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ヴィンスのかく語りき 1

やっと、カイル様の第3騎士団に移動できた。


ケネス元団長は親の跡を継いでからはタガが外れたようになり、とても尊敬出来なかった。


それに比べ、カイル様は尊敬できる。

あれほど身分も高いのに、権力に溺れることもない。

以前は戦にも出ていた。

肩書きだけの騎士とは違う。


そのカイル様に声をかけて頂いた。

邸の、特に領地の執務官として手伝って欲しいと言われた。


断る理由はない。

しかも、邸に部屋も準備してくれると言われた。

感激だった。


しかし、最初は驚いた。


あの溺愛ぶり。

カイル様は落ち着いた大人の令嬢が好みかと思っていたら、奥方は可愛いらしい年下令嬢だった。

しかも、奥方はずぶ濡れになっていたのに、俺のマントが汚れることを気にしたのには驚いた。

高慢な令嬢とは違うと思った。


それに実際、二人を見ると何となくしっくりくる。

カイル様が大事にしているからなのか、二人の雰囲気はいい感じだった。


それなのに、一緒の日に赴任してきたシャロンが割り込もうとしているのか、カイル様を見ているのは気付いていた。


まあ、どうせ相手にはされないだろう。


しかし、ヒューバートが悪役令嬢と教えるとは驚いた。

ルーナ様は真剣に聞いているし。

意外と面白い方なのだろうか。


ゼリー事件の翌朝。


カイル様はルーナ様と二人で部屋で朝食をとっている。

寝室に朝食を運ぶ時はいつもそうらしい。

給仕もいらないと、二人っきりらしい。


シャロンは無言で食べている。


「シャロンさん、ルーナ様にもう一度謝罪するべきでは?」

「…お詫びは致します。夕食時までに準備します。」


すると、オーレンさんが一言言った。


「今夜はカイル様とルーナ様は夕食は邸ではとられません。」

「だそうですよ。お二人は仲睦まじいですね。」


そう言うと、シャロンはフォークを一度おいた。


「…カイル様はルーナ様が大事なのですね。」

「どこからどう見たってそうでしょう。目が腐っているのですか。」

「腐ってません!私も今夜は夕食に出掛けます。」

「カイル様の邪魔はしないで下さいよ。」

「私も夕食は婚約者と一緒です。邪魔なんてしません。」

「は?婚約者?…いるのですか?」


カイル様が好きそうに見えたが。


「いたらおかしいですか。私も貴族の娘です。婚約者ぐらいいます。」


シャロンはそう言うと不機嫌そうに立ち上がり朝食を後にした。


朝食は食べかけなのか半分も残っている。

婚約者と上手くいってないのだろうか。

とてもじゃないが、会うのが楽しみには見えなかった。




カイル様は朝からずっと黙々と仕事をしていたが、昼に夕べのことを聞かれた。


「夕べは落ちたゼリーを真ん中に囲んで何をしていたのだ。驚いたぞ。何かの儀式か?」

「いえ、儀式では…」

「では、何故ゼリーを真ん中にしゃがみ込んでいたのだ。」

「…あ、悪役令嬢の考察でしょうか。」

「何か物語でも聞かせていたのか?」

「…そのような気もします。」

「ルーナは素直というか、一生懸命な娘だから変なことは教えないでくれ。」


そんな気がします。

ヒューバートのどこまで本気で言っているのかわからない話を真剣に聞いていましたから。


今夜は夕食に誰もいない。

俺一人の為に夕食を出してもらうのは申し訳ないから、俺はヒューバートと夕食に出掛けることにした。






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