デビュタントのダンス
ホールの中心のシャンデリアの灯りの下にカイル様と二人っきりのようだった。
周りが、私達を見ているのはわかるけど、ホールで踊っているのは、今は私とカイル様だけ。
カイル様の手にそっと手をのせ、カイル様は私の腰に手を回し、体をくっ付けて踊っていた。
カイル様を見ると、無表情から少し微笑んでくれる。
この顔も大好きな顔だ。
次の方が入り出したので、私達は一礼をし、中心から下がった。
その時も、カイル様のエスコートは素敵だった。
デビューする方達のダンスが全て終わり、皆様それぞれ歓談や自由にダンスを始めた。
「ルーナ、そろそろ二人で庭に逃げるか?」
「はい、カイル様が逃げた所を教えて下さい。」
カイル様と二人で行こうと話している時、アルベルト様が来た。
「ルーナ、カイル、調子はどうだ。」
「はい、良いです。」
アルベルト様が私達の所に来たせいか周りの注目になっていたと思う。
「ルーナ、今日は本当に綺麗だね。」
「ありがとうございます。カイル様のおかげです。」
「カイルのおかげか。…一曲私とも踊ってくれるな。」
カイル様以外とは踊らないと思っていたのでびっくりした。
返事に困り、カイル様も何か言おうとした時、陛下とミラ様達も来た。
「ルーナ、会えて嬉しいわ。」
「私もです、ミラ様。」
「アルベルト、いなくなったと思えば、ここにいたのか。」
陛下がアルベルト様に声をかけると、私をダンスに誘ったことを陛下に言った。
「冥土の土産にルーナにダンスを申し込んでいました。」
「おかしな誘い文句を使うでない。」
カイル様は私の肩を抱き寄せ離さないようにしていた。
「カイル、アルベルトとルーナを一曲させてくれるか?」
カイル様は無言だった。
周りがざわついているのが、私には聞こえていた。
このままは良くないと感じ一曲だけと決心した。
「あの…カイル様。一曲だけ頑張ります。すぐに帰りますから。」
「…断ってもいいんだぞ。」
「皆様見てますし、無礼は出来ません。」
カイル様にそっとそう言うと、ミラ様の隣にいるグレイ様が陛下とアルベルト様を止めた。
「陛下、ルーナ様は初めての社交界で緊張があります。ぜひカイルの側にいさせてやって下さい。」
だが、アルベルト様は引かなかった。
「デビュタントで王族とダンスは光栄なことではないのか?ルーナ、私とは不服か?」
もう断れない雰囲気だった。
カイル様の無表情が怖い顔に見えてきた。
「では一曲だけお願いします。」
カイル様の手を離しアルベルト様の差し出してきた手を取ろうとすると、急に後ろに引っ張られた。
あっという間にカイル様の顔が私の頬にきて、そのまま頬に口付けしてきた。
「アルベルト殿下、ルーナは俺のです。すぐに返して下さい。」
アルベルト殿下は笑顔だったけど不敵な笑みに見えて少し怖かった。
ホールの中心に行き、アルベルト様が手をつかむように私の手を添え、腰に手を回してきた。
カイル様と踊った時と同じ姿勢になる。
「あの、アルベルト様、もう少し離れた方が…」
「離れると踊れないよ。」
「そうですか。他の方とは踊らないんですか?」
「カイルは他の娘と踊るか?」
「カイル様はしません。」
「なら、私も他の娘とは踊らないようにしよう。」
どういう意味かしら。
私にはアルベルト様が誰と踊ろうと関係ないのに。
そう思っていた。
「ルーナ、また邸に遊びに行くよ。」
「邸にですか。カイル様に聞いてみないといけません。」
「では、カイルに言おう。…ルーナ、本当に綺麗だ。」
「そ、そうですか。ありがとうございます。」
とにかく、早く終わってほしいと頭がそればかりだった。




