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砦見学ツアー

久しぶりに日刊ランキングに載っていました。

お読みいただきありがとうございます。

 やっぱり早く来て良かったな。良い具合に略奪できたぞ。

 まだ手付かずになっていた人とか物を俺の下に集約できたのは大きいね。

 なんだかんで、とにかく素早く動いたもの勝ちってことでしょう。そう考えたら、俺が先行してきたってナイス判断だと思うんだけど。どうだろうか?


「閣下、言われた通りに北へと逃れようとしていた者達を確保し、連行してきました」


 砦の持ち主だった指揮官さんが俺の所に報告に来た。

 南部貴族の連合軍が負けそうなせいで、農民やら商人が逃げようとしているらしいので、逃がさないために冒険者やら指揮官さんの部下に捕縛を命じてある。

 これから戦争なんだから、人も物もいくらでも必要になるだろうし、それが流出するのは良くないので、南部からは出させない。持ち出そうとしたものは、全てこちらで使う。ついでに逃げようとした人も使う。例外は無い。


「主戦場より北にある主だった町や村は一通り略奪してきたぜ。この辺りの食糧はここにしかねぇ。それと言われた通りに住んでいる奴らも全員連れてきた」


 オリアスさんからも報告を受ける。

 イグニス帝国軍と南部貴族の連合軍は、俺達が今いる砦より、かなり南の位置で戦っているようなので、その間に戦場より北に位置する村とかの物資は全部集めさせてもらいました。

 これでイグニス帝国に略奪されることは無いぞ。進軍の途中で村や町を略奪して食糧を入手できなくなるだろうし、結構良い考えだと思う。

 でも、よくよく考えてみたら、連合軍の奴らが北へ逃げて来た時に食糧とかを貰う場所が無くなってしまうな。

 まぁ、どうでもいいか。弱っていれば、俺の言うこと聞いてくれるようになるだろうし、そもそも逃げてくるってことは負けたってことだし、敗残兵を厚遇する必要も特に無いと思うんで、多少厳しくなっても良いよね。

 仮に厳しくして嫌われても、俺は南部の人間じゃないし、いずれは中央に帰るんで、嫌われても別に困らないしな。

 そういえば、連合軍への補給物資に関してはどうしたっけかな? なんか寝ぼけて、全部奪っちまえとか言った気もするけど、そんなことしたらメシとか無くなっちゃうだろうし、大変だね。まぁ、たぶん言ってないだろうし大丈夫だろ。


「ちょっといいかい?」


 おや、グレアムさん、何か御用時ですか?


「村を襲っている途中で人を拾ったんだけど会ってくれるかな?」


「別に構わんが」


 なんでしょうね。人を拾うとか珍しいこともあるもんだ。俺は死体を放り捨てたことはあるけど、生きてる人間は拾ったことが無いなぁ。落とし物みたいに転がっていたんだろうか?


「入っていいよ」


 グレアムさんはドアの外に声をかける。どうやら、部屋の外で待っていたようだ。

 ドアが開けられ、人が顔を出す。


「失礼します――」


 そいつは入るなり、俺の顔を見て顔面を引き攣らせた。なんか、微妙に失礼だけど、まぁ許そう。

 しかし、変な奴だね。歳は俺と同じぐらいか、少し下かな? なんか肌の色が俺達と違うようだし、どこの人でしょうか?


「見た目からして、ウノと同じ異国人だと思うから拾ってきたんだけど――」


 ウノって誰だっけ? まぁ、グレアムさんの知り合いなら、俺は別に言うことないけど。


「一部の記憶が無いみたいなんで、保護しようと思うんだけど良いかい?」


「構わんよ」


 俺には関係のないことですし。ところで、なんで、そいつは俺に対して怯えてるんでしょうか?

 俺の視線に気づいたのか、更にガタガタ震えだしちゃったしさ。


「え、エイジでです。よ、よよろしく、お願いします……」


 自己紹介してるけど、噛んでるし、絶望顔だし、どうすんのコイツ?

 とりあえず、名乗ってもらったし俺も名乗っておくか。


「アロルド・アークスだ。こちらこそ、よろしく頼む」


 しかし、よろしくするのだから、怯えてもらっていては困るな。よし、決めたぞ。


「せっかくだ。俺が砦を案内してやろう」


 こういう、ちょっとしたことで仲良くなってかないとな。なんか嫌がっているように見えるのは気のせいだろう。


「いや、俺は別に……」


 なんか言っていたけど、俺が首根っこを掴んで引きずり回そうとすると、エイジは大人しくなったので、そのまま案内することにした。俺も暇つぶしになるので悪くない。



 ということで、早速向かった先は周辺から集めてきた村人と町人を収容しているキャンプ。


「難民キャンプじゃん……」


「難民じゃないな。俺達が無理矢理に連れてきた人々だ」


 俺がそう言うとエイジは、ドン引きした顔で俺を見る。難民とか失礼なことを言うなよ、彼らはお出かけ中なだけだ。イグニス帝国の奴らの拠点になると厄介だから、場所によっては家とか焼いたりしてるけどさ。


「食事は基本的にここで出しているから、腹が減ったなら食え。現状、南部の食糧の大半はここに集まっているから、食い放題だぞ」


「大半て……」


 なんだよ、疑ってんのか? 腹が減っては戦は出来ぬって言葉をどこかで聞いた憶えがするから、腹減らないように食糧をかき集めたんだよね。

 戦略的に重要じゃないって話の貴族の屋敷とか城とかからも、食糧やら何やら貰ってきたし、すげーいっぱいあるぜ。ついでに食糧貰いに行ったら、金銀財宝もくれたので有り難い限りです。


 まぁ、集めすぎたせいで余ったら、どうやって元の所に返せばいいか分からなくなったけどさ。金銀財宝も、王国中の食糧を仕入れる代金代わりに使っちゃったから、行方が分からないのもあるんだよね。

 王家に負担してもらうから、俺には関係ない話だけど。


「え、マズくないですか……」


 俺がそのことを話したらエイジはやっぱりドン引きした顔した。

 別にマズくないと思うけどな。

 どうせ、終わったら、王都に帰るし、その後のことは南部の人達が解決すれば良いんじゃないかな。


「ええと、あの人たちは……?」


 エイジが何かに気づいたようで、俺に話しかけてきた。

 エイジの視線の先には貴族の母子が何組かいる。

 えーと、あの人たちはなんだっけ……? 確か、旦那さんが戦場に行ったという人たちだったかな。

 男手がいないのに、一人で家を守ってるのを見て、心配だったから冒険者を引き連れてお宅訪問したんだったけ。

 何を話したかは忘れたけど、『俺についてこないと、どうなっても知らないぞ。帰って来た夫に子供の死体を見せたくはないだろう』みたいなことを言った気がする。

 だって、脱走兵が結構暴れているようだし、何が起こるか分からないじゃん。俺が守ってあげた方が良いと思って、そう言ってやったら、泣いて喜んでついてきたんだったかな。


「もしかして人質ですか?」


 はぁ? 人質って、なに言ってんだコイツ。意味わからん。

 旦那が来たら引き渡すのに、人質も何もあるかよ。


 もういいや、次に行こう。



 ――で、次に案内したのは、練兵場もどき。

 俺の手下の冒険者が頑張っているぞ。ついでに、捕まえた脱走兵とか脱走貴族とかも一緒だ。

 指揮官さんに必死で助命を頼まれたので、貴族はなるべく生け捕りにしている。脱走兵も指揮官さんが寛大な処置をってことで、頼んできたので、犯罪行為をしでかしていない者に限っては許してやることにした。

 まぁ、敵から逃げ出すとかいう真似をしでかしたんだから、それなりの罰は与えるけど。今は、その罰に耐えられるように、俺がちょっと鍛えてあげている。


「……あの人たちは何をやっているんですか……?」


 エイジは訓練中の冒険者の一団を指差した。


「見れば分かるだろう? 走っているんだ」


 何を言ってんでしょうかね、見りゃ分かるだろうに。


「ふむ、六十キロを九十分以下で走りきれと言ったんだが、出来ていないようだ。出来るまでやらせないとな」


 なんか、イマイチだね。なるほど、確かに何をやっているのかって言いたくなるな。

 せっかく、連れてきたんだ。役に立ってもらわないと困るから、もっと鍛えよう。


「……あの、それって時速四十キロなんですが……」


「遅いだろう。俺は六十キロなら一時間かからないぞ」


 なんだろう、そう言ったら、エイジがドン引きした顔になったぞ。もしかして、遅いのか?


 ちょっと気まずいし、場所を変えよう。



 次は武器の製造区画だ。

 武器と言っても、冒険者ギルドの魔法使いが銃弾とか作っているだけなんだけどさ。


「ええと、これって銃弾ですよね」


「なんだ、知っているのか?」


「え、いや、まぁ……」


 弾薬の製造工程を見たエイジが顔を引き攣らせながら言う。

 弾薬を知っているとか、異国人は物知りだなぁ。冒険者ギルドぐらいでしか作ってないかと思ったけど、世間的には普及してるのかな。だったら、ドンドン使っていいんじゃないかな。


「せっかくだ。作っている所を見せてもらうと良い」


 俺はエイジに提案し、弾薬を製造していた魔法使いを一人呼び寄せ、説明させることにした。


「えーと、まずは金属の小さな板を用意します。で、これを魔法で筒状にします」


 魔法使いは、金属加工の魔法を使い長方形の板状の金属片を丸めて筒状にした。

 金属を操る魔法の習得は難しいらしく、完全に才能依存なんだとかで、使える者は極めて少ないのだが、これが出来ないと弾薬が作れない。


「筒の形に合うように円形の底を用意します。それの中央に穴を開けて魔石を埋め込みます。出来た底を、筒に合わせて、魔法で癒着させます」


 簡単にやっているようだが、実際には簡単には出来ないらしい。

 金属加工の魔法は完全に才能で、更に習熟が重要になるらしく、金属片を筒にするのでも十数分以上かかる者はザラだとか。

 オリアスさんも金属加工の魔法は使えないようで、弾薬製造は不可能だという話も聞いた。


「底がついた筒に火生石の粉末を入れます」


「火生石?」


「魔石を加工して作る物質です。特定の起爆条件を満たすと爆発します」


 エイジの疑問の言葉に答えながら、魔法使いはおもむろに火生石の粉末が入った袋を取り出すと、その中身を筒の中に流し込んだ。


「火をつけても爆発はしませんが、危険は無いわけでは無いのでご注意ください」


 そう言って魔法使いは火生石の粉末が入った袋をしまう。なんだか、エイジが考え込んでいるようだが、どうしたんだろうね。


「火生石を詰めた筒に蓋をするように弾丸を置きます。置いただけでは弾丸は不安定なので、金属加工の魔法で口をすぼめて、固定します」


 魔法使いが俺達の前に完成した弾薬を置く。


「これで完成です。今回は上手く行った自信がありますが、魔法を使っているとはいえ全て手作業ですので、たまに失敗はします」


 へー、こんな風に作ってたんだなぁ。興味なかったから知らなかったぜ。


「……あの、銃の方も説明してもらっていいですか?」


 エイジが何だか真剣な表情で魔法使いに尋ねる。俺は興味ないから、別に良いんだけど。構造とか知らなくても、使えりゃよくないかな?


「まず、撃鉄を手で下ろします。すると、引き金が前に出て、固定されます。固定された引き金を指で引くと、撃鉄が元の位置に勢い良く戻り、その勢いで弾倉に装填されている弾薬の底にある魔石を叩き、魔石が反応、火生石を起爆させ、爆発の威力によって弾丸が発射されます」


 はぁ、そうっすか。


「……おかしいだろ。なんで、こんな近代的な銃なんだよ。絶対、無理だろ」


 なんか、エイジがブツブツと言っているけど、俺の知ったことじゃないな。


「……えっと、火生石はどれくらい作れるんですか?」


「魔石から作れるので、魔物さえ狩ればいくらでも作れます。つまりは、この世から魔物がいなくならない限りは作れますね」


「作るのにかかる時間は……」


「魔石に爆発系の魔法をかける程度なので、ほとんど時間はかかりません」


 なんか良く分からないことを質問しているエイジ君。もういいじゃん。次行こうぜ、飽きてきたよ。

『燃水』の説明もしたかったようだけど、もう良いかな。

 そういうわけで、俺とエイジは製造区画を後にして、次の場所に向かった。


 一応、最後になる場所は砦の外だ。

 ここでは、土木系魔法使いが、砦の周囲を工事して回っている。

 数が少ないので、効率重視で大砲が乗った砲台付きの城砦を最優先に建造してもらっている。


「……なにこれ……」


 エイジが呆然とした顔で、土木系魔法使いの働きぶりを見ているけれど、何もおかしいところは無いと思うんだがな。

 数人の魔法使いが同時に魔法を唱えると、高さ五メートル幅三メートル厚さ一メートルの壁が出来てるし、それを隙間なく並べて城壁を造りつつ、別の魔法使いが、石壁に魔法をかけて階段を作り出し、石壁の上に昇って、石壁の上に手すりを作っているしおかしくないと思うんだが……ああ、そういえば、脱走兵とかも驚いていたな。

 土木系魔法使いの数が揃っていれば、もっと良い壁に出来るんだけど。きっと、しょぼさに驚かれていたんだな。連れてきた俺が恥ずかしいぜ。


「あれ、大砲ですよね……」


 エイジが指差した先には、大砲を作成する土木系魔法使いの姿があった。

 〈石槍〉とかいう、石の塊を作り出す魔法を人のいない場所に放ち、その石の塊を回収し、魔法で加工して筒状にしている。


「あれも魔法が使えれば無限に作れて、使用するのも無限に作れるっていう火生石ですか?」


「そうだな」


 俺が肯定すると、エイジが何やら頭を抱え出した。

 そうして、ひとしきり身悶えすると、エイジは顔を起こして、俺を見る。

 何か言いたげだが、何を言いたいんだろうか? 良く分からん。


「もしかして、あの工兵も、もっといるとか?」


「工兵?」


 土木系魔法使いを指差しているけど、意味が分からんな。


「ええと、工兵っていうのは陣地を造ったり、色々と工事する兵士で……いや、それよりも、あんな事を出来るのが何人もいるのかっていうのが疑問で――」


「あと百はいるな」


 俺がそう言うと、エイジの顔が青を通り越して、真っ白になった。なんだか忙しい奴だね。もう少し、穏やかに生きれないものだろうか。


「……これ、どうかんがえても無理じゃん……ふざけんなよ、アイツ……」


 エイジが何だかブツブツと言いだしたので、気持ちが悪い。あんまり仲良くしたくないね、こういう奴とは。そういえば、どういう趣旨で案内をしようとしたんだっけ?

 ……おや、いつの間にか、エイジが立ち直って俺を見てるね。なんだろうか、なんか言いたいことがありそうな様子だけど――


「アロルドさん! これからも仲良くしてください!」


 え、嫌なんだけど。

 なんだか、急に愛想良くなって、挨拶してきたし気持ち悪い奴だな。

 なるべく関わらんでおこう。そうしよう。


 でも、工兵って言葉は結構良いな。

 土木系魔法使いは響きがイマイチだし、これからは魔法を使う工兵だから、魔法工兵とでも呼ぶとするか。

 早速、グレアムさんやオリアスさんに話しておこう。

 エイジに関しては――


 まぁ、放っておいても良いかな。

 でも、異国人だし、俺の知らないこととか色々と知っていそうだから、俺の助言役にでもなってもらうのもいいかもしれんし、扱いに悩むけど、どうしたもんだろうね。まぁ、すぐに決めなければいけないものでもないし、適当に考えるとしますかね。























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