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初戦

昼にも投稿しています。ご注意ください。

 俺は今、城壁の上で、イグニス帝国の奴らが俺の砦を囲んでいる様子を見ているわけだけれども――


「思ったよりも少ないな」


 ばらけて行動しているという話は本当らしく、イグニス帝国の軍勢は多くて三千ぐらいに見える。

 しかし、その数でも、ここまでやって来れたということは、南部連合の人達は負けたんでしょうかね? 基本的に斥候役を動かしまくって、情報を上手く伝達できないようにしているから、イマイチ分からんのよね。


「ヴェイドの報告だと、奴らは帝国の本隊から分かれて、近くの市街地などを制圧に動いている隊の奴ららしいねぇ。どうやら、食糧を確保できるっていう見込みが外れた上、兵士は略奪も何も出来なかったようで、懐事情がかなり厳しいらしいねぇ」


 グレアムさんが状況を説明してくれた。ヴェイドが誰だかは知らないが、まぁ、どうでも良いことだな。

 しかし、行動遅いよなぁ。イグニス帝国の奴らはさ。ここいらの村や町はもうとっくの昔に俺が略奪済みだってのにね。


「本隊は何をしているんだ?」


「コーネリウス大公が大公領の領都サウロスへと撤退中だそうで、それの追撃中らしいよ」


 ふーん、追いかけっこでもしてるってことですか。楽しそうで羨ましいね。

 しかし、そうなると、俺らの目の前に見える奴らは追いかけっこについていけない二線級の奴らってことかね。じゃあ、あんまり怖くないな。


「あいつらを軽く片付けて、本隊の方を追ってみるのも悪くないな」


「それは同感だねぇ」


 領都サウロスが何処かは知らんけど、ここからそう離れているとは思えないし、行ってみるのも良いんじゃないかな。最近、砦にこもりっぱなしで飽きてきたしさ。


「おい、なんか向こうの指揮官が、降伏しろとか言ってるぞ?」


 オリアスさんが何か言っていますね。

 降伏しろって? なんで降伏せにゃならんのよ。俺らが負けるわけないだろ。


「無視しておけ。奴らの方が弱いのに、何故こちらが負けてやらねばならんのだ」


「ほ、本当に勝てるのか、アロルド殿?」


 敗けた貴族たちが心配そうな顔で俺に尋ねてくる。


「籠城をするのなら、援軍の見込みはあるのか? 奴らの兵器は強力――」


 失礼、なんか飛んできそうな気配なので、ちょっと槍を振りますね。

 竜槍を振ったら、飛んできた何かに当たり、それを弾き返す。なんか、金属のボールみたいな感じだったけど、なんだろうね。


「砲弾だな」


 オリアスさんが俺が弾き返した物を分析していたようだ。


「どうやら向こうにも大砲がありそうだ」


 オリアスアさんはそう言って、指差した先には確かに大砲があった。でも、なんだろうね――


「金属製なんだが?」


「そうだな」


 しかも、運んでるしさ。大砲って現地に到着してから造るもんなんじゃないの? しかも、砲弾も金属だよね。アホみたく金かかるだろうし、重いから運ぶの大変じゃないか?

 効率悪すぎだろ。魔法で全部造れるのに、わざわざ、鍛冶師にでも頼んだってわけか? 意味わからんわ。

 そのせいで数が揃えられないのか、四門しか大砲が無いようだし、馬鹿だろ、あいつら。


「アロルド殿、ご無事か?」


「見れば分かるだろう。それよりも卿らは何を言おうとしていたのであったかな? 奴らの兵器が強力だったか? 俺が片手で弾き飛ばせるような兵器を強力であると?」


 なんか、俺の事を化け物を見るような眼で見てる奴がいるけど、別にたいしたことないからね。こんなのはさ。つっても、そういうのは砦に逃げ込んでから日が浅い奴らで、古株の奴らは曖昧な笑みを浮かべて、大人しいんだよな。

 そういや、もう一つ何か言っていたっけかな。えーと援軍がどうとかこうとか。


「援軍が必要なような口ぶりの者がいたようだが、必要ないだろう」


「いや、しかし、古来より籠城は援軍を待つために行うと……」


「どうやら、勘違いをしている者がいるようだが、俺は籠城などという選択肢を取るつもりはない」


 なんで、俺が籠ってなきゃならんのよ。意味わからんわぁ。


「ですが、こうして砦の中にいるわけで――」


「それは砦に兵器が大量に備え付けてあるからだ。なぜ野戦をして、砦という優位を捨てるのかが分からんな。ここを使えば、手っ取り早く奴らに打撃を与えられるというのに」


「おい、いい加減、撃っていいか?」


 オリアスさん以下、魔法使いの集団が〈障壁〉の魔法で、敵の砲弾を防いでいるが、飽きてきたようで、俺に声をかけてくる。

 別に断る理由もないので、俺は許可する。あ、許可してからで悪いんだけど、ちょっと質問。


「そういえば、この砦に備え付けられている大砲は何門だったか?」


「全部で五十門だ」


 そう俺に告げると同時に、砦に備え付けられた五十門の大砲が一斉に火を噴き、辺りに砲声を轟かせる。


「ははははは、最高だぜ! どんどん、ぶっ放せ!」


 うーん、オリアスさんが何だかとっても良い気分になってしまったぞ。そういえば、向こうはまだ、俺達に降伏しろって声をかけていたような。

 こっちの返答を待っていたってことかな。そしたら、待っている所に砲撃したのはマズかったかな。

 でもまぁ、向こうも砲撃してきたし、別に構わんよね。たぶん、砲撃したのは、こっちの返事が欲しかったからだろうし、こっちも砲撃で返事をしたことになるだろうから、問題解決だろう。

 問題解決したから、ガンガン撃っても良いよね。


「ちっ、向こうが〈マジック・シールド〉を張りやがった。魔法工兵は砲撃を続行しろ。大砲はイカレてから作り直せばいい」


 あらまぁ、本当だ。大砲の弾を雨のように降り注がせているけれども、魔力で出来た光の壁のせいで、敵軍のど真ん中に良い具合に当たらないね。

 まぁ、それだったら、横合いからぶん殴れば良いか。向こうは、砲弾にビビッて、真上に〈マジック・シールド〉を張っているし、横はがら空きなんだよね。


「グレアム、行け」


「了解。砦の正門を開けろ、銃兵を出すぞ!」


 グレアムさんが城壁の上から飛び降りて、銃を持った歩兵の一団に加わった。


「閣下、歩兵を出すのは危険ですぞ。奴らは兵にも、厄介な武器を持たせておりまして」


「心配いらん。黙って見ていろ」


 銃を持っているし、大丈夫だろ。


「あの者達は平民ではないですか! 戦いの心得が無い者を戦場に出すなどと……彼らは戦う術など持っておりませんぞ!」


 その点に関しては大丈夫。俺が鍛えまくったから。

 訓練よりも戦場に出たいっていう殺意マンマンの連中に仕上がってるし、問題ないだろう。

 自然な感じで泣いたり笑ったりできなくなるくらいに追い込んだからなぁ。まぁ、戦場に出れば、その日の訓練は免除になるってことを話したら、元気になって早く戦場に出たいとか言いだすし、心は死んでないから大丈夫でしょ。

 戦場で死んだとしても、死ねば、二度と訓練を受けずに済むから、むしろ望む所だとか抜かすアホがいるのは気に食わないけども、そういう奴らがいる以外は概ね満足な出来なんで、どれくらい働いてくれるかはちょっと期待している所です。


 しかし、こんだけ平民が強くなると領主さんは大変だろうね。反乱とか起こされたら、対処のしようが無いと思うしさ。

 戦争が終わったら銃を売ってくれって平民連中に頼まれてるから売るし、反乱が起きたとしても鎮圧できるか、ちと心配。まぁ、俺は王都に帰るから関係ないけどさ。

 貴族が偉そうにしてられるのは、結局の所は武力を有しているからで。今後は銃で武装した平民をどれだけ大量に動員できるかが重要になるから、武力の中枢にいるのは平民ということになりそうな気もするし、そうなったら貴族の人は大変だね。

 もしかしたら、領主さんが、自分の領地の村長さんとかに頭を下げて村人を兵士として貸してくださいとか言うようになるかもしれんし、そうなったら貴族とはなんぞって感じになりそうだなぁ。

 まぁ、俺には関係ないと思うから、どうでも良いんだけど。


 おっと、余計なことを考えている内に、グレアムさん達が配置に付いたようですね。

 グレアムさんはサーベルを片手に、銃兵に射撃の指示を出しています。まぁ、グレアムさんに任せておけば大丈夫でしょう。戦闘関係はソツなくこなせる人ですし。


「良く狙って――撃てぇ!」


 グレアムさんの号令に合わせて銃兵が一斉射撃。銃声が鳴り響いています。

 イグニス帝国の方も反撃しているけれども、なんだろうね。銃を使ってるように見えるけど……


「あれは火縄銃ですね」


「そうか」


 エイジが教えてくれたので解決しました。武器関係はコイツに聞けば、大抵は答えてくれるので助かるね。ときどき、全く役に立たないことも言うけどさ。それに魔法で簡単に片付くことを、面倒くさい方法でなんとかしようとかする、効率悪い所が玉に瑕だね。

 まぁ、それは置いといて、火縄銃か。どっかで聞いたことがあるような気がするけど、気のせいだね。しかし、火縄銃ってのはショボいなぁ。向こうが一発撃つ間にこっちは何発撃てるのかって感じだしさ。あんな不完全な武器を使うとか、頭弱いだろ。

 命中精度も悪そうだし、アレって一列になって弾幕張るようにして撃たないと効果が薄いんじゃないかな。

 初っ端に大砲食らったせいで、陣形とか滅茶苦茶だし、それをもう一回整えることが出来るほどにはきちんと統率が取れてないようだし、イマイチだね。

 兵士がそれぞれ自分のタイミングで撃ってたら、こっちの陣形とか食い破れないと思うが、そういうことを向こうは理解してんのかね。


 こっちもまぁ、一斉に撃たないと効果は薄いけど、長距離からでもそれなりに当たるくらいに命中精度は高いから、タイミングがバラバラでも、向こうほど酷いことにはならなそうだね。

 そういや、魔法工兵に掘らせておいた塹壕が良い具合に役に立ってるようだ。頭だけ出して、撃てるから、向こうの弾とか当たりにくいようだし、一方的に撃ち殺せてるようで何よりです。

 グレアムさんがタイミングを見ながら、塹壕から塹壕へと移動させつつ前進させているから、向こうの陣形を結構抉ってくれているようだし、結構効いてると思うが、どうだろうね。


 おや、向こうの〈マジック・シールド〉が弱ってきたようです。魔法使いが流れ弾にでも当たったかな。そうなると、砲撃を防いでいた守りが崩れるので――


「よっしゃ、直撃ぃ!」


 砲弾が敵軍のど真ん中に直撃して、オリアスさんが大喜びです。

 相当やられてるようだけど撤退はしないのかね。あ、撤退できないか。撤退したら、食糧とか手に入らなくなっちゃうもんね。いやぁ、物を持ってない奴らは悲しいねぇ。これがホントの物悲しさって感じ? なんか違うけど、まぁ、どうでも良いか。

 向こうの大砲も壊れたようだし、銃を持っている兵士も相当に死んでいるから終わりに見えるけど、まだ百くらいは残っているね。たぶん、アレが向こうの銃とか大砲とかが効かないタイプの奴らだろう。

 戦況がどうにもならなくなったから、味方の屍を踏み越えて、決死の突撃を仕掛けてこようとしているな。銃が効かない以上、銃兵は頼りにならんし、こうなるとアレかな。


「ジーク、出番だぞ」


 俺の声が聞こえたかは知らんけど、ジーク君が冒険者を引き連れて、砦から出撃してくれました。

 ジーク君と俺が連れてきた冒険者に任せておけば大丈夫だろう。相当に鍛えたから、問題なく勝てるはずだ。


「あんな子供に突撃させるのですか」


 子供でも俺の弟子なんで、大丈夫っしょ。

 言ってるそばから、向こうの騎士らしき輩を一人斬ってるし、続けざまにナイフを別の敵目がけて投げて、もう一人仕留めてるしさ。

 一瞬で二人も殺してるから、それを五十回やれば、百人ぐらいすぐだぜ。ジーク君以外にも冒険者はいるし、効率はもっと良いと思うね。


「子供でも充分使えると思わんか?」


 気づくと、向こうの手練れっぽい奴らは全滅していました。少し、こっちが強すぎるような気もするけど、強いに越したことは無いよな。

 そもそも、ギリギリで勝つなんてやってる方が意味わからんし、戦争なんて勝つ方は圧倒的に勝つようじゃないと、後で困ると思うんだけど。そのためには徹底的に準備して戦う前には勝負が決まっているようにしとかないとマズくね。

 準備段階で勝負が決まってて、実際に戦うのは、準備の答え合わせみたいな感じに淡々と進めるほうが良いと思います。だから、こっちが圧倒的に強くても仕方ないね。向こうの準備が悪いせいであって、俺達が悪いわけじゃない。

 こっちは丁寧に事を進めていただけなんで、文句を言われる筋合いは無いと思うんだけど――


 殆ど観客状態の貴族の方々はお気に召してくれたかどうかは分からないな。

 一方的に虐殺した感じだし、盛り上がりに欠けているとか思われて、俺の評価が落ちるのは嫌なんだけど、どうでしょうかね。

 今は、グレアムさんの銃兵が敵の生き残りにトドメを刺してる感じだし、もう盛り上がりポイントは無さそうなんだよな。

 とりあえず、どうだったか、聞いてみるかな。


「こんな感じだが、どうかな?」


 うん、なんだか、貴族の人達は一様に怯えた顔をしていますね。

 どうやら、あまり評価は高くないようですが、これ以外にやりようが無いから仕方ないね。


 そういえば、傭兵を使う必要が無いってことをエイジに分からせるためだったんだけど、分かってくれただろうかね。そこだけが心配だな。

 分かってくれないなら、サウロスに向かっているっていうイグニス帝国の本隊を攻撃する他ないんだけど、どうしたもんかな。

 面倒くさいけど、傭兵共がいらないってことを分からせるためには仕方ないし、一応、出発する準備もしておこうかね。ついでに、南部連合の人達も助けておきましょうか。用事を済ませるついでに片づけられることは、片づけておかないとな。






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