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南征将軍は傭兵嫌い

 どうやら南部連合は負け続けているようだ。

 最初の会戦での敗北を挽回しようと頑張ってはいるようだが、あまり結果は出ていないというのが、探知一号からの報告だった。

 補給が無いのがきついようだが、どうして補給線とかキチンとしとかなかったんだろうか? まぁ、弱ってくれたほうが俺の言うことを聞いてくれ易くなるだろうし、俺は構わないけど。

 とりあえず、探知一号以下、斥候役には適当に見張っててくれって言ってあるので、色々と動きがあれば報告してくれるだろう。

 帝国も勝ってはいるが、それほど調子は良くなさそうだって話も入っている。最初の方は、一気呵成に一点突破って感じに大軍が密集して行動していたようだが、軍勢がいくつかにばらけてコーネリウス大公領の南部とその周辺の貴族の領地に向かっているとか。なんだろうね? 仲悪いのかな。

 仲悪くても、無理矢理言うこと聞かせるぐらいのことをやった方が良いと思うけどな。俺なんか、ここ最近は喧嘩している貴族を見つけたら『仲良くしないと、ぶち殺す』みたいなことを言って、仲良くさせてるんだけどな。

 時々、口で言うのも面倒くさくて、足腰立なくなるまで痛めつけたりしてたら、みんな俺の言うことを聞くようなったから最近は楽だし、そういうことはしてないんだろうか?

 やっぱり、仲良くしつつも仲良くしようとしない奴は厳しくするっていう方法が一番だよな。


「アロルドさん。また、敗残兵が逃げてきました。それなりに偉い感じの貴族に見えるんで、応対してください」


 俺の秘書みたいな立ち位置に収まった、エイジが報告してきたので、その偉そうな貴族に会いに行く。

 エイジは意外と帳面やら記録をつけるのが上手いので、秘書としてはジーク君よりも使いやすい。俺が指示出せば、すぐに手紙やら文書なんかを作成してくれるし。


 まぁ、それは今は良いか。今は貴族の人と会わないとな。


「これは、どういうことだ!? なぜ、貴様のような若造が大きな顔をしている!?」


 うーん、顔を見せて名前を名乗ったら怒られてしまいました。

 俺のいる砦の元指揮官さんが、青い顔になっていますが、どうしたんでしょうね。おっと、青い顔をしてると思ったら、俺の前に飛び出して、跪いてきました。


「閣下、お許しください! 戦場帰りで、お疲れなのです! 状況が分かれば、閣下に従いますゆえ、どうか、ご容赦を!」


 はぁ? 何のことだか分かりませんね。そんなことより、どうしてここに来たか理由を聞きたいのだけれど。


「容赦と言われてもな。それよりも、どうして、この場に現れたのか聞いておきたいのだが」


「どうしてだと? 何故それを貴様に言う必要がある」


 うーん、言ってくれないと判断が困るんだよね。

 脱走兵だったら、ぶっ殺すけど、もし敗けて逃げてきただけなら、殺すようなことはしないんだけどな。


「閣下! この方は、高潔な方で己が助かるためだけに、逃げ出すような真似はいたしません!」


 指揮官さんがそう言うなら、そうなのかもしれないけど、実際の所は分からないよね。

 というわけで、一緒についてきた兵士さんにも聞いてみましょう。


「脱走してきたのなら、そうだとハッキリと言え。嘘をついたら殺す。後で嘘が分かった時も殺す。本当のことを言えば、貴様は殺さない」


 俺がそう言うと、兵士さんは、偉そうな貴族は脱走していないと言ったので、殺さないことにした。


 その直後にエイジが別の貴族を連れてきたが、そいつは脱走兵なので、ぶち殺した。

 別に敗けて逃げてくるのは良いんだよ。でも、逃げ出すような奴にはきちんと罰を与えないと駄目だよな。一人でも逃げると、自分も逃げて良いかもとか思う奴が出てくるだろうしさ。


 偉そうな貴族の人は俺が脱走兵の貴族をぶち殺したところを見ていたけれども、なんか偉そうじゃなくなっていました。

 しきりに頭を下げてきて許しを乞っていましたが、別に何もする気は無い。いや、一応、頑張って戦ったようだから、俺の出せる範囲で褒美でも出しておこうかな。

 悪いことやった奴には罰を与えて、頑張った奴には御褒美ってのは普通のことだし、問題ないだろう。えーと、こういうのを信賞必罰を明確にするっていうことなのかな。

 俺は細かく判断して良い悪いを論じることは出来ないんで、まぁ、なんとなく良いことしてるかなって思った人には褒美を出すことにしよう。なんとなく悪いことしたかなって奴には問答無用で罰を与えるけど。


 そういえば、敗けてきた貴族の大半は俺の言うことを聞いてくれるようになっていたんだっけ、食糧とか財宝とか、奥さんとか子供を預かっていると言ったら、泣いて喜んで俺の手下になりたいって言ってきたから。手下にしてやったんだった。

 まぁ、俺って一応は将軍みたい、だし、言うこと聞いてもらわないとな。言うこと聞かないと、一族郎党皆殺しにするぞって冗談言ったけど、みんな本気にしてしまったみたいなんだよな。

 確か、侯爵だとかいう爵位を名乗っていた脱走兵を、王都から送られてきた銃の試射ついでに処刑した時の直後あたりから、本気にしだす奴が現れたんだけっか? そんなに本気にしなくても良いのに。


「アロルドさん。王都からエリアナって人の手紙が届いてます」


 また、エイジがやって来た。今度は手紙を持ってきている。


「内容は?」


 自分で目を通すのは面倒なのでエイジに全部お任せです。


「えーと――銃の増産体制が完全に整ったので、一日で五十丁は生産できます。弾薬に関しては精度を出すのが難しいので、量産は困難。あと、王都の冒険者と義勇兵を送る手筈が整ったので送ります。私もその内に其方へ向かうので、その際はよろしく。追申、寒くなってきたので防寒着とかも送ります。風邪を引かないように――だそうです」


 まぁ、秋だしね。秋が終われば、冬だし大変だね。さっさと、帰りたいもんだ。

 それに、ここには美人さんがいないから、目の保養が出来ないのが辛い。まぁ、その内エリアナさんが来るって言うから、大丈夫だろうけどさ。


「師匠、すいません。揉め事です」


 次はジーク君が部屋のドアを開けて、声をかけてきた。

 面倒事なら、ジーク君が対応してよと思うけれども、そういうわけにもいかないのかね。面倒くさいなぁ。


「何が原因だ?」


「何がというより、誰がです。傭兵がまた揉め事を起こしました」


 またかよ。本当に面倒くせぇ。

 最近になって、どこで噂を聞きつけたのか、傭兵が砦に集まってきやがる。

 俺はいらないんだが、指揮官さんが必要だって言うから、雇ってはいるけど、問題ばかり起こすんだよな。


 俺はウンザリしながら揉め事があったという場所に向かうと、そこでは一方では女の人がすすり泣き、一方では傭兵らしき男が冒険者に囲まれて憮然とした表情をしている。痴情のもつれって奴ですかね?


「女性が、そこの傭兵に乱暴されそうになったらしいです」


 あ、そっちですか。なるほど、そういう話なのね。

 うーん、女性に乱暴しようとしたのか、確かに目の保養は欲しいと思ったけど、そういうのって俺の好みとは違うんだよなぁ。もっと優雅に女の人とは接して欲しいもんだ。

 まぁ、それは置いといて、女の人に乱暴しようとする奴は許せんよね。強姦野郎がいると空気が汚れるから殺しとこうか。


「ちょっと待ってくれよ、大将」


 おや、傭兵の親玉らしき奴が出てきましたね。


「まだ手を出してねぇんだから、ここは見逃してくれねぇか?」


「何を言っているんだ?」


「いやいや、別におかしなことは言ってねぇだろ? まだ、コイツは突っ込んじゃいねぇんだ。未遂だよ、未遂。なぁ、そうだろ?」


 冒険者に囲まれている傭兵が頷く。未遂でも関係なくないか?

 つーか、おまえが決めることじゃなくね? 何だか知らんけど、空気的には俺に決定権がありそうだし、俺が殺すと決めたら殺すんだけど。


「俺達はアレだよ。欲求不満て奴なんだ。雇われたは良いものの戦も何もなくて、女を抱く機会もないしよ。退屈してるせいで、うっかりとこんなことをしちまっただけなんだ」


「そうか。それは大変だな」


「そうなんだよ。大変なんだよ。だから、ちょっとぐらい見逃してくれよ。まだ何もしてないのに身内が処罰されたら、俺達だって面白くないしさ。そっちだって、俺達と仲良くやりたいだろ? アンタは若いし、言うことを聞いてくれる奴らだって少ないんだから、金さえ払えば言うことを聞いてくれる俺達のような奴らは大事だろう?」


 傭兵の頭っぽい奴が何か言っているけど、どうでも良いかな。

 まぁ、殺して欲しくないってのは分かったし、殺さないでおいてやろう。


「わかった。殺すのは無しにしておこう」


 というわけで、ジーク君、剣。

 うん、何も言わずに自分の剣を差し出してくれるということは俺の考えていることを理解してくれているということだね。こういうことには、なるべく俺の剣は使いたくないんだよね。


「おい、ちょっと――」


 俺はジーク君の剣を抜く。細身で頼りない剣だけど、これからの作業には不足は無い。

 傭兵を囲んでいた冒険者が一斉に退いて道を開けてくれたので、俺は真っ直ぐに傭兵の許へと歩き出す。


「おい!」


 傭兵の頭が何か叫んでいるけど、俺は無視してジーク君の剣を傭兵に向かって振り下ろした。

 俺の剣は傭兵の股間を縦に裂く。正確にはナニを縦に裂いたわけだけど。まぁ、何でもいいか。


「これで女に困らんぞ。もう欲求不満でも大丈夫だろう」


 女の人とどうこう出来る能力は無くなったから、女性問題で悩むことも無くなって良かった良かった。

 根こそぎ斬り落としても良かったんだけど、そうすると、小便をするのにも困るらしいから、根本くらいは残るように、縦に斬ってやったんだけど、どうだろうか。

 傭兵は股間から血を噴き出させながら、悲鳴をあげて、のたうち回っているけど死にはしないだろう。

 俺は傭兵の不潔な股間を斬った剣をジーク君に返した。こういう不潔な物を斬るのに、俺の剣は使いたくないんだよね。


「あんた、どういうつもりだ……」


「どういうつもりもなにも、罰を与えないわけにはいかないだろう。殺さずに置いてやったんだ。感謝するべきところだと思うが?」


 俺は傭兵の頭が何をプンプンしているのか分かりませんね。

 まぁ、傭兵の気持ちなんて分かる必要もないから、どうでも良いか。

 それよりも、のたうち回っている傭兵を片づけてくれませんかね。見苦しいんで。


「そいつは片づけておけ。ああ、そうだ。他にも欲求不満の者がいるなら、俺に言え。適切な処置を施してやろう」


 女の人が襲われたら可哀想だし、欲求不満をなんとかしてやるのも大事だよね。

 傭兵の頭にそういうことを伝えて、俺はその場を去りました。


「いいんですか? 傭兵が敵に回るかもしれませんよ?」


 俺が揉め事を片づけて自室に帰ろうとする途中、エイジがそんなことを言ってきた。

 どうして、傭兵が敵に回るかが分からない。いや、そもそも傭兵は金次第で平気で裏切るような人種だし、敵に回ることもあるか。

 だけどさ、別に敵に回っても良くない?


「別に構わんだろう」


 つーか、金で動くやつとか信用できないんだよね。

 こっちが金払うから頑張ってって感じで兵士にするのと、金を払ってくれれば兵士になるぜって奴らは何か違うよね。人品が卑しいって感じ?


「いや、でも、そうすると兵士が……」


 エイジが何か言いたそうなので、俺は銃を持ち射撃訓練をしている村人や町人を指差した。


「あれはなんだ?」


「ええと、民間人かと」


「いいや、兵士だ」


 何を言ってんだろうね、コイツは。


「武器を持って、戦力になるのであれば、兵士だろう?」


「いや、でも戦闘経験が――」


 エイジが何か言おうとした瞬間、銃声が鳴り響いた。射撃訓練の最中だから当然だろう。


「戦闘経験は必要か?」


 とりあえず、的として置いておいた鎧が穴だらけになっている。威力はあるし、訓練の成果が出ているのか狙いは正確だ。

 別に戦闘経験なくても、銃で遠くから撃ってれば大丈夫だと思うんだけどな。

 俺とかには効かないけど、大半の兵士には効くようだし、傭兵に金使うより、その金で銃を用意して、民間人に持たせた方が安上がりで使いやすいと思うんだけど。


「武器が変わり、戦い方が違う物になったのだから、戦闘に対する考え方も変える必要があると思うがな」


「いや、それは……」


「傭兵が頼りにされるのは、戦闘経験があり鍛えられているからだ。だが、銃を持った兵士と比べて、そこまで戦闘力に差があるとは思えんがな。そこらから大量に農民を拾ってきて、銃でも持たせた方がよっぽど安上がりで、効率よく戦果を挙げられると思うが?」


「まぁ、確かにそういうことも考えられますけど」


「ここから先は、どれだけ大量の兵士を集められるかが重要だ。それと銃だな。銃があれば、子供でも兵士として使える。極端な話、国の人間を全て兵士に出来るぞ」


 弾を込めて、引き金を引けば、それで弾が出て人を殺せるんだから、楽勝だよね。

 剣とか槍とか弓なんかじゃ、鍛えなきゃいけなかったり、元の体格が重要になったりするけど、銃はそこまで鍛えなくても使えるしな。

 傭兵に頼るとか時代遅れだよ。これからは、大量徴兵の時代だね。そこらにいる奴らを全員兵士にして銃を持たせて突撃させようぜ。

 銃が足りなかったら、二人一組に一丁の銃で突撃させて、片方が死んだら、片方が死んだ奴の銃を持って突撃させるって感じに、どんどん行こう。兵士なんか畑で取れるだろ。


「いや、でも傭兵を切り捨てるのは……」


「金で動く奴らなどいらんだろう。そもそも、傭兵を過大評価しすぎだ」


 よくよく考えると奴らって、戦争なんかしたことないんだよね。やっていることと言えば、貴族の私兵代わりで領地の山賊とか盗賊の討伐をしているくらいだしさ。

 ちゃんとした戦争なんか、ここ数十年は無いから仕方ないけど、あいつらって玄人っぽい感じを出しているけど、その程度なんだよね。所詮はゴロツキだよ。


「……まぁ、確かに俺の知る限りでも、マトモに戦わない時もあったなんて話は聞いたことがありますけど」


「どんな話だ?」


「えーと、報酬を釣り上げるために、敵側の傭兵と共謀して戦いを長引かせたり、お互いに怪我しないように、攻撃が当たっていないのに、やられたふりをしてやり過ごしたりとか……」


「ふむ。その話が本当ならば、やはり傭兵はいらんな」


 そんな信用ならない奴らを味方にはしたくありません。近いうちに皆殺しにしましょう。

 いやぁ、良い話を聞いたぜ。思ったより役に立つなエイジは。


「でも、居た方が良いんじゃないかとも思いますけど。いなくなると、民間人の軍事徴用が激しくなりますし……」


 なんだよ、やっぱり必要だとか言うわけ?

 俺は傭兵みたいな野蛮な奴らは嫌いなんだよ。つーか、金次第で忠誠を誓う奴らとか嫌い。

 忠誠を誓ってくる奴に俺が金を払うのは嫌じゃないけど、乞食みたいに金を無心してくる奴らとか品性なくて嫌だろ?

 今後は愛国心を胸に俺の命令に従って、命を投げ出しても戦ってくれるような奴が欲しいね。傭兵は金で雇われているから、ヤバくなったら逃げ出しそうだし、ここぞという場面での信頼性は低そうな感じがするし。

 うーん、エイジにどうにかして傭兵が必要ないってことを教えたいけど、どうしたもんかね。


「お話し中すみません。報告があります」


 おや、斥候役の冒険者がやってきました。なんですかね?


「イグニス帝国の軍勢が、この砦に向かって行軍中です」


「了解した。他の者にも伝えろ」


 そうっすか、イグニス帝国の奴らが来るのね。

 うん、良い機会だ。

 傭兵などこれから先はいらないということをエイジに分からせてやろう。


「さて、戦をするとしようか」


 とりあえず、イグニス帝国の奴らを皆殺しにして分からせるとするかね。





















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