表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/273

オレイバルガス家の兄弟

 


 知らんがな。


 俺の前に現れた男の言葉に対して、そんなことを思った。目の前にいる男はチャールズ・オレイバルガスという男だそうだが、そんなのはどうでも良い。


「ここは、本格的に我々と協力して事態にあたるべきだと思うのだ。我々の使者が無礼な真似をしたというのも、水に流してな」


 さっきから、こんな調子ですげーうぜー。俺は忙しくないけど、忙しいふりをしてるんですよ。そこを察して帰ってくれませんかね。


「貴公らが西部で活動を行う援助も惜しまないつもりだ。どうだ、悪い話ではないだろう? 貴公らが俺に手を貸し、この事態の収束をさせるための協力をしてくれれば、私が大公の座に就くことは確実だろう。そうすれば、私は貴公らの望みをいくらでも叶えられるぞ」


 え? なんだって? 聞いてなかった。もう話さなくていいよ。黙ってろ、鬱陶しい。つーか、なんやねん、こいつ。急にやってきてベラベラと面倒くさい奴だな。帰ってくれませんか?


「そちらの話に俺は興味がない。そもそも、俺はこの地を魔物から救ってほしいと頼まれてやって来ただけだ。それ以外の事情など知ったことではない」


 俺とチャールズって奴は小高い丘の上で、冒険者が魔物を駆逐している所を眺めているわけだが、働いているのは冒険者だけだ。チャールズは手下を連れてきたくせに、その手下を働かせようとしていない。見てるだけなら帰れよ。


「とぼける必要は無いぞ。俺は大体の事情は知っている。戦力を整え、王家に反旗を翻そうと言うのだろう? 王家打倒はオレイバルガス家の悲願でもあるしな。喜んで手を貸すぞ。我が一族もそれを望んでいるだろうしな」


 そうっすか。聞いてなかったけど、そうっすか。

 はぁ、めんどくせ……石でも投げてよっと。えいやっ、よしっ! 魔物に命中して、頭が吹き飛んだぞ。十点かな? 十点満点中十点で。


「聞いているのか?」


 聞いてないけど、聞いてるフリしてよ。まぁ、大事な話だっていうなら、こんな原っぱでしてないで、もっとちゃんとしたところでしろよって思うよ。つーかさ――


「話を聞かせたいなら、もっと上の人間を寄越すべきだと思うがな」


 俺もエリアナさんを寄越すんで、エリアナさんに全部任せるよ。俺らみたいな頭使うのが苦手な人間同士で話してても埒があかないと思うんだよね。

 ん? どうしました、なんだか顔色が悪いですよ。


「それは、そのだな……」

「なんだ、死んでいるのか?」

「いや! そうではない、そうではないんだがな、少し都合が悪くてだな……」


 なんだよ、ハッキリしないなぁ。もういいや帰ってもらおう。


「これ以上、俺の方としては話すことは無いな。そちらにあるとしても関係ない。帰ってくれないか、俺もそれなりに忙しい身なんでな」


「無礼な!」


 チャールズとかいうやつの護衛についている兵士が声を上げたが無視。チャールズの方も、かなり怖い顔をしているけれど、別にどうでも良いよね。まぁ、フォローくらいはしておこうかな。


「話があるというならば、そのうち呼んでくれ。暇な時であれば、行けたら行く」


 俺がそう言ったら、チャールズはグヌヌと歯ぎしりしながら帰って行きましたとさ、めでたしめでたし。二度と来るなよ。


「話はなんだった?」


 チャールズが帰るのを見計らっていたかのようにオリアスさんとグレアムさんが魔物の討伐を終えて戻って来た。ジーク君がいない代わりにこの二人がやって来たわけだが、ジーク君に比べると使い勝手が悪すぎて困る。

 ジーク君は頼めば嫌がりつつも何でもやってくれるけど、この二人は出来ないことは出来ないとハッキリ言って何もやらないからね。すっごく困るのよ。お茶とかの用意も俺が自分でやらないといけないくらいだしさ。

 まぁ、それも、今日で終わりだと思うけど。


「とりあえず、この辺りは片付いたんじゃないかなぁ」


 グレアムさんは、この辺りの魔物をあらかた掃討したと考えている。俺もそう思うので、もういいだろう。とりあえず、頼まれた範囲の魔物は片づけたから、村や町の復興は、その土地の人にお任せということで、俺達は砦に帰りましょうかね。


「では帰るとするか」


 俺が言うと二人も頷き、周囲の冒険者に指示を出していく。まぁ、ジーク君はこんな風に指示を出せないから、この二人の方が役に立つ場面もあるんだけどね。オリアスさんもグレアムさんも現場の指揮官としては優秀な方だと思うし、人材に恵まれてるって良いね。俺なんにもしなくて良いんじゃないかな?


 オリアスさんとグレアムさんが上手く冒険者をまとめてくれたおかげで、特に問題なく砦まで帰ることが出来た俺達。遠出してきたので、しばらく休もうと思い、風呂に入り、風呂上りに冷やした解毒薬を飲みつつ、まったりと時間を過ごす俺。

 布教のせいか、解毒薬も定着してきたようで、喉に感じるシュワシュワ感も、皆慣れてきて、普段から飲む奴も多い。そろそろ、大規模生産に移った方がいいとは思うけれども、エリアナさんが良いというかどうか。


 そんなことをつらつらと思いながら、まったりと過ごしていた俺だが、そんな俺の休息を邪魔するかのようにジーク君が面倒な話を持ってくる。


「師匠、報告したいことがあるんですが」


 面倒くさいなぁ、明日にしてくれないかな? 明日でも良い話じゃない? まだ、話聞いてないけど。


「師匠がいない間に、ダルギン・オレイバルガスという方がやってきて、エリアナさんに求婚していきました」


「そうか」


 そりゃ、エリアナさんは美人だから求婚する奴もいるでしょうね。で、それが俺に何か関係あるのかな? 俺はあんまり人の恋愛事情に口出しはしないのよ。


「動じないんですね。師匠はエリアナさんのことが好きだと思っていたんですけど」


 そりゃ好きよ。美人だからね。美人というだけで俺的には全肯定だよ。でもさぁ、俺が好きなのとエリアナさんが俺の事を好きなのは別の話だよね? 

 なんか、エリアナさんが俺の事を好きだっていう噂を聞いたことがあるような気がするけど、気のせいだしね。俺が一方的に好きでも迷惑なだけだし、エリアナさんが好きな人と結婚した方が良いんじゃないかな? 俺的には美人さんには幸せになってほしいので、本人の好きにしたらいいと思うんだけど。


「俺が騒いだところで仕方ないことだからな。全ては彼女が決めることだ。俺の気持ちはどうでも良い」


 俺がそう言うとジーク君は釈然としない表情で俺に尋ねてくる。


「そんな簡単に割り切れるものなんですか?」


「割り切れるものだ」


 なんだかジーク君と俺の間で感覚のズレがあるようですね。なんというか時々ジーク君って重いんだよね、物事を深く考え過ぎっていうかさ。ちょっとそういうのって俺のノリに合わなくて反応に困るんだよな。もう少し物事を軽く考えた方が良いと思うんだけど。

 物事を軽く考えると、エリアナさんがどうこうってのも、どうでも良いことになるんだからさ。あんまり深刻に考えられてもねぇ。


 というわけでジーク君が釈然としない様子のままで、数日が過ぎた。エリアナさんからは結婚がどうしたとかいう話は何も無し。ときどき凄く困っている様子だけど、困っていることを誰にも相談している様子は無さそうなんでたいしたことは無いだろうと思って、俺も普通に過ごしていた。そんなある日のことである。


「招待状か」


 ダルギン・オレイバルガスとチャールズ・オレイバルガスの二人から、食事の誘いが来た。招待されているのは、俺とエリアナさんだ。

 招待の理由は親睦を深めるためと、領内に潜伏している大黒竜ゾルフィニル討伐についての話し合いだそうだ。

 はて? 大黒竜ゾルフィニルとはなんだったか、記憶にないぞ。いや、記憶にはあるのかもしれないけど、忘れてしまったようだ。なんかそんなのいたような記憶もあるけど、姿を見てないし、たぶん記憶違いかな。よし、解決した。ゾルフィニルって奴の方はどうでも良いや。

 それよりもアレだな、ダルギン・オレイバルガスという奴の方が問題だな。こいつは確か、エリアナさんに結婚を申し込んだ奴だな。こいつに関しては俺も注意しないといけないぞ。

 気づいたんだが、俺はエリアナさんの上司であり、現状は保護者なんだよね。親御さんがいない以上、俺が部下の結婚に関しては責任を持たないといけないわけで、エリアナさんが悪い男に引っかからないようにチェックしていかないといけないわけだ。それこそ、童話に出てくる嫌味な継母のように些細なところまでチェックして駄目なところは徹底的に洗い出し、エリアナさんに相応しい男かどうかをハッキリさせなければいけないな。

 そういうわけなんで、俺は食事会に出席することにした。しかし、チャールズというのは誰なんだろうね。エリアナさんの知り合いかな? 俺は知らない人なんだけど。


 で、数日後、俺とエリアナさんは馬車に揺られて、オレイバルガス領のキルゲンスという都市に到着した。道中、特に問題は無かった。あったとしても、エリアナさんが『どうしよう、どうしよう』って感じに頭をグラグラさせていたくらいなので、放っておいても良いだろう。


「ようこそ、アロルド殿。ダルギン・オレイバルガスです。以後、お見知りおきを」


 キルゲンスの領主邸に着くなり、ダルギンという男が俺に挨拶に来たが、見ただけで駄目そうだと思った。まず、服のセンスが無い。流行遅れの服を臆面もなく着ていて田舎者にしか見えない。というか、俺達を招いた領主邸の時点で駄目だ。歴史があるんでは無くて古臭いだけで貧乏くさく見える。もう、これだけでエリアナさんを嫁にはやれないと俺は思ったわけです。


「初めましてエリアナ殿、チャールズ・オレイバルガスです」


 しかし、調度品も良くないなぁ。高い物が良い物ってわけじゃないぜ。床の色とかとの兼ね合いを考えずに置いてあるせいで、趣味悪く見えるし、高級品でも安っぽく感じるな。田舎者のセンスだぜ。こんなところに都会人のエリアナさんは置いておけないぜ。


「アロルド殿も数日ぶりだな。どうだ? 俺の話を考えてくれたか?」


 おいおい、この壺、磨き方が足りないんじゃないかしら? こっちの置物は凄く良く目を凝らしたら、ホコリがかかっているように見えるな。客に汚れてるとか思われるのって駄目だと思うな。メイドとかの教育も出来ないのかよ、駄目な奴だ。やっぱりエリアナさんはやれないな。


「ほう、随分とアロルド殿と仲が良いのだな。……エリアナ殿、この間の件は考えていただけましたか?」


 窓もガラス窓と木戸の所があるみたいだしよ。貴族の家なんだから、全部ガラス窓にするくらいの財力は無いのかよ。つーか、ガラス窓も汚いんじゃないか? 実際に汚くなくても、俺が汚いと思ったら、汚いわけで、そういうことを客に思われないように徹底的に気をつけるべきだと思うんだよな。つーかさ、そこの馬鹿兄弟、俺達はまだ玄関にいるんだけど、さっさと案内してくれませんか?


「兄者こそ、エリアナ殿と仲が良いようだな。一体何を企んでいるのやら」

「貴様こそ、アロルド殿に何を吹き込んだのやら」


 なに、こいつら、すっごく仲良さそうなんだけど。俺達はお邪魔なんじゃない? まぁ、そんなことはどうでも良くて、さっさとメシを食わせて欲しいんだけど。


「おい、話があるなら、さっさと済ませてくれないか。こちらはそちらの話が終わるまで待っていてやるから」


 なんか話があるんだったら、済ませて欲しかったんだけど、馬鹿兄弟は会話を止めて、ようやく俺達を案内しだした。もう駄目だね、これ。絶対エリアナさんは嫁にやれない。保護者代理としては、絶対無理だ。しかし、俺とエリアナさんは同い年なんだよな。それで保護者とかわけわからんぜ。


 で、案内された部屋には大きなテーブルがあって、その上に大量の料理が並んでいたわけです。それを見て、俺はもうなんというかね。


「はぁぁぁぁ…………」


 くっそデカいため息を吐いてしまいました。だってさ、蛮族じゃないんだから、料理を大量にテーブルに並べておくって発想がそもそもおかしいんだよね。最近の王都のスタイルだと、順番に料理を提供していくって感じなんだよ。それなのに、ここときたら、もうなんていうかね。


「ど、どうさましたかな、アロルド殿」


 ダルギンが俺に尋ねるけど、俺も出された食事に文句をつけるのは失礼なので、黙っている。ただ、ダルギンに対してため息は吐いたけどさ。

 なんか、ダルギンが凄く焦り出したけど、俺には関係ないよね。無視していると、給仕が俺とエリアナさんを席に案内してくれた。席の並びは、俺とエリアナさんが隣り合って座り、馬鹿兄弟二人が俺達の向かいに座るというものだった。とりあえず、エリアナさんが隣に座ったので匂いを嗅いでおく。なんだか、最近微妙に避けられていたので、匂いを嗅ぐ機会が無かったので、この機会に一気に補給する。

 不思議に思ったんだけど、エリアナさん借りてきた猫みたいだね。どうしたんだろうか。まぁ、こんな田舎者の屋敷に来たら調子も悪くなるか。俺も田舎者が移って調子悪くなりそうだしね。


「では、我々の今後の成功願い――」

「いや、我々の今後に神の祝福があらんことをだろう」

「馬鹿が、アロルド殿は教会と距離をおいているのだぞ、神などと言ったら印象が悪くなるだろうが」

「馬鹿は貴様だ。アロルド殿が距離をおいているのは革新派だ。アロルド殿は守旧派の庇護者だぞ」


 ああ、うん、乾杯の音頭を取りたいんだよね。でもさ、俺達の所にまだ酒が来てないんだけど。乾杯したいんなら、みんなに酒が行きわたってからだよね。二人とも凄くいっぱいいっぱいなのは分かったから、俺も厳しくは言わないけどさ。でも言わないといけないこともあるわけで。


「酒が来てないんだが……」


 俺が申し訳なく言うと、ようやく気づいたのか二人が慌てて、酒を取りに走る。いや、なんでお前らが行くんだよ、給仕が困ってるだろ。二人で競い合っていくんじゃないよ。お前ら二人で行ったら、客の相手は誰がすんだ? 給仕にやらせんのか?


「な、なんだか、面白い方たちで……」


 エリアナさんが今までに見たことない顔になっている。うん、小声で『あんな人だったかしら……』って言ってるね。まぁ、エリアナさんと会った時はダルギンて人も必死だったんじゃないかな。チャールズとかいう奴の事は知らんけど。

 馬鹿兄弟が一人っ子だったらこんなことにならないんじゃないかと、なんとなく思ったけど、現実には兄弟なんだから、そんなことを言っても仕方ないよね。


「「お待たせしました御二方」」


 馬鹿兄弟が同時に部屋に入ってきて酒が入った瓶を掲げる。ガラス瓶に入っているので間違いなく高級品だけど、二人とも持ってきてどうすんの?


「どうぞ、私の物をお飲みください。これはさる方から頂いた貴重なもので」

「いやいや、俺の物を飲んでもらいたい。俺のこれも貴重な品だ」

「は、貴様のような味の分からぬ奴が勧めるような酒など飲めたものか」

「それを言うなら、たいして酒も嗜まない兄者に酒の味が分かるものか」


 ああ、うん。二人とも自分の酒を飲んでもらいたいんだよね、それは分かるよ。でもさ、お前らが争っていると、いつまでも始まらないんだよね。もう面倒くさいから、俺が頼んでおこう。給仕さん、すいません注文です。


「俺と彼女には林檎酒を。一杯目なので軽めのものを頼む。後、最初から食べるには重い料理が多いので、前菜に軽い物を用意して欲しい」


 給仕さんは何かを悟ったような表情で俺の注文を受けてくれました。馬鹿兄弟はまだ言い争っています。うん、なんというかこいつら駄目だ。たぶん、俺の方が賢いんじゃないかな? よし、こいつらに何か頼まれても絶対に断ることにしよう。こいつらは関わったら碌なことにならない奴らだ。

 エリアナさんの結婚の話も無しだね。エリアナさんと結婚したいとか言ったら、こいつら全員ぶちのめして、お前らはエリアナさんに相応しくないってハッキリと言ってやるしかないな。


 で、決めたは良いんだけどさ、いつになったら食事会が始まるんだろうか?















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ