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疲労抜き

「お久しぶり」


 秋も深まり、冬の訪れを間近に感じるようになった頃、エリアナさんが砦にやって来た。


「早速だけど、帳簿を確認するわね。後、義勇兵と冒険者を可能な限り集めて三千人揃えたから、後はよろしく」


 そういう感じで砦には更に人が増えました。

 増えた人員の中には、南部に来る途中で置いてきてしまった俺の家の私兵が混ざっていたけど、まぁ気にすることじゃないか。なんでも、置いていかれて途方に暮れた結果、兄上の所に戻ってしまったのだとか。

 それだったら、そのまま兄上の所にいても良いと思うけど、来てしまった以上は面倒を見てやろうじゃないか。寒空の下、追い出すのも可哀想だしさ。


「アロルド……工場できたよ……」


 キリエは相変わらずボソボソと喋っています。

 貧相な体で脂肪が無いようだから、冬は辛そうだね。毛皮のコートでも贈ってあげましょう。

 それはそうと、キリエが頑張ってくれたおかげで、簡易の銃製造工場が出来たようです。

 製造工場って言っても、手間がかかる金属加工の部分を、キリエ特製の魔法道具が流れ作業でこなしてくれるだけですけどね。

 これのおかげで職人に頼らず安定した品質の銃を大量生産できるようになるって話だけど――


「うーん、厳しいねぇ」


 グレアムさんが試射を繰り返した結果を告げてくる。


「工場物は初期の職人物に比べて精度が二割から三割くらい落ちるかな。でもまぁ、それに関しては、とりあえず前に飛ぶから別に良いと言えば良いけど、耐久性が低いのはマズいねぇ。俺達が使ってきた職人物は、既に百回以上は射撃しているわけだけど、壊れたのは一割程度。でも、工場物は三十回の試射で四割が破損して使用不可能。あまり、割の良い武器だとは思えないねぇ」


 だ、そうです。キリエさんは頑張って、なんとかしてください。

 とりあえず、当面は壊れそうな工場物ではなく、職人物を使うことにしましょうか。つっても、職人物は数百丁だしなぁ。

 向こうの使っている火縄銃とかはどうなんでしょうか? 向こうは結構いっぱい持っているようだけど。それをこっちでは使えないものかね? グレアムさんに聞いてみましょう。


「弾はまだ何とかなりそうに見えるけど、火薬は駄目そうだねぇ。作り方が分からないし、安全性に問題がありすぎるよ。それに火縄銃だと、今までに戦った経験が無い一般人は無理だと思うよ」


「何故だ?」


「筒の中に火薬の粉を入れて、その上で弾を棒で押し込むなりして、キチンと詰める。これを実戦で慌てずにできるようにするのは大変だ。とてもじゃないけど、相当に訓練しなきゃ実戦じゃ使いにくいよ。俺達の使っている銃は、そこまで作業が多いわけじゃないから、まだ大丈夫そうだけどさ」


 うーん、じゃあ、少ない銃でやりくりしていくしかないか。まぁ、そこら辺はグレアムさんにお任せしましょうかね。


「おい、ちょっと良いか?」


 おや、今度はオリアスさんですか。なんでしょうかね?


「少し見てもらいたいものがある」


 そう言われたので、俺はオリアスさんについて行きました。

 ついて行った先は、誰もいない原っぱで、どういうわけかエイジもいます。


「ええと、見てもらいたいってのは、この燃水を使った攻撃方法でして――」


 なんかエイジが説明しだしましたね。暇だから聞いてあげましょう。


「さっさと実演したほうが良いだろ。見てろ」


 あら、オリアスさんが説明を取ってしまいました。酷いことするなぁ。まぁ、面倒が無くなって良いんですけどね。

 そんな事を思っていると、オリアスさんが燃水が入っている瓶を投げ、空中で破壊しました。

 当然、中に入っていた燃水が飛び散ると思いましたが、燃水はオリアスさんの魔法で、液状から霧状に変わって拡散しだしますとは言っても、これまた魔法で拡散の範囲を押しとどめているようですが。


「で、こうする」


 オリアスさんが、おもむろに魔法で火球を生み出すと、霧状になった燃水に向かって、その火球を投げつける。

 すると、その直後、火球が霧状の燃水に触れた瞬間に爆発が生じた。


「えーと、俺の知っている燃料気化爆弾って奴にかなり近いと思うんです、これ。原理はまぁ、霧状になった燃水に引火して、それから色々あって、爆発するみたいな感じですかね。空気が熱で膨張してとか、色々と理屈はあるんですけど、そういうのは置いておいて、とにかく威力はあると思います」


「そうか」


「まぁ、実戦向きじゃねえよ。液体を霧状に拡散する魔法も、それを一定空間内に抑え込んでおくのも、それなりに魔力を消費するし、なにより技術がいる。それに熱ってより、衝撃波でどうこうするような攻撃だから、アロルドやグレアムみたいに頑丈な奴には、そこまで効果はねぇ」


 でもまぁ、そこらにいる雑兵を吹っ飛ばすには良いかもしれんね。でも、燃水を使うとなるとなぁ。

 今の所、燃水は燃料としか使ってないし、それが一番重要な使い方なんだよな。良く燃えるし、あったまるのに最適なんで、結構みんな使っているようだし、それを武器にするから取り上げるのも可哀想じゃない?


「まぁ、今の所は実戦に使えるかどうか研究中の段階だしな。ただ、こういう物もあるってことは憶えておいてくれ」


 なるだけ憶えておきますかね。まぁ、忘れなきゃだけど。

 そんな感じで、オリアスさんの用事は終了して、俺は自分の部屋に戻る。


「アークス卿、今後について話したいのだが……」


 オリアスさんに爆発実験を見せられた次は、今度はコーネリウスさんが俺の部屋にやってきました。

 なんつーか、俺はもう何でも良いんで、皆さんでなるべく決めてから話に来てくれません?

 まぁ、追い返すのも悪いんで、話は聞きますし、必要があれば適当になんか言います。


「会戦を行うにしても、どこで行うのだろうか? 兵を移動させねばならんと思うのだが……」


「会戦は今はしないぞ」


 何言ってんですかね、この人は? 会戦ってアレだろ? 軍を大規模に展開できる所で、向き合ってガチンコ勝負をするアレだろ。やるわけねぇじゃん、馬鹿じゃないの?


「いや、攻勢に出るのではないのか? だとしたら、大規模な戦いになるのは確実だろう?」


 うーん、言っている意味が分からん。


「なぜ、攻勢に出るのと会戦が同義なのか理解に苦しんでいるのだが。そもそも、会戦をする必要があるのは、相手を正面から撃滅する必要があるからだろう? イグニス帝国の方は敵対する勢力である俺達を叩き潰さなければ、南部の支配出来ないから、会戦をする必要はあるだろうが。こちらは適当に向こうの兵士を削っていればそれで済む」


 向こうは五万とかそのくらいらしいけど、こっちはその気になれば南部の民を大量動員できるしさ。銃が使えれば、最低限の戦力には出来るだろうし結構使えると思うね。

 向こうはあんまり統率が取れてないようだし、貴族それぞれに兵の指揮権を与えているとかそんな感じかな? それだと、個々の活躍には期待できないし、司令官の言うことも聞いて貰えないんじゃないかと思うけど、どうなんだろう? 意思統一とか出来てないとグダグダになりそうだよね。

 仮にそうだったら、会戦とかで大規模兵力をぶつけ合う場面を用意して、そこで頑張ってもらいたいとか考えているんじゃないかね。見栄もあるだろうから、普段働かない貴族もそういう場じゃ、それなり働きそうだしさ。

 こっちはまぁ、そんなに正面切って戦う必要も無い気がするんだよね。一回ぐらいは正面から戦って、向こうのやる気は削がないといけないと思うけどさ。

 現状は、ちょこちょこと向こうの散らばっている貴族の部隊を叩いていく感じで良いと思う。端から少しずつ体力を削っていって、本隊の戦力も削いでいくって感じかな。


「俺もそれなりに考えてはいる。それに既に動いてもいるのだから、卿が心配する必要はない」


 探知一号をリーダーに据えて、あっち行かせたり、こっち行かせたりしてるからね。

 全員が〈探知〉の魔法を習得した、斥候役の隠密部隊を使って、色々と破壊工作させてんのよ。

 あいつら、〈探知〉の魔法が極まってきてるから、夜闇とかとか全く関係ないし、周囲数百メートル以内の人間の行動範囲とかが分かる地図を持っているようなもんだし、殆ど見つからないんだよね。

 何人かはお互いのだいたいの位置が分かれば、数キロの距離があっても味方を把握できて、ハンドサインで意志の疎通とかやったりするし、ここにきて一番役に立つ存在になっているのも大きい。

 基本的にあいつらに任せておけば、面白いくらいに敵を削ってくれるし、俺は楽チンで良いよ。


「では、我々は何をしていればいいのだろうか?」


「グレアムの指示に従って、適当に兵士の訓練でもしていろ。自分の家のやり方があるとかいう貴族にも無理やりにでもやらせろ。全員が共通の戦術を理解しているというのが重要だからな」


 自分勝手にやられると気持ち悪いんで俺の流儀を学んでほしいわけですよ。そういうわけで、よろしくお願いしますね、コーネリウスさん。


「疲れたな。カタリナ、茶だ」


「はい、アロルド様」


 コーネリウスさんが出ていったので、休憩がてらに茶を頼む。

 エリアナさんが、西部で拾ってきた元娼婦のメイド連中がいるけど、そいつらは今はエリアナさんの下で、帳簿処理をしているので、俺の世話はカタリナの担当になっているようだ。

 カタリナは怪我人が出なければ、仕事が無いらしいので割と暇らしい。俺も暇と言えば暇なので、仲間という奴だろう。

 お茶を出してくれる仲間がいるというのは良いもんだね。


「如何ですか?」


「うん、美味い」


 この世で、この茶が一番美味いとは思えないけれども、美味いと言われてカタリナも悪い気はしないだろうし、俺的にも充分な味だったので、美味いと言っておきました。


 しかし、お茶を飲んで一息ついたら、本格的に疲れが出てきたような気がするな。なんだろう、ぐったりした気分になってきたぞ。うーん、横になりたいぞ。

 よくよく考えてみると、実家を出てから半年を過ぎているんだよな。その間、マトモな休みがあっただろうか?

 あったような気もするし、まぁ、その点は大丈夫だと思うけど、とかく困るのが、みんなが俺に面倒を言ってくることか。俺に言わずに自分で処理して欲しいんだけど。


「お疲れのようでしたら、横になられた方が」


 カタリナがそう言ったので俺は素直に横になることにした。

 とりあえずソファーがあるのでそこに横になるとしよう。とはいえ、枕が無いのはなぁ。


「カタリナ、枕になってくれ」


 使えるものは何でも使おう。

 膝枕でもしてもらうのも良いと思うんだよな。たぶん、首痛くなるだろうけど枕無しよりは良いだろう。


「え、あの……はい」


 カタリナは多少困った様子を見せたけれども、すぐに了承してくれました。

 ちょろいなぁ、大丈夫かよ、この子。

 まぁ、俺的には拒否してもらわなくて幸いだったけどさ。


 早速、俺はソファーに横になり、カタリナの太腿に頭を乗せた。実際に頭を置くのは太腿なのに膝枕ってのも変な話だけど。膝に頭を乗せても痛いだけだし、この方が良いので、文句を言おうという気にはなりません。

 あったか柔らかでスゲー気持ちが良いんだけど。カタリナの体臭もしてきて悪くないね。女の子の匂いはどうして、こんなに癒されるんでしょうか?

 最近、血生臭いことばっかりだし、心の安らぎには綺麗な女の子が一番だね。


「少し御休みになられた方が良いのではありませんか?」


 ちょくちょく休んではいると思うんだけど、どうなんだろうか?


「アロルド様は、ずっと走り続けています。王都で私を救っていただいた時から、この砦に来るまで戦い続けの日々ではないですか」


 そうねぇ、そんな気もするねぇ。どっかでスローライフとかいう言葉を聞いたことがあるけど、俺はそういうのとは全く逆だしなぁ。

 別にメシと屋根のある生活があれば充分だったような気もするけど、今じゃ良く分からんことになっているしなぁ。

 なんで、こんなことになってんだろうか?


 まぁ、別にどうでも良いけどさ。

 人生ってのは一度きりで、何もかもが未体験な訳だから失敗もあるし、思い通りにいかないことも当然だよな。

 やり直しが効くなら、別にそれもアリかと思って生きることもだろうけど。そうそうやり直しなんかは出来ないだろうし、現状に妥協して今の人生を受け入れていくことも考えるしかないわけで――


 不意にカタリナの手が俺の頭に触れたことで、俺の思考は中断される。

 カタリナはそのまま柔らかく手を動かし、俺の頭を撫でる。

 何やってんの? って聞きたいけれども、面倒だし良いか。嫌な気分じゃないしさ。なんだか、安心するし、こういうのも悪くないなぁ。なんというか、自分の全てを受け入れてくれる母のような安心感という感じ。

 よくよく考えてみれば、俺は母上に頭を撫でて貰ったことが無いな。まぁ、そんなに出来が良かった自信は無いし、仕方ないと言えば仕方ないんだろうけどさ。

 でも、母上ですらやってくれなかったのに、カタリナはどうしてやってくれるんだろうね? つーか、今までも思いだすと、俺に対して全肯定の態度だしさ。

 なんとなく気になるので聞いてみようか。


「――俺の事を好きなのか?」


 だって、好きじゃなければ、膝枕も頭なでなでもしてくれないだろうしさ。

 そこら辺はハッキリさせておきたいのよ。


「はい。お慕い申し上げております」


「そうか」


 良く分からんね。俺を好きになる要素が何処にあるんだろうか?

 俺って、多少強くて、金持ってて、地位があるくらいなんだよなぁ。


「俺の何処が好きなんだ?」


「己の道をひたすらに突き進んでいるところです。何ものをも恐れず、自分の信じるところに従い、行動し続ける、そんな所に私は憧れています。私は自分では何も決められない人間ですから、私に出来ない生き方を続けられるアロルド様を素晴らしく思うんです」


「そうか」


 だからって、全肯定するに至るかね?

 カタリナの俺を見る眼は、物語の英雄を見る眼みたいだけど、まぁ、それは良いか。別に実害があるわけでもなし。そもそも、美人さんに憧れの眼差しを向けられて悪い気はしないから、むしろ喜ばしいことだよね。

 傍から見れば駄目に見えても、本人が幸せなら、それで良いってこともあるし、人がどうこう言うことじゃないしな。


 なんだか、頭を撫でられてたら、眠くなってきたね。別に急ぎの何かがあるわけでもないし、このまま寝てしまおうか。


「お休みになられても構いませんよ」


 カタリナは俺を凄く甘やかす気のようです。だったら、お言葉に甘えて――




 ◆◆◆



「美人の膝の上でお休みとは良い御身分だな」


 目を開けると、白い空間でアスラさんが目の前に座っていた。なんか用だろうかね?


「用と言えば、用かな。まぁ、報告でもあるが、どっちでも気にしないだろ?」


 なんだろうね。色んな人から、用があるみたいな感じで話しかけられる日だな。巡り合わせが悪いってことなんだろうかね?


「まぁ、そう思っておけ。運が悪い時は、悪いことが続くものだと思っておくと、気が楽だぞ」


 神様なんだから、悪いことを予測すれば良いんじゃないですかね?


「そういうのは向いていないんだよ。未来ってのは可能性だからな。やろうと思えば、現時点での未来は分かるが、未来を知った俺がいる時点で、俺が見た未来に辿り着くかは分からなくなる。俺が見た未来は未来を知らない自分が行動した結果によるものであり、未来を知った俺の行動は、知らなかった俺の行動と異なる可能性が芽生えるから、そのせいで過程に変化が生じ、当然、結果にも変化が起きる可能性がある」


 言っている意味が分かりません。


「要するに未来を見ても無駄だってことだ。計算しなきゃならん要素が多すぎるんだよ。人間がそれこそ、プログラム通りに動くNPCなら、問題は無いだろうが、そうじゃない。全員の行動は不確定で不規則、ある程度は収束するだろうが、全てが等しく収束することは無い。この認識が甘い神は大抵失敗する。誰とは言わんがな。もっとも、俺が苦手ってだけで、未来予測が完璧に出来る神もいるが、そういうやつは大抵引きこもりで、世間に関わろうとしないんで、今も今後も関係ないな」


 イマイチ分からんので、用件を言ってくれませんかね?


「悪い悪い。そうだった、用件だったな。まあ、大した話じゃないんだが、俺の法の支配が強まっているってことを伝えようと思ってな。それに伴って、お前の不利益が増す可能性があるだろうけど、そこら辺は許してくれ」


 うーん、どういうことなんだろうか?


「まずは勇者を二人、自分の手下に収めたこと。それと、お前が偉くなって支配者になったから、お前の影響力が増し、それに合わせて俺の支配も強まった。まぁ、そんな感じだが、それはお前には関係ないな。重要なのは、強い奴が増えることか」


 マジで関係ない話だな。さっさと本題を頼みますよ。


「今の段階になったことにより、鍛錬に加えて明確な自分の在り方を持ち、それを目指している奴に対して、能力に補正が入るようになった。これに関しては、お前よりも他の奴に対しての恩恵が大きいかもしれないな。お前は目指すべき自分が確固としてない以上、この補正がかかりにくいが、俺もお前だけを贔屓するわけにもいかないんで、そこの所は受け入れてくれ」


 目指すべき自分ねぇ……良く分からない話しだな。


「どんな自分になりたいかを考えるだけさ。とにかく自分を中心において考える。それが重要だな。人のために尽くしたいって願望を持っていても効果は無いが、人の為に尽くすことが出来る最高の自分を目指せば補正はかかる」


 結局は自分が一番大事ってことを考えろって話なのかね?


「まぁ、そんな感じだな。何よりも先に自分を中心に据える。金を稼ぎたいなら、金を稼ぐことを望むのではなく、金を稼げる自分になるために努力をするってような感じに、目標に向かって頑張るのではなく、目標を達成できる自分になれるように頑張れってことだ。金を稼ぐってだけだと金を得たら終わりだが、金を稼げる人間になるのなら、そこから発展性が見込めるしな。俺としては目標を達成しただけで完結するような奴等になって欲しくないんだよ」


 良く分かんねぇなぁ。まぁ分かんなくても良いか。で、話は終わりですかね?


「いや、まだある。お前らの言うイグニス帝国の勇者についての話だ」


 はぁ、そうっすか。面倒だな、早く終わりになんねぇかな。


「すぐ終わるから心配するな。まぁ、簡単に言うと、帝国の勇者は俺の力もだいぶ入っているので注意しろってことだな」


 ふーん、そうっすか。


「ヲルトナガルから殆ど力を貰わずにいたせいで、俺の法がガッツリ効いているし、平和な時代に生きていた人間ではないからか、苦行点も結構貯まっているようで、かなり能力に補正がかかっている。ヲルトナガルの心得違いで捨てられたが、俺の法の下だと間違いなく一番強い勇者だ。ヲルトナガルに能力を与えられると、俺の世界の法が効かなくなるから強さを得ることは出来ないが、奴は武器の方がヲルトナガルによって能力を与えられているから、奴自身の戦闘能力には何の影響もない」


 なんだか、強そうな話ですね。いやだなぁ、関わりたくないなぁ。


「まぁ、気をつけるべきなのは、奴の武器だな。ヲルトナガルの力が宿っているせいで、俺の世界のありとあらゆる法則を無視して補正を突破し、必ず本来の威力を出しやがる。奴本人は気づいていないようだが、すでに奴は正解を掴んでいたってわけだ。俺に勝ちたければ、自分の力を宿した武器をばら撒けば良かったんだが、結局気づかなかったようだな」


 うーん、良く分からんけど、俺が鎧で銃弾を防いだ時にガンガン衝撃を食らったのも、そのせいってことかな。なんとなく思い浮かぶのが、あの拳銃くらいしかないしさ。


「そういうわけで、あの勇者は手強いから気をつけろよ。ヲルトナガルは昔の人間だと馬鹿にしていたようだが、感性やら何やらを考えれば、あの時代の人間の方が適応が良い。少なくとも、勝手に死んでいった勇者連中と一緒にしない方がいいな。ヲルトナガルが余計なことをしない方が、勇者としての完成度が高いってのも皮肉な話だが」


 で、その完成度が高いっていう勇者様相手に俺はどうしろってことなのかね?


「別にどうしろって話じゃねぇよ。今までと変わらずに、お前は自分のやりたいようにやれば良い。勇者の事を伝えたのは、ただのアドバイスだ」


 アドバイスねぇ、それをするくらいだったら、その勇者の力をなんとかしてくれると楽なんだけど。


「それは無理だな。無理っていうか面倒だ。やろうと思えばやれるが、やる気にならない。それに、俺はその勇者が、それほど嫌いというわけじゃない。精神構造的にはヲルトナガルよりも俺の世界向きだしな」


 左様ですか。頼りにならねぇなぁ。


「あんまり神頼みというのもするもんじゃない。環境は整えてやっているんだ、神に祈るより自分の力でなんとかする。それが最善だな」


 まぁ、今まで祈ったことはないし。自分の力でなんとかするから良いけどよ。


「話が長くなったな。そろそろ起きると良い。時間は経っていないが状況は動いているだろう」


 アスラさんが、そう言うと俺の意識はそこで途切れた。



 ◆◆◆



 目が覚めると、まだ俺の頭はカタリナの膝の上だった。脚とか痺れないんだろうかね。

 なんか、また夢を見ていた気がするけど、どうでも良いかな。別にたいしたことは無かったような気がする。

 結局は俺が出来ることをすれば良いだけだしな。


 そんな事を考えながら、膝枕に頭を乗せたままボンヤリとしていると、急に部屋の扉が開いた。

 そして、ジーク君が慌てた様子で入ってくるが、俺の姿を見るなり、目を丸くする。何がおかしいんだろうね。膝枕してもらっているだけなのに。


「失礼しました! お邪魔だったでしょうか?」


「別に構わん。用があるなら言え」


 頭を起こす気も無いんで、そのままの姿勢でジーク君に言う。ジーク君は俺とカタリナの姿を見て気まずそうな感じになっているけど、何が気になるんだろうか?


「ええと、傭兵が脱走して、イグニス帝国に寝返ったようです。それだけです、なんというか、その、おくつろぎの所、すみませんというか、なんというか……」


 ジーク君の態度はどうでも良いとして、傭兵が寝返ったか……


 まぁ、どうでも良いな。最初から切るつもりだったし、いなくなって何より。最初から戦力として換算はしてなかったから、痛くも痒くもないな。

 まぁ、問題は無いとはいえ、これも状況が動いたってことなのかな。夢のお告げも案外あてになるもんだな。


 さて、ちょうど良いし、お休みも終わりにしてなんかするとしますか。

 良い感じに疲労も抜けたような気がするし、ここからは一気に色々と片づけようかね。






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