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【5/16~ コミカライズ連載開始!】悪役令嬢になりましたが、何か?【完結済】  作者: みなと
学園編

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演習前の下準備

「魔獣狩りの演習の授業…ねぇ」


 はて、そんな授業までもあるのか、とフェリシアはきょとんと目を丸くした。

 とりあえず、魔獣がもしも目の前に出てきたら、得意な属性の攻撃魔法を脳天に一発ぶちかませばよろしいのでは、と思ったけれど言わないように必死にフェリシアは呑み込んだ。

 そんなパワープレイなど、普通の人ならば絶対にしない。恐らくフェリシアとべナットは普通にやらかしてしまうが、フェリシアに関して今はまだまだそんなことを披露していい年齢でもない。とはいえ、状況によっては有りだとも思うが。


 あまりにもイレネとカディルがフェリシアに絡むから、と接近禁止令のようなものが発令されてから早三年。

 フェリシアは十五歳になり、じわりじわりとイレネが前回冤罪を吹っ掛けてやらかしてくれた、あの時の年齢に近付きつつある。

 何をどうやってひっくりかえしてやろうか、とか色々と考えていたのだが、ふとフェリシアはあることを思う。


「(この演習って、確か最高学年の相方を決める必要があるのよね…)」


 それならば、リルムには是非とも自分を選んでもらわなければならない。

 きっと皆、身内だからこれくらいは情けをかけるのでは、と淡い期待を抱いているかもしれないが、何せ相手はあのリルム。念には念を、として手紙であれこれおねだりしておかねばならないな、と思ってからビビアンにはレターセットを持ってきてもらう。


「お嬢様、一体何をお書きになるのです?」

「リルム様におねだりを、ね」


 ふふ、と笑うフェリシアの笑顔には、可愛らしさだけではなく妖艶さまでもが混ざってきた。

 元々端正な顔立ちだから、こうなって然るべきではあるのだが、この成長過程を間近で見ることができて私は大変嬉しいですお嬢様!!と内心絶叫しておいてから、ビビアンは淡いピンクの薔薇のイラストが入ったレターセットを選んでいた。


「あら可愛い、殿下の好みにぴったりじゃないの」

「王宮の薔薇庭園も、当家の中庭も、殿下はとてもお気に召しておりましたので。恐らく何かお気に入りがあるのでは、と推測いたしました」

「うふふ、ありがとう。やっぱりあの時ビビアンを専属に選んで正解だったわね」

「とんでもございません、我が主」


 演技をするかのように、だが、恭しく頭を下げたビビアンの言葉に、一切の嘘偽りは存在しないし、感じられもしない。

 ビビアンはフェリシアを崇拝レベルで慕い、何かあれば自分の命すら賭けたところで惜しくもないと思っているから、最近は武術の鍛錬も行っているほどだ。だがしかし、守られている本人はとんでもないレベルの強さを誇る次期ローヴァイン家当主。守る必要あるの?と同期のメイドたちや他の使用人にもに聞かれたが、ビビアンはただ一言、こう言い切った。


「少なくとも、お嬢様を守るための肉の盾くらいにはなれるじゃない」


 笑顔で、躊躇することなく言い切った彼女に、震え上がった新人もいた。主のためにそこまで己の身を投げ出せるなど、そうそうできることではない。

 だが、ビビアンにはそれだけをしてでも、フェリシアに対して尽くしたいという強い想いがあった。


 フェリシアが王宮に呼ばれ、カディルがフェリシアに暴力を奮ったとされるあの、忌まわしき王妃の誕生日パーティーでの一件。

 髪飾りをどうするか、といってビビアンが用意したものをフェリシアが着用し、それがカディルによって踏み潰されたあの後。フェリシアは申し訳なさから力を発動して(カディルの寿命を吸い上げた残りカスではあるが)、髪飾りを完璧に修復してくれた。

 初めてビビアンが選んだ髪飾りを、利用したとはいえ破損させてしまったことはフェリシアにとって、あってはならないことだったし、ビビアンを悲しませたことも嫌だったから、直したあの件。あれ以降、ビビアンの忠誠度はとてつもなく跳ね上がり、こうして現在にいたっているのだ。


「お嬢様、ではそのおねだりのお手紙は、公爵閣下に届けていただいた方がよろしいかと」

「そうね、うっかりミスで届かなかったら嫌だものね。それに…」


 にこ、とフェリシアは微笑んで続けた。


「リルム様にもまだ、お見せしていないの。時属性もそうだけれど……他の魔法も、色々と見せておかなければ…ね」


 フェリシアはそもそも魔法のセンスがずば抜けて高い子だったからこそ、時属性の魔法すらいとも簡単に操ってみせた。

 天性の才能とでもいうべきなのだろうか、これくらい寿命を吸い上げたら、これくらいの規模のことが出来る。もう少し少なくしたら、ここまでしかできない。この線引きがとてつもなく上手なのだ。


 だが、それだけではない。


 普通ならば、一人が使える魔法の属性は一つだけ。フェリシアだけではなく父であるべナットもだが、四属性同時展開が可能という、まさに化け物じみた才能。

 ローヴァイン家の血であることの何よりの証明、ということらしいが、結果としてカディルとイレネのコンプレックスを盛大に刺激したが、そんなもの知ったことではない。


「…よし、できた…っと」


 手紙を書き終え、フェリシアは封蝋を施してから、父に渡して貰えるようにとお願いした。

 ビビアンは一礼し、部屋から出て行った。きっと、べナットにお願いしてから、確実にリルムへと届くようにきちんと手配してくれるだろう。そうすれば、あとはリルムからの返事を待つばかり。


「そういえば、あの聖女サマ、とっとと覚醒しないかしら…。張り合いがないじゃないの」


 魔法の打ち合いだけではない、純粋な力比べだってまだしていない。

 巻き戻る前に、イレネは聖女聖女と持ち上げられていたが、果たして実力はいかなるものなのか、それが分からない。分かれば、徹底的に叩きのめして踏みつけてやろうと思っているのだが、恐らくこの演習の授業で披露してくれればちょうどいいのだが、とフェリシアは考える。


 なお、数日後にリルムから届いた返事は『将来の女公爵がパートナーだなんて、とても心強いわ。ありがとう』という簡素なものだが、とてつもなく忙しいリルムが直筆のこういったメッセージを書いてくれて、尚且つ、リルム直属の侍従が届けてくれた。

 それだけでフェリシアには十分すぎるほどのご褒美でしかないが、勿論パートナーは一緒に組める。嬉しさの大渋滞ね、と嬉しそうに笑ってから、フェリシアは軽い足取りで母の執務室へと向かう。

 今日は確か、一日中公爵夫人としての業務を執り行うと聞いていたから、家のどこかにいるはず。


「執事長、お母様はどこかしら」

「奥様でしたら中庭にいらっしゃいますよ」

「ありがとう」


 るんるんと軽い足取りで中庭に向かい、母お気に入りの四阿でお茶をしている姿が視界に入り、手を振ってみると、すぐに気付いてくれてユトゥルナからも手を振り返してもらえた。


「お母様!」

「フェリシアは、わたくしの前ではいつでも甘えんぼね」

「お母様の前ですから!」

「あら、嬉しい」


 フェリシアは嬉しそうに駆け寄って、そのままユトゥルナへと抱き着いた。

 前回はこんなにも甘えることなんて許されていなかったからこそ、フェリシアは巻き戻して良かった、といつでも思っている。

 また、ユトゥルナも同じ気持ちだった。かつて、娘を思うように甘やかしてあげていたら、甘やかすだけでなく対話をきちんとしていたら、娘の幸せを勝手に決めていなければ、と、巻き戻る直前までのたられば、が蘇るが、フェリシアがそれを叶えてくれる。

 あまりにも娘に対して甘すぎないか、と言われればユトゥルナは『かつて、フェリシアが暴力を振るわれた時にわたくしはあの子をすぐ守れなかったから…』と、寂しげに呟く。


 あまりにも印象的すぎて、語り継がれているあの暴力沙汰はカディルの顔に未だに泥を塗り続けた。


 利用できるものは利用して、娘を使い捨てにした王家に対して遠慮なく苦痛を与えられる便利な手段として、暴力事件を掘り起こすなど…とも言われる。しかし、分かっていてあの行動を取ったとはいえ、フェリシアに対していつかあれ以上をやらかしていただろうカディルを許すことなど出来ようものか。


「それでフェリシア、お母様に何か用事でもあったの?貴女がこんなにも甘えたさんなのは、おねだりがある証拠ね?」

「さすがはお母様だわ!」


 きゃっきゃとフェリシアは嬉しそうに、そして無邪気に笑った直後に不穏な笑顔を浮かべた。


「ねぇお母様、魔獣狩りの演習の前に少し『貯めて』おきたいの。今度、お茶会に一緒に連れて行ってくださらないかしら」


 わたくしに反感を持っている貴族令嬢のいるお茶会に、と小さく付け足せば、ユトゥルナは微笑んでフェリシアの頬を撫でる。


「えぇ、良いでしょう。そうね、来週の学院のお休みの日にでもどうかしら。お茶会に招待されているけれど、そこの家のご令嬢はとっても……」


 ぎゅう、とフェリシアを愛しそうに抱き締めて、ユトゥルナは小声で続けた。


「貴女のことが、嫌いみたいだから丁度いいわ」


 言い終わって体を離し、艶やかな笑みはそのままにユトゥルナは問う。


()()()()()とわざわざ繋がりを持とうとしたのは、公爵家令嬢……そして次期当主として良き人の繋がりを求めての行動から、色々な人と分け隔てなく、嫌われていようとも対話を試みたのだ……と皆が錯覚するようにしておけば良いかしら?」

「はい、お母様」

「招待状には、是非ご令嬢もと書かれていたから丁度いいわね。何かしらフェリシアに文句を付けようと必死なのでしょうけれど…無駄な努力だこと」

「家名は当日のお楽しみにしておきますわ」

「えぇ。ドレスコードは後で教えてあげるから、ちょうどいいものを皆で選ぶと良いわ」


 皆で、という言葉にうぐ、とフェリシアは苦い顔をする。

 成長してからフェリシアの美貌には磨きがかかっているが、お茶会のドレス選び、パーティーに参加する時のドレス選び、ちょっとしたお出かけの服選び、あれこれに対して侍女たちが我が我が、と服選びに名乗りを上げてくる。


「あの、わたくしだけで選んでは…?」

「だぁめ。皆の楽しみになってるんだから、ね?」


 にっこり、と音が聞こえてきそうな笑顔を飛ばされてしまっては、反論できない。

 はい……と打って変わってしょんぼりした顔で頷いたフェリシアの元に、タイミング良くやって来たビビアンは『?』を浮かべていたが、話の内容を聞いた途端に『お嬢様、皆に話してきますね!』ととてつもない速さで駆けて行ってしまった。


「えぇ……?」


 なお、フェリシアの予想通り、ドレス選びに付き合う使用人を誰にするかの壮絶なるバトルが繰り広げられたことは、言うまでもない。

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