黒竜との再戦
乗り込んだは良いけど、キルゲンスの街中は中々に酷い有様だった。
城壁付近にあった建物は、城壁を越えた砲弾の直撃を食らったようで、倒壊しているものがチラホラと見える。
火事場泥棒くらいは良いんじゃないかと思ったけど、なんだか可哀想だったので、冒険者にはキルゲンスの町を荒らさないように言っておきました。
ああ、そうそう、俺や冒険者がキルゲンスに乗り込む時にオレイバルガス領周辺の貴族の人達が、一緒に来たんだけど、その人たちが勝手なことをしだしたので、適当に懲らしめておきました。
俺達が泥棒とかしないようにしてるのに、そいつらが泥棒してるのはムカつくじゃん?
なんか周辺貴族の兵士が家とかに強盗に入っているようだったんで、適当に斬り殺すなりして、懲らしめておきました。
あと、同意なく女の子にエロいことしようとしてる奴もいて、なんだかイラッと来たので、女の子から引っぺがして、股間を蹴り潰し、回復魔法でも再生できないように松明で股間を焼いてやりました。童貞でもないだろうし、そんなに女にがっつかないで欲しいんで、丁寧に御仕置きしておいたわけです。
そしたら、そいつの主らしき貴族が難癖つけてきたんで、殴り倒したら、いやぁ、完全に敵対状態になってしまったんです。
まぁ、俺と冒険者連中で何十人かぶち殺してやった時点で降参して、言うことを聞くようになったんで問題は無かったわけですけど。
そうそう、俺が殴った貴族ですけど、いつの間にか死んでいました。人間ていうのはいつ死ぬか分からないから怖いね。
火事場泥棒はしないことにしたわけだけど、追剥の否定まではしてないから、殺した兵士の持ち物は冒険者たちに回収させておきました。
最近、俺はお金に困ってないんで、どうでも良いんだけど、冒険者たちは臨時収入を得るために頑張って拾っていました。
俺達についてきた、貴族とその手下の兵士は既に帰りたくなっていたようですけど、一度言いだしたことを曲げると、人間として最低になると思うんです。俺は彼らを最低の人間にしないために無理矢理連れていきました。
キルゲンスの町を冒険者を連れて歩いていると、ツヴァイトの手下の抵抗にあって困る。大人しくツヴァイトの所まで道を開けてくれればいいんだけど、彼らも必死なんで結構激しい抵抗にあったりして大変だ。
俺はとりあえず、ついてきただけで何もしない貴族とその手下たちの尻を蹴っ飛ばして、戦わせることにした。彼らが戦っている後ろで、俺達は休憩しつつ、土木系魔法使いが〈浮遊〉の魔法を使って、運んできた大砲を設置して、ツヴァイトの手下たちに狙いをつけた。
なんか夢の中で見た督戦隊みたいだな。あいつら、前線から後退しようとすると、味方なのに撃ってくるから嫌いなんだよ。何回か夢の中でも殺されたしさ。
まぁ、俺はそんな酷いことはしないけどさ。なので、一応、声をかけておこう。
「逃げても良いぞ。大砲を撃つからな」
なんか、そう言ったら、貴族とその手下が必死になって戦い始めました。別に後退しても良いんだけどな。後ろに下がってくれたら、俺らが交代するんだけど。
ん? ジーク君どうしたんだい?
「味方も撃つんですか?」
何言ってんだ、撃つわけないだろ。俺は逃げて良いって言ってるじゃないか。逃げてくれたら、大砲を水平にぶっ放して、それから俺らで突っ込むんだよ。まぁ、そんなことをやる必要なさそうだけど。
周辺貴族とその手下たちは数で勝っているし、ツヴァイトの手下は辛かったかは知らないけど籠城生活をしていたため体力が落ちているようで、結構、簡単にやられていた。
勝ったはいいけど、貴族とその手下達は、怯えた眼で俺を見る。なんだか、可哀想になってきたので、帰っていいと言ったら、喜んで帰っていった。一応、余計なことしないでまっすぐ帰れよと言っておいた。皆、首が取れそうな勢いで頷いていたので、真っ直ぐお家に帰るんじゃないかな。
邪魔が無くなったので、ここからは俺と冒険者の独壇場だ。
バリケードみたいな物を作って、俺らを通せんぼしてる奴らには大砲をお見舞いすることにした。
オリアスさんは大砲を気に入ったようで、高笑いしながら乱射している。古式魔法使いは直接的な破壊力に乏しいから、大砲の威力は魅力的なんだろう。
大砲を〈浮遊〉の魔法で浮かせて、運び歩きながら、適当な相手を見つけるなり、魔法で火生石と砲弾の装填を行い、即座に発射するくらいだ。
「これいいな! 最高だぜ!」
うーん、夢の中で見た大砲となんか違うんだよな。そもそも、大砲って連射出来るものだったかな? オリアスさんは、全ての作業を魔法で済ませてるから、一分間で二発は撃てるようなんだけど、こういう兵器だったかな? まぁ、夢の中の物と現実の物は違うし、こういうこともあるよね。
とりあえず、立ちふさがる敵はオリアスさんが大砲を水平に発射してなぎ倒していきました。運悪く、砲弾の直撃を受けた奴はバラバラっていうより、水が弾けるように、赤い液体を周囲に飛び散らせて消えてった。
オリアスさんは絶好調も絶好調、キルゲンスの町を全部ぶっ壊してやるくらいの意気込みで大砲をドカンドカンとやっている。
途中で、火生石を作る際に出来た失敗作の『燃水』という名前の、火を付けると燃える水をツヴァイトの手下や、そこら辺に掛けて回り、ついでに火を付けて燃やしまくっていた。なんか、夢の中で見たガソリンぽい感じだけど、匂いがしないからガソリンじゃないと思うし、失敗作らしいんで、どうでも良いだろう。
オリアスさんが、だいたいの敵を吹っ飛ばしてくれるので、俺達は楽々進んでいき、さほど苦労せずに、オレイバルガス大公家の屋敷に到着することができた。
ここでオリアスさんは一旦待機。大砲が全部破損したので、今から作るとか。それを待っているほど、ヒマでもないので、俺は探知一号に隠し通路を探してもらい、さっさと屋敷の中に侵入することにした。侵入するといっても隠密裏にではなく、割と大騒ぎしながらだけど。
探知一号の案内で、屋敷の地下に出た俺は、隠れることなどせずに堂々と屋敷の中を歩き回る。途中で自決しそうになっている使用人とか騎士がいたので、冒険者に拘束させて、死なせないようにする。あ、俺に襲い掛かってきた奴は問答無用でぶち殺しました。正当防衛って奴だから、仕方ない。
何人か名乗りを上げてきたけど、すいません、憶えてません。だって、憶えてても仕方ないし。とりあえず、〈弱化〉の魔法を肺の辺りに掛けて、呼吸機能を弱めさせることで、窒息させて殺しました。わざわざ剣を使うのも面倒だったし、魔法が使えるようになったから、有効活用しようと思ったわけです。
そんな風に屋敷の中の人間を適切に処理しながら、俺は進んでいき、屋敷の一番奥の守りが堅そうな部屋の前に到着した。
部屋の中には三人程の気配がしたので、とりあえず開けて入ってみる。
「待ってたぜ」
部屋の中にはツヴァイトと馬鹿兄弟がいた。馬鹿兄弟は顔面ボコボコで大変なことになっているけど生きているので問題なし。問題があるとすれば――
「クク、飛んで火にいる夏の虫ってか? のこのこやってきやがって、テメェはここで終わりだアロルドッ!」
なんかツヴァイトの調子が絶好調なことかな。
「随分と御機嫌だな」
秘訣を聞いておきたいもんだ。
俺は、俺の周りの奴らと違ってストレスを感じやすい性質だから、御機嫌になれる方法を聞いておきたいね。まぁ、ストレスは我慢できるから、どうしても聞きたいってわけじゃないけど。
「当り前だろ。なにせ、テメェをぶち殺せるんだからな!」
うーん。俺はその方法は無理かな。
だって、間違いなくぶっ殺せるキミに会っても、特になんも思わないしさ。まぁ、ようやく落ち着くべきところに落ち着いたかなっていう、据わりの良さは感じないでもないけど。
しかし、コイツ、俺を殺せるつもりなんかな? 嫌だなぁ、すぐに人を殺そうとかすんなよ、ぶち殺すぞ。
「テメェのせいで全て台無しになったが、ここからだ! ここでテメェを殺せば、今までの失敗は全て無かったことになる! テメェが死ねば、輝かしい俺の未来が帰って来るんだ! だから、死ね! 俺の為に死にやがれ、アロルド!」
はぁ……眠いな。あ、思わずため息ついちゃったよ。ヤバいなぁ、なんか話してたみたいだけど、聞いてなかったぞ。ここは知らん顔しておこうっと。
「クソが! その余裕ぶったツラをグチャグチャにしてやるぜ! 見てろ、これが俺の――」
そういや、エリアナさんとか女の子を見てないなぁ……エリアナさん達は砦だし、目の保養がしたい。
ん? ツヴァイトくん、ドラゴンに変身したの? ゾルフィニルに似てるね。カッコいいんじゃないかな。目の保養にならないから、俺はどうでも良いけど。俺は大人しくしてるから、存分に見せてくれて良いよ。
『これを見ても余裕のフリしてやがんのか? ムカつく野郎だぜ。俺をゾルフィニルと同じだと思って、なんとかできると思ってんなら大間違いだぜ』
つーか、メシも良い物食ってないんだよな。カタリナの美味しいご飯が食いたい。彼女、料理上手だから、何でも作ってくれるしな、エリアナさんも上手だし、いっそ二人に作ってもらうか。
カタリナとエリアナさんの作ったご飯を食べながら、美人の二人を眺めるとか最高じゃね、キリエもいればなおのこと良し。
あ、ツヴァイトくん、何か話してた? うわぁ、聞いてなかったよ。黙って聞いてたフリしてよう。
『奴は本能のままに暴れるケダモノで、俺は知性を持った人間。この違いを教えて――』
「いい加減にしてくれ、そろそろ鬱陶しい」
なんか面倒くさくなったから、相手の話を途中で切っちゃった。失敗失敗。まぁ、たいした話はしてないだろうし、大丈夫だろう。ドラゴンだから表情読み取れないけど、怒って無さそうな顔してるし。
うーん、怒ってないなら、もう少し言っておこうかな。
「御託はいいから。何かあるなら、さっさとしてくれ。俺はお前の相手をいつまでもしてられるほど、ヒマじゃないんだ」
ドラゴンだから表情分かんないけど、怒って無さそうだし、こんくらい言っても良いよね。
実際、俺はツヴァイト少年の相手してんのも、いい加減ウンザリしてきたわけだし、他にやりたいことあるから、さっさと減帰りたいんだよね。
『テメェ……!』
なんか、ドラゴンになったツヴァイト少年の低い声が聞こえてきたけど、なんだろうね。しかし、ドラゴンになっても、人と話せるなんて凄いな。いや、ドラゴンと話せる俺が凄いのか?
『調子に乗ってんじゃねぇっ!』
ツヴァイト少年が叫ぶと、竜になった少年は俺に向かって大きく口を開けて、炎のブレスを放ってきた。
俺は、それを横に飛んで避けると同時に、床に転がっている馬鹿兄弟の二人の所まで走り出し、駆け抜けながら二人を拾い上げる。
なんか、馬鹿兄弟はどっちも『あばばばば』って感じで泡を吹いている状態だったけど、放っておいたらドラゴンになったツヴァイト少年に踏み潰されそうだったし、それを放っておくのも良くなさそうだったから、俺は二人を担ぎあげて、危なくなさそうなところまで運ぶために走り出す。
『逃げるんじゃねぇ!』
俺がツヴァイト少年がいる部屋から脱出すると、ドラゴンになった少年が部屋の入り口を壊しながら、俺を追いかけてくる。
「ア、アロルド殿、一体何が何やら」
「ツヴァイトは一体どうしてしまったのでしょうか、に、人間がドラゴンになるなど……」
馬鹿兄弟が俺の両肩に乗っかった状態でなんか言ってます。まぁ、確かに人間がドラゴンになるなんておかしいね。じゃあ、もしかしたら、アレってツヴァイト少年じゃないんじゃない?
うーん、もしかしたら、ドラゴンが人間のフリをしてたとか、そういうパターン? つまりは、みんな騙されていたってことなのかな?
は! そうか、そういうことだったんだな!
「人間がドラゴンになることなどはありえない。だが、逆はあるかもしれない」
俺がそういうと、馬鹿兄弟も気づいたようで。
「まさか、あのドラゴンはずっと前からツヴァイトにすり替わっていたと!?」
「なんということだ、それならば、ツヴァイトが豹変して、このような騒動を起こしたことも納得がいく」
「もしかすると、今回の魔物の大量発生も……」
「奴の仕業かもしれないな」
「では、父上が行方不明なのも……」
「奴の仕業だ」
「まさか父上は……」
「ああ、奴の仕業で」
「本物のツヴァイトも……」
「奴の仕業によって」
いや、正直良く分かんないんで、適当に全部アイツのせいにしちゃってるけど別にいいよね。
なんか、あのドラゴンの態度とか見てると、微妙にツヴァイト少年本人のような気がするけど、馬鹿兄弟は、あのドラゴンがツヴァイト少年じゃないと思ってるみたいだし、家族が違うって言ってるんだから、本人じゃないだろう。
「アロルド殿、勝手なお願いで申し訳ありませんが、父上とツヴァイトの仇を討ってくださいませんか?」
「私からもお願いします。あの二人の無念をどうか晴らしてください」
え!? その二人って死んでるの?
じゃあ、後から追っかけてくる、ツヴァイト少年っぽいドラゴンは?
『アァァァロォォォルゥゥゥドォォォォッッ!!』
黒いドラゴンは凄い声を出しながら、全速力で俺を追いかけてくる。体のサイズのせいで、屋敷の通路を上手く通れないため、通路の両側の壁をぶっ壊しながら走っていた。
俺は馬鹿兄弟二人を担ぎ上げたまま、屋敷の通路を直角に曲がる。ツヴァイト少年のはずのドラゴンは曲がり切れずに、通路の壁面に突っ込み、壁をぶち破って屋敷の外へ。
『ちょこまかと逃げ回ってんじゃねぇ!』
ツヴァイトドラゴンは屋敷の外へと飛び出るなり、翼を羽ばたかせて滞空し、屋敷の外からブレスを放ってきた。俺が走っている通路は窓のそばで、しかも一本道。外から走る俺の姿が見えたのだろう。ツヴァイトドラゴンは火球のブレスを走っている俺に向かって連射してくる。
ただ、ブレスよりも俺の走る速度の方が速いので、ブレスは当たらずに俺が通り過ぎた場所に当たって爆発するだけだ。
「「ひいいいい!」」
俺に担がれた馬鹿兄弟が悲鳴をあげるが、当たってないんだから騒がないで欲しいもんだ。
どうにも悲鳴が耳障りなんで。俺は窓から二人を外へと放り投げた。窓の外は屋敷の庭で、そこにジーク君とかいたし、落ちても拾ってくれるだろうっていうか、庭にいるジーク君と探知一号に向かって、俺は二人を投げたわけだけどね。
投げた後で気づいたけど、なんで、あの二人はここにいたんだろうか? まぁどうでも良いか。
「大将何がって、うわぁぁぁぁ!」
状況の分かってない冒険者が姿を見せたりもしたので、俺は走りながら、そういう奴らを掴み上げると、窓の外へと放り投げていった。邪魔なんで、どっか行ってほしかっただけです。
『逃げてんじゃ!』
急にブレスが止まったので、俺も立ち止まる。すると――
『ねぇぇぇぇっ!』
ツヴァイトドラゴンが屋敷の外から壁をぶち破って、突っ込んで来た。
「おっと」
俺は思わず声が出たけれども、ツヴァイトドラゴンが壁ぶち破ってきたのと同時に、その頭に飛び乗り、頭の上から背中を通って尻尾の方へと向かいながら、外へ出たままだったツヴァイトドラゴンの尻尾を足場に、屋敷の屋根へと飛び上った。
あんまり狭いところだと戦いにくいし、少し広いところへ出ないとな。って思って屋根の上に来たわけだけど、オレイバルガス大公家の屋敷も酷いことになっているようで、屋根が崩れ落ちている場所がチラホラと見えますね。
全部、ツヴァイトドラゴンが悪いんだろうなぁ。しょうがない奴だぜ。
『どこまでも、俺を舐め腐りやがって、ぶち殺してやる!』
「いいから、かかって来い」
ツヴァイトドラゴンが空を飛んで、屋根の上に姿を現したけれども、この後に及んでグダグダと言っているのには辟易するよ、全く。
『オオォォォォォッ!!』
ツヴァイトドラゴンが上空から急降下して俺に突っ込んでくる。
俺は〈ファイア・ボール〉の魔法を発動し、突っ込んで来たツヴァイトドラゴンの顔面に火球をぶつける。
『ッ!?』
ツヴァイトドラゴンは体勢を崩し、俺から狙いを外して屋根の上に落ちた。
俺は屋根の上に落ちたツヴァイトドラゴンに〈弱化〉の魔法をかけて鱗を脆くしながら、〈強化〉の古式魔法の一種である筋力強化の〈剛体〉と肉体硬質化の〈硬体〉を自分にかけ蹴っ飛ばした。
俺の蹴りはツヴァイトドラゴンの鱗を叩き割り、ダメージを与える。
『ギィッ!?』
ツヴァイトドラゴンは竜の腕を虫を払いのけるように振ったが、俺はそれを剣で弾き飛ばす。
大きさは全長二十メートルくらいで俺とのサイズ差は歴然だけれども、体重も何も乗せずに苦し紛れに腕を振ったところで、〈強化〉の魔法で徹底的に身体能力を上げている俺を弾き飛ばせるわけはなく、逆に俺の方がツヴァイトドラゴンを押していた。
ツヴァイトドラゴンは懸命に腕を振っているが、俺が剣でそれを弾く度に、呻き声を洩らしているようだった。
『ちくしょう、なんでだ!? なんで、こんなにダメージが来るんだよ!?」
そりゃダメージくらいは通るだろ。頑丈な鎧着てたって衝撃は流せないぜ? 鱗があったって、衝撃自体は届くさ。
『ゾルフィニルは平気だったのに、俺はなんで!?』
「馬鹿か? アレはドラゴンで頭が悪いから、多少のダメージは気にならない。お前は元が痛みに敏感な人間だったから、ダメージを感じるんだろ」
いや、良く分かんないけどさ。たぶんそうなんじゃないかと思うわけよ。でもまぁ、実際、そうなのかも、ツヴァイトドラゴンは後ろ下がっちゃったしさ。
俺は後ろに下がった奴を追いかけて、前に出る。つーか、前に出過ぎて後ろに回り込んでしまった。
『どこにいった!?』
後ろに回り込んだら、全く気付かなかったようで、俺はその隙にツヴァイトドラゴンの尻尾に〈弱化〉をかけて剣で斬り落としてやった。
『ギャアアアアッ!』
尻尾を斬られると、相当に痛いのか、ツヴァイトドラゴンは屋根の上でのたうち回る。屋根が壊れないか心配なので、大人しくしてもらおうと俺はツヴァイトの腹に蹴りを入れた。
尻尾が無くなった分軽くなったようで、一蹴りしただけでツヴァイトドラゴンは浮きあがった。
『畜生! なんでこんなに簡単にやられるんだ!?』
「あたりまえだろ。人間がドラゴンになったところでマトモに戦えるわけが無い。ドラゴンと人間では体の構造や感覚が全く違うのだから、人間の時の感覚で動けるわけが無いだろ? それこそ、人間の本能を捨てて獣のように体に宿る本能に任せなければ、マトモに戦えないだろうよ」
そういう意味ではゾルフィニルの方が強かったね。余計なことはゴチャゴチャ言わないし、自分の体を生かして戦ってた。最初に〈ファイア・ボール〉を当てた時だって、ゾルフィニルだったら、気にせず突っ込んで来ただろうし。
俺が後ろに回った時だって尻尾を振って攻撃してきて尻尾なんかを簡単には斬らせなかったんじゃないかな?
「竜の体をしていて、人間のように賢く戦おうとする時点で間違っているんだよ、お前は。竜ならば竜らしく、自分の体を頼りにして力任せに戦っていれば良かったんだ。結局、小賢しく戦っていて、利点を殺しているだけで、全くの無意味だ」
まぁ、利点を生かしてきても〈弱化〉をかけまくって、ボコボコにするけどさ。
『畜生、奴はドラゴンに変身すれば何とかなるって』
「竜に変身できるのなら、空を飛んで逃げるべきだったのではないか? そうすれば、一応はなんとかなったと思うがな」
つーか、教えてくれたっていう人は、そういうつもりで言ったんじゃないのかな? どう考えても、体に慣れてない感じだし、それで戦うとか無謀だろ。
『いや、まさか、そんな……』
なんか、今更気づいたみたいですよ。プププ。すっげー馬鹿じゃない、コイツ?
『きょ、今日の所は退かせてもらう!』
ツヴァイトドラゴンは滞空した状態から、俺に背を向けて、どこかに行こうとする。
どう考えても、本物のツヴァイトだろうし、俺はツヴァイトにそれなりの落とし前をつける必要があるので、ツヴァイトドラゴンを逃がすわけにはいかない。
俺はツヴァイトドラゴンの翼に〈弱化〉の魔法をかけて、羽ばたく力を弱めさせ、徐々に降下させていく。
『嫌だ! 死にたくない! 俺が何をしたっていうんだ! 上を目指すのがそんなに悪いことなのかよ』
何をしたかは別にどうでも良いと思うぜ。悪いことも……まぁ、多少なら良いんじゃないかな?
でも、そういうことをやる時は他人に気づかれないようにやったり、復讐してきそうな奴を徹底的に殺し尽くすなりして、後腐れを無くしておかないと駄目だと思う。
そういう点では、俺みたいに落とし前をつけに来る人間を生かしておいたら駄目だな。
つまりは何が悪かったかというと、俺を殺しきれなかったことだと思うよ。
『なぁ、頼むよ……見逃してくれよ、水に流してくれたら、アンタの為になんだってするからさ、この変な魔法を解いてくれよ、お願いだから!』
大丈夫だって、死ねば解けるからさ。
ツヴァイトドラゴンは必死で逃げようとしてるけど、全然前に進まないどころか、どんどん落ちてくる。
ちょうど良い高さになってきたので、俺は脚に〈強化〉をかけて、跳躍し――
『嫌だ! 嫌だぁぁぁぁぁ!』
――竜の首を斬り落とした。




