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決戦の為に

 俺達は基本的に邪魔する方向性で行くことにしています。斥候役の冒険者のおかげで、少人数なら敵の目をかいくぐってやりたい放題できるしさ。

 向こうは兵力を集めてどうこうしたいように動いているけど、そういうことはさせないようにこっちも動くことにしているわけで、そのためには地道なこともしないといけないわけで――


「街道に穴でも掘っとけ」


 別に大きな穴じゃなくても良いんだよ。

 道にスコップで拳ぐらいの穴をいくつも掘っておくだけでも、結構、行軍速度は遅れるよね。

 躓いて転べば御の字で、転ばないにしても気をつけて歩かなきゃならんだろうから、どうしても、ゆっくりになるわけで、こういう地道なことを続けているだけでも、向こうの動きは鈍くなるはず。


 ――で、実際に効果はあったようで、イグニス帝国の軍勢は一日で到着するはずの距離に一日半かかった。

 たった半日かと思うけれども、半日の遅れってのは致命的だよな。

 夕方に着くはずだったのが、深夜になったりするわけだし、そうなると到着した場所は夜で真っ暗で周囲の警戒なんかは出来ないだろうし、伏兵とか配置しておくと面白いように奇襲が決まって素晴らしいね。

 もっとも、奇襲が決まったのは帝国軍の本隊ではなく、本隊から離れて行動している良く分からない貴族の人達の率いる部隊だけだったけどさ。

 探知一号からの報告だと、俺が見た偉そうな人の率いているらしい本隊は伏兵を読み切って、逆にこっちの部隊を殲滅させたらしい。

 まぁ、二百人程度の損害だから大して痛手は無いけどさ。

 向こうは使える人が有限だけど、こっちはその気になれば幾らでも使えるしさ。こういうのは守り側の特権だよね。とは言っても、無駄に損失を出したくはないんで、本隊への攻撃は控えさせることにしました。


 代わりに本隊から離れている部隊を徹底的に痛めつける方向性で動くことにします。

 基本的にはイグニス帝国の軍勢は食糧不足のようだし、なるべく速やかに俺達のいる北側に攻め上がって食糧を確保したいだろうから、南部の各地に散っている部隊に召集をかけて、全部隊を合流、大軍勢で一気に北側へと突破しようと考えているんだろうけど、そうされると嫌なんで合流させません。


 イグニス帝国の本隊はサウロスから移動して、一時的にではあるものの、コーネリウス大公領の最南端にある砦に籠っているとか。

 まぁ、それが賢いよね。いくら食糧があるとは言ってもサウロスは守りに弱いしさ。

 それに、戦線が伸びすぎて、管理しきれなくなっているようだし、仕切り直したいって気持ちもあるんじゃないかね。あっちこっちで手下の貴族が好き勝手やってて連携なんか取れなくなっているようだし大変そうだね。

 こっちも、あっちこっちで戦わせてるけど、俺の思った通りの行動以外は許さないって感じで徹底しているから、あまり好き勝手はやっていないようだし、楽チンなんだよね。


 サウロスにも多少は残った貴族の部隊があるみたいだけど頭は大丈夫なんだろうか。

 直前まで敵が籠っていた城で寝泊まりとか、俺は絶対に嫌なんだけど。部屋の中に何を仕込まれてるかとか分かったもんじゃないじゃん。

 ぶっちゃけ、俺も仕込んだし。

 えーと、どっかの机の引き出しに開けると大爆発する仕掛けをしたり、城の中にある毛布とか枕全てに、無味無臭の毒薬を振りかけておいたりしたんだよな。

 ついでに食糧庫にも三十回くらい扉を開け閉めすると食糧庫自体が爆発する仕掛けを仕込んだりしたんだよな。なるべく安心した頃に爆発するようにしたんだろうけど、今頃起爆してるかな。

 あと、サウロスは都市の中に水路を使って水を引いてるから、水路に死体を流して水を汚染させたりとかもしてるな。こっちで死体を埋めたりする手間が省けるから助かるぜ。微妙にゾンビになっている奴も水路に流しちゃったみたいだから、都市の中はゾンビだらけになってるかもしれないし怖いね。

 そういうわけで、サウロスに関しては別に放っておいても問題ないかな。

 結構な数の住人は俺が包囲を突破した時のドサクサに紛れて逃げ出したみたいだし、サウロスの住人の被害はそれほどでは無い筈。まぁ被害があったら、ごめんなさいとでも言って謝っておきましょう。

 ヤバくなったら、サウロスに駐留している帝国軍もサウロスから逃げ出すかもしれないけど、そうなった時はボロボロだろうし、本隊と合流しても戦力にはならないだろうね。むしろ邪魔にしかならないだろうし、本隊の方も困るんじゃないかね。

 ホント大変だね。帝国軍の総大将の、えーと――


「向こうの司令官の名前は何だったかな?」


「ノール・イグニス第五皇子です、閣下」


 ああ、そうそう。そんな名前だったね。教えてくれて、どうもありがとう、傭兵さん・・・・

 そっちで転がっている馬鹿もキミぐらい気が利けば良かったんだけどね。

 ああ、その馬鹿ってのは、前に砦で見かけた傭兵の頭目っぽい人の事で。この間、俺の下からイグニス帝国の方に寝返った傭兵でもある人だね。

 もう一人、寝転がっている馬鹿がいるけど、そっちは傭兵の頭目を雇おうとしていた帝国の貴族の人。迂闊に傭兵なんて雇おうとしなければ、こんなことにはならなかったんだけど、そういうことまで想像できなかった駄目な人です。


「畜生! テメェ、裏切りやがったのか!?」


 頭目が寝転がった体勢でわめき散らしていますが、聞くに堪えない汚い声だぜ。

 しかし、裏切ったとか誰に対して言ってんだろうね。俺ではないと思うんだけどさ。

 そう思っていたら、傭兵さんが全力で頭目を蹴っ飛ばしました。


「黙ってろ、カスが! テメェの下についてたんじゃ、命がいくつあっても足りねぇんだよ!」


 おお、怖い怖い。もう少し冷静に行こうぜ。


「ふざけんじゃねぇ。そんな奴の下についてたら、俺達は報酬も何も貰えねぇじゃねぇか、金払いが良さそうな方に付くのは当然だろうが……」


「はっ、目先の金に釣られるから、テメェは駄目なんだよ。閣下は俺に今後の働き口を紹介してくれたんだ。いい加減、俺は傭兵から足を洗いたいんだよ。このチャンスを逃すわけにはいかねぇんだ。そのためだったら、テメェを裏切ることなんて屁でもねぇ」


 俺は傭兵には厳しいかもしれないけど。傭兵だった・・・、人には優しいし、辞めたいっていうなら就職先ぐらいは用意してあげるよ。まぁ、その代わり、多少は有能なところは見せてもらいたいけどさ。

 そんなことを傭兵さんとかに言ったら、喜んで内通者になってくれるとか言ってきたんで、お願いしました。

 そのおかげで、帝国軍の情報もそれなりに分かって来たしさ。感謝しているんで、ちゃんと褒美を出しておきましょう。

 今、こうして頭目と、その雇い主の貴族を捕まえることが出来ているのも、内通者になってくれた傭兵さん達のおかげだし、感謝してもしきれないね。


 内通者さん達に、帝国軍と寝返った傭兵が何処に行くかを教えてもらって待ち伏せして待機。

 向かった先が、まだ住人の避難していない村だったので、村人と冒険者を入れ替え、歓待するフリをして睡眠薬入りの食料を提供し、ぐっすりと寝かせてやりました。

 まだ、避難していない村を狙ってきたのは頭目が情報を流したからだろうけど、冒険者と村人が入れ替わっていることなんかは知らないので、人がいるのは当然だと思って何も疑わなかったんだろうね。

 その結果、とても大変なことになってしまったけど、今はどういう気持ちだろうか?


「なぁ、おい、頼むよ。見逃してくれよ、なぁ」


 頼まれてもなぁ……

 見逃しても得なこととか無いし、逃がしたら野盗とかになりそうじゃん。傭兵ってさ。

 犯罪者を野に放つわけにはいかないし、適切に処理しとかないとな。

 今頃、村人のフリをした冒険者が寝入った帝国軍の奴らとかを片づけてくれているだろうし、部下がちゃんと仕事をしているのに、俺がサボるわけにもいかないんだよなぁ。


「すまんな」


 俺は寝転がった頭目に近づき、剣で首を斬り落とした。

 目先の欲に囚われると碌なことが無いね。低賃金でも、俺の下で大人しくしてりゃ、良かったのに。

 さて、傭兵を片づけた後は貴族の方だけど、こっちは顔面蒼白で怯えているけど、マトモに話せるのかね?


「捕虜としての扱いを要求する!」


 捕虜ねぇ……

 この人も何を言っているんだか。


「別に捕虜にしても構わんのだが、捕虜にしたとして、今後お前の身柄を引き取ってくれるような輩はいるのか? 俺の方もタダメシを食わせておく気も無いのでな」


「ま、待て、どうするつもりだ!? 貴族は捕虜とするのが常識であってだな――」


「常識と言われてもな。そもそも、今の俺達は只の村人であって、捕虜がどうとかなどは関係ないんだよ。俺達は村を襲ってきた盗賊を撃退しただけだ。もしかしたら、盗賊には貴族が混じっていたかもしれないが、そんなことは学の無い村人には分からんので、うっかりと殺してしまうこともあるかもしれない」


 つーか、侵略してきて、いざヤバくなったら捕虜になって生き残ろうとか虫が良すぎるよね。

 別に侵略してこようが構わんのだけど、やるんだったら潔くやって欲しいもんだ。


「私は身代金が高いぞ! だから、頼むから、命だけは――」


「身代金と言っても、払ってもらえるかどうかも分からんものに期待は出来んのでな。山脈を越えてまで、帝国の人間が金を払いに来てくれるのか? それとも、そちらの皇子が出してくれるのか? なんにしろ、別に金に困ってはいないんでな。卿を生かしておく必要性も感じないのだが、さてどうしたものか」


「だったら、情報を渡す! だから、見逃してくれ! 情報は何よりも大事だろう?」


「そうだな」


 別に、それに関しても困ってないけどね。

 探知一号とかが精力的に動いてくれたりしてますし、俺としては裏を取るくらいの使い道しかないんだけど、必死だし見逃してやってもいいかもね。


「では、話してもらおう。全部話してくれたら、卿を解放しようじゃないか」


 そういう感じで色々と教えてもらいました。

 まぁ、たいした話は無かったけど、帝国軍の本隊と南部の各地に散った貴族の部隊の合流地点が分かったのは良かったかな。

 教えてもらったわけだし、見逃してあげました。


「後をつけて、どこかの部隊と合流したら殲滅しろ」


 一応、探知一号にそういう命令を出しておきます。

 この場は見逃しても、今後永久に見逃すわけじゃないし、問題ないっしょ。

 とりあえず、逃げたら味方の所に行こうとするだろうし、良い機会なんで一網打尽にしてしまいましょう。

 そんなに大部隊が動いているとは思えないけど、少しずつでも削っていかないとね。


 さて、本隊の方も多少はなんとかしておきたいけれども、どうしようかね。


 兵力を削るのは今の段階だと大変そうだし、向こうの兵士の気力を削って、組織の質を落としていこうかな。

 合流地点が分かったことだし、そこに軽く襲撃をかけてみてるのも良いと思うのだけれども、合流地点が何も無い平原なんだよなぁ。

 襲撃をかけるにしても、なるべく大兵力で仕掛けたいけど、見通しが良いから見つかるだろうし――


「仕方ない、野戦をするか」


 一回くらいは真正面から戦っておく必要があるわけだし、しょうがないな。

 まぁ、上手くやる方法も思いついたし、真正面からぶつかっても多少は良い勝負が出来るだろう。

 別に勝つことが目的じゃなく、向こうの本隊の戦意を削いでいくのが目的だし、多少でも被害を与えられれば良いかな。


 さて、準備もあることだし、忙しくなりそうだぞ。まぁ、俺はやることだけ伝えて、細かい準備は他の人にお任せなんだけどさ。

 そういうわけで、みんなに頑張ってもらうとしましょうかね。

















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