突破
長いです
領都サウロスを包囲し攻め落とすため、準備中のイグニス帝国軍を後目に、包囲脱出の準備を整えた俺達は馬上の人となっています。
領都を捨てて逃げ出すということに文句を言う南部貴族は結構いましたが、それに関しては、コーネリウスさんが一喝して、言うことを聞かせていました。なんだかんだ言っても、大公家の人だけあって、それなりに威圧感はありましたね。精神面はボロボロですけど。
とりあえず、コーネリウスさんはさっぱりした表情で、基本的に俺に全てを任せると言っていました。憑き物が落ちたような様子で、何よりです。
「しかし、本気で行くのか？ かなりヤバい気がするんだが」
俺の隣に馬に乗ったオリアスさんが近づいてきました。
「実際、ヤバいだろうな。なにせ――」
ここからは見えないけれども、イグニス帝国軍は陣形を整えているはずで、まだ時間はかかるはず。
「――敵陣の中央を突破するのだからな」
結論として、包囲が完成する前に脱出は無理だということになりました。
正直、準備が遅すぎたんだよね。何を持ちだすかとか、グチャグチャと南部貴族が話し合いをしだしたのが、マズかったね。貴重な品だからって、美術品とか持ち出そうとするしさ。
そういう馬鹿なことはやめてくださいって、俺が美術品を壊して解決したから良いんだけど、結局そういう下らないことに時間をかけすぎたのが良くなかったようで、包囲は完成してしまいました。
まぁ、包囲しただけで攻城戦の準備はまだのようなんで、そこだけが救いです。
で、包囲を脱出するにあたり、攻城戦の準備中の敵を奇襲して、その隙に敵陣突破して、逃げ出すということになりました。
俺がそう決めたら、何を言っているんだっていう雰囲気になったけど、俺が押し通して、この作戦で行くことになった。
いや、だってさぁ、包囲が完成したら抜けられないぜ。仮に抜け道が出来て、そこを抜けたとしても、向こうは追撃してくるだろうし、向こうの方が騎兵が多いから、逃げきれるか怪しいわけでして。
そうなる以上、もう仕方ないから敵が完全に準備を整える前にぶっ叩いてしまおうって感じです。で、ついでに逃げ出す。奇襲しかけられたら、向こうも慌てるだろうし、そしたら逃げ切れる可能性も上がるんじゃないかと思うけど、どうざんしょ？
帝国の陣営を見る限り、統率が取れているのは一部だけのようだから、混乱状態に追い込めば行けそうだと思います。まぁ、俺が考えることなんて向こうも分かってるだろうから、なんか上手く反撃されそうだけど、その時はその時で。
「とりあえず、準備は整ったようだよ」
グレアムさんが俺に報告してくる。
準備と言っても、南部連合の貴族連中とその家臣を全員騎乗させてるくらいしかしてないけど。
騎乗して突破できなさそうな奴は、みんな水路で脱出してもらうことになりました。ついでにその人たちと金目の物も一緒に。
その辺は探知一号に任せているから、まぁそれなりに上手く行ってくれるでしょう。こっちが奇襲で、帝国軍を混乱させれば、逃げ出す機会はいくらでもあるはずだしさ。
まぁ、俺らが上手くいかなかった時はどうなるか分からんけど。上手くいかなかったら、俺は死ぬし、死んだ後のことまで責任持てないんで、その時は探知一号は自力で頑張ってという感じです。
「やはり、籠城するべきでは……」
コーネリウスさんが、ビビりながら俺に話しかけてきました。なんか、俺はこの人に色々と迷惑をかけていたらしいけど、今は全部水に流して、俺を頼ってくれています。
いやぁ、人間って切羽詰まると結構なんでもやるんですね。藁にもすがる思いって奴？ まぁ、困っている人を助けるのは嫌じゃないんで、頼りにされるのは構いません。
「籠城したとしても、なぶり殺しにされるだけだ。一か八かでも、攻勢に出た方が生き残る確率は高いと思うがな」
すいません。本当は、俺は確率の計算とかは出来ないです。基本的に勘で行動してるんです、理屈で説明しろって言われると、ちょっと困ってしまったり。
まぁ、守りに入ったら、勝ち目が無さそうなのは感覚的に明らかなんだし、攻めないとね。
「う、うむ、卿がそう言うならば、そうなのだろうな」
分かって貰えて有り難いです。
では、出陣をするとしようか。
「門を開けろ！」
俺の声に合わせて門が開く、門が開いた先には帝国の大軍勢が広がっているが、広がりすぎていて厚みが無くなっている。うん、抜けられなくは無さそうだ。
さて、このまま突撃したいところだが――
「どうかしたか？」
そばにいたジーク君と同じくらいの歳の少年騎士がガチガチに震えているので、肩を叩いてやりました。
「い、いえ……なんでもありません」
「そうか、なんでもないなら震えるな。情けなく見えるぞ」
ビビッてる奴は狙われやすいから気をつけないとね。
「は、はい、気をつけます」
気をつけるなら良いです。まぁ、気をつけてもやられる時はやられるけどさ。
とりあえず、大丈夫そうなら、俺は一番前に行くので、また後でって感じで。
「あの、私はヌーベル・コーネリウスと言います」
「そうか、俺はアロルド・アークスだ」
何でか知らんけど、名乗られたので、俺も名乗り返してあげました。
別に名乗るくらいは、なんでもないですし。
コーネリウスって姓はどっかで聞いたような気もするけど、まぁどうでも良いかな。
そんなことより、突撃だ。
日の傾き加減は夕刻で、今は夕飯時だ。兵士だって食わないといけないわけだから、メシの支度をし始め、続けて食事を始める時間なので、多少は気が緩む奴も出るだろうと思い、この時間に俺達は突撃をかける。
ついでに夕方に突撃かければ、逃げる頃には日が落ちて夜になるだろうから、逃げやすいと思うし。だったら、夜に奇襲かければいいかとも思うけど、夜襲をかけられるほど、こっちは練度が高くないんだよね。つーか、馬だからどうしても五月蠅くなるだろうし、速攻でバレると思うの。
だから、この時間に突撃なわけです。
「全騎、前へ」
俺は愛馬であるドラウギースの腹を軽く蹴り、前へ進ませる。
走らせはしない。走らせるのは、まだ早い。
俺は先頭に立ち、常足で馬を進める。
こちらの動きに気付いたイグニス帝国側から使者がこちらと同じように馬に乗って前へと出てくる。
だが、それはこちらにとっては関係ない。
俺はドラウギースの腹を軽く蹴り、速歩にする。俺の馬が速度を上げたので、俺の後ろに続く奴らも速度を上げる。まだ、突撃するような速さじゃない。
それでも、向こうの使者は止まる気配が無く、むしろ足を速めた様子に目を丸くしている。
たぶん、向こうとしては、俺達が話し合いに出てきたとでも思ったんだろう。
「待たれよ！ 開戦前の取り決めを――」
うん、言いたいことは分かるぜ。
戦いを始める前に、一応ルールを決めておこうって話だろう？ それか、降伏しろっていってくるか、もしくはこちらの要求を呑めば見逃してやるとかだろ？
ルールにしたって貴族は殺さないようにしようとか、どれくらいまでやられたら勝負がついたってことになるのか、予めハッキリさせておいて、決着で揉めないようにしたいってことだろ？
うん、俺の知ったことじゃないな。
「全騎、駈歩。このまま、突破するぞ」
俺はもう一度ドラウギースの腹を軽く蹴り、更に速度を上げる。
向こうの使者との距離が一気に縮まり、俺はすれ違いざまに槍を振るい、驚愕している使者を馬上から叩き落とす。
俺の後ろに続く奴らも、同様に速度を上げ、俺についてくる。
こと、ここにいたって、攻城戦の準備途中であったイグニス帝国軍が俺達の攻撃の意思に気付いて、迎撃の準備を始めた。
だけど、遅いんだよなぁ。攻城戦の前の一段落って感じだったのか、野戦のこととか全く考えていないようだし、動きが鈍いね。
「銃騎兵、斉射！」
グレアムさんの号令に合わせて、銃を持った騎兵が馬を走らせながら一斉に引き金を引く。銃声が轟き、敵陣の最前列にいた兵士たちが、銃弾を食らい次々と倒れていった。
一応、最前列の兵士はこちらの襲撃に警戒を見せている風だったが、所詮は体裁を整えているだけだ。散々に勝ってきたから、今回も楽勝だろうと気が抜けているのが殆どで、こちらが突撃をかけているのに、狼狽えている奴等ばかりだ。
「装填……撃て！」
グレアムさんの号令で第二射が行われる。
こっちの使っている銃は薬莢を使った物なので、すぐに装填して撃つことができる。とは言っても、こちらは馬で突撃中なので、撃てるのはあと一回か二回だろう。
「装填……撃て！」
三度目の一斉射撃で俺達の目の前の大部分が倒れる。とりあえず、一枚目の壁は削り切れた感じだろう。
そろそろ、距離的に銃撃よりも、近接戦闘の準備をした方が良さそうだ。
「全騎、固まれ。錐のように突破するぞ」
こちらの銃撃を食らって、崩れた敵陣の一部に俺を先頭とした騎兵の集団が突っ込む。
サウロスの周囲を囲んでいる敵軍の一部が俺達の方に向かってくるのが見える。律儀なのかなんなのか、一番遠いところの奴も、こっちに向かってくる始末だ。
持ち場を離れるなとか、命令してないのかね？ それとも命令できるほど、司令官が偉くないとかかな？ まぁ、どうでもいいや。
俺はとにかく突破しないといけないし、目の前の事だけを考えていきましょうかね。
馬上の俺が槍を振ると、一気に数人が吹っ飛んでくれるので楽チンこの上ないけれども、他はどうなんだろうね。まぁ、俺は先頭を走っているから、後ろを見ている暇もないし、何かあっても引き返すこともできないんで、気にしてもどうしようもないんだけど。
まぁ、色々考えるより、ドラウギースで敵を踏み潰しつつ、槍で敵を薙ぎ払ってくほうが生産的だよな。
というわけで、俺は行く手を遮る敵兵に向かって槍を突き刺すが、勢い余って穂先が敵兵を貫通し、後ろにいた兵士二人も一緒に串刺しにしてしまった。とりあえず、串刺し三兄弟とでも名付けておこう。
人間三人分の重りが乗った槍はぶつかるだけで、人間を弾き飛ばしてくれるため、結構便利なので、俺は串刺し三兄弟が刺さった槍を盾のように前へかざし、進んでいく。
しかし、そうそう順調に進んでばかりもいられないようで、崩れた敵軍もやがて、体勢を立て直し始め、自分たちの陣に突っ込んできた敵である俺達に向かってくる。まぁ、こういうことになるのも想定済みなんで、困りはしないけど。
「魔法工兵、壁だ！」
オリアスさんの号令で、突撃に付き合ってくれている魔法工兵が魔法で石壁を造る。と言っても、高さは一メートルくらい。それが、俺達の進行方向に沿って左右に現れる。距離的には三十メートルといったところだろう。
一メートルの高さがある壁を越えるのは、それほど簡単というわけではないので、俺達は三十メートルの壁に挟まれている間、左右からの攻撃に警戒する必要はない。ただ正面には敵がいるので、それは踏み潰さないといけないが、それに関しても大した問題じゃない。
向こうは歩兵で、こっちは騎兵。お互いに両脇は壁で防がれているから逃げ場はないわけで、そうなると突破力に優れる騎兵の方が有利だ。
「我が名は――」
「邪魔だ」
なんか、名乗りを上げようとした騎士っぽい奴がいたけれども、徒歩だったので、ドラウギースが踏み潰してくれた。
向こうも必死に槍衾を組んで、こっちの進攻を遮ろうとするけれども、やはり大して厄介でもない。
俺はドラウギースの腹を蹴り足を速めさせ、槍衾に突っ込む。
「なんだ、槍が刺さらない！？」
「バケモノだぁ！」
槍衾を構えていた兵士たちが悲鳴をあげながら、ドラウギースに踏み潰されていく。構えていた槍はドラウギースの肌を貫けないし、鎧を着こんでいる俺を貫くことも出来ない。
ドラウギースは俺が全力で放った拳にも耐えるくらいだし、貧弱な槍などはものともしないほど頑丈だ。
「絶対に馬じゃない、そいつは馬じゃない……」
ジーク君の呟きが聞こえた気がしたけれど気のせいだろう。
つまらないことを気にしていてもしょうがない。さっさと突破しないとな。距離的には、残り数百メートルも進めば、敵の軍勢の後ろに出るだろう。
俺の後ろにどれだけついてこれているかは分からないけれども、後方の騒ぎを聞く限り結構生き残っているようにも思う。
「覚悟！」
いつの間にか、両脇の壁は無くなっていた。どうやら三十メートルは一気に駆け抜けてしまったようだ。
両脇から騎兵の部隊が迫ってくるが、さて、どうしたもんか。
「左から来るのは任せる」
俺はドラウギースの首筋を撫でながら頼む。俺は槍を右手に持っている以上、攻撃しやすい範囲は右側になるわけだし、左側に関してはドラウギースに任せた方が良い。
左側からドラウギースの速度に合わせて全速力で数名の騎兵が突っ込んでくる。だが、そっちに関してはドラウギース任せで、俺は右側から突っ込んでくる敵を片づける。つっても、竜槍を振り回すだけで馬も人なぎ倒されてくれるので余裕だ。先端に数十キロの重りがついた棒で殴られただけで、死ぬとか根性が無さすぎて、こっちが恥ずかしくなるが。
ドラウギースの方も突き出されてきた槍を口で咥えることで受け止めると、その槍を持ち主ごと持ちあげて振り回し、周囲の騎兵を薙ぎ払ってくれている。力持ちの馬で有り難い限りだ。
「アロルド、残っているのは七割くらいだ」
グレアムさんの声が聞こえ、横にグレアムさんが現れる。どうやら必死で追いついてきたようです。
七割残っていれば上等なんじゃないかね。もうすぐ、敵陣も抜けそうだし、思ったよりかは死人は出ていないな。死んだ人はついてないねとしか言いようが無いけど。
「魔法工兵、もう一度だ！」
オリアスさんも追いついてきたのか、叫んでいる声が聞こえます。そして、それに続いて、再び俺達の周囲に壁が現れました。
段々と騎兵も集まってきていたので、壁を造ってもらえたのは大変ありがたい。障害物があれば、騎兵は簡単に突撃できないわけだし、攻撃力を大幅に減らせる。
俺達は両脇を壁に守られた状態で真っ直ぐ進めば、それで良いわけだし、守りに関しても気楽っちゃあ、気楽だね。
「これで魔法工兵の魔力もすっからかんだ。もう、守りは期待すんなよ？」
俺に並走しながらオリアスさんが言う。
「どういうわけかは知らねぇが、向こうは魔法使いが少ない。不意の一発で何もかも吹っ飛ばされる心配はないと思うが、もしもデカいのが飛んで来たら、そん時は諦めろ」
必要ないと思うぜ。そろそろ、奴らの後ろへ抜け出す。
「おめおめと突破されるな！ それでも帝国軍人か！」
「無理を言ってやるなよ」
偉そうな指揮官が叫んでいたので、行きがけの駄賃に竜槍を振って頭を吹っ飛ばしてやる。
そうやって、叫ばせるなら、もっと早くに何とかしてやるべきだったな。俺は既に突破したぞ。まぁ、頭が吹っ飛んだ死体に言っても仕方ないことだから黙っているけどさ。
「全騎、俺に続け！」
突破したことを確信した俺は、後ろを振り返りながら、大声で味方に呼びかける。
振り返って視界に入ったのは、まず数万の大軍だ。そして、俺について来ようとする数百の味方。
「ははははは、爽快だな」
数万の視線が俺に向かい、そして俺を追いかけてそいつ等が走ってくる。
状況はどうあれ、今は俺が先頭だ。
数万の人間の先頭を俺が走っているのは中々に気分が良いわけで、思わず笑いが漏れてくるね。
誰もが俺に対して注目し、俺の一挙手一投足に反応して行動せざるをえない。
ある意味では、この数万の人間を俺が支配していると言っても良いかもしれんね。
やはり、こういうのは気分が良いもんだ。自分が特別な人間だと実感できるしさ。なんていうんだろうね。自尊心って言うのかな？ それがグングンと満たされていくように感じるよ。
『馬鹿者どもが！ このまま逃がすな！』
『たかだか、数百の相手に陣を突破されたなど末代までの恥だぞ！』
『伯爵の仇を取れ！ 奴を殺せぇ！』
『閣下に置いて行かれるな！ もっと急げ！』
『待て、置いていくな！ 待ってくれ！』
ははははは、どいつもこいつも大騒ぎだぜ。
いいぜ、頑張ってついて来い。でも、ついてこれんのかね？
「オリアス、やれ」
俺はようやく追いついてきたオリアスさんに命令する。
ここまで、オリアスさんには殆ど魔法を使わせていなかったのだが、ここでようやく解禁だ。
数万の敵兵が一斉に方向転換し、自分たちの陣の後ろに回った俺達に向かってくる。
大軍であるが、全く統率が取れていないようで、滑稽だ。
俺達を追いかけるなら、騎兵を使うべきなのだろうが、その騎兵は陣の前方にいたものだから、後へ来るのは骨だろう。
歩兵が我先にと俺達を追いかけてくるものだから、そいつらを避けて全速力で移動しなければいけないわけだし、俺達からすれば向こうの歩兵が壁になってくれて、俺達を助けてくれている。
自軍の歩兵のせいで、イグニス帝国軍は思うように俺達を追いかけられないらしく、敵軍と俺達の距離は広がるばかりだ。そして、ある程度、距離が広がったらダメ押しがある。
「燃えちまえ！」
オリアスさんが火の魔法を放つ。火の魔法と言っても、こぶし大の火球を放つ物で、それ一つじゃ何も出来そうにないが、別にそれを敵に当てようというわけじゃないので、問題は無い。
オリアスさんが火球をぶつけようとしているのは、ここに来るまでに散々にばら撒いておいた『燃水』だ。
火生石の開発途中で出来た『燃水』は火に当たると燃え上がる液体で、オリアスさんが火球を当てれば燃え上がり、それによって敵の足止めや痛手を与えるつもりだったわけだけれど――
大爆発しました。
「おい、何をした？」
「いや、なにも？」
予定では、まき散らした燃水が炎上して足止めするはずだったのだけれど、どういうわけか、オリアスさんが火球を敵の方に投げると大爆発して、結構な数の敵と僅かな味方が巻き込まれました。
なにもしてないって言うなら、まぁ何もしてないんだろうし、結果として、炎上するより効果があったので、良しとしますかね。
とりあえず、燃え上がらなかったのは、オリアスさんが広範囲に燃水をばら撒こうとして、燃水を霧状にしたためだと思うな。水っぽい状態じゃないと燃えないんじゃない、アレって？
爆発した原因は分からないんだけど、まぁ、敵は崩れたようだし、そういうつまらんことを考えても仕方ないね。
敵陣は突破したんだし、後は逃げることだけを考えますかね。
「全騎、足を止めずに走り抜け。後は崩れた、この隙に距離を稼ぐぞ――」
と、俺が言った直後に、俺の頬を何かが掠めました。
まぁ、当たらないと思って無視していたわけだけど、掠ってしまったのは恥ずかしいね。
たぶん、銃弾だと思うけど、どっから飛んできたのかしら？
「側面に敵騎兵！ こちらと同じく銃を持っています！」
行動が早いね。良い事だ。
「相手にするな。どうせ当たらん」
向こうの武器は火縄銃だし、そんなに精度は高くないと思うから、さっさと逃げようぜ。
余計なことを考えずに、逃げるが勝ちだしさ。向こうも本気で追ってこようとはしないと思うし。
まぁ、俺の想像なんで確証はないですけど。
俺が逃げようって言ったのが良かったのか、みんな俺の後ろについて走ってくれます。
やっぱりというか、なんというか、向こうの銃騎兵はそれほど積極的に追ってはこないようだった。
なんとなく、気になったので、そいつらの方を見ると、指揮官らしき奴と目が合った。
爽やかな容姿の金髪の優男だ。
向こうも俺の視線に気づいたのか、俺に対して笑みを向けて拍手するような仕種を見せてきたので、俺も微笑み返してやった。やっぱり笑顔と笑顔で通じる心と心ってのはあるね。
俺の進行方向に伏兵とか潜ませてそうな感じを出しまくりですよ、あの人。まぁ、大軍では無いだろうけどさ。
「アークス卿、流石です！」
敵の追撃が緩まってきたせいか、余裕の出来た少年騎士が俺の隣まで馬を走らせ、俺に話しかけてきた。確か、ヌーベル君だったかな？
危ないから、退こうね。キミ狙われてるよ。俺はヌーベル君の首根っこを掴んで持ち上げてあげる。すると、ヌーベル君が直前まで居た場所を、銃弾が通り過ぎた。
銃弾が飛んできた方を見ると、黒髪の小柄な異国人が馬上で銃を構え、俺に対して向かってくる。
持っている銃がどうにも他の奴と違うのが気になるっていうか、アレってなんだっけ、確か拳銃でリボルバーとかいう名前だったような？
まぁ、どうでも良いか。
俺は、ヌーベル君を自分の後ろに座らせ、異国人に対応する。
向こうが一発二発と連続して引き金を引くと、それに合わせて銃弾が連続して発射される。
こっちは、顔面だけ防いで、銃弾を鎧で受け止めるのだが、妙に体に来る衝撃が大きい。なんていうか、銃弾に変なものが憑いている感じで、俺に当たる度に銃弾が俺にへばりつく何かを削っているような、そんな感じがする。
だがまぁ、それだけだ。銃弾は衝撃こそあるが、鎧を突き抜けるほどの威力は無い。
攻撃が効かないのだから、恐れることも無いので、向かってくる異国人の馬に合わせて俺もドラウギースを突進させ、すれ違いざまに槍を叩きつける。
大抵一振りで人間相手だったら片が付く、俺の槍の一撃。
だが、どうやら異国人は人ではないようで、俺の槍の一撃を防いだ。いや、防いだっていうのかね。アレは。
異国人は俺の槍に対して、馬の上にも関わらず器用に体を動かし、足の裏で受け止めて、そのまま俺の槍を踏み台に跳躍して衝撃を殺した。まぁ、完全には殺しきれなかったようで、吹っ飛んで地面を転がっているが。
それでも、一撃で殺せなかったのは素直に驚きだ。
「仕留めろ！」
どっかの誰かが、馬鹿なことを言うが、やめといた方が良いと思うぞ。そいつのお仲間も来てるしさ。
俺がそんな風に思っている中、味方の馬鹿な騎士が転がっている異国人に向かっていくが、横合いから駆け抜けてきた一騎に、瞬く間に斬り伏せられた。放っておけば死なずに済んだのについていないことだ。
こっちの味方を斬り伏せた一騎は、異国人を拾い上げて馬上に乗せると、俺に対して一礼しただけで、何も言わずにその場を去って行く。
青黒い肌に金色の瞳の変な男だったが、帝国には随分と面白い人種がいるんだな。
強いのは青黒肌の男で、ヤバそうなのは異国人ってところかな。で、偉いのが優男か。
まぁ、どうでも良いか。そう何度も会うことは無いだろうしさ。
そんなことより、さっさと逃げようか。
イグニス帝国の奴らの大部分は爆発の被害が思ったよりも大きいせいで、俺達の追撃を諦めてる雰囲気だけど、こっちを必死で追いかけてきてる奴らは、まだ見えるしさ。
強い奴とヤバい奴と偉い奴は追いかけて来なさそうなんで、多少は楽な感じがするけど、あんまり油断するのも良くないし、さっさと駆け抜けようかね。
せっかく敵陣を突破したのに、その後にうっかりして死んじまうのも格好が悪いしさ。後ろにヌーベル君を乗っけてる時点で微妙に格好が悪いけど、それについては気にしないようにしたほうが良いよね。
