捕虜の処遇
サウロスを落としたのはいいけれど、問題も発生した。
何が問題かと言うと、こちらに投降してきたイグニス帝国の貴族やら兵士やらについてのことで、処遇をどうしようかというのが一番の問題なのだ。
「養えないわ」
エリアナさんが言いきった。
うん、俺もそう思うよ。細かい計算は分からないけど、捕虜の食糧とか足りないよね。
ただでさえ、サウロスの住人にも食糧配らないといけないし、それに加えて何万人もの兵士の食料をなんとかするのはきついんだよなぁ。
最初は餓死させても良いかと思ったけど何万人もの人間を餓死させると死体の処理に困るんだよなぁ。
戦場で訳わからずに死ぬのと違って、苦しみながら死ぬのを放っておくと簡単にゾンビになっちゃうしさ。ゾンビの処理はしたくないんで、そういうのは却下の方向性かな。
しかし、なんでこんなに簡単に降伏したのか、ちょっと疑問だね。
もう少し粘っておいた方がノール皇子の方も準備期間が多く取れそうなものだと思うけど、総大将を思う気持ちはないのだろうかね?
「そちらの懐事情など知ったことではない。貴族として適切な処遇を要求する!」
投降してきた帝国の貴族の中で一番偉そうな人を連れてきて話をさせてるけど、こんな調子だし、何を考えてるのか分からないな。
偉そうなことを言っているけど、この人は状況分かってんのかね。
王国と帝国は国交が無かったから、向こうの貴族というのが本当かどうか分からないから、殺っちゃっても間違えましたで済ませることも出来るんだよなぁ。
つーか、ゾンビになった後の処理が面倒ってだけで何万人いようが殺すことはそれほど面倒でもないから、殺る気になったら一瞬で死ぬと思うんだけど良いのかしら?
うーん、なんでこんな奴らの事で悩んでいる必要があるんだろうか、捕虜の処遇だけで数日は損しているような気がするよ。これだったら、ガチの攻城戦やって帝国の連中を皆殺しにした方が面倒が無かったような……投降してきた奴らには寛大な処置をしろって周りが五月蠅いのも煩わしいよなぁ。
なんだか、兵士が捕虜になったけどノール皇子は得している気がするぞ。
どう見てもこいつらは糞の役にも立たなそうだし、こいつらを使って俺達をしばらく足止めできてるわけだから、糞の役にも立たない雑魚が有効に活用できているようだ。
まいったなぁ……時間がかかると良くない気がするんだよね。
よくよく考えてみると、時間がかかればかかるほど、ノール皇子は本国から補給を受ける機会が増すわけで、受け取りの際のトラブルもコーネリウス山脈の手前に陣取っているから、そうそう起こらないだろうしさ。
せっかく向こうが物資を補給できないようにあっちこっちで略奪をしたのに無駄になっちゃうよ。
これって俺が怒られる事柄かな、怒られるならやだなぁ。
まぁ、新しく将軍が来たら、俺は解任されるだろうから知らんぷりでもしてよう。きっと新しく来てくれた人が頑張ってくれるさ。
というわけで、今の所はどうでも良いや。
食糧が足りないならケイネンハイムさんの所からもらいましょう。東部は豊作らしいし、融通してくれるでしょう。
ケイネンハイムさんからの借金が凄いことになっているらしいけど、聞いたことのない桁に達しているので間違いだろう。つーか、なんでもしてくれるって言ったのに借金とか無いだろう。というわけで踏み倒すのは確定だな。
踏み倒さなくても額が凄いみたいだし、本当に借金だったら、ケイネンハイムさんは親身になってくれるだろうしさ。少額ならまだしも、俺が借りている額だと半端な方法ではケイネンハイムさんは元が取れないし、必死になって俺を助けてくれると思うんだよね。
だって、王国の一年分の軍事予算を数か月で吹っ飛ばしたらしいしさ、俺って。金遣いが荒い気はしないんだけどなぁ。
まぁ、それはそれとして捕虜の処遇だな。
「現状こちらにも余裕はないのでな。寝床は保証できんが、食事くらいはキチンとしたものを用意してやろう」
「おお、それは助かる。やはり皇子の言った通り降伏して正解だったな。ここしばらくマトモな物を食してない故――」
皇子の言った通りとか言ったな。まあ、どうでもいいか。降伏しろって言われて簡単に降伏するのは良くないと思うんだけどな。俺は命が惜しいからヤバくなったら、すぐに降伏するけどさ。
とりあえず、寝床はどこでも良いみたいだし、兵士と雑魚寝でもさせておこう。
食事はこちらも心許ないので帝国の兵士は麦粥くらいで良いんじゃないかな? パンは製粉が面倒らしいから粥でも食わせときゃ良いでしょ。
で、貴族の人は普通にパンと肉とスープかな。貴族だけで食ってると寂しいだろうから、兵士と一緒に食べさせてやらないとな。
貴族と食事が違うってことで、貴族の事を恨む兵士が出てくるかもしれないけど、みんないい大人なんだから我慢できるでしょ。我慢できなかった時はどうなるか知らんけど。
「問題が起きたらこちらもそれなりの処理を行うので、そこの所は理解しておいてもらおうか」
「もちろんだ。問題など起こさんよ」
そりゃよかった。問題が起きたら皆殺しにするからさ。大人しくしていてくれると助かるよ。
こっちが捕虜を大事に扱ってるのはゾンビになられるのが困るからというだけで、ゾンビになった後の処理の手間より、生きている時の世話の手間が優れば殺すんで、そこんところは理解してもらえただろう。
俺だって理解できるんだから、この人らが理解できないはずは無いだろう。だって、こんなに偉そうにしてるんだし能力高いだろうからさ。
とりあえず、こんな感じで良いんじゃないかな。後は大人しく新しい将軍が南部にやってくるのを待つだけだ。
――で、数日後、適切な処理をした結果、帝国の一万人近くいた捕虜は二千人くらいになった。
俺の言っていたことをちゃんとと理解できていなかったようなので仕方ないね。食事関係のトラブルやら、寝床のトラブルとか身分のトラブルとかあったみたいだね。
なんでも貴族の人が偉そうにしていたとか、俺は何で貴族が偉いかは分からないんだけどさ。あんまり偉そうにするのは良くないと思うよ。
とりあえず、トラブルの原因になったっぽい人は始末しておきました。ついでに騒ぎを大きくした人達数千名も適切に処理、何百かは殺してゾンビになりそうだった奴は全部火で焼いて、骨を地面に埋めておいた。
残りは使い捨てることを前提とした労役に就いている。食事は一日に一回で睡眠時間は三時間、それを週休一日という感じだ。弱らせると作業効率が悪くなるけど、別にやらなくてもどうでも良い作業なんで作業効率なんかは気にしません。
つーか、敵側の人間に重要な作業なんか割り振るわけないじゃない。一応やる気ださせるために重要な作業って言っておいたけどさ。あんまり本気にされてもねぇ……
まぁ、そういうわけでちゃんと捕虜として粛々と過ごしているのは二千人くらいとなったわけです。他は土の中か土の上で土を運んでるくらいかな。
そういえば、この前の偉そうな帝国貴族の人の姿が見えないけれども、たぶん土の中かな。まぁ言った通りにちゃんとしてくれなかったのなら、そうなっても仕方ないね。
「酷いことをするのが得意ですよね」
俺が捕虜の作業風景をノンビリ眺めていると、いつの間にかジーク君が隣にいて、そんなことを言った。
別に酷いことをやっているつもりはないんだけどな。
俺は俺が出来ることをしているわけで、それが酷いことになるなら俺の元々の性質が悪人ってことになるんじゃないかな?
無意識に酷いことをできるなら、そいつの本性は酷い奴になるわけで、勉強やら何やらで誰かに酷いことを出来るようになった奴とは違うよね。
そういう点で言うなら、俺は――
「生まれついてだな」
「そうですか」
なんか、ジーク君は不機嫌です。
そういえばジーク君には捕虜の世話を任せていたな。何人かと仲良くなっていたりしたのかな。だったら、殺さないでくださいとか言えば良いじゃんね。
ジーク君が何か言えば、俺は止めたんだけどな。結局のところ、そういう手間をかけるのも面倒な間柄の相手だったんなら、気にすることも無いと思うんだけどな。
子供の考えは分からないぜ。まぁ、俺は大人の考えも分からないけどさ。
俺に文句があるなら、どっか行けば良いと思うけど、まぁ俺の傍にいるってことは文句が無いってことだろうしな。別に気にすることでも無いだろう。
なんだかんだで、ジーク君は俺の下にいるのが一番幸せだと思うし、俺の下にいるなら別にどうこう言うつもりは無いな。
ちょっと変な子になっちゃったみたいだし、普通の人と一緒に生きるのは大変だろうしさ。
まぁ、ジーク君の事は置いといて、これで捕虜の問題は多少なりとも解決したから良いとしようかね。
これで、なんの心配も無く将軍の座を引き継がせられるってもんだ。
そうそう、新しい将軍なんだけどさ。
兄上から手紙が来て分かったんだけど、なんでもウーゼル殿下らしいね。
うーん、良く分からんなぁ。
王子が将軍になったとしたら、将軍王子って呼べばいいのか、それとも王子将軍? いや、将軍殿下か?
まぁ、なんにしても呼び方を考えないとな。
別にウーゼル殿下が将軍になることは何も思わないけど殿下を何て呼べばいいかはすごく悩むところだな。
ウーゼル殿下が南部に来るまでに、しっかりと整理しておかないとな。
とりあえず現状の有力候補は将軍殿下か? これが一番しっくりくるな、将軍閣下と被ってるしさ。




