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西部の雄



 ツヴァイト少年が変身したっぽいドラゴンを斬り殺した翌日、俺はダルギンとチャールズの馬鹿兄弟と顔を合わせた。

 窓から投げたけれども、ジーク君と探知一号が下敷きになって骨折程度で済んだようだ。その骨折も回復魔法で治っているのだから、健康なはずなのだけれど、二人ともどうにも顔色が悪い。


「わ、我々は今後、どうなるんでしょうか?」


 そんなの知らんよ。未来のことなんて、俺が知るわけないだろ。


「さぁ? 好きにすれば良いだろう?」


 俺としては、こう言うしかないわけですよ、実際。


「ええと、それは今後も我々が、この地を統治するのを認めてくれるということでしょうか?」


「認めるも何も、ここはお前らの土地だろうが、俺がどうこう言う場所じゃない。そもそも、長居する気がないんだ。仕事が終われば帰る」


「そ、そうですか。それは失礼しました」


 前から、そう言ってるだろうが、人の話とか聞かないんだな、コイツら。


「誰が跡を継ぐかだけはハッキリしておけよ。大公になった奴には色々と頼みたいことがあるからな」


「それは、アロルド殿とこれからも付き合いが出来るということでしょうか?」


「まぁ、そうだな」


 別に、俺は仲良くしようとは思わないけど、エリアナさんが仲良くしといた方が良いみたいなことを言っていたし、エリアナさんの言うことは聞いておいた方がいいでしょう。


「……兄は今回のことで自分の未熟を悟った。弟よ、大公の座はお前が相応しい」

「何を言っているのだ、兄者。俺の方こそ未熟なのだから、大公は相応しくない。兄者こそ、大公になるべきだ」


 おや、譲り合いしてるよ。仲良いなぁ。


「ふざけるな! ドラゴンを蹴り飛ばすような男と仲良くできるか! 私はこんな奴とは関わりたくないんだ! 絶対に殺されるだろうが!」

「俺だってそうだ! こんな怪物と仲良くなったら命がいくつあっても足りないだろうが! 俺は小さな領地でも貰って静かに過ごすぞ!」

「きっさまー! 大公家の人間としての責任と誇りはどうしたー!」

「兄者が言えたことかー!」


 仲が良いのは悪いことじゃないけどさ、早く決めて欲しいんだよね。出来れば、もっと建設的な話をして欲しいものだ。

 話が進まないようなので、俺は机を叩いてこちらに注意を向けさせようとしたのだが、力加減を間違って、机を粉砕してしまった。怒られんの嫌だから、知らんぷりしてようっと。

 なんか、馬鹿兄弟の顔が青ざめてるけど、別にたいしたことじゃないよね。そんなことより、面倒くさいから、俺が決めようかな。


「兄の方が次のオレイバルガス大公だ。今後とも、よろしくな」


 普通は一番上の男子が跡を継ぐし、ここは兄の方で良いだろうと思ったけど、なんで兄の方の顔が引き攣ってるんだろうか。弟の方は喜んでるし訳わからん。


「相続の準備が出来たら式典でもやるんだな。出来れば、俺が西部にいる時にやって欲しいものだ」


 式典のパーティーで何か美味しい物食いたいし、ドレスで着飾ったエリアナさんとかも見たいんで、俺がいる時にやって欲しいんだけど。


「ぜ、善処しますが、なにぶん、戦いで町が荒れ……いえ、その、アロルド殿が悪いというわけではなくて、きっと何かの成り行きというものでしょうから、責任が誰にあるかなどと追及するつもりはありません。ですが、その、復興のために金子きんすが必要でして、そういうことをやるのは、ちょっと……」


「無いんだったら、貸してやろう。それなりに金はあるんでな。復興だったら人も必要だろうから、何人か人を出してもいいぞ」


「いえ、その、最初から借金に頼るというのは、ちょっと……」


「俺の好意を無にするなよ。金を貸してやると言っているんだから、借りた方が良いんじゃないか?」


 そんなに遠慮しなくてもいいんだよ。いくらでも貸してあげよう、ただ、キミらは友達じゃないんで、必ず返してもらうけどさ。


「兄者、形だけでも借りた方が良さそうな雰囲気だぞ」

「分かってるが、借りたら最後、返済が滞ったら何を要求されるか分からないんだぞ。そんな輩から借りれるか」


 こそこそ話してんじゃねぇよ! あ、イラッとして強く足踏みしたら、石の床が砕けちまった。マズいことしちゃったんで、笑顔で行こう。


「す、すいません。借ります、借りさせてください! いやぁ、アロルド殿にご助力いただけてありがたいこと、この上ありませんよ。はははは」


 なんか、乾いた笑いなのはなんでだろうね。まぁ、いいけどさ。

 とりあえず、金貸しはエリアナさんに任せるから、俺は別に良いかな。エリアナさんは返すことが無理に近い利息にするとか言ってたな。

 返せなかったら、こいつ等をボコボコにして、財産全部差し押さえる方向性で行くのかな。別にこいつら友達じゃないから、そういうことをしても、そこまで心が痛まなさそうなんで構わないかな。

 俺としては、そんなことより、式典とかで着る服をどうしようかっていう方が心配かな。今から用意するんで、必ず開催して欲しいものだ。


「俺としては、今の所は他に言うことは無いな。諸々に関して、領主一族のキミらが頑張ってくれ。ああ、そうだった、今回、ツヴァイトの扇動のもと、キミらの下に付いていた貴族の何人かに迷惑をかけられたので、オレイバルガス大公の方で、そいつらの分の迷惑料をまとめて払ってくれ」


「待ってください。それに関しては当事者たちが……」


「そいつら、みんな死んだんでな。払ってくれる奴がいないんだ。そうなったら、この辺りの取りまとめをしているオレイバルガス家が払うのが筋というものだろう?」


「いや、それは、その……」


「払いきれないなら、借金に加えておくんで、その内にでも払ってくれればいい。それじゃ、式典を楽しみにしてる」


 話すことが無くなったんで、俺は帰ることにしました。

 帰り際に馬鹿兄弟が頭を抱えていましたが、なんなんでしょうね? 頭痛だったら、風邪かもしれないんで早く寝た方が良いと思うんだけどね。




 包囲開始から一か月くらいかかって、ようやく俺は砦に帰ることが出来ました。キルゲンスの町が酷い有様だったので、土木系冒険者に復興の手助けをさせていたら、ちょっと時間が掛かってしまいました。


 一か月ぶりに帰って来た、砦は、俺が見ない間にしっかりと市街になっていた。うーん、何があったんだろうか?

 砦を中心にきちんと家が並んでいて商店も揃っている。人も多いようだし、ヘタしたらキルゲンスより過ごしやすいかもしれんね。


「アロルド君、どうかしら、この城砦都市クレイベルは?」


 俺が帰るなり、エリアナさんが胸を張って、そんなこと言いだしました。とりあえず、『凄いな』って

 言っておいた。つーか、クレイベルってなに。ああ、そう言えば、砦の名前がクレイベル砦だったような。


「そうでしょう? キルゲンスや西部の他の領が荒れたから、難民がここに集まってきて、一気に大都市並みになったわ。人が多いと出来ることが増えるから、難民を大量に受け入れて、衣食住に仕事を提供してたら、一気に都市になったの。まぁ、それもこれも私の手腕があったからだけどね!」


 俺はエリアナさんを手放しに褒めておきました。何が凄いのか全く分からないけど、エリアナさんが胸張って言ってるのだから凄いんだろう。

 しかし、治安が悪そうだな。グレアムさんとかに見回ってもらうか、あと、微妙にばっちい感じがして嫌なんで、衛生状態も何とかしたほうが良いかな。後で適当にエリアナさんに言っておこうっと。


 そういうわけで、砦に戻った俺はしばらくノンビリ過ごすことにしました。


 そういえば、ツヴァイトドラゴンに関してだけど、アレってツヴァイト少年じゃないみたいな話になってるね。俺は本物のツヴァイト少年だと思うけど、世間の人は違うと思っているみたい。

 本物のツヴァイト少年は既に殺されていて、ドラゴンがツヴァイト少年に成りすましていたんだとか。だからゾルフィニルを操れたんだってさ。俺は違うと思うけど世間の人の大多数が言ってるんだから、きっと、そうなんだろうね。

 ツヴァイト少年に成りすましたドラゴンによってオレイバルガス大公が暗殺されて行方不明になってしまったなんて話もあるし、色々だなぁ。俺は、人間をドラゴンに変える魔法でもかけられたんじゃないかと思うんだけど、証拠も無いんで、誰にも言わないことにしてる。

 まぁ、そういう色々があって、ツヴァイトは悲劇の少年みたいな話になってるけど、まぁ、これで良いんじゃないかな。

 悪いのは全部、ツヴァイト少年に成りすましたドラゴンということで決着。本人が実際はどうだったとかは今更、関係ないしな。


 ノンビリと過ごす中で、人助けをしたりもした。


 西部の少年貴族の後見人になって、領地を狙ってくるという近隣の領主と一戦交えて、その貴族を徹底的に叩きのめした。

 重税に苦しむ村を助けるために、領主をボコボコにした。

 貴族同士の揉め事に仲介役として介入して、『俺の言うことが聞けないのか?』みたいなことを言って仲直りさせたりした。仲直りしない奴らは、徹底的に痛めつけて、二度と喧嘩する元気なんか出ないようにしてやったりもした。

 オレイバルガス大公家の言うことを聞かなくなって、馬鹿兄弟が困っているというので、俺が西部の貴族連中を集めて、オレイバルガス大公家の言うことを聞かないと酷い目に合わせると言っておいた。友達ではなくても、金を貸している相手なので、トラブルがあって支払いが滞ると嫌なので助けただけだ。


 そんな風に、色々とやっている内に時間は過ぎ、気づけば、ダルギン・オレイバルガスの大公家相続を祝う式典の日になっていた。色々とあったようだが、無事に開けたということだ。


 で、その式での俺の衣装だが――


「とっても似合ってるわよ、アロルド君」


 エリアナさんがうっとりとした目で俺を見る。


「悪の大王って感じで凄く素敵! 伝説に出てくる魔王そのものって感じ!」


 そんな風にエリアナさんがはしゃぎながら褒めてくる俺の衣装だが、一言で表すなら鎧だ。

 真っ黒い全身鎧に赤いマント。それが俺の今日の式典の衣装だ。

 鎧と言っても只の鎧ではなく、ザランド爺さんの渾身の作品で、名は黒竜鎧こくりゅうがいと言う。この鎧の素材は、俺が倒した大黒竜ゾルフィニルの素材で出来ているそうだ。

 ゾルフィニルは素材としては極めて高性能で、強力な武具を作ることが出来るようで、俺の黒竜鎧もその一つだ。


 ザランド爺さんが言うには、基本的には三層構造で外側はゾルフィニルの血に浸すことで強度を極限まで向上させた鋼である竜血鋼とか言う物で作られているとか。で、その下の層にゾルフィニルの鱗を敷き詰めて防御力を上げ、一番内側の層に衝撃を吸収する力があるゾルフィニルの竜革を張り、俺にダメージが届くのを防ぐのだとか。

 一応、見栄えと安全のため、表面にゾルフィニルの鱗も付けてあるが、攻撃を防ぐだけなら、その三層だけで充分過ぎるほどだ。特に鎧表面の竜血鋼の部分は、キリエやオリアスに生産系の魔法使いが総出で〈強化〉の魔法をかけたことで、異常な頑丈さになっている。

 問題は見た目が悪役風に過ぎることと、価値がありすぎることくらいかな? 下手したら国宝にもなりかねない代物だそうで、これを着て戦うのも、なんか気が引けるんだよね。傷つけたら、勿体ないしさ。まぁ、今日は式典だから傷もつかないだろうし、安心して着てられるけど。


「それなら、今日はアロルドくんが主役間違いなしね! ザランドお爺ちゃんも良い仕事をしてくれたわ。後でボーナスを払わないといけないわね」


 うーん、エリアナさんは、そう言うけど、今日の主役は馬鹿兄弟の兄の方だから、俺は目立てないと思うよ。




 ――なんて、思ってたけれど、全くそんなことはありませんでした。鎧が凄すぎるせいで、俺が一番目立っています。みんながみんな、チラチラと俺を見てきて、なんか恥ずかしいんだけど。

 どうすればいいのだろうか? 心を無にして、式典が終わるのを待てばいいのだろうか?


 そんなことを考えていたら、俺が皆の前で話す順番になったので、適当に話しました。


 内容は、ダルギンがオレイバルガス大公になるのを俺は認めるんで、皆さんも認めてくださいね。認めないと、お前ら皆殺しにするぞってことと、オレイバルガス大公でも調子に乗ったらっちまうので、気をつけてくださいということを丁寧に言っただけです。


 俺としては借金さえオレイバルガス家が払ってくれるなら、それで良いんだけどね。ただし、それを邪魔する奴は絶対に許さないよってことをハッキリさせただけなのと、オレイバルガス家の方も、大公とか、そういう地位みたいなのはどうでもいいから、ちゃんと俺の言うことを聞いて、借金を返してねってくらいのたいしたことのない話だと思うんだけど、なんか空気が重くなってしまいました。


 まぁ、俺もそろそろ西部を離れるし、別に雰囲気とか気にしなくても良いと思うんで、気にしないことにしました。つーか、いい加減、王都に帰りたいぜ。

 この式典が終われば、帰って大丈夫になるだろうから、帰ろうっと。


 俺が王都へ帰還することを心に決めている間に、式典はつつがなく終了しました。

 そうそう、式典の出席者が、俺に渾名あだなをつけてくれたようで、みんなが俺の渾名を口にしていました。


 俺の耳に届いた、それは『西方僭王』――どうやら、それが俺の渾名のようです。いったい、どういう意味なんだろうか、少し気になるね。

 まぁ、そろそろ王都へ帰る頃合いだし、その渾名でで呼ばれることも無くなるだろうから、気にする必要も無いのかもしれないけどさ。




























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