出陣
なんか、いつの間にか王国に攻めてきたイグニス帝国の軍隊をなんとかすることになってしまったわけだけど。さて、どうしようか。
国王陛下からも書状が届いていて、それには俺の権限やら、国からの支援が書いてあるはずなんだけど――
「特にたいしたことは書かれていませんね」
ジーク君が読んだ感想を言ってくれました。
たいしたことは書いてないけど、字が書いてあるので、それで充分だと思うけどな。
何が不満なんだろうか。
とりあえず、俺が読んだ限りだと――
兵力には余裕が無いので、王家や他の貴族家からは出せないが、俺の裁量で自由に集めていい。
今の状況では金は出せないが、使途を明記した書類があれば、戦後に支払う。
物資に関しても、俺の裁量でなんとかするように。
南部の貴族と指揮権で揉めた際には、現地の貴族と相談して解決しろ。
うん、まぁ充分だろう。特に問題ないと思うんだけど、何が不満なんだろうね、ジーク君は。
「これだと何も出来ないと思うんだけど、アロルド君のお兄様はアークス伯爵家の私兵を動かしてくれるのよね?」
エリアナさんが質問してきたので、答えてあげましょう。えーと、俺の家の兵は五百くらいだったかな? そのくらいは養ってると思ったけど、実際に動かせるのは三百が限界だって、兄上は言ってたな。
「心許ない数だが、俺に預けてくれるそうだ。後は、いくらか金も融通してくれると言っていたな」
「それでも少し足りない感じだねぇ。冒険者は当然、連れていくけど、それでもマトモに戦をやれる人数じゃないねぇ」
グレアムさんが、そう言っているけど、本当かね?
つーか、数が足りないなら簡単な方法があるでしょうに。まぁ、基本的にお任せだから偉そうなことは言わずに提案してみましょう。
「足りないなら義勇兵でも集めれば良い。金を払えば、喜んで兵になってくれる者もいるだろう」
「それだったら、傭兵でも使った方が良いと思うけど?」
「傭兵は金に五月蠅いから駄目だ。それに待遇に文句をつけてくるからな。一般人なら、ゴネ方も知らんだろうし、普通の兵士の待遇を知らんだろうから、文句のつけようもない」
つーか、傭兵って臭そうだから嫌なんだよ、俺。あいつらって風呂とか入らなさそうだし、病気もってそうじゃん? 見つけたら皆殺しにしようぜ。
「そうは言っても、戦闘経験のない一般人がどこまで使えるか……」
「そのために銃があるだろう?」
俺がそう言うと、グレアムさんは何か納得したような顔になった。
適当にバンバンやっててもらって、最後は肉の壁になってくれりゃいいかなぁと、俺は思ったんだけど、グレアムさんは、なんか思いついたのかな? じゃあ、お任せってことで。
「義勇兵を集めるお金はどうするのかしら? というか、お金を払って集める義勇兵とか聞いたことが無いのだけれども」
エリアナさんはお金の心配をしていらっしゃるようだけど、俺達にはケイネンハイムさんという、お財布がいるじゃないですか。
それと、エリアナさんは聞いたことが無いとか言ってるけど、それなら俺達が先駆けとなれば良いんですよ。先駆者です、発明者です。
「ケイネンハイムから貰えばいい」
「貰うって……借りを作ることになるんじゃないかしら?」
「借りるとは言ってない。貰うんだ。奴も協力は惜しまないと言っていたのだし、存分に使わせてもらおう」
だって、そういうことじゃないのかな? 良く分からないけど、とりあえずケイネンハイムさんの名前を使って、色んな人からお金を貰おう。
「……それは、そうね。うん、そうしましょう。いっぱい使っちゃいましょう!」
おお、エリアナさんが凄く喜んでいるぞ。美人さんが喜んでくれるのは嬉しいね。
「いや、あの、それって借金になるんじゃ……」
「良いのよ、借金上等。借りて借りて借りまくるわ。そして、返さない! 何があっても返さない! 文句を言って来たら戦う!」
「それって、犯罪じゃ……」
「国と民のために戦う私たちを犯罪者なんて呼ぶのは許されないわ!」
なんだか、エリアナさんが良い空気吸ってるね。しかし、ジーク君は何が心配なんだろうか?
そもそもケイネンハイムさんは、どんな協力も惜しまないようなことを言ってたし、それをパーティー会場にいた貴族の人達は聞いてるよね。証人もいっぱいいるんだしさ。
どんな協力も惜しまないわけなんだから、何やっても大丈夫だろ。駄目だったら、後で謝れば良いだけだし。まぁ、謝るだけだけど。
「えぇ……」
ジーク君がドン引きしてるけど、意味わからんね。
まぁ、ジーク君も色々と思うことがあるんだろうし、別に良いか。
「んじゃ、とりあえず適当な貴族の家に行ってカンパしてもらってくるわ。とりあえず、ケイネンハイム大公と王家の名前を出しときゃいいか? なんかあったら、そのどちらかに文句を言えって感じでよ」
オリアスさんが、ようやく口を開いた。
この人、話し合いの途中、一言も口を開かなかったんだけど、ちゃんと理解してるのかね。俺は理解してなくても、エリアナさんとかジーク君がいるから大丈夫だけど。
「お前に任せる」
まぁ、大丈夫でしょう。良い大人なんだしさ。悪いようにはしないと思うしさ。
「じゃあ、他の人の役割も決めておきましょうか」
そう言って、エリアナさんが仕切り出す。俺は適当に頷いてるだけで問題なし。みんな優秀なんで、大丈夫だろ。で、色々と決まったようだけど、俺には基本的に細かい仕事は回ってこないので楽チンな感じだった。
しかし、いつまで話し合いしてなきゃならんのかね。俺としては、さっさと戦に行った方が良いような気がするんだけど。なんだか大変みたいなことを皆言っていたしさ。うーん、そうだ――
「俺は先行して南部に向かおう」
別にたいした役割もなさそうだったから良い考えだと思うんだけど、どうだろうか?
陛下も早く行けみたいなことを言っていたしさ。……言ってたかな?
まぁ、どうでもいいか。とりあえず行けって言われたの俺だけだし、俺が行っとけば文句は言われないよね?
「いや、それは、ちょっと……」
なんか、みんな微妙な顔をしてるんだけど。
「ここで全ての準備が終わるまで待っていたら遅れるだろう? 準備と実際の行動を並行して行うべきだ」
俺は良い考えを言ったつもりなので、ゴリ押ししてしまいました。
で、その結果――
「じゃあ、行くか」
先行して、俺と二百の兵で南部へと向かうことになりました。
内訳は冒険者とアークス伯爵家の私兵が半々。冒険者は全員精鋭で伯爵家の兵も割と腕に自信がある者達だ。冒険者に関しては前衛が五十名、斥候役が二十名、魔法使いが三十名と更に分類できる。
ついでに全員に銃を持たせているが、それに関しては、どこまで役に立つかは分からない。
それぞれの指揮に関しては、グレアムさん、オリアスさん、探知一号、あとはオマケでジーク君を連れていくので問題ないだろう。
とりあえず、これで南部へ向かうことになったのだが――
「……それで、行くんですか?」
出発の直前、ジーク君が俺の愛馬のドラウギースに微妙な視線を向けてくる。
最近、世話が面倒になってきたのでジーク君に任せているのだが、どうやらジーク君は馬嫌いのようで、どうにもドラウギースを気に入らないようだ。
「絶対やめた方が良いですよ。どう考えても、それ馬じゃないです」
何言ってんだろうね。確かに他の馬より二回りくらいデカいかもしれないけど、見た目はどう見ても馬だろうに。つーか、万が一、馬じゃなくてもドラウギースに乗るしかないんだよね。
「待たんか。出陣するのに武具を忘れる奴がおるか!」
ザランドの爺さんが弟子を引き連れて、出発する直前の俺達の所へやって来た。
ジーク君は爺さんの弟子が数人がかりで持ってくる武器を見て、ゲンナリした顔をしているけど、そういう顔すんなよ、俺の武器だぞ。
「竜槍ゾルフィニル。我ながら、見事な出来栄えじゃ」
爺さんはウットリとした顔で漆黒の槍を見ている。だけど、アレって槍なのかね。
竜槍ゾルフィニルは大黒竜ゾルフィニルの角を加工して作ったものらしく、やたらとデカい。
角そのものの形をした円錐状の穂先は長剣並みの長さがあり、大きさも相当な物で、そのせいで想像を絶するぐらいに重い。更に、その重さに耐えられるように柄をゾルフィニルの骨で作ったら更に重量アップ。落としただけで人間の頭を割れるくらいに重くなってしまった。
爺さんの弟子も、それなりの力自慢のようだけど、それが三人がかりで持ってくるくらいだ。まぁ、それくらいの槍じゃないと、俺が振り回した時の力に耐えられないんだけどさ。
竜槍ゾルフィニルを手に持ち、黒竜鎧を身につけた状態だと重さに耐えられず普通の馬は死んでしまうんで、ドラウギースが馬じゃなくても、俺の重さに耐えられるコイツに乗るよ。まぁ、馬なのは間違いないから、そんなことを気にする必要はないんだけどね。
さて、武具も持ったし、出発しますかね。
出発前に王都を一通り回って行ってくるってことを王都の全員が分かるようにしたし、陛下の耳にも伝わったろうから、出発しても大丈夫だろう。
ただ、王都の人達が鎧姿の俺を見てビビったのか、陛下にするように跪いてたのは傷つくなぁ。俺はもっと友好的な感じでやっていきたいのにね。
まぁ、いいや。戦場で活躍すれば、印象も良くなるだろう。というわけで――
「出陣!」
俺を先頭に二百名が王都を週発した。
向かう先は王国最南端のコーネリウス大公領。
倒す相手はイグニス帝国。
手段については何も言われていない。ということは何をやっても良いということだ。
つまりは、自重しなくても良いということだろう。なら、俺は好き勝手にやってみようかなと思う。
あまり、好き勝手に色々とやったことはないので、上手くできるかは不安だけれど、まぁ失敗したら、その時は、その時だ、とにかく頑張ってみようかな。




