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閑話 アスラズブートキャンプ

本編の展開には関係が無いので読み飛ばしても大丈夫な回です。


 アズマは死にかけていた。


 原因は火縄銃の直撃を受けたためだ。

 戦場で油断していたアズマの過失であり、自業自得なので憐れむものはいない。

 アズマは火縄銃の弾によって、胸をえぐられた傷によって、まもなく死にかけから、死体へと変わった。



 ◆◆◆



「はい、反省な」


 アスラカーズの空間の中、アズマはアスラカーズの前に正座させられ、死因について反省を促されていた。


「火縄銃だから当たらないと思ったろ? あと、威力が弱いとか思わなかったか? まず、それが間違いだ。火縄銃でも三十メートルくらいの距離だったら命中率はそこまで落ちない。威力に関しても、火縄銃の銃弾の初速は拳銃より上だし、口径も大きいから、近距離で食らうと致命傷になるのは当たり前だよな。それを古臭い武器だからと甘く見たお前の落ち度だ」


 確かに甘く見ていたので、アズマは反論しがたかった。


「じゃあ、もう一回な。次も同じシチュエーションで、関ヶ原の合戦で敗北した西軍の武士の一人となって落人狩りから逃げるって設定でいくぞ」


 アスラがそう言うと、空間が変化し、木が鬱蒼と生い茂る山の中へと変わり、アズマの服装も落ち武者といった感じの物に変化した。


 木々の向こうから松明の明かりが見え、アズマは武装した農民がやってきたことを悟り、すぐさま行動を開始した。

 この空間でならば、死んでも復活するとはいえ、痛みは感じる。

 アズマは痛みを避けて生き残るために農民たちに背を向けて走り出した。



 なぜ、アズマがこのようなことをしているかと言えば、異世界に転移するためである。


 もともとは地球の平凡な高校生だったアズマは、ある日突然、神を名乗る男によって、チート能力を与えられ、異世界に転移させられた。

 もともと、ファンタジーに関心があったアズマはそれを喜び、異世界で気ままに暮らそうと思いたって、異世界の定番ともいえる冒険者ギルドに向かったのだが、そこで運悪く、最悪の相手とエンカウント。

 最悪の男アロルド・アークスと出会ったアズマは、アロルドの弟子のジークフリートによって頭をかち割られ死亡。異世界に転移してから二時間ほどのことだった。


 あまりにも見事な死にっぷりに、笑いつつも哀れを感じた異世界の神アスラカーズによって、アズマは二つの選択を用意させられた。

 それは『元の世界に帰るか』『アスラカーズの管理する別の異世界に転移するか』というものだった。

 異世界での生活に未練があったアズマは迷わず後者を選択した。


 だが、それが間違いの始まりだった。


 アスラカーズ曰く


『平凡な人間を転移させることは、優秀であるのにも関わらず転移出来ずに燻っている奴に悪いので、平凡なままでは転移させられない』


『よって、お前を平凡では無くするために、俺の使徒が受ける新人訓練プログラムであるアスラズブートキャンプに参加してもらう』


 それを何となく受け入れてしまったために、アズマにとっての悲劇が始まった。

 新人訓練プログラムと聞いて甘く見たのだろう。だが、その内容は平和な日本の高校生が行うには過酷極まりないものだった。


 アスラズブートキャンプ――その内容はアスラカーズの力によって、地球の世界史に出てくる主要な戦場を追体験させられ、その中で生き残るというものだった。

 まともに喧嘩もしたことが無い高校生が、いきなり戦場に放り込まれたとして何かができるわけがない。当然、アズマは何度も死んだ。

 だが、アスラズブートキャンプは新人訓練であるため、失敗も許されるので何度死んでも復活できる。

 アズマは十回ほど死んだ後、ようやく人を殺すことができた。最初の頃はアズマも殺人に抵抗があったが。自分が百回以上死に、自分も合計で百人以上の人間を殺した頃には、特に何も感じなくなっていた。


 アスラカーズ曰く


『俺の管理する世界の人間は好戦的だからな。いちいち人を殺すのを躊躇ったりしていると自分が殺されるから、それで良い。次は生き返らせてやらんから、せいぜい殺されない方法を身に付けろ』


 正直な所、アズマは転移などしたくなくなっていたが、辞めることは許されなかった。


 せめて、『戦闘じゃなく、内政チート系でお願いします』などとアスラカーズに頼んでみたのだが、それに対してのアスラカーズの返答は――


『内政系だったら、道具も何も無しの状態から単独で原子力発電所を作れるようになるのが最低レベルだな。俺が教師になって、全部教えてやろう。大卒だから、大抵の事は教えられるぞ』


 原子力発電所を一人で組み上げる方法を知っている大学生などいるわけが無いだろうと思い、ついでに、あまりに内容が高度であったために、アズマは内政系を諦めた。

 アスラカーズが教える範囲には宇宙戦艦の作り方やワープ航法などもあり、とてもではないが、平成に生きる平凡な高校生が理解できるようなものでは無かった。


 内政系を諦めたアズマは仕方なくブートキャンプのクリアを目標にして、真面目に訓練に取り組んだ。


 徹底的に実戦ありきだったため、メキメキと実力が上がり、なおかつ、平成日本ではそこまで大きくないアズマでも、過去の世界から見ると充分以上に恵まれた体躯の持ち主であったため、案外、無双できる局面があったりもした。

 身体能力は地球人標準ではあったが、空間内はアスラの世界法則が働くため、苦行点の補正が効くというのも大きかったと言えるだろう。


 ――とは言っても、中々にクリアできる様子は無かったが。


 その理由は、勝者側と敗者側の両方をやらされるためであった。勝者側にいれば、そうそう死ぬことは無いものの敗者側になると死亡する確率が極端に高まる。先住民側で、侵略してきた相手と戦うなどすると、死なない方が難しい。

 相手は銃や馬を持っているのに、こちらは石器で戦うなどした時はアズマは絶望を感じた。


 アスラカーズが言うには、敗北側になってみるのも重要なことで、蹂躙される経験をしておけば、そうそう心が折れることは無くなるのだとか。


 そのように色々な戦場を経験した結果、アズマは確かに平凡ではなくなっていった。

 何千何万もの戦場を経験してきた少年が平凡であるわけが無く、アズマは確かにアスラカーズが言う、異世界転移の条件を満たしつつあった。

 これならば、異世界に転移しても、そうそうやられることは無いだろう。だが、そうなっても、アズマはまだ異世界に転移することは出来ていない。


 なぜなら、アスラズブートキャンプの上級がクリアできないからである。


 アスラズブートキャンプは初級・中級・上級に分かれており、初級は銃が歴史上の戦争で主要な兵器として使われる前まで。中級は第二次世界大戦終結まで。上級は第二次世界大戦後となっている。

 中級まではなんとかなる。特に捕虜に対する人道的な扱いが始まったころには、途中までは必死になって戦い、限界が来たら投降して捕虜になれば、高確率で生き残ることができるという抜け道が存在しているので、案外攻略は容易く、上級になっても途中までは、その方法でなんとかなる場面もある。

 だが、次第にそうはいかなくなっていく。その理由が――


「どう見ても宇宙要塞じゃないか……」


 アズマの目の前には巨大な球体が浮かんでいた。大きさはどう見ても太陽よりも大きい。


『惑星破壊兵器プラネットクラッシャーだ。あれから頑張って生き残れ』


 アスラズブートキャンプの上級は第二次世界大戦後。重ねて言うが第二次世界大戦後であり、そこに上限は定められていない。

 つまりは遥か未来の兵器が出てきてもおかしくないのである。なぜなら、どんなに未来でも第二次世界大戦後には変わりはないからだ。

 エイリアンがやって来て、地球人と戦争してきても未来だから仕方ないし、人間を皆殺しにすることが目的の改造人間の軍団と戦うことになっても未来だから仕方ない。


「これ、クリアさせる気ないだろ……」

『安心すると良い、クリアした奴は何人もいるから大丈夫だ。まぁ、そういう奴らはアメリカ大陸を吹き飛ばせるくらいの連中ばかりだが』


 つまりは、アメリカ大陸を吹き飛ばせるくらいの攻撃力を持っていなければ、アスラカーズの使徒としては新人のままということになる。


「どうしろってんだよ……」


 異世界への転移を目指すアズマの道のりは、まだまだ長そうであった――












上級の攻略法

「無理そうなんで、クリアということにしてくれませんか?」とアスラに頼む。


上級は無理そうなら別のアプローチからクリアするということを学ぶための訓練であるため、上のような手段もあり。中級までで脳筋になりきった頭を柔らかくするためでもあるので、アスラはクリアと認める。



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