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ゼリー事件 1

夜に食事も終わり、カイル様はヒューバート様達とお酒を飲んでいた。

私は夜の支度も終わり、もう部屋にお戻りになる頃を見計らい、ゼリーを取りに降りた。


厨房の手前の使用人休憩室を通ると、ガラスの割れる音がした。


ガシャン、と。


恐る恐る厨房を見ると、シャロン様が冷蔵庫の前に立っており、ゼリーがグラスごと、割れ床に落ちていた。


「あの、シャロン様…」


頭が真っ白になりそうだった。


「ルーナ様、すみません。冷やしておいたお茶を取りにきたのですが、ゼリーを落としてしまって…。」


シャロン様はばつが悪そうだったからわざとではないと思う。


まあ、沢山作りましたから、冷蔵庫一杯だったのでしょう。

でも、どうしてよりによってカイル様用を落とすのですか。


「…あの、お怪我は?」

「ありません。今使用人に片付けさせますわ。」

「シャロン様、もう皆様お休みです。使用人は起こさないで下さい。」

「しかし、このままでは…」


貴族ならこれが普通なのだろう。

掃除をする令嬢なんていない。


「私がやります。私がカイル様に作ったものなので。」

「カイル様がお召し上がりになるものでしたの。お詫びします。」

「お詫びはいいです。」


私がそう言うと、シャロン様は無言で厨房から出ていった。


シャロン様が立ち去った後、何をしているのだろうと思いながら、カチャカチャとガラスを拾っていた。


失敗作もあるが、カイル様に出す分は結構上手くできたつもりだった。

冷蔵庫に残っているのは、型の崩れた失敗作のゼリーだけ。


一人虚しく片付けをしていると、ヒューバート様とヴィンス様がやって来た。

どうやら二人で、部屋で飲みなおすつもりで酒とつまみを取りにきたらしい。

案の定、カチャカチャと割れたグラスを拾っている私に気付いた。

落ちたゼリーはぐちゃぐちゃだ。


「ルーナさん?どうしたんですか?」


隠すつもりもなかった私はヒューバート様に、話した。


「シャロンを呼んで来ます。ルーナさんが後片付けをするのはおかしいですよ。」

「でもヒューバート様、普通に考えて、貴族の令嬢が掃除をすることはないですよ。」


私はあの家で育ちましたから、掃除もしますけど。


「シャロンは騎士として来ています。ルーナさんに敬意を払うべきです。」

「そういうものですか。でもいいのです。」

「…ルーナさん、何かあるなら相談にのりますよ。」


相談…。

ヒューバート様なら話そうかしら。

一瞬悩んだが、ヒューバート様には話すことにした。


「シャロン様はカイル様をどう思っているのでしょうか。カイル様はシャロン様と仲良しですか?」

「何かされました?」

「いえ、何も。」

「…ルーナさん、あれは悪役令嬢というやつです。」

「悪役ですか。」


いつの間にかホウキを持ってきていたヴィンス様は口をポカンと開け立っていた。

それでも、私もヒューバート様も気にせず話を続けていた。


「団長を狙う敵かもしれませんが、とるに足りません。団長はルーナさんだけです。」

「でも、カイル様がシャロン様と二人で歩くのを見ました。」

「理由があったのでは?」

「あったような気もします。」

「ルーナさん、敵を知るには情報収集です。シャロンを調べますか?後をつけてもいいですよ。一緒にいきますか?」

「気配を消すのはきっと得意です。」


シャリーさんが寝室に来た時、カイル様はすぐに気付きませんでしたからね。


「でもヒューバート様、私はシャロン様のことに興味がないのです。」

「では見せつけますか?」

「無理なような気もします。」


そこで掃除をしているヴィンス様が割り込んできた。


「あの、普通にしていればよろしいのでは?どこからどう見たってカイル様はルーナ様を溺愛してますよ。」


ヴィンス様は、呆れているのか、戸惑っているのか私とヒューバート様の話に不思議そうな顔で入ってきた。


割れたグラスにぐちゃぐちゃのゼリーを真ん中にして三人で囲むように腰を落とし密談とも言えない大きさの声で話していた。




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