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有血開城

 あんまり良い空気じゃないなぁって思ったりする今日この頃です。

 原因はというと、目の前に見えているセーレウム城と空から降ってくる白い雪のせいです。

 寒い上に城の守りが堅い堅いで、みんなの気力が萎え萎えなんだよなぁ。俺も萎えてきてるしさ。何人か咳込んでるみたいだし病気になりそう。俺も風邪引きそうだし、やる気なくなってきたなぁ。


「あの城は元からああなのか?」


 とりあえずコーネリウスさんに聞いてみたけれども、コーネリウスさんは首を横に振った。それじゃ分からないんだけど、出来れば声に出してもらえませんかね。まぁ良いけどさ。


「いや、このような城では無かったと思うが……」


 ああどうも、声に出してくれてありがとうございます。

 しかし、城が違うんですか、それは大変ですね。まぁ俺も大変だけどさ。


 セーレウム城は俺達が布陣している場所から見て高台にある上、背後が山で回り込むのは大変だし、城の周囲にはバリケードが張ってあり、城壁の上には大砲がズラリと並んでいて凄く守りが堅い。

 ついでに城の周囲一キロ以内に所狭しと大小さまざまな穴を掘っているせいで、攻めにくいことこの上ない。

 雪が降っているせいで寒くてこっちの士気が落ちてんのも問題だよね。それに加えて微妙に勝てそうな感じになってるから、ここに来て命を惜しむような素振りを見せてる奴もいるくらいだしさ。

 まぁ、そういう奴等は真っ先に突っ込ませてるから、そんなに問題にはなっていないけど。今もとりあえず突っ込ませてるところなんだけど、面白いくらいバタバタやられてるね。

 まぁ、高台にある城に向かって坂道を登っているから速度は出ないし、城壁には銃兵がいっぱいいるんで、こっちの兵士は良い的だろうな。


「だ、大丈夫なのか?」


 コーネリウスさんがなんだか心配そうな感じになってるけど問題ないと思うよ。

 こっちが数百人突っ込ませれば向こうは自然と数百発の弾を消費するわけだし、その内弾切れになるだろうから、兵士の消耗とか考えなければ絶対に勝つんじゃなかろうか、良く分かんないけどさ。


「流石にこの数で城を落とすのは無理だろう。一度後退し、中央の軍勢と合流するべきではないか?」


 この数って言われてもな。五千とかそんぐらいか?

 まぁ、大変だと思うけど、今の内に何とかしておいた方が良いんじゃない? 大変なことを後に伸ばすと、もっと大変になると思うよ。

 殿下と合流するとか言っても、もう一度この場所に来るまでに、どれくらい時間かかるか分かんないんだし、その間に俺達が必死で追い立てて散り散りにした帝国の連中も合流しちゃうんじゃないかと思うんだけど。どうなんだろうか? まぁ俺は寒いの嫌だからさっさと帰って、暖かい部屋でノンビリ過ごしたいんだけどね。んで、暖かくなるまで部屋に籠ってんの。暖かくなったら、こっちはマズいような気がしなくもないけどさ。

 冬の雪山登山は死ぬと思うけど、春になったら多少はマシだろうし、コーネリウス山脈を越えた先にいる帝国の人も春の登山を楽しみつつ、王国にやってくるんじゃないっすかね? その時は平和的な人が来てくれると良いんだけど。


「後退はまだだな。どうにもならなくなってからでも遅くないだろう」


 兵士を一回突っ込ませるたびに、その一割が戦闘不能なるわけだから、えーと……まぁ、あと何十回か突っ込ませても大丈夫だろう。戦意の低い奴等とか素行が悪い奴等だし、そのうえ俺に手下じゃない奴等だから、いくら死んでも俺の懐は痛まないしさ。

 流石に冒険者とかの精鋭は使いたくないし仕方ないよね。こういうのって捨て駒とかっていうみたいだけど、使わなきゃどうにもならないんだからしょうがない。盤上遊戯でも使い捨ての効く駒を突っ込ませて相手の陣形を崩すし、そういうのと一緒だ。


「いや、しかし、これでは――」


 なんか言いたげな様子だけど、相手をする気にはならないんだよなぁ。

 文句があるなら、他に何かいい案を出してくれませんかね、コーネリウスさん。正直、文句言っているだけなら役に立たないから帰ってもらっていいんですけど。まぁ、そんなことは口に出さないけどさ。

 まぁ、それはそれとして、兎にも角にも寒くてどうしようもないんだけど、どうすんだ?

 体調を崩してるとか言いだす奴が日増しに増えてるし、ウンザリなんだが。そもそも、こうなった原因は――


「すまん、アロルド。まだ無理だ」


 オリアスさんが顔を出してきた。

 よくもまぁ、顔を出せたもんだと思うけれども、俺は大人なんで黙っています。

 どうして、こうもセーレウム城攻略が進まないかと言えば、ここに連れてきたオリアスさんの配下の魔法使い連中が揃いも揃って魔力の限界を迎えたとかいうアホみたいな理由のせいと、オリアスさんが魔法使いを、散り散りになった帝国の連中を追いつめるのにあっちこっちに動かしたせいだ。

 そのせいで、こっちの魔法使いは手薄になって凄く大変なんだけど、どうすんの?

 まぁ、いたとしても高台にある城をどうこうすんのは厳しかったかもしれないけどさ。


「もういい。今日は終わりだ」


 火力が足りないからどうしようもないね。とりあえず、向こうに銃弾を大量に使わせただけで良いとしようかね。今日の所の成果はそんな所、続きは明日になってからで、今日は酒でも飲んで暖かくして寝るとしよう。と、思っていたのだけれど――


「流石にこれ以上は辛抱できん。一旦帰るべきだ」


 お休みしたかったのだけれども軍議が始まってしまったのでお休みできませんでした。

 軍議って言っても、さっきの声のように帰らして下さいっていうようなことを繰り返すだけなんで生産性が全く無いです。

 そりゃ、俺だって帰りたいけどさぁ。今帰ると後が面倒なんだし、ここでなんとかしておいた方が良いんじゃないかな? まぁ、面倒だし説明しないけどさ。


「こう言っている者もいることだし、どうだろうかアークス卿、ここは王子たちと合流してからでも……」


 コーネリウスさんも帰りたい派らしいです。心情的には俺もそっちだよ。まぁ、俺の場合は王都に帰りたい派なんですけどね。いい加減に田舎暮らしはウンザリだし。

 でもなぁ、俺が王都に帰るためには向こうの皇子をコテンパンにして帝国に帰ってもらうなりしないと駄目なんじゃない? 俺の仕事って帝国軍をなんとかしろって感じらしいしさ。

 時間がかかると冬が過ぎて、山道も通れるようになるだろうし、帝国から人がくるから、もっと長引きそうだし、ここらでなんとかしないといけないような気もすんだけど。


「随分と臆病風に吹かれたもんだねぇ」


 同席しているグレアムさんはやる気みたいな感じですね。オリアスさんもいるけど、どうでも良さそうだし、どうすんのかね? 俺はどうもしないけどさ。


「アークス卿、ここは貴公に決断してもらいたい。退くべきか留まるべきかを」


 俺に振るなよ面倒くさいなぁ。しかし、決めろって言われてるから決めるしかないかな。後で文句言われたら嫌だけど仕方ない。


「留まるべきだな。まだ城を落とすことを諦める必要があるほどの被害は出ていない。帰るのは、もう少し様子を見てからでいいだろう」


 留まることにしました。

 適当なことを言ったけど、本当の理由は嫌な予感がするってだけなんだけどね。今、背中を見せると危ない気がするんだけど、勘ですって言わないだけ、俺も常識がついてきた気がするぞ。

 そういう方向性に決まったので、なんか文句言いたそうな奴らがいたけど無視することにして軍議は終わりにしました。

 眠かったし、話し合うようなことも無いわけだしさ。策略練ってどうこうじゃなく、単純に城壁をぶっ壊せる火力が何よりも必要っていう結論しかないんだからしょうがないじゃない。


 そして、次の日――


「ネレウスって男は魔王軍七魔将っていう将軍の一人で――」


 昨日と変わらず、兵士が城壁に向かって突っ込んでいく様を眺めていると、戦場についてきたエイジがどうでも良い話を繰り返してくる。

 どっかで聞いたような言葉だけれども、まぁどうでも良いな。


「口を動かすよりも手を動かせ。戦死した兵士の遺族に対して戦いぶりを伝えてやる必要があるだろう」


 エイジにはどんな戦いであったかを記録させている。遺族に対して勇敢に戦いましたよっていう話を真実三割脚色七割で伝えるために戦場でなにがあったかを文章に書き起こさせているわけだけれども――


「そんなことを言われても、ひたすらに突っ込んでは城壁の上から狙い撃ちされているだけですし、書くことがないんですけど」


 そこをなんとかすんのがキミの仕事でしょうが、勇敢に戦ってどうこうと書いておけばいいんだよ。捨て駒にして突っ込ませましたとか印象悪いし。いや、でも印象悪くなっても特に問題ないような……。

 どうせ王都に帰るし、南部の連中と会うことは無いわけなんだし、そこら辺で捨て駒になって死んだ兵士の遺族とかには会うことなんてないわけだから、別に何しようが良いよな。


「戦にルールはあると思うか?」


 俺は無いと思うけどどうなんだろうかとエイジに聞いてみる。

 人から良く思われたいけど、二度と会うことがない連中なんかはいないものと変わらないわけだし、印象とかどうでも良いよな。ついでに敵からどう思われても良いよな?


「俺のいた国ではありましたけど」


 あ、そうなの? でも、良く分からないなぁ。


「そのルールはどうやって定められている?」


「国と国で取り決めをしてだったような……」


「ルールを破ったらどうなる?」


「同じルールを定めている他の国から文句を言われたり? 後は人権団体とか市民団体が何か言ったり……」


 人権ってなんだろうか? まぁどうでもいいわな。

 とりあえず話聞く限りでは破っても問題ないかなって思うんだけど、どうなんだろ?

 そもそもアドラ王国はイグニス帝国と戦に関することに対して、何の取り決めもしてないし別に良いんじゃねぇ? 他の国に関したって、周辺国って言えるのはイグニス帝国くらいなんだし、何しようが文句を言う奴らはいないから、何をやっても良いじゃない。

 まぁ、こっちが好き勝手にやったら向こうも好き勝手やるだろうけど、そういうのは最初から織り込み済みにしておけば問題ないだろう。


 というわけで、俺はさっさと状況をなんとかするために一計を案じることにしました。


「エイジ、何人か捕虜がいただろう。奴らを連れてこい」


 色々と情報を吐かせようと思って連れてきた奴らだけど。たいした情報も持ってなかったようなんで放っておいた訳だけれども、ここで役に立つとは思わなかったね。


「どうするんですか?」


「爆弾になってもらう」


 魔法使い連中が疲労困憊で動けないから燃水の入った樽も役に立っていないんで、こうやって使った方が良いよね。


「あらかじめ樽はオリアスに細工なりしてもらって特定の条件で爆発するようにする。食糧とか酒とでも適当に偽って、樽を捕虜に持たせて城の中に入れ、捕虜が樽を城の中に運びこんだら爆発させる。城門はどうなるかは分からないが敵は混乱するだろう」


 良い案だと思うんだけど、エイジはドン引きしてるね。


「えーと、捕虜の扱いとかに決まりはないんですか……?」


「無い。基本的に自由裁量だ。もっとも、貴族の高貴な血をみだりに流させるわけにはいかないという理由で貴族は保護される場合が殆どらしいがな。まぁ、無視されることも多いが」


 俺は貴族の血が高貴だとかは良く分かんないんで殺ってしまいますけどね。


「うわぁ、中世怖い……。人権無い世界凄い……」


 俺はなんか言いたげな様子のエイジのケツを蹴っ飛ばして、さっさと捕虜を連れて来させる。で、オリアスさんに細工してもらった樽を持たせて捕虜を帰らせることにした。

 樽の中身は食糧とかと伝えておいた。適当に懸命に戦った褒美だとか嘘を吐いて持たせてやった。


「犯罪の片棒を担いだような気分なんですが……」


 俺の隣に立ち、捕虜がセーレウム城に戻るのを見届けるエイジは憔悴した様子で呟いた。

 エイジには捕虜に持たせる手紙の執筆を頼んでおいた。過剰に装飾された気持ち悪いほどに捕虜の奴等を誉め讃えた文章で貴族風に見えなくもないだろう。手紙とかは信憑性を増すための小道具なんで、まぁどこまで頼りになるかは分からないが、たぶん騙されてくれるだろう。


「じゃあ、手筈通り行くぞ」


 俺はオリアスさんとグレアムさんに向かって確認を取る。

 捕虜を返すために、こちらの兵は一旦退かせた。まぁ、ことが上手く行けば一気に攻め立てる準備は出来てるんだけどね。大詰めなんで俺も城の中に乗り込む予定で、その準備も出来ているから問題ないだろう。

 後は、上手く行くことを願うだけ――


「城門が開きましたね」


 俺にも見えているんでわざわざ言う必要はないんだけど。

 門が開いて帝国の偉そうな貴族が城の中からやって来た。遠目で見える限りでは歓迎している様子だ。残念なことにノール皇子は出てきてくれなかったようだ。ノール皇子が一緒なら爆発に巻き込まれてくれるし速やかに戦いが終わるんで有り難かったのだけれども、まぁそこまで期待するのもな。


「門が閉まります」


 捕虜の連中はまだ樽を背負ったままだ。いつ下ろすかは分からないが、背負ったまま城の中に入ることは無いだろうし、待ってりゃすぐ爆発だろう。


「城門の内側で樽を下ろして握手でもする――」


 そうエイジが口を開いたその時だった。セーレウム城の城門が門の内からの大爆発によって吹き飛んだのは。

 爽快極まりないな。こっからでもセーレウム城が慌てふためいているのは分かるし、上手く行ったようだ。城門も吹き飛んだから城にだって入りたい放題。いやぁ、良い気分だ。


「それではセーレウム城を攻め落とすとしようか」


 城門は開いたし、後は城に入ってノール皇子を見つけ出すだけだ。

 さっさと終わらせて暖かいところでノンビリしたいもんだぜ。






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