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城砦突入

 城門を壊したのは良いけれども、それだけで終わるわけじゃないんだよなぁ。


「銃兵は応戦しろ」


 グレアムさんが叫んでいるけれども、その理由はセーレウム城の城壁の上にへばりついて狙撃してくる奴がいるからで、城門が吹っ飛んで混乱してるのか数は減ってるけどスゲー撃ってくるから困る。

 このままだと城門に着く前に結構やられそうなんで、グレアムさんがこっちの銃兵に撃ち返させてるわけだけど多分駄目だろうね。俺は大丈夫だけど、城門まで突撃を仕掛けてる奴等の内の二割くらいは到着できずに死ぬんじゃないかね。バッタバッタとやられているわけだしさ。

 こっちの方が銃の性能が良いって言っても走りながらと城壁の上で腰を据えて撃ってくる奴等とじゃ命中精度が違うだろうし、やられっぱなしになるだろうね。

 まぁ、その辺りは仕方ないな。ダラダラとやって百人が死ぬのを繰り返すより、思い切って千人死なせて勝つ方が犠牲は少ないし、兵の使いどころなんだと思う。そういうわけで、頑張って死んで欲しい。俺は死なないように頑張るけどさ。


「師匠、城門に敵が!」


 俺に並走するジーク君が叫ぶ。

 ジーク君の言葉の通りセーレウム城の城門に大盾を持った帝国の重装歩兵が並び、俺達の行く手を遮っている。まぁ、だからどうってこともないんだけどな。


「構わず進め」


 大砲があれば、ドカンと一発やってもらうんだけど無いからなぁ。そうなると、俺が行くしかないわけで、俺はドラウギースの腹を軽く蹴って速度を上げさせる。

 瞬時に最高速度に達したドラウギースは並走していたジーク君を置き去りにして、城門前に敵の集団に向かって走りだし、そして俺を乗せたまま敵兵の集団に突撃する。

 俺にも多少衝撃があったものの、俺が乗ったドラウギースと正面衝突した敵兵はまとめて跳ね飛ばされていった。まぁ体重1トンを超える馬が80キロの距離を一時間切る速度でぶつかってきたからしょうがないとは思うけどさ。ついでに槍とか剣とかの刃が通らないくらい皮膚が硬いんで、そういうのにぶつかられたらねぇ……。


 おっと、そんなことを考えている場合じゃないな。

 跳ね飛ばしたって言っても、まだ敵はいるわけだし、適当に槍を振り回すとしようかね。向こうも重装歩兵だから振り抜くのは大変そうだし、〈強化〉の魔法を使うとしよう。

 で、そうして竜槍を振り回した結果、周囲にいた敵が水の入った革袋が弾けるような音をさせて血だまりになった。俺が強いのか相手が脆いのかどっちなんだろうね。

 まぁ、そんなことを考えていると馬上の俺に向かって槍が突き出されたので、その槍を掴んで持ち主ごと地面に叩きつける。やはり革袋が弾けるような音がして槍の持ち主だった敵兵は赤い染みになって地面に広がってしまった。

 ドラウギースが跳ね飛ばしたのと俺が槍で仕留めたので十数人ってところだけれども、それだけで重装歩兵が怯みだしてしまったのは予想外。まぁ良い方向で予想が裏切られたって感じかな。

 なにせ怯んでいる所にジーク君達が突っ込んでくれる形になるんで簡単に突破できるわけだし。


 ジーク君達が俺のすぐ後に続いてくれた、その後ろでグレアムさんとオリアスさんが部隊を率いながら少しずつ前進してきていた。あの二人は城壁の上の銃兵を釘付けにしているわけだけれども、さっさと城内に入ってもらいたいんだよなぁ。外より城の中を先に何とかしてほしいんだけど、どうしたもんかね。


「城内の制圧は我々が行うので、アークス卿はノール皇子の捜索を頼む」


 死にそうな顔で付いてきたコーネリウスさんが俺に提案してきた。コーネリウスさんが城内の制圧ができるとは思えないんだけど、それなりの数の敵兵は外を向いているし、放っておいてもグレアムさんとオリアスさんがやってくるだろうから、なんとかなるかもしれないんでお任せしようかね。

 そもそも皇子をなんとかしさえすれば終わりだし、皇子を見つけるのも同時にやっておくほうがいいのかしら?

 まぁ、言われた通りにしておきましょう。なんか問題が起こったら提案したコーネリウスさんが悪いってことで。

おっと、そんなことを考えていたらコーネリウスさんの背後に敵が迫ってきていたので、竜槍を投げて敵をぶっ刺しておきましょう。


「では任せる。ジークはコーネリウス卿の護衛でもしていろ。あとドラウギースの面倒を見ておけ」


 城の中には馬は連れていけないししょうがない。なのでジーク君にお任せです。

 俺は人を連れて適当に城の中を探索しているんで、何かあったら声をかけてください。たぶん、声は届かないと思うけどさ。


「師匠も気をつけて」


 気をつけても人と人との勝負だからなぁ。気をつけてもどうにもならない時はならないんだし、あんまり意味の無い言葉よね、それって。まぁ、いいけどさ。


 俺はドラウギースから降りて城の中へと進んでいく、一応お供も付けてはいるけれども、頼りになるのかね。


「閣下、御下がりください!」


 城の中に入るなり、お供についてくれた騎士たちが叫ぶ。叫んだ理由は分からないが、目の前に帝国の騎士らしき奴らが数人いるせいか?

 騒ぐようなことでも無いので、俺は警戒するお供の後ろから剣を抜き放ちながら走り出し、甲冑を身に纏った帝国の騎士を鎧ごと斬り捨てる。

 まずは一人だ。即座に反応してきた別の帝国騎士が斬りかかってくるが、そいつの振るった剣に俺の籠手を叩きつけて粉砕し、続けて籠手を纏った拳で顔面を粉砕し殺す。

 一瞬で二人を殺したことで狼狽えだした他の騎士に向かって距離を詰め、剣を横薙ぎに振るい首を刎ね飛ばしながら、その近くにいた奴の腹に金属製のブーツを履いた足での蹴りを入れ、鎧を陥没させつつ内臓を破裂させる。

 首から上が無くなった騎士はそのまま崩れ落ち、内臓が破裂した騎士はのたうち回る。俺はのたうち回る騎士の頭を踏みつけ頭蓋を砕き即死させる。

 後ろから別の騎士が斬りかかってこようとしてるのは分かったが無視する。敵の振り下ろしてきていた刃が俺の鎧に当たり、持っていた剣の方が折れる。こちらの鎧は特別性なのでわざわざ防ぐ必要も無い。俺は振り返り、剣が折れ呆然とする騎士の頭を掴んで握り潰して殺した。

 時間は一分か二分ぐらいか、それぐらいで五人を殺したので効率は悪くないだろう。

 室内で振り回すには槍は大きすぎて駄目なので置いてきたが、幸い俺は剣の方が得意だから問題は無いな。


「おい、行くぞ」


 なんだか良く分からないけれど、唖然としているお供の奴等に声をかけて、俺は城の奥へと進む。できれば冒険者出身の奴を連れてきたかったんだけど、外の方が大変だからしょうがないね。

 あんまり役にたってくれないお供の奴等を引き連れながら、俺はノール皇子を探して帝国の奴等を斬り捨てつつ城を探索していた。だけど――


「見つからんな」


 思ったよりも城が広くて全く見つかる気がしないんだが、どうすんだこれ。

 逃げ出したような気配は感じないからいるんだろうけど、どうなっているのやら。

 お供の奴等に案内させてるんだけど、全く頼りにならないしさ。


「脱出の容易な下層階にいないとなると城の上層となりますが、皇族が逃げ道の無い場所に留まるとは……」


 逃げてる気配はないから上にいるだろうね。しかし、こいつらの言う逃げ場のない場所に留まる理由が無いってのが分からないな。逃げる気がなかったら留まるんじゃないかね、そこん所どうなんざんしょ?


「どうせ下の階には居ないんだ。上に行くべきだろう」


 そう言って俺はお供としてついてきた奴らに案内させる。


「上にあるのは城主の生活スペースくらいですが……」


 お供の案内に従い俺は上層に向かう階段に足を乗せたのだが――


「何か臭わないか?」


 階段を上る中で微かな臭いを感じたので、俺はお供の奴等に尋ねてみるが、お供の奴らは首を横に振る。そういや、大抵の人間は俺よりも鼻が悪いんだったっけ?

 じゃあ、分かんないのも仕方ないけど臭うのも俺の気のせいかもしんないしなぁ……でも嗅いだことのある匂いなんだよなぁ……。


 そんなことを考えながら、階段を上っていると上層の入り口が見えてきた。ついでに見えなくて良いものもいたけどさ。


「良く来たな、王国人」


 そうは言いながらも歓迎する様子が全く無いのは、どっかで見た異国人だった。


「下がれ、異国人!」


 俺のお供としてついてきた騎士が叫ぶが、続く言葉を発することは出来ずに崩れ落ちる。その眉間には風穴が空いていた。


「下がるのは貴様らだ、王国人。我が殿の寝所に無礼者を入れる道理はない。くこの場を立ち去れ」


 異国人の手には俺が夢の中で見た覚えのある拳銃が握られており、その銃口からは僅かに煙が立ち昇っている。

 ちょっと嫌な予感がする武器なんだよなぁ、あれってさ。でもまぁ、帰れって言われてここで帰ると、俺は王都に帰れないわけだし、嫌な予感がしても帰れないんだよなぁ。


「それは出来ないな」


「それはそうだろうな」


 そう言いながら異国人は拳銃を下ろす。戦意は喪失したわけじゃないよなぁ。殺気がすげぇもん。


「もっとも、俺と戦う意気がある奴は貴様だけのようだがな」


 異国人の視線が俺の後ろに向けられる。気配で分かるよ、お供の奴等がビビッて後ろに下がってるのがさ。

 でもまぁ、仕方ないんじゃないかね。あんまり強くない奴等だしさ。


「性根の座らぬ奴らは消え失せろ。目障りだ」


 異国人の殺気が針のように鋭くなると同時に、いやな予感を覚えた俺はお供の奴等を無視して前に飛ぶ。

 その直後、城の天井と俺達が上ってきた階段が爆発し崩れ落ち、俺のお供としてついてきた騎士たちがそれに呑み込まれていった。

 異国人にビビッて後ろに下がっていたために直撃だったようで、運悪く階段の辺りにいた奴は即死だろう。

 俺はというと一足先に上層に足を踏み入れており、更に前に飛んだので無事だったため特に問題は無い。


「あの臭いは火薬だったか」


 なんか変な臭いしてたから気にはなっていたんだけどなぁ。まぁ、しょうがないね。


「貴様は生き残ると想像していた」


 一人生き残った俺を見ながら異国人は銃口を上げ、俺に対して向けてくる。


「俺は貴様を殺さねばならぬ」


 左様ですか。まぁ、俺は積極的にキミを殺そうって気はないんだけどなぁ。


「俺はお前に対してどうこうしようという気はないんだがな」


 まぁ、殺されたくはないんで剣を抜きますし、殺されないようにするために殺すかもしれないけどさ。そこら辺は勘弁して欲しいもんだ。


「思えば、初めてその姿を見た時に殺すべきだったのだ。取るに足らない輩と思っていれば、この有様だ。俺の見通しの甘さが口惜しい」


「後悔だったら後でやってくれ」


 どこでやることになるかは分かんないけどさ。


「そうだな、そうさせてもらおう。貴様を殺せばこの場はなんとでもなる。下ではネレウス殿が有象無象を蹴散らしてくれているだろう」


 異国人の視線が俺の後ろに向けられる。

 俺もその視線の先を見ると、上ってきた階段の横の壁が崩れ、城の外が見えていた。


「悪いが援軍には向かえんぞ」


 城の外で大剣を持った青黒い肌の男とグレアムさんオリアスさんジーク君が戦っている姿が見えるが、三対一でも苦戦しているようだ。まぁ、あの三人ならなんとかするだろうから心配はいらないだろうけどさ。


「必要ないだろう。放っておいても勝つだろうが、俺がお前を倒して、そちらの皇子を見つけても終わる。条件はこちらに有利だ」


「俺を殺すのが容易だと思うのは考えが甘いと言わざるを得ないな」


 異国人は銃口をこちらに向け、殺気を研ぎ澄ましていく。


「名乗れ、王国人。俺が貴様が名乗ることになる最後の相手だ」


 最後かどうかは、まだ決まっていないと思うけどな。まぁ、名乗れっていうなら名乗るけどさ。


「アロルド・アークスだ」


「イグニス帝国第五皇子ノール・イグニス付き銃兵隊長オワリ・ソウジュウロウ」


 役職まで言わんといけないのかよ。まぁ、名前だけでも良いみたいな感じだけど、死ぬかもしれない場で名乗るほど役職が大事かねぇ。俺には理解できないけど、本人がそうしたいならそうすりゃいいさ。


「いざ、参る!」


 手から銃を通し、銃弾に殺気が乗っていくのが分かる。

 オワリって言ったっけ? る気マンマンなのは理解したぜ。

 良いだろう、俺もってやろうじゃないか。


 剣を握る手に力を込め、敵を斬り捨てるために全力で踏み込み、間合いを詰める。

 俺の動きに合わせてオワリが引き金を引く。


 互いにやるべきことは決まっている。

 目の前の相手をどうこうしなきゃ目的を達成できないなら殺るだけだ。そこに悩む余地は無い。


 なので、まぁオワリには悪いが諦めるんだな。俺はさっさと戦を終わらせて王都に帰りたいんだ。そのための邪魔をするなら、ぶち殺すしかねぇぞ。







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