奪還作戦
村長さんや町長さんに、魔物に占拠された村を取り戻して欲しいとか頼まれたけど、安請け合いしなけりゃ良かったね。なんか、想像以上に面倒くさい感じです。
今、俺はとある村の近くにまで来ています。魔物に占拠されたっていう村らしいけど、もう村じゃなくて、廃墟だね。こんなところを取り戻してどうすんだろうかね。別の所に新しい村を作った方が良いと思うけど。まぁ、頼まれた以上は、魔物を皆殺しにしてあげるけどさ。
「村にいる魔物はオーガですね。砦にいたのと同じような装飾を身に着けていたので、同じ氏族だと思います」
ジーク君が報告をくれたので適当に頷いておく。探知一号はどっかに出かけてるので、ジーク君に調査はお任せだ。しかし、同じ氏族ね。氏族ってどういう意味なんだろうね。まぁ、皆殺しにするからどうでもいいか。
「じゃ、行くか」
俺は剣を腰に帯び、村に向かって歩き出す数は二十匹ほどだそうで、俺が連れてきた冒険者は六十人なので、数的には問題は無いと思う。世間一般では、オーガ一匹につき五倍の数がいないとどうにもならないというが、そういうのは嘘だと思うので無視して突っ込む。
村にいる魔物は、こちらの誘いに乗ってこない程度には賢かったので、突撃せざるを得なかったわけだが、まぁ、それでもやりようはある。
先頭を突っ走る俺の事を見つけたオークが雄たけびをあげ、村の仲間に敵襲を知らせたようだが、どうでもいい。俺はそいつの三メートルぐらいの高さにある頭まで飛び上り、剣を振り下ろして頭を粉砕する。
オーガと言っても別にたいした魔物じゃない。背が人間の二倍近くあって筋骨隆々、角があって怪力で人を食うくらいだ。見た感じは人間を大きくしたくらいで急所も人間準拠なので、頭を剣で叩き割ったり、心臓を剣で貫いたり、首を落とせば死ぬ。余裕ですよ余裕。
ただ、まぁ皮膚が硬いのか、剣が通らない魔法が通らないで苦戦している冒険者もいるようだね。まぁ、じっくり仕留めていけば良いんじゃないかな。そのための準備もしているわけだし。
「魔法使いに狩り箱を作らせろ。予定通り、一匹ずつ狩っていくぞ」
俺は近くを歩いていたジーク君を捕まえて、ジーク君経由で土木系魔法使いに指示を出す。オーガとかの対策に関して、皆が困っていたので、なんとなく提案してみた方法だけど。イケると思う。
狩り箱などと名前が付いているが、別にたいしたものじゃない。狩り箱は、土木系魔法使いに一匹の魔物を中心にして石壁を造ってもらい、冒険者数名と魔物を閉じ込めた決闘場を作るだけのことで、複数の強力な魔物に警戒する必要もなく、冒険者側がじっくり慎重に魔物を狩れる場を整えるためのものだ。まぁ、石壁の強度にも限界はあるので、永遠に閉じ込めておくことは出来ないから、時間制限はあるけど。
狩り箱は、魔物の方は閉じ込められるが、冒険者は出入り自由な工夫がされているので、疲れたら休むという方法も取れるので、危険は少なくっている。あまり冒険者の数が減っても困るので、最低限の安全策は取っておくべきだろう。
狩り箱は十は造られたみたいで、冒険者はそれぞれの石壁に覆われた箱のような建造物の中に入って行く。土木系魔法使いは何人かが限界を迎えたようで、もう狩り箱は造れそうになかったが、自由に動けるオーガの数も六匹なので、問題はないだろう。六匹の内の一匹がボスっぽく後ろに控えているが、すぐに動きそうな気配はない。
「俺が三匹、そっちが二匹だ。出来るな?」
俺は隣を歩くジーク君に聞いてみる。ジーク君は了承したのか何も言わずに頷いた。まぁ、ジーク君なら大丈夫でしょうね。じゃあ、頑張って。
俺とジーク君は剣を手に、突っ込んでくる二匹のオーガに向かって、全力の踏み込みを行い、一気に距離を詰める。
俺はオーガの腹に目がけて全力で剣を振り、皮膚・腹筋・内臓・背骨をまとめて断ち斬る。オーガは真っ二つに分かれて、地面を転がっていった。
ジーク君の方は背が足りないせいなのか、腹を狙うのではなく、足首を斬り裂いて転ばせ、オーガを跪かせてから、その首を剣で斬り裂いている。うーん、体の動かし方は俺のだけど、技はグレアムさんっぽいな。まぁ、俺が教えたいのは心構えみたいなもんだし、別に技はどうでも良いんだけどさ。
おっと、そんなことを考えていたら、俺に向かって棍棒が振り下ろされました。まぁ、余裕で叩き落とすんですけどね。受けるんじゃなくて、相手をぶった斬るつもりの剣で叩き落とす。こうすると、だいたい相手の武器が手から落ちるので、その隙に剣を叩き込んで殺す。俺は武器を落としたオーガの首にを剣で斬り落として殺す。
あと一匹がとりあえずの俺の担当なのだけれども、その一匹はなんだか逃げ腰になっている。まぁ、そんなのは俺には関係ないことなので、一気に距離をつめて、跳躍しながら頭を剣で叩き潰す。これで、俺の担当は終わり。さて、ジーク君は――
うん、見事に吹っ飛ばされてるね。
オーガを二匹倒したのは良いけど、残っていたオーガのボスに狙われたのかな。砦で見た奴より強そうな感じがするけど、ジーク君に何とかなるかな? ちょっと見物でもしてるかな。
吹っ飛ばされたジーク君が起き上がるなり、すぐさまナイフを投げるけど、オーガのボスは避けようとすらせずに当たるに任せている。ちょっと劣勢になると、すぐにビリビリナイフを投げるんだよね、ジーク君。よく相手を見た方が良いと思うよ。全く効いてないみたいだし。
たぶん、皮膚とかが厚すぎるんじゃないかな、体の表面でビリビリやられても効かないし、体の内を通そうと思って、そもそも刃が通らないから、直接、雷を流せないんだよね。だったら、剣で斬るしかないわけだけど……
まぁ、通らないよね。ボスだけあって硬いのか、ジーク君の剣は普通に弾かれているわけで。微妙に筋力とか体格の無さが出てるね。速さではジーク君の方が上だけだけど、オーガのボスの方が攻撃力も防御力も上だからきついんじゃないかな。で、きつくなってくると、安易な方法に手を出すわけで……
目玉とか柔らかそうな部位を狙ったジーク君の剣はオーガのボスに受け止められ、ジーク君は棍棒による反撃を食らって吹っ飛んでいった。ジーク君の方は焦ったつもりもないんだろうけど、ほとんどの攻撃を潰されてるわけだしね。徹底的に手段を潰され、最後に残ったのを選択せざるを得なくなって、そこを読まれたってことなんだろう。ボスだけあって、それなりに戦い慣れてるってことなんだろう。砦で戦ったオーガよりはマシかもね。
おっと、そんなことを考えている内に、ジーク君がとどめを刺されそうです。ジーク君に死なれては困るので。オーガのボスとジーク君の間に割って入ります。
うん、負ける気がしないな。俺は殺意を向けてくるオーガの懐に飛び込んで、膝に剣を叩き込む。俺の剣でもオーガのボスの皮膚は斬れなかったが、膝を砕くことは出来た。最近、修行の成果が出て腕力が高まってきているような気もするので、別におかしくはないだろう。
オーガのボスは片膝をついた状態で、俺に向かって棍棒を振るが、俺は剣を叩きつけて防ぐ。俺の剣によって弾かれた衝撃でオーガのボスの腕がへし折れる。俺の腕が折れたわけでもないので、どうでも良い。
オーガのボスが怯えた眼で俺を見るのが、何とも言えずショボい。もう少し気骨を見せてもらいたいものだが、所詮は魔物なんで無理かとも思いつつ、その頭に剣を振り下ろし、頭蓋を粉砕する。時間にして一分くらいだろうか、俺と戦った結果、オーガのボスはそうして命を落とした。
オーガを殺した俺を見るジーク君の眼が何とも言えないものになっている。一応、アドバイスでもしておこうかな。
「筋力が足りないな。人間相手でも、その筋力ではどうにもならないぞ」
岩に拳の跡が付くくらいじゃなく、一発でそんな跡も残らないくらいに岩を砕けないと駄目だぞ。人間相手でも、剣で防いだ瞬間に押しつぶされる可能性もあるわけだし。
俺を相手にしたら、防御した瞬間に両腕が折れて、そのままぶった斬られるからね、その筋力じゃ。言っておくけど、ビリビリじゃ剣の勢いは殺せないからね、きちんと受け止めきれるだけの筋力を手に入れような。
とりあえず、ジーク君は帰ったら修行だな。まぁ、いつ帰れるかは分かんないんだけどさ。これからいくつも村とか町を占拠してる魔物の群れも狩って行かないといけないしね。
さて、他のオーガの相手をしていた冒険者も一段落ついたようだし、少し休んだら、次に行こうか。奪還しないといけない場所はいっぱいあるみたいだしね。




