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大黒竜ゾルフィニル

「お願いします。この地を救ってください」


 大黒竜を見つけたので討伐して欲しいとツヴァイト少年に頼まれた。でも、なんか嫌なんだよな。なんでだろうね。まぁ、頼まれたわけだし、行ってやるか。


 ゾルフィニルがねぐらにしているのは、廃墟となった町だとか。一応、人を集めていくけど、なんだか行きたくないなぁ。行かずに済ませる方法はないものかね。


「僕は、僕の考えに従ってくれる家臣たちを集めて援軍に向かいます。アロルド殿は先に向かってください」


 先にね。じゃあ、俺だけ先に行っとくか。なんか、俺だけ先に到着してろって感じだし、人を集めていくのは止めようかな。だって、俺だけ名指しだし、俺以外はいかない方が良いんじゃない? でも、一人で行くと道に迷いそうだし、とりあえず、探知一号だけ連れていくか。怒られたら謝ればいいや。


「では、また会いましょう」


 ツヴァイト少年は、馬に乗って颯爽と立ち去っていった。またって何時になるんだろうね。『また』が一年後とか来世になることだってあるよね。まぁ、そんなことは無いだろうけどさ。


「とりあえず、俺が様子を見てくるので、お前らは待機だ」


 エリアナさん以下、主だった連中に声をかけておく。グレアムさんとオリアスさんの戦闘大好き二人組はついてきたがっているが、ツヴァイト少年が俺に対して先に行っていてくれと言っていたので、みんなで行くのは良くないだろう。


 というわけで、探知一号を伴い、俺は砦を出発した。探知一号が青い顔をしていたが、まぁ、気にしなくてもいいだろう。


 そして、二日後――


 俺と探知一号は廃墟となった町に到着した。ゾルフィニルっていうドラゴンのねぐららしいけど。あんまりねぐらって感じがしないね。生活感が無いしさ。まぁ、廃墟になっているから、魔物は襲ってきたんだと思うよ。

 町に入ってもゾルフィニルがすぐに襲ってくる気配はないので、適当に探索してみる。しかし、何も無い。というか、生き物の気配が無いんだよね。不自然なくらいに。町の人間は脱出したのかどうかも良く分からないし、なんか変な感じだ。魔物の気配もないしさ。これまでの感じだと、廃墟となった町なんかには魔物が住みつくわけだけど、そういう感じも無い。ゾルフィニルにビビッて逃げたというわりには、ゾルフィニルが住んでいる気配もないし、色々と変だ。


 そんな風に俺が違和感を覚え始めた時だった。強烈な気配が空から地上に落ちてきたのは。


 探知一号が何か叫んでいるが、聞いている暇はない。俺は町の探索をやめて、すぐに気配のした場所へと向かう。そして、向かった先にはいたのは――


「大黒竜ゾルフィニルか……」


 剣のように真っ直ぐ伸びた一本の大角が目立つ、漆黒の鱗を持った巨大なドラゴン――大黒竜ゾルフィニルが翼を広げて、俺を待ち構えていた。


「思ったよりはデカくないな」


 山のように大きいかと思っていたが、全長二十メートルくらいだし、せいぜい小さな丘ぐらいの大きさだと思う。あれかな、身長を自己申告で、ちょっと大きめに言っちゃうのと同じ感じ? いや、馬鹿にしてるわけではないので、吼えないでください。凄く五月蠅いんで止めてくれ。


 ゾルフィニルは俺の姿を見つけると、俺に向かって口を広げた。直後、ゾルフィニルの口から炎のブレスが放たれる。俺は即座に〈マジック・シールド〉を発動させ、魔力による障壁で、その炎を防ぐ。

 炎のブレスと言っても、炎を漫然と撒き散らすものでは無く、炎を圧縮して一直線の帯状にしたものだ。その火力によって、俺の〈マジック・シールド〉は容易く砕け散る。だが、一瞬だけで止められれば、それで充分だ。

 俺は〈マジック・シールド〉が砕け散るまでに、ブレスの範囲から逃れられる程度には瞬発力があるので、一瞬でも止まれば、それで危険域から逃げられる。


 俺は自分に〈ブースト〉の魔法をかけて、身体能力を強化し、ブレスを放った直後のゾルフィニルに向かって、一気に距離を詰めながら、跳躍し、その頭部に向かって剣を振る。

 だが俺の剣は漆黒の鱗にぶつかり甲高い音を立てるのみで、ゾルフィニルになんの傷も負わせられなかった。鱗が硬すぎる、鋼の鎧なんかとは比べ物にならない強度だ。それに筋肉も強靭で、衝撃が全く伝わってない。

 ゾルフィニルは虫を払うように首を振って、俺を弾き飛ばそうとするが、その前に俺はゾルフィニルの頭を踏み台にして、後へと飛び退く。

 着地した俺に向かって、ゾルフィニルが再びブレスを放つ。今度のブレスは火球であり、それが複数発射されて、俺の元に迫ってくる。

 俺は剣を振って、一つ二つと火球を斬り裂いて掻き消していくが、いかんせん数が多い。防ぐのは諦め、回避に方針を切り替え、横に走る。発射の速度と俺の走る速度では俺の方が上であるため、走っていれば当たることはそうそう無い。とはいえ、避けてるだけでは状況は好転しないので、俺はブレスを避けながら攻める手を考える。


 鱗に攻撃が通る気配は無さそうだが、もう少し挑戦する必要がある。無理だと思って何もしなければ、それで終わりだからだ。


 俺は廃墟の建物の中に飛び込み、ゾルフィニルの目から逃れる。ゾルフィニルは俺が入った建物にブレスを叩き込んでくるが別に構わない。当たらないのだから、どうでもいいし、それよりもゾルフィニルが俺が建物内に籠っていると思ってくれた方が良い。


 ゾルフィニルが建物に向けてブレスを撃っている隙に、俺は既に建物から脱出して、別の方向に向かって走り出している。向かうのは、ゾルフィニルの背後で、俺は街中を大回りして、ゾルフィニルの背後に向かう。全力で走れば馬よりも速い俺からすれば一瞬の距離だ。


 ゾルフィニルが、まだ真正面に向けてブレスを撃っている隙に、俺は背後に回り込んだ。そして、俺はゾルフィニルの尻尾側から、その身体に登って、全力で背中に剣を突き立てる。


 甲高い音を立てて、俺の剣が鱗に弾かれるが、頭に剣を叩きつけた時と違い、鱗には傷がついている。どうやら、頭の鱗が一番硬いようだ。俺は傷がついた鱗に対して、再び剣を突き立て、力任せにその鱗を押し込み、強引に叩き割る。割れた鱗を突き破って、俺の剣がゾルフィニルの肉に突き刺さるが、大きさが違うため、たいしたダメージにはなっていない。とはいえ、傷を負わせることは出来た。無敵ではないことが分かっただけで充分だ。


 そう思った直後、ゾルフィニルが翼をはためかせ、背中に俺が乗っていることも無視して、空へと飛びあがる。俺はゾルフィニルの背中にしがみつき、そのままやり過ごそうと思ったが、ゾルフィニルは俺を振り落とすため空を飛んでいるので、やり過ごすことなどは許さない。


 ゾルフィニルは無茶苦茶な飛行をして、俺を振り落としにかかり、俺も耐えきれずにゾルフィニルにしがみついていた手を離すしかなかった。まぁ、自分から手を離したのに近いが。手を離した俺は空から真っ逆さまに地面に落下しつつあったが、落ちる途中で街で一番高い教会の屋根の端に掴まって、事なきを得る。


 俺が教会の屋根の上に立つとゾルフィニルは空の上から俺に向かって、急降下し突撃を仕掛けてくる。逃げ場が無い俺は剣を構え、真っ正面からその突撃を受け止める。


 直後、俺は大きく吹き飛ばされた。サイズやら何やらが違いすぎるので、当然なのかもしれないが、力比べで負けたのは何気に衝撃だ。吹き飛ばされた俺は矢のような速さで、建物に突っ込んだ。死ぬほど痛いが、即座に回復魔法を使って傷を治し、再び戦える態勢を整える。その直後、火球が俺の突っ込んだ建物に向かって、連続で発射された。


 俺は転がるように建物から出て、火球を回避する。そして、撃ってきたゾルフィニルの姿を探すと、ゾルフィニルは俺の目の前に着地し、姿を現す。そりゃ、空を飛べるんだから、そういうことも出来るわな。


 俺は目の前に現れたゾルフィニルに向かって走り込み、その身体の真下に滑り込んで、ゾルフィニルの視界から逃れる。体の下を潜り抜けて、ゾルフィニルの背後に回った俺だが、直後にゾルフィニルの尻尾が叩きつけられる。咄嗟に剣で防いだものの、質量差によって俺が吹き飛ばされ、その先にあった家の中に突っ込んだ。


 ゾルフィニルは俺を追撃するために、再びブレスを放とうとするが、体勢を立て直した俺が、即座ゾルフィニルの顔面に向けて〈ファイア・ボール〉を放ち、発射を妨害する。俺の魔力の関係上、ゾルフィニルに傷を負わせることは難しいが、牽制程度だったらいくらでも使えるようだ。とはいえ、色々と魔法を使っているため魔力切れが心配なので、あまり使えないが。


 俺は家から飛び出し、俺の妨害によって隙を露わにしたゾルフィニルに向かって斬りかかる。狙いを首筋で、俺の剣は弾かれるものの、鱗に傷をつけた。すぐさま、俺は距離を取るために後ろに飛び退こうとするものの、それよりも速くゾルフィニルの爪が俺に向かって振り下ろされる。

 回避は不可能。よって、俺はその爪を真っ向から剣で叩き落とす。一撃を防ぐと続けざまに、もう一撃が飛んでくるが、それも剣で叩き落とす。

 勢いがついたものでなければ、辛うじてゾルフィニルの攻撃は防げるようだ。とは言っても、それは俺の剣『鉄の玉座』のおかげだ。普通の剣だったら間違いなく折れているだろうが、この剣は軋んで刃こぼれがするだけで済んでいる。ザランド爺さんには後で感謝しておくべきだろう。まぁ、生きて帰ることができたらだが。


 俺に攻撃を防がれているのにイラついてきたのか、ゾルフィニルは唐突に爪での攻撃から、噛みついてきた。もっとも、そんな攻撃が当たるわけはないので、俺は噛みつきのために伸ばしてきた頭を躱しながら、その頭に飛び乗り、頭から首を伝って、ゾルフィニルの背中を駆け抜ける。

 ゾルフィニルが再び飛び上ろうとしたので、俺は背中を駆け抜けていく途中で、ゾルフィニルの翼に斬りかかった。俺の剣は強烈な抵抗を感じながらもゾルフィニルの翼に確かな傷をつけ、その結果、ゾルフィニルは上手く飛び立つことが出来ず、地面に突っ込んだ。地面に突っ込んだゾルフィニルだが、すぐに体勢を整え、俺のいる方へとブレスを放つ。

 すでに俺は、近くの家の屋根に上って距離を取っているので、問題なく躱せる。俺はブレスを躱しながら、家の屋根を伝って走り、再び攻撃を行う隙を伺う。


 なんというか人を連れて来なくて良かったと思う。この相手だったらいたところで邪魔にしかならないだろう。人が多いと逃げ場が制限されるし、無駄にいた所でブレス一発で相当数が消し飛びそうだし。


 俺がそんなことを考えていると、ゾルフィニルは飛行し、ブレスを撃ちながら俺を追いかけてくる。流石に空を飛んでいる相手を地面付近から斬るような術はない。まぁ、攻撃を届かせる方法ならいくらでもあるが。


 俺は上から降ってくる火球を避けながら走り、この町の中央にある尖塔を備えた建物の中に飛び込む。たぶん、町の代表かなにかの屋敷だろう。屋敷の壁は石造りで、それなり以上の強度があり、火球の直撃もある程度防いでくれている。とはいえ、そう持ちそうもない。

 俺は屋敷の中を走り、尖塔へと向かい、その塔を駆け上る。見張りか何かに使っていたのだろう、尖塔は町を一望できるほどの高さがあり、当然、その塔の上からは、屋敷に向かって火球を撃ち続けているゾルフィニルの姿も見下ろすことが出来た。


 俺はゾルフィニルの姿を確認すると同時に、塔の上からゾルフィニルに向かって飛び降りる。着地に失敗すれば死ぬ高さだが、何もしなくてもいずれは死ぬのだから、命の賭けどころは見極めないといけない。俺にとっては今が、その時というわけだ。

 俺は全身に風を受けながらも、真っ直ぐゾルフィニルに向かって落下する。途中でゾルフィニルが俺の気配に気づいたのか頭を上に向けるが、もう遅い。落下する俺はゾルフィニルの角に掴まり、そこから滑るようにして、ゾルフィニルの頭に降り立ち、即座に眼球に剣を突き立てる。


 ゾルフィニルの絶叫が轟いた。眼球に剣が突き刺さっていれば、そりゃ叫ぶわな。叫んでいても、可哀想だとかいう気持ちが起こらないので、俺は突き刺さった剣を更に押し込む。ドラゴンといえど眼球は柔らかいものだし、頭の中身も同じく柔らかいだろうという、俺の予想は当たったようで、面白いように剣が奥深くに刺さっていく。

 ゾルフィニルが俺を振り落とそうと頭を激しく振るが、俺も全身に力を込めて耐え、同時に突き刺した剣で頭の中をグチャグチャにかき回す。生命力が異常に強いのか、これでも中々死なない。ジーク君みたいにビリビリを流せれば事情が違うのかもしれないが、それを言っても仕方ないので、俺はひたすらに剣で頭の中をかき回してやる。

 ゾルフィニルの絶叫は止まらず、俺を振り落とそうと滅茶苦茶に飛び回るが、俺はそれでも剣を手放さない。剣は半ばほどまでしかゾルフィニルに刺さってはいないが、それでも相当に効果があるようで、俺はゾルフィニルに致命傷を与えるため、更に力を込めて、剣を深く突き刺した。


 その瞬間、ゾルフィニルが力尽きたように、地面へと落下し始めた。俺は剣を握る手に力を込め、落下の衝撃に備えた。直後、凄まじい衝撃を俺が襲ったが、俺は剣を手放さず耐える。

 落下の衝撃はゾルフィニルにもダメージを与えたようで、ゾルフィニルは剣を突き立てる、俺を振り払おうとするが、その力は弱かった。このままならばやれる。そう思った時だった。俺の周囲に援軍がやって来たのは。


 援軍を率いているのはツヴァイト少年で冒険者の姿は見えないが、それに関して注意を向けている余裕は俺には無かった。回復魔法で適宜傷を治してはいたけれども、それでも体力が尽きかけていた俺は、ゾルフィニルの頭に剣を突き立てている状態で精一杯だ。


「見てるだけじゃなく、手を貸せ」


 俺はやって来た援軍に対して言った。せめてゾルフィニルの動きを抑えておくくらいはやって欲しかったからだ。相当に弱っているとはいえ、俺の方も体力の限界が近いので、余計な力を使わず剣をゾルフィニルの頭の奥深くに突き刺すことだけに力を使いたかった。

 そのためにはゾルフィニルの動きは邪魔なので、なんとか止めておいて欲しかったわけだが、俺の意図が理解できていないのか、ツヴァイト少年は兵士に命じて弓を構えさせる。弓が効くような鱗じゃない。というか、弓の狙いが俺にも向かっているのはどういうことだ?


「おい――」

「放て!」


 俺の呼びかけを遮り、ツヴァイト少年が命令を下す。同時に矢が一斉に俺に向かって放たれる。俺は咄嗟に、〈マジック・シールド〉を発動させ、魔力の障壁で矢を防ぐ。だが、それが限界だった。魔力が完全に切れたのだ。〈マジック・シールド〉は全ての矢を防ぐと同時に消え去った。

 そして、その瞬間を狙いすましたかのように、ツヴァイト少年の放った矢が俺の脇腹を貫いた。痛みと同時に熱を感じ、俺の体が膝から崩れ落ちると同時にゾルフィニルが首を振って、頭の上に乗っている俺を振り落とした。俺は腹に受けた傷のせいで受け身も取れず、地面を転がる。


「なんなんだよ。クソ野郎。テメェのせいで計画が台無しじゃねぇかよ。どうしてくれんだカスが」


 ツヴァイト少年が俺を見下ろしながら、汚い言葉を吐く。そういうのは良くないので注意しようと思ったが上手く口が開けない。


「鬱陶しい冒険者共を一網打尽にしようと思ったらいるのはテメェ一人。しかも、ゾルフィニルを殺しかけてるとかどういう冗談だ?」


 やっべぇ、思ったより血が出てる。吹っ飛ばされた時に矢が折れて抜けたくさい。回復魔法使わないとマズいかもしれないけど、魔力が切れてて無理だな。回復薬は今までの戦闘で容器が割れてて使えないか……とにかく、寝転がっているのはマズいから立たねぇとな。しかし、ツヴァイト少年は何やってくれてんだ? 俺を殺す気かよ。


「だいぶ予定が狂ったが、こうなったら、もうどうでも良いか。テメェをぶち殺し、冒険者共もぶち殺して、邪魔者を全部消しさりゃ、あとはどうとでもなる。わりぃな、俺のために死んでくれや」


 まじかぁ、俺を殺す気かよ。ツヴァイト少年……うーん、道理でなんだか好きになれない感じがしたわけだ。俺を殺す気マンマンの人を好きにはなれないよね。しかし、困ったな、凄く死にたくないぞ。つーか、ゾルフィニルが傍にいるのに、俺の方に注意を向けてていいのかね?


「邪魔くせぇ奴らを皆殺しにした後で、俺がゾルフィニルを殺して手柄を全部手に入れるつもりだったんだけどな。もう仕方ねぇわ……行け、ゾルフィニル、そいつにトドメを刺せ」


 おいおい、味方かよ。どういうことなんかね? まぁ、それは置いといて、剣はゾルフィニルの眼に刺さったままだし、どうすっかな。現状、どうにもならんね、コレ。つーか、こっちは死にぞこないなんだから自分でかかって来いよ、ツヴァイト少年。まぁ、そんなことを考えている場合じゃないな。


 ――俺に向かって、ゾルフィニルが突進してくる。真っ直ぐ伸びた角を前に突き出し、騎兵の突撃のように迫ってくる。回避は不可能だ。俺の体は消耗が激しく動けるような状態じゃなくなっている。

 フッと、ツヴァイト少年の顔を見ると、奴はニヤついていた笑みを浮かべていた。うん、腹が立つね。たぶん死ぬだろうけど、死ななかったら、会いに行って徹底的にぶちのめしてやろう。

 そう思うのと同時に、ゾルフィニルの角が俺の腹に突き刺さる。だいたいの内蔵をぶち破られ、腹の血が、逆流して、口から噴き出る。痛いとか痛くないとか、そういうのを感じるのすら不可能な傷だ。

 俺はゾルフィニルの角の先に突き刺さった状態のまま抱え上げられ、次の瞬間にゴミのように放り捨てられた。


「ったくよぉ。余計な手間をかけさせてくれるぜ」


 ツヴァイト少年は地面に横たわる俺に対してゴミを見るような眼を向けながら、ゾルフィニルの目に刺さった剣を抜くと、俺の方に向かって投げる。


「ほらよ、丸腰であの世へ行くのも寂しいだろ? 俺は優しいからな。ありがたく受け取っておけよ」


 そいつはどうも。優しいのなら、あの世へ行くのも無しにしてくれませんかね。色々と文句を言いたいわけだけど俺の意識が段々と薄れていく。うん、これは死ぬ間際の感じだ。音が遠くなっていく中で、ツヴァイト少年の声が聞こえてくる。


「次は冒険者が駐留している砦、その次は兄貴たちだ。皆殺しにして、この地に俺達の王国を造り上げるぞ!」


 ツヴァイト少年は兵士たちに宣言し、俺の前から遠ざかっていく。俺はというと、身動き一つ出来ず、それを見送るしかできなかった。そして、ツヴァイト少年の姿が見えなくなると同時に俺の瞼も落ち、意識が遠のいていった。









 ――そして、次の瞬間、俺はアスラの空間にいた。


「死にかけだな」


 ハルヨシの声がした。どうやら、俺はまだ死んでないようだが。さて、ここからどうなることやら。中々に面倒くさいことになりそうだが、なんとかしなければいけない。ツヴァイトに逆襲をするためにはな――




















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