劣等感もお持ちなんでしょうな」


「そんな、血の繋がった親子だ!」


「ほっほ、血というのは絆でありますが、時には鎖となります。愛憎とは紙一重のもの。血が繋がっているからこそ、憎しみが増すことは珍しくないのです。

 殿下、これは秘密にしておいて欲しいのですがね、私めの曽祖母はどこか遠いところから来た人間だった様なのです。曽祖母は私が幼い頃に亡くなったんですが、私は彼女に育てられた様なものでした。曽祖母はなんといいうか…不思議な人間でしてね、なんと言いましたかな。ク、ク、ク……そう、クラリスちゃんでしたかな?代々クラリスちゃんを信仰していたそうです。時には隠れて信仰していたと言う筋金入りの信者だったと言っておりました」


 父の話ですでにキャパ超えしている僕に、愉快そうに長は彼の曽祖母の話を切り出す。いったい何に繋がるのだろうかと、不思議に思った。けれど彼の話は僕の世界を一変する様な話ばかりだったので、ついていけない僕がおかしいだけなのかもしれない。


「曽祖母の信仰している経典によると人類最初の殺人は兄弟間のものだったとされているそうですよ」


「父が僕を殺そうとしている…と?」


「さて、どうでしょうな。私はあくまで裏に生きる者ですので、一国の王の考えはよくわかりかねますからなぁ…けれど子を持つ父としては殺したくないと思いますよ。

 しかし、殺さざるを得ない状況というのは私の立場上有りますけれどもね。まぁ、親子間のことは当事者が一番分かると思っておりましたが、殿下があまりにも盲目的に信じているものですから、少し忠告を」


 言われてみると確かに父が僕に対してあまり配慮がないと思ったことはある。けれども幼い僕に対して楽しそうに番のことを話してくれたり、イヴのことを話した時に見せてくれた優しい瞳が嘘だと思いたくなかった。そんな父に憎まれているとも思いたくなかった。

 それに先ほど子爵夫妻との話し合いの時に『エヴァンジェリン嬢のことは考え直して貰えないだろうか。彼女はジェイドの運命だ』と言ってくれていた。

 けれども…確かに、時折父が冷たい目を僕に向けていることもあった気がしないでもない。いや、疑えばキリがない。キリがないのだが、どうなのだろうか…。

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