お誘いには目的があるのか
「ルーナ様。」
声をかけられ、振り向くとシャロン様がいた。
それに知らない男の方と一緒だった。
「こんにちは、見廻りですか?」
「いえ、昼食に出ていまして…ルーナ様昨夜のお詫びにお茶をご馳走致します。ご一緒下さいませんか。」
シャロン様が私をお茶に誘うのにはびっくりした。
それに、その男性はどなたでしょう。
「シャロン様、お仕事の時間は大丈夫ですか?それにそちらの方は?」
「大丈夫です。それと彼は私の婚約者です。」
「初めまして、シャロンの婚約者のヘイデン・グリードです。」
婚約者!?
驚きです。
悪役令嬢ではなかったのです。
ヒューバート様に担がれたのでしょうか。
「ルーナ様、ぜひご馳走させて下さい。」
驚いてしまうが、しかも断る理由もわからない。
「少しでしたら…」
御者の方も乗り場で待ってもらってますから、少しです。
そう思い、シャロン様とヘイデン様とお茶に行った。
連れていかれた先は、ホテルの高そうなレストランだった。
ここはカイル様と食事に来たことがあった。
カイル様が個室をとり、二人で夕食を楽しんだレストランだ。
シャロン様はいつになく不機嫌だ。
「ご結婚はいつですか?」
「まだ未定です。」
話は全く弾まない。
アフタヌーンティーが並べられていたが、頂く気にもならない。
ヘイデン様が、カイル様のことを知っているらしいが、あまり頭に入らなかった。
いたたまれなくなり、失礼とは思うがお花を摘みに逃げてしまった。
御者の方に迎えに来てもらおうかしら。
図々しいかしら。
御者の方を呼びつけるのは失礼かもと思ったが、どうしても逃げ道が欲しかった。
お花摘みに行く途中に、廊下にいたボーイさんにお願いしてみた。
「すみません、お忙しいでしょうか?」
「どうされました。ファリアス公爵夫人。」
「私をご存知ですか?」
ボーイさんは私がカイル様と来たことがあるのを覚えていたらしい。
「失礼なお願いとは承知してますが、どうしてもお頼みがあるのです。」
「構いませんよ。」
「馬車乗り場にファリアス家の御者さんがいます。ぜひ私を迎えに来て欲しいのです。呼んできてもらえますか?お願いします。」
ボーイさんは快諾してくれた。
後は迎えに来てくれるのを待つだけ。
少し気が楽になったと思い、席に戻るとシャロン様はいなかった。
「シャロンなら仕事に帰りましたよ。」
酷いです、シャロン様。
どうして私を置いて行くのですか。
しかも、婚約者まで置いていくなんて。
「あの、シャロン様がお帰りでしたから私も帰ります。」
「そう言わずどうぞ。お茶のおかわりも頼んでおきました。」
要りません。
果てしなく要りません。
「では、あと一杯だけ頂きます。」
一気飲みして帰ろうかしら。
でも、それでは品がないと思われるかしら。
「ファリアス公爵は愛想がなくつまらないでしょう。シャロンも同じです。可愛い気がないんですよ。」
「カイル様はそんなことないですよ。」
あなたみたいなお喋りな方より、ずっと素敵ですからね。
それに、婚約者をそんな風に言うなんて、失礼な方だと思った。
そして、ミルクティーをぐいっと一気に飲んでしまった。
…いつもと味が違う。
そう思った瞬間、ヘイデン様は手を握ってきた。
「同じ悩みを持つ者同士もう少しゆっくりしませんか?」
「ゆっくりなんてしません!」
そもそも、同じ悩みなんてないです!
手を払いのけ、勢いよく立ち上がると一瞬クラッときた。
ヘイデン様を見ると、ニヤリとしていた。




