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南征将軍アロルド


 パーティーが始まったのは良いんだけど、なんか色んな人からの視線を感じるのはなんだろうね。


 まぁ、俺はお酒飲んだり、ご飯食べたりで忙しいんで、あんまり気にならないんだけど。とはいえ、つまらないのはつまらないんでなんとかならないかな? パーティーと言えば社交の場なのに俺の所には誰も近寄って来ないんだけど。

 みんな、俺に対して様子見の感じだし、これだと楽しくないんだけど。


「アロルド……食べ物貰ってきた……」


 キリエはちょこまか動き回ってて可愛いね。みんな、キリエくらい俺に親し気に振る舞ってくれればいいのにさ。


「アロルド君、お酒貰ってきたわ」

「エリアナさん、飲むのはいいですけど程々にしてくださいね」


 エリアナさんとカタリナが仲良く並んでやって来た。手には酒瓶を持っている。

 うーん、持ってくる途中で、誰かに声をかけられなかったんだろうか?


「声をかけられたりはしなかったか? 二人とも美人だから心配なんだが」


「アロルド君の女と見なされている私たちに声をかける命知らずはいないわ」


 はぁ、そうなんですか。俺の女ってのが良く分からないけど、まぁ変な男に引っかからなかったら別に良いや。


「エリアナ……」


 おや、エリアナさんのお兄さんっぽい人がやってきましたね。いつも、エリアナさんにはお世話になっているし挨拶しておいた方が良いかな。


「あら、どちらさまでしょうか?」


 あれ? エリアナさん知らない人ですか? なんだ、家族じゃないのか、だったら挨拶しなくてもいいかな。


「……アロルド殿、エリアナと少し話をさせてもらってもいいだろうか?」


「駄目だな。なぜ、エリアナを見ず知らずの男と二人きりにさせなければいけないんだ?」


「エリアナは私の妹だぞ」


 あ、そうなの? エリアナさん、そこんとこどうなんだろうか?


「いいえ、知らない方ですわ」


「だそうだ、あまり付き纏うような真似をすれば、こちらにもそれなりの考えがあるが?」


 俺は保護者なんで、不審者をぶちのめしても良い筈です。っちまいますよ?


「っ、今日の所は失礼させてもらう」


 なんなんでしょうね、あの人。危ない人がいるようだし、気をつけなきゃな。


「いやはや、イスターシャ家の若君も中々に必死のようだ」


 おや、どちらさまでしょうかね。知らない人が話しかけてきましたけど無視しておきましょう。初対面の相手に親し気に話しかけられたくないんだけど。


「エリアナ嬢の学園退学と実家追放の件で、彼にも良くない噂が流れているようでね。何でも、優秀な妹を追い出すために一計を案じたとか」


「そうか、どうでもいいんで消えてくれ。そういう話を聞きたいわけじゃない」


 もっと華のある話がしたいんだよね。どこの誰だか知らないけど、楽しい話をしてくれよ。

 見た感じ、四十代くらいのハンサムなオッサンだけど、いい歳なんだから空気を読んで欲しいな。


「おや、つれないね。あまり機嫌が良くないのだったら、私も今日の所は失礼させてもらおう」


 なんなんだろうね。あの人、訳わからない話をして帰っていったよ。


「あの方は東部のケイネンハイム大公ね。王国で一番お金を持っている人よ」


「そうなのか?」


 エリアナさんが説明してくれました。お金持ちなら、仲良くしておいた方が良かったかな。まぁ、過ぎたことは気にしません。


「東方の貿易に関する利権の大半を握っている人だから、もしかしたら王家よりもお金を持っているかもしれないわね」


 へぇ、そりゃ凄い。機会があったら、仲良くしておこうかな。良い人そうだしさ。でもまぁ、そうそう会うことは無いと思うけど。


 しかし、アレだね、ケイネンハイムさんが来てから、俺に話しかけようかなって雰囲気の人が多くなってるんだけど、どうしたのかね。ケイネンハイムさんが会場のあっちこっちに顔を出して色々と喋ってるようだけど、何か関係があるのかね?


 おや、そんなことを考えている内に、また誰か来ましたね。


「初めまして、アロルド殿、私は東部の――」

「社交の場で顔を合わせるの初めてですな。東部の――」


 うーん、なんだか東の人が、どんどん話しかけくるなぁ。まぁ、気安い感じの人が多くて良いんだけどさ。


「いやはや、お若いの大したものだ。私も男子としては武功を上げたいものだが、剣を振るのはからっきしでね」

「私もだよ。私は金の計算くらいしか取り柄が無くてね。小銭が落ちる瞬間は見逃さないのだが、剣となったら、子供の太刀筋ですら見切れないんだ」


「でしたら、良い護衛が必要でしょう。俺の所には良い教師がいるので、領民を何人か送ってくれれば、それなりの戦士には育てますよ」


「それは良いですな。東部の民は温和な者が多く、争い事が苦手でして」

「いっそ、冒険者ギルドの支部を用意してもらうのも良いかもしれませんな。西部や南部のように魔物は多くありませんが、いないわけでないので」


 困ってるなら助けてあげないとな。えーと、エリアナさんは――


「でしたら、いくつかプランを用意して、お送りしますわ。それと、いくつかギルドの方でオススメの商品があるのですが、いかがですか?」


 なんか、宣伝してるね。ギルドの経営に関してはエリアナさんに任せてるから良いんだけどさ。

 俺は適当に分かったフリして頷いてようっと。

 俺としては困ってる人が助かればいいし、そのついでにお金を貰えるなら、別に何でもいいかな。


 エリアナさんが丁寧に説明しているせいか、東部の貴族がひっきりなしにやってくるんだけど、どうすんだろうね、これ。

 殿下の婚約披露のパーティなのに、この人らは殿下の方に行かないで、俺の方に来てるんだけど、お祝いの言葉は言ったのかな? まぁ言ったんだろうし、別に良いか。

 殿下と陛下に、その取り巻きの一団が俺の方を見てるんだけど、なんだろうね。とりあえず、『フッ』て、笑っておくか、いつもの笑顔で通じる心と心って奴だね。まぁ、向こうは笑顔になってくれなかったから、通じてないかもしれないけど、たぶん通じてるから大丈夫だろう。

 あと、なんかケイネンハイムさんが、遠くから俺に向かって親指を立てて爽やかな笑顔を浮かべてるんだけど、なんなんだろうか、気持ち悪いんだけど。

 あの人って、エリアナさんの話だと東の方のボスなんだよね。東の人が、俺の所に集まってきてるんだから、こっち来ればいいのに、何してんだろうか?

 呼んだ方が良いかもしれんし、ちょっと近づこうかね――


「申し訳ありません! 南部大公より火急の報せです!」


 会場の入り口が、なんか五月蠅いけど俺には関係ないことでしょう。でも、騒がしくなっちゃったから、ケイネンハイムさんの所に行くのは諦めて、お酒でも飲んでいようかな。


  「王国南部にイグニス帝国軍が襲来! 繰り返します、王国南部にイグニス帝国軍が襲来! 既に王国最南端は帝国の手に落ちました!」


 グビグビ、グビッチョ。うーん、ウィスキーを水のように飲むと喉が痛い。でも、高い酒を浴びるように飲める時なんて少ないから、いっぱい飲んでおかないとな。あ、次はワインで。


「なんだと!? 皆の者、パーティーは中止だ。各々、戦の準備をせよ!」


 陛下が大声を出してるけど、まぁ、どうでもいいよね。戦があるみたいなこと言ってたけど、俺は関係ないね。貴族は戦に出る義務があるけど、俺って貴族じゃなくなったみたいだしさ。だから、ゆっくりとお酒を飲んでりゃいいかな。


「お待ちください陛下!」


 おや、兄上が出てきたぞ。どうかしたんだろうか?


「この度の戦どうなさるおつもりですか?」


「どうもなにも、それを今から協議するのだ。卿も早々に屋敷に戻り、兵を集めよ。追って沙汰を下す」


「失礼ながら、それでは手遅れになります。今すぐに兵を出すべきでしょう。まずは兵を動かし、帝国軍の先兵に圧力をかけるのが得策かと。方針を決めるのは兵を南部に派遣してからにすべきです」


 なんか、色々と話してるけどさ、みんな戦したことないよね? すげーな、実体験とか何も無しでも適当なことは言えるんだね。兄上とか、適当ぶっこいてるし大丈夫なんかね。


「そのことも、これから検討するのだ。今、この場で話すことではない」


 おっと、陛下が帰っていきそうです。


「陛下は南部の民を見捨てるおつもりですか! 我々の動きが遅れれば、遅れるだけ南部の民は苦しむのです! 早急に兵を送り出さなければ!」


 うーん、見捨てちゃ駄目だよね。助けに行こうぜ! 俺は行かなくてもいいんだろうけど。


「そのような物言いをするものではない。余とて心苦しいが、軽率に動いては何が起こるか分からん。事が事だけに慎重にだな――」


「でしたら、我が家にだけでも、出陣の許可を! アークス伯爵家の軍勢を率い、侵略者たる帝国を打倒し、南部の民を救い出して見せます!」


「確かに伯爵家の私兵だけであるならば、大勢に影響は無いが……」


「私が向かえば、中央貴族の面目も立ちます! 南部の民と貴族に今後百年、助けを寄越さなかったことを恨まれ続けるおつもりですか!? 薄情者と呼ばれ続け、子孫に恥をかかせるおつもりか!」


 兄上、なんか凄く調子が良いんだけど。酔っ払ってるのかな? お酒は程々にしようぜ。このパーティー会場には国中の貴族がいるんだしさ、変なこと言ったら末代まで伝わっちゃうぜ。

 あ、陛下もお酒飲んでるんだったら、変なことを言っちゃうかも。ヤバいな、国中の貴族が見てる前だから、言動に気をつけないと大変なことになりそう。一生、変な渾名あだなで呼ばれそう。


「言葉が過ぎるぞ!」


「国と民を思う言葉に過ぎることなどあるものか!」


 なんか、荒れてますね。兄上は元気そうだけど、父上は……泡吹いて倒れてますね。まぁ、母上が必死に介抱してるから大丈夫でしょう。

 ケイネンハイムさんが白けた顔で帰りたそうにしてるのはなんだろうね。結構、面白い見世物だと思うんだけど、最後まで見たくないのかな?


「……もうよい、卿の国と民を思う気持ちは分かった。アークス伯爵家が南部へ向かうことは許可しよう。だが、卿が兵を率いていくわけにはいくまい? 卿は伯爵家の跡取り、戦場で命を落とすようなことがあってはならんだから」


「その点については御心配なく、我が家には、この国の誰よりも優れた武人がおります。私の弟であるアロルド、あの者に任せれば何も問題はありません」


 おや、みんなの視線が俺に向かってますね。なんでしょうか?

 とりあえず、グラスの中のワインを飲み干して、グラスを置いて――

 で、なんの話だったんだっけ?


「この国において、人同士の戦を経験したことのある数少ない内の一人。攻城戦も籠城戦の経験もあり、個人の武勇も申し分がなく、組織の長としての実績もあります。アロルド以上に、この国で軍を率いるに相応しい者はおりません!」


 良く分からんけど、兄上が褒めてくれてるんで口元がニヤリと上がってしまいますね。

 会場の人達も頷いて、兄上に同意しているみたいだけど、もしかして俺って評価高い系?

 でも、陛下とか殿下は苦虫を噛み潰したような顔になってるけど、なんだろうね。


「それは素晴らしい! アロルド殿なら私も安心ですよ!」


 おや、ケイネンハイムさんが出てきましたね。


「南部の危機は王国の危機。王国の危機があっては、東部の安寧が脅かされる事態にもなりかねません。アロルド殿が王国を守るというならば、東部貴族はアロルド殿に助力を惜しみませんよ。あいにく、東部から南部は遠いので、兵が到着するのは遅れてしまうでしょうが、その代わり、兵以外で私どもの出来ることならば、何でもいたしましょう」


「ケイネンハイム卿……」


 陛下が凄い顔でケイネンハイムさんを睨んでいますけど、嫌いなのかね?


「陛下! そのような者など、信用なりません! どうか、王国騎士団に出陣の許可を!」


 おや、副団長さんが、出てきましたね。なんだか、みんな出たがりだなぁ。大人しくお酒を飲んでるってことは出来ないんだろうか?


「ならん。王国騎士団は我が国の要。そうそう動かすわけにはいかんのだ」


「ですが、奴に戦を任せるわけには!」


 ん? 戦に出るつもりなのかな、副団長さんは?


「やめておいた方が良い。無理だ」


 思わず止めちゃったけど、仕方ないよね。だって、王国騎士団の人って、犯罪者を捕まえるのが仕事だし、戦とかは無理じゃない?


「なんだと!」


「控えよ。陛下の御前であるぞ」


 副団長さんが俺に向かってきそうだったけど、陛下の取り巻きのおじさんが副団長さんを止めてくれました。


「アロルドよ、あまり挑発するな。だが、この者の言うことも、もっともな話だ。余とて、お前に少ない数とはいえ兵を任せてよいのか不安ではある」


 良く分からんけど、指揮官としてやれるかって話? まぁ、大丈夫なんじゃないかな。


「問題はありません」


「そうか……では、その方を将の一人に任じよう。中央貴族の先遣の兵として、南部の諸侯貴族と協力し、務めを果たすが良い。後々に大軍を動かすため、今の段階では満足な支援をしてやれぬかもしれぬが、その方ならば必ずや成果を上げてくれるであろう」


 ん? なんだろうね。俺が戦に行く感じになってない? え、いつの間にそういう流れ?

 陛下はケイネンハイムさんの方に意識が向かってるしさ。


「素晴らしい! 若者を信じ、国の未来を託すという御英断、流石は陛下ですな! アロルド殿ならば、必ずや成し遂げてくれるでしょう!」


 ケイネンハイムさんが俺に近づいて手を握ってくるんだけど、どうしたんだろうかね。兄上も微笑んでるしさ。なんか、周りの人も拍手してるしついていけないんだけど。

 まぁ、楽しそうな人がそれなりにいるから良いとしようかな。俺に向かって、苦々し気な視線を向けてくる人も結構いるけど、まぁ、それは見なかったことに。

 でも、戦かぁ。マジで俺が行かないと駄目なのかな? まぁ、困ってるらしいから助けてやるのが人の道だけど、面倒くさそうだなぁ。


「みな、己が領地に戻り戦の支度をせよ! 王国貴族の誇りを見せる時である!」


 あ、解散ですか? あんまり、お酒飲んでないんだけど、お酒持って帰ってもいいんかしら?


「アロルドには、追って王家より権限を記した勅書を送る。それまで屋敷にて待機せよ」


 はぁ、さっさと帰って飲み直そうっと。なんか、思ったより楽しくなかったしさ。




 ◆◆◆



 で、帰ろうと思ったんだけど――


「アロルド殿、少し時間を取ってもらってもよろしいかな?」


 ケイネンハイムさんに捕まってしまいました。トイレに行っていたのがマズかったようです。トイレの前で待ち伏せされていました。


「すまないが、帰りたいんだ」


 屋敷に帰って、飲み直したいんだよね。もう少し酔っ払いたいしさ。エリアナさんとかも馬車の辺りで待たせてるしさ。


「おや、やはり南征将軍は忙しいのかな?」


「南征将軍?」


「昔からイグニス帝国を撃退してきた将軍はそう呼ばれているのさ。南の帝国を征伐するから南征で、そこから南征将軍と呼ばれるようになった。まぁ、歴史書でしか使われてないけれどね」


 へぇ、そうなんすか。

 それなら、俺は南征将軍アロルドか。うーん、良いのか悪いのか分からんね。つーか、俺って将軍なの?


「南征将軍アロルド・アークス。いや、竜を殺してるから竜殺将アロルド・アークスか。どちらにしても、歴史書に載りそうで羨ましい限りだ」


「……もういいか? 帰りたいんだが」


 面倒だから帰っても良いですかね?


「ああ、すまない。引き留めるつもりは無かったんだ。じゃあ、頑張ってくれ、応援しているよ」


「ああ、ありがとう。では失礼する」


 なんだったんだか良く分からないけど、俺は帰ります。さようなら。


「ああ、言い忘れていたが、私と私の下についている東部貴族は君に対して協力を惜しまない。とは言っても、腕っぷしを要求されるのは困るが」


 でしょうね。なんていうか、東部の人達は戦える気配が全く無いんだよね。

 ん? なんか、ケイネンハイムさんの目が据わってるんだけど、どうしたんだろうか?


「東部は私の王国だ。それだけは肝に銘じておいてくれよ? それさえ忘れずに行動してくれるなら、協力は惜しまないが、私の王国を侵すならば容赦はしない」


 はぁ、そうっすか。ええと、良く分からないんだけど、アドラ王国の中に、ケイネンハイムさんの王国がある? 意味わからないんですけど。


「賢明な君ならば分かってくれていると思うが念のためにな。では、失礼するよ」


 うーん、なんだったんでしょうかね。

 結局の所、ゴチャゴチャやってると東部が困るから何とかしろって話かな。

 でも、ゴチャゴチャやってるのは南部であって、東部とは関係ないと思うんだけど関係あるのかね。あんまり興味ないんで、どうでも良いけどさ。

 とりあえず、お金持ちの人が何でも協力してくれるって話だし、滅茶苦茶、たかろう。今後は何でもケイネンハイムさんに買ってもらおう。


 戦は――まぁ、陛下にも頼まれたことだし頑張ろうかな。なんか困ってるみたいだしさ。

 とりあえず、お金を使って兵隊集めれば、なんとかなるっしょ。冒険者も俺の手下だから使っていいだろうし、結構なんとかなりそうだな。

 細かいことは他の人が考えればいいし、俺は適当に人をぶち殺しまくってればいいだろ。


 うん、何も問題なしだな。今日は帰って酒飲んで寝ようっと。








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