僭王の手腕
「息子を助けてくれたこと感謝する」
砦へ帰りつくなり、俺はコーネリウスさんに礼を言われた。
礼を言われるようなことをした覚えはないんだが、まぁ、お礼を言われるのは悪い気分ではないので、そのままにしておく。
どういう関係かは知らないが、俺と一緒にドラウギースに乗っているヌーベル君はコーネリウスさんと仲が良いようだ。同じ姓だから親近感のような物でもあるのかね?
俺は姓が違うから関係ないことだし、どうでも良いけど。
「伯爵を見捨てるとはどういうことか!」
「貴様、私の息子を置いていき、見殺しにしたな! 子爵家の跡取りなのだぞ!」
お礼を言ってくる人もいれば、こんなふうに俺に対して文句を言っている奴もいるけど、なんで俺に言うんだろうね。相手にしてても仕方ないから無視しておきましょう。いや、もう面倒だからハッキリ言ってしまおうかしら。
「文句を言われる筋合いはないな。そもそも、戦場では人は死ぬものだ。いちいち、大げさに騒ぐな。みっともない」
悪気は無かったんだけど、物凄くキレられました。
「なんたる言いぐさだ。そのような態度では、我々はこれ以上協力できん」
さようですか。でも、兵士がいなくなるのは痛いし、困るんだよな。
コーネリウスさんに何とかしてもらおうと思ったけれど、コーネリウスさんも謝れとしか言わんし、役に立たんね。
取り敢えず、協力できないとか言ってきた貴族連中には剣を突きつけて、しばらく大人しくしているように言っておきました。口で言っても聞かなかったし、少しくらいは暴力に訴えたって良いじゃない。つーかさ――
「国を守るための戦の最中に、自分の都合だけを優先するという考えは如何なものかな?」
俺は国とかはどうでも良いけど、キミらはそういう態度じゃ駄目なんじゃない?もっと、愛国心を持って頑張ろうぜ。
愛国心を持つまで、キミらは軟禁しておきます。キミら別に必要ないけど、兵士は必要なんで使わせてもらいます。文句を言ってきた兵士は、文句を言おうとは思えなくさせてやります。
国を守るための戦なんだし、個人の感情でどうこうされたくないんだよね。
兵士には、一番上の人間の意思と目的を遂行するための道具になってほしいくらいだしさ。
言うことを聞いてくれれば、御褒美くらい幾らでもやるから、従順になってもらいたいもんだね。
まぁ、そんな俺の思いも通じず、反乱を起こす奴が現れました。
速攻で鎮圧したから問題ないけどさ。俺が軟禁した貴族を旗頭に何かしようとしていたようだけど、反乱に加担した奴は、全員キレイに処理しておきました。
二千人くらい処理したら、みんな従順になったので良かった良かった。
これで、ようやく全員の意思が統一されたということだろう。意外と手間がかかって困るよ。
「やりすぎではないだろうか?」
所変わって会議室の前。
コーネリウスさんが不安げな表情で俺に尋ねてきた。
理由の分からない反乱があってから少しして、ようやく今後の方針を決める会議が開かれ、俺もようやくお呼ばれしたわけです。
俺抜きで、ちょくちょく南部の貴族は集まって話し合いしていたようだけれども、まぁ、俺には関係のないことを話し合っていたのだろうから気にはしません。ハブられている感じがして、若干面白くないけどさ。
ああ、そうだ、コーネリウスさんがやりすぎだとか不安になっているのだった。可哀想だから、答えてやらないとな。
「俺はこれまで生きてきて、やりすぎたと思うことは何一つない。今回の事も同じだ」
すいません。何についての事かは分からないので適当に答えました。
ただまぁ、人生生きてきて、多少は『あ、やってしまった』と思うことはあっても、『やべぇよ、洒落になんねぇよ……』って思うようなことはしでかしてないし、やりすぎたってことは無いと思います。
「いや、しかしだな。今後、他の貴族との関係を考えると……」
「そんな先のことを考えて何になる。今は目の前の事を優先するべきだと思うが?」
今は戦争中ですよ。他の貴族との仲良しこよしは別の話でしょうに、もっと戦争に集中して欲しいもんだ。つーか、そもそもの話、俺は南部の人間じゃないし、別に南部の貴族と仲良くする必要を感じねーんだけど。そういうのは地元の人同士で頑張ってくださいよ。余所者の俺は関係ないですから。
そんなことを考えながら会議室の扉を開けて、中に入る俺とコーネリウスさん。
室内には人がそれなりで、皆が俺を見ていますが、注目を浴びるのは嫌じゃないので、若干嬉しく思いながら、部屋の中央にある円卓に用意されている席の中から、入り口に一番近い席に座りました。
一緒に入ったコーネリウスさんは部屋の一番奥側の席に座っていますけどイジメですかね。アレだと、トイレが遠いんで不便だと思うんですけど。まぁ、入り口に一番近い俺の席も、扉から隙間風が入ってくるようで、寒くて嫌なんだけどさ。
「ホットワインを用意してくれないか?」
寒いのが我慢できないんで、そこらにいた小姓に頼んでしまいました。
皆、お茶を飲んでいるけど、俺はそういう気分でもないし、砂糖とか蜂蜜をガンガン入れたホットワインの方が飲みたいです。
ワインは高いけれども、ケイネンハイムさんがワインの産地である東部から大量に送ってきてくれるので、気兼ねなく飲めるので有り難い限りですね。
さて、どうやら今は会議中のようですが、俺は別に座っているだけで、それ以外は何もしなくて良さそうですね。
皆、いっぱい意見を言っているようですし、俺は黙っていても良いでしょう。たまにこちらをチラチラと見てくる人がいるけど無視しておきましょう。もっと会議に集中するべきだと思いますし。
ホットワインも来たことですし、これを飲みながら、ボンヤリとでもしていますかね。しかし、本当に寒くなってきたもんだ。暦の上では今は秋だけど、冷え込みは殆ど冬のように感じるな。
「ここで態勢を整え、積極的に攻勢に出るべきだ!」
チラッとこっちを見ないでくれますか?
「態勢を整えるのには同意だが、防備を重視し、奴らが攻め上がってきたところを迎撃するべきだ!」
見ないでくれます?
「まずは、中央の援軍を待つべきだろう。向こうより兵力が上回るまで、事を起こすべきではない」
なんで、こっちを見るんですかねぇ?
「私の領地に奴らは攻め込んでいるのだぞ! 領民は無事だが、土地を奪われたままにしておけるか!」
もう良いです。お酒でも飲んでますね。
「そういう個人の都合をこの場で持ちだすのは如何なものかな」
お酒うめぇ。甘くして、柑橘系の香りを効かせてるのは良いね。ハーブを使って、後味を良く仕上げているのも高評価です。
「アークス卿、貴公はどう考える?」
「知らんよ。卿らで勝手にしたらいい」
なんか急に話を振られたので、そう返しておきました。
実際、みんなで仲良く話し合いしているみたいだし、俺が何か言うのも変だから君らで好きにやっていて良いと思うんだけどな。
「そのような言い方は無いだろう。我々は王国を守るために、意見を出し合っていてだな……」
「だったら、良いではないか。俺の意見などは必要なさそうだ」
「いや、そういうわけではなく……」
なんだよ、良く分かんねぇな。結局、俺にどうしろっていうんだよ。君らで熱中して話し合っているんだったら、それで良いじゃないか。
「我々には、その……力が無いものでな……貴公に手を貸してもらわなければ、どうにもならず……」
「そうか、大変だな。俺は力を貸さんが頑張ると良い」
「それは何故!?」
いや、俺の方が驚きたいくらいなんだけど。なんで、そっちは俺が無条件で手を貸すような話しにしてるの?
「卿らが勝手に話し合って、決めたことに何故に俺が力を貸さなければならんのだ? そもそも、最初から俺の力を当てにして計画を練っているところが理解できん。そういうことは自分たちの身の丈にあう程度で話し合いを進めるべきではないか?」
本当にありえないと思うんだけど。だって、話の流れからすると、アレでしょ?
『攻めます。アロルドがですけど』
『守ります。アロルドがですけど』
『土地を奪い返します。アロルドがですけど』
とか、そういう感じだろう? えぇ、こいつ等なんなの? どんだけ他人任せなんだよ。死ね。
「協力はしないということか!? だが、アークス卿は国を守るために個人の都合は置いておけと自分でも言っていたではないか!」
記憶にございません。
まぁ、それはどうでもいいけど、なんで、こいつ等に協力しないことと国を守らないことが繋がるんだろうか?
そもそも、こいつ等の言うことを聞く必要性を感じないんだよね。だってさ――
「一度も勝ったことが無い奴等の言うことに協力するのが、国を守ることに繋がるか、俺は疑問だがな」
お前ら敗け続けじゃん。
そんな奴らの言うこと聞いたら、俺も敗けそうだし、言うこと聞きたくないです。
「敗け続けた分際で、戦略を語るというのも恥ずかしいと思うのだが、卿らはそれを恥とは感じないようだ。そういう輩は同じ失敗を何度も繰り返すだろうから。仮に協力するにしても、俺はそのような者達とは関わり合いにはなりたくないものだ」
なんだか、一気に空気悪くなったけど、どうしたもんかね。
コーネリウスさんは泣きそうな気配になっているしさ。うーん、ここは強気に出ておくか。若い奴は舐められやすいっていうし、舐められないように頑張るのも必要だよね。
「文句があるなら、出ていけば良い。この砦は卿らの物では無く、俺の物だ。何も我慢してまで、人の家にいる必要はないだろう? 幸いにも、ここは南部。卿らには帰るべき土地があるではないか? 俺の援助など必要とせずとも、一冬は越せるだろう」
この砦の周辺の土地から結構な数の食糧とか領民を砦に持ってきちゃったけど、たぶん大丈夫だろう。大人なんだし、死にはしないと思うんだけど。
うーん、なんだか俺に対しての感じの悪さは薄れたけど、今度は空気が重くなってしまったね。どういうことだろうか。
一応、大丈夫だってフォローもしておこうかしらね。さっきの感じだと、ちょっと冷たかったしさ。
「何も追い出すとは言っていないので、その点は心配せずとも良い。俺が気に食わないのは、自分の都合と勝手な物言いして、更にはそれに俺を巻き込もうなどと考えている輩だけだ。卿らが従順に俺の言うこと聞いてくれるのならば、俺は卿らの働きに対して報いることも吝かではない」
うん、こう言ったら、なんだか数人がやる気を出してくれているようだぞ。
「それは、アークス卿に指揮権を預けるということですかな?」
どこの誰か知らない貴族が不安げに尋ねてきました。
うーん、何を言っているか、イマイチ良く分からないので、国王陛下から貰った勅書を見せましょう。
・兵力には余裕が無いので、王家や他の貴族家からは出せないが、俺の裁量で自由に集めていい。
・今の状況では金は出せないが、使途を明記した書類があれば、戦後に支払う。
・物資に関しても、俺の裁量でなんとかするように。
・南部の貴族と指揮権で揉めた際には、現地の貴族と相談して解決しろ。
こんな内容だった思いますけど、これだったら俺が指揮官であるのは別に構わないよね。
なんだか、会議室の皆さんが唸っていますけど、どうしたんでしょうね。
内容が曖昧で良い文章だと思うんだけど、こういうのは嫌いなのかね? 書いてないことは、何でも好きにやって良いってことなんだろうし、書いてあることも、別に何やっても良いって内容だし、分かりやすいと思うんだけど。
「これは……いや、王家がそう言うのならば、仕方ないか……」
コーネリウスさんが顔では困って見せているけど、すごく嬉しそうな気配を出しています。
「……諸君、聞いてくれ。私はアークス卿に司令官の座を渡そうと思う」
「閣下、何を!?」
「あのような、若造に、そのような役目を与えることは――」
「いや、だがアロルド殿は、兵も財も持っているぞ」
「我々から奪ったようなものだぞ? そんな奴に従えるか?」
「従った方が得だろうから、私は従うぞ。逆らったら、殺されるのは目に見えているしな」
「戦に強いというだけでも、充分だろう。とにかく勝たねば、どうにもならんのだ」
なんだか、みんなして、コソコソと話をしています。
しかし、司令官ですか。まぁ貰えるものは貰っておくけど、司令官って何をすればいいのかね。
とりあえず、俺は司令官になりますってことだけ言っておくか。
「その役、謹んでお受けする。俺が司令官になることに異論のある者は?」
聞いてみたんだけど、俯いてひそひそ話をするだけです。
話を聞いてほしいので、机を叩いて大音を出し、みんなの視線をこっちに向けますね。
「異論のある者はいないかと聞いている! あるならば、この場で俺に対して異議を申し立てるがいい!」
駄目だって言ったら、辞めることも考えますがね。
でもまぁ、そんなことを考える必要は無かったようで、おずおずと拍手をしてくれて、俺の司令官就任を祝ってくれました。
祝ってくれた人に悪いんで、今後誰かに駄目って言われてもやめません。
「さて、俺が司令官になったということは、卿らは俺の命令に従ってくれるようになったということだ。戦の為に卿らの命は効率的に使わせてもらうことになるだろうが、文句は言うなよ? 命を張ってくれれば、その分、卿らに与える褒美は弾むことを約束しようではないか」
うーん、なんだか皆怯えてますね。とりあえず、元気づけるために、まずはご褒美でも出しておくかな。
「まずは、そうだな、卿らのここまでの健闘を称え、戦の支度金を俺が用立ててやろう」
「我々は敗れた身ですが……」
「俺は負けたことに対しての責任を取らせるようなことはしない。ただ、頑張って働かなかったことに対しては罰を与えるがな。そういう理屈に合わせれば、卿らは必死になり、頑張って戦ったのだから、褒美は与えるさ」
信賞必罰はしっかりするだっけかな?
「命を惜しまず、しっかり働け。そうすれば、俺は卿らに報いる。例え敗れたとしても、それを気にするようなことはしない。逆に、しっかりと働かなければ、俺は卿らに罰を与える。よって、失敗を恐れず懸命になって働くべきだ。それは分かるな?」
皆が頷いてくれていますので理解したようですし、大丈夫でしょう。
敗けても良いから一生懸命やってね。敗けそうだからって逃げたら殺すぞ。
「物わかりが良いようで助かるな。では、会議の続きを始めようか――」
なんだか良く分からない内に、俺が司令官になってしまったけど、まぁ大丈夫でしょう。
コーネリウスさんは司令官を俺に押し付けられたので嬉しそうですし、喜んでくれているなら何よりです。
とりあえず、司令官になったけど、全員の意思統一は上手く行ってくれているようだし、問題ないかな。全員が全員、俺の命令に従ってくれるみたいだから、ごちゃごちゃと自分の都合を言う奴がいないし、鬱陶しくないので、気分が楽で良いよ。
さて、皆が俺の命令を聞いてくれるんだったら、さっさと攻めてみるのもありだろうね。
色々と準備をしてもらうとしますか。俺もいい加減、本格的に戦を始めたいところだし、ちょうど良いだろ。




