デート
ドワイス家のことが終わり、ヒューバートに礼として好きなだけワインをやった。
あれから2日、今日はルーナと、バーナード様から頂いた観劇に行く。
部屋の前で待っていると、ルーナが嬉しそうに出てきた。
「お待たせしました。」
「支度はできたか?」
「はい。カイル様、私少し銀髪に戻ってきた気がします。シャンプーのおかげかもしれません。カイル様達のおかげで美味しいご飯も食べてますし。」
「良かったな。凄く綺麗だ。」
「はい。」
髪など気にもしてなかったがルーナはずっと気にしていたのだろう。
笑顔になって本当に良かった。
観劇のホールにつくと、ルーナはキョロキョロしていた。
「どうした?」
「観劇は初めてですけど、皆様あちらに行かれています。私達は行かないのですか?」
「向こうは一般席だ。俺達はスイートVIP席になるから、こちらだ。」
なんだかルーナがはぐれてしまいそうで、ルーナの肩を抱き寄せて一緒に歩いた。
ルーナは、寄り添ってくれて、俺の服をちょこんと掴み可愛いかった。
スイートVIP席に入ると、ワインレッド色のソファーにルーナと座った。
俺達が座ったのを見計らい、ボーイ達がシャンパンとアフタヌーンティーを持ってきた。
「ファリアス公爵様、バーナード公爵様より差し入れのシャンパンです。こちらのアフタヌーンティーはバーナード公爵夫人よりお嬢様にと差し入れされました。」
「私に?」
ボーイ達はシャンパンや紅茶をついだりした後は、席の外で控えていた。
「バーナード様は愛妻家で、世話好きな方と有名だ。今回のことで、心を痛めていたのだろう。ヒューバートの話では、バーナード様が夫婦でドワイス家へいき話をされた、と言っていた。ディルス達が観念したように大人しかったのも、恐らくバーナード様のおかげだ。」
ルーナは、大きな目を丸くして聞いていた。
「そうだったんですか?バーナード様にも助けられたのですね。」
「…バーナード様が俺にルーナを紹介したから、今度二人で挨拶に行くか?」
「ぜひ行きたいです。」
「なら今度バーナード様に手紙を出すか。」
次の休みに、バーナード様に挨拶に行くことにして、16歳になり正式に婚約をしたら陛下にも挨拶に行かねばならん。
オーレンがデヒュタントも結婚前にと話していたし、やらねばならんことが沢山あるな。
ルーナを見ると、目を輝かせて観劇に夢中だった。
初めてだと言っていたから、かなり楽しいらしい。
観劇に夢中になっているルーナの肩を抱き寄せると、ルーナは一度俺の顔を見た後、俺の胸にゆっくりもたれかかった。
可愛いと思う。
いや、間違いなく可愛い。
一度も、拒否しないが嫌ではないと思いたい。
観劇が終わり、ルーナはパンフレットを楽しそうに見ていた。
「凄く楽しかったです。」
「気にいったか?」
「はい。」
「ではまた来るか?」
「ぜひ連れてきて下さい。」
ルーナに裾の長いポンチョをかけてやると、じっとこちらを見た。
「どうした?」
「私もカイル様にコートをかけてもいいですか?」
「構わないが…」
背が届くのか、と思った。
少しだけかがみ、ルーナが持っているコートに袖を入れ、コートを着た。
「カイル様は背が凄く高いですね。」
「まぁ、高い方だろうな。」
ルーナはこんな些細な事が嬉しいのか笑顔だった。
「あの…カイル様、」
「なんだ?」
「その、結婚しますよね?」
「当然だ。」
「結婚したらですね…、だ、旦那様とお呼びした方がいいでしょうか?」
何故、頬を赤らめて言うんだ!
こっちまで赤くなりそうだ。
旦那様か…。
ルーナが言うと可愛いな。
だが、何故だろう。
夫ではなく保護者感がでるのは…。
いや、今は特に保護者でもあるのだが。
「…」
「あの、カイル様?」
「…旦那様でも構わないが、名前で呼びなさい。夫婦とは対等なものでいたい。」
「はい。」
ルーナは笑顔で返事をした。
旦那様と呼びたかったのか、どっちだ?
わからん。
観劇ホールを後にし、街中に行くとあちこちで、冬祭りが近い為かツリーを飾り始めているところがあった。
冬祭りの日は騎士団も警備に出る。
配置や人数を考える時期かと思った。
「カイル様、冬祭りは行ったことありますか?」
「幼い頃は行ったことあるが、最近はないな。祭りの日は警備になる。」
「お仕事ですか。」
「祭りに行くなら、連れて行くぞ。」
「本当ですか!?お仕事はどうされるのですか?」
「警備の仕事が終わってからだが、ずっとはしないからな。交代までの時間は無理だが、その後で行くか?」
「はい。楽しみですね。」
ルーナが笑顔で手を合わせて喜んだ。
少し息が白かった。
「寒くないか?」
「少し寒いぐらいです。」
「手をかしなさい。」
ルーナの手を握ると、冷たかった。
「手袋を買うか。手が冷たいぞ。」
「いいのですか?」
「何でも買ってやると言っただろ。」
手を繋いだまま歩くとルーナは、ふふ、と喜んでいた。
「どうした?」
「カイル様と手を繋いで歩きたいと思ってました。」
そんなことを考えていたのかと思いもっと早く繋いでやれば良かった。
「いくらでも繋いでやる。はぐれないようにしてくれ。」
「はい。」
ドワイス家で話をつけてから、ルーナの笑顔が増えた気がする。
少しずつ距離も近くなったのだろうか。
毎晩、バルコニーで会うのも嫌だと思ったこともない。
それどころか、ルーナを待っている自分がいる。
愛想のない俺に嫌がる顔もしない。
ルーナは不思議な娘だ。




