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砦主

 

 アロルド・アークスです。


 オレイバルガス領に来たのは良いけど歓迎されませんでした。

 今、俺の目の前にはオレイバルガス大公家の家臣の人がいるんだけど、滅茶苦茶睨んできていて困ってます。あんまり睨まれるとお酒が不味くなっちゃうよ。今飲んでるのは西部の名産の林檎酒です。中々に爽やかな風味で美味しいですが、目の前に怖い顔をしてる人がいるとなぁ。

 初めての土地の水とかお腹壊しそうだから、お酒飲んでるだけなのに、そんなにおかしいかね。生水とか危ないから、お酒って選択は悪くないと思うんだけどね。まぁ、それはどうでも良いんだけど、コップの中身が無くなったので、瓶からお酒を注ごうとしたのですが、メイドに勝手に注がれてしまいました。

 そうそう、なんか知らないけど、娼婦だった女の子の何人かが娼婦を辞めて、俺のメイドになりたいって言いだしたのでメイドにしときました。歳は十五歳くらいの子が多いね。そんな若い内から娼婦やってるなんて大変だね。生きるために仕方なくとか、借金のカタでとか言っていたけど、俺が渡した銀貨でなんとかなったったって子も多いんだとか。まぁどうでもいいんだけどね。

 メイドとかの使用人は空気も同然だって、小さい頃から教わっていたので、いてもいなくてもどうでもいいし、どうでもいい存在の過去とかにも興味は無いです。適当に給金出しとけば、身の回りのことをやってくれるってだけの存在なんで特に気になりません。

 しかし、俺の前の人は気になるようです。立たせてても邪魔だから、俺の隣にメイドを座らせてるのが、そんなにおかしいことかね?


「話があるなら、早くしてくれないか?」


 だんまりを続けられても鬱陶しいんだよね。俺はこれから晩御飯の肉の調達に行かなきゃならんのだし。オレイバルガス領に入ってから、俺達についてくる奴がどんどん増えてるせいで、肉とか足りないんだよね。襲ってくる魔物を食ってるだけじゃ足りなくなってきたんで、冒険者連中で周囲を探し回ってるくらいだし。


「貴方がたが、どういう意図をもって我らの領地にやってきたのか、大公閣下は図りかねており、我らとしては、貴方がたがこの地に赴いた理由を伺いたいのですが」

「ただ人助けに来ただけだが?」


 何言ってんだろうね、コイツ。困ってるなら助けに来るっていうのが、人の道ってものだろうに、そういうことも分からないんだろうかね。


「どうしても、本当のことを話していただけないのですか?」

「本当も何も無いだろう。俺は善意のみで、この地にやって来た。まぁ、国からこの地のことは聞かされたがな」

「国からですか……?」


 おや、なんだか表情が険しくなったね。喉が渇いてるならお酒あげるけど、どうする?


「でしたら、我々は貴方がたと協力することはできないでしょう。西部の民は王家を嫌っていますゆえ」


 はぁ、そうなんすか。まぁ、どうでも良いよ。というか、西部の民が嫌ってるって嘘だよね。嫌ってるのはキミらなんじゃない? 普通に生きてる民が、王家とか雲の上の存在に対して色々と思ったりしないと思うんだけど。そんなこと考えるより、今日の晩御飯を考えるよね。俺だってそうだもん。


「こちらにとってはどうでも良い話だ。こちらはこちらで勝手にやらせてもらうが構わないな」

「ええ、どうぞ。ですが、西部の民が、貴方がたを認めますかな?」


 認めるんじゃないかな? 毎日タダでご飯あげてるし、俺達のために働いてくれるなら給金だって出してるしね。俺だったら、そんな人に逆らうようなことはしないんだけど。


「魔物など我々だけで片付けられますので、その身に危険が及ぶ前に早くこの地を去った方が身のためですぞ」

「心配してくれて感謝する。そちらも無理をせずに頑張ることだ。まぁ、何かあっても我々がいるので、さほど心配もいらないと思うがな」


 おや、微妙に顔がイラッとしてますね。どうしたんですか? やっぱり、お酒飲みますか?


「……あまり思いあがらないことだな。若造……」


 あ、お帰りですか、どうぞどうぞ。また来てください。……て、帰る時の挨拶も無く出ていきやがった、あの野郎。もう来るんじゃねぇ!


 はぁ、もう無駄な時間使っちゃったよ。晩飯の調達は他の奴に任せよう。俺はノンビリしてりゃいいや。とりあえず暇つぶしをするために、俺は砦の外へと出て、野営地を眺めることにする。


 すげぇ雑然としてる。先日、見つけた砦に駐留しているわけだけど、なんだかオレイバルガス領全土から人が集まってきているようにも感じるぐらい、人が集まってきてやがる。

 やってくる奴が皆、みすぼらしい格好な上に腹が減っていて可哀想だったから、風呂に入れてメシを食わせてやったら。なんか居着いちゃったんだよね。ああ、風呂だけど、連れてきたキリエが水をお湯に変える魔法道具を作ってくれたので、それで入れるようになった。メシは魔物を狩ってきたのを食わせてる。魔物の肉を食うのは嫌とか言う奴もいるけど、なんで嫌なのかが分からない。嫌なら食うなって言ったら食ったので、食わず嫌いという奴だろう。飢え死にしそうに見えるのに食わないとか凄まじい食わず嫌いだと思った。


 タダメシを食わせるのもアレなんで、砦に来た奴は基本的に働かせることにしてる。だいたいは土木仕事だ。今いる砦は入手した時に色々あったせいで、結構壊れてるんで、それを直させたりしてる。

 砦入手時に何があったかっていうと、俺達が来た時には砦は魔物の物になっていたから、魔物を皆殺しにしなきゃならなかったんだよね。砦にいたのは平均身長が三メートルを超えるオーガの群れで鬱陶しかった。

 苦戦? しなかったよ。基本バカだから、いつものように誘い込んで、有利な状況をつくって終わりでした。中に五メートルくらいの大きさの強そうな奴がいたけど、デカいだけでたいしたことなかったね。俺の方が腕力あったくらいだし、剣を使うまでもなく殴り殺せた。

 まぁ、暴れられたせいで砦が壊れてしまったから、色々と面倒になってしまったわけだけど。


 壊れた砦に関しては人海戦術と魔法でなんとかなってる。タダ働きは悪いんで、働いた奴には必ず給金を出してる。まぁ、給金を出しとけば、それを盾に、嫌がってでも無理矢理働かせられるから出してるって意味合いも強いけど。

 しかし、俺の所にくる奴は根性無しで困るんだよね。一日十六時間労働させようとしたら無理とか言いやがるし。土木系魔法使いの連中を見習えよ、奴らは八時間も休めるって喜んでるぞ。まぁ、そんな風に甘えてた奴らも、三日ほど十六時間労働させると平気になってくるんだよね。

 大事なのはぶっ倒れて虫の息になるまで働かせること、そうすると次に起きた時は体力に余裕ができて、無理じゃなくなってるからね。やっぱり、無理ってのは嘘つきの言葉なんだって俺は理解したよ。


 そんな風に頑張らせているせいで、砦も直りつつあるんで良かった良かった。やっぱり住むところは大事だよね。砦を直させつつ、砦の周りに魔法で土壁の家を建てたりして、俺の所に来た奴の家にしたりしてるけど、アイツら良くあんなので我慢できるね、全く理解できないよ。

 ああ、そう言えば、砦の周りもキチンと土木系魔法使いを使って、石の壁を作っておいた。魔物が入られると困るしね。


 石壁が出来ると、俺達の所にやってくる奴が更に増えたりして大変なんだよね。給金とか払うにしても、俺の財布も無限じゃないからさ。しょうがないんで、金策に走ったりもしてる。まぁ、稼いでくれるのはキリエとかザランド爺さんなんだけどね。

 魔物がいっぱい狩れるので魔物から採れる魔石も素材もたくさんだから、魔石を材料にする魔法道具やら武器やらも大量に造れるんで、それを商人とかに渡して売ってきてもらったりしてる。途中で魔物に襲われると危ないんで、冒険者をつけてやったりすると、すごく喜ばれて、帰りには大量の品物を持って帰ってきてくれるし、お店も建ててくれたりしてるんで、細かいことは分からないんだけれど、上手く行ってるんだろう。お金の取引関係はエリアナさんに任せてる心配はいらないんじゃないかな?


 うーん、しかし、よくよく考えてみるとだね。中央に砦、その周囲に家や店があって、その周りを石壁で囲んでいるって、これって、もしかして町なんじゃないか?いや、町長とか決めてないし、まだ町じゃないだろ。俺が『ご砦主さいしゅ様』とか呼ばれてるだけだしな。

 町になったら、住人は領主に税金払わなきゃいけないんだろ? 俺は税金とか払うの嫌だから、町にならないでくれるといいな。『俺達は住むところが無いので、集まってるだけの集団ですよ』って言えば、大丈夫なんじゃないかな。物を買ったり食ったりする以外で、お金とか払いたくないし、何に使ってるのか分からない税を払えって言われれば、剣を取って対抗することも辞さない考えだよ、俺は。


 まぁ、領主がなんか難癖つけてきて戦いになっても大丈夫だろうから、少し安心はしてるんだよね。ここに来た奴らで希望者にはオリアスさんとグレアムさんが戦い方を教えたりしてるし、適性がありそうな奴にはカタリナが中心になって回復魔法を教えてる。

 戦えない奴はエダ村から連れてきた奴らとかザランド爺さんやキリエに指導をさせつつ、魔物製品やら魔法道具を作らせてるから、生産系も安心だよね。


 そういえば、探知一号にオレイバルガス領とかオレイバルガス大公家のこととか調べさせてるらしいけど。それはどうなってるんだろうね。まぁ、どうでもいいか。別に知らなくても困ってないしね。

 大公って偉いらしいけど、こんな田舎の土地を任されてるわけだし、程度が知れるよね。砦からガルデナ山脈が良く見えるし、ガルデナ山脈はアドラ王国の西端だから、オレイバルガス領って西の果てなんだよね。こんな土地を任されてる奴なんて、気にする価値も無い相手だと思うけどね。


 それよりも、思い出したんだけど、俺って魔物を討伐しに来たはずなのに、あんまり魔物を狩ってないんだよね。これって大丈夫なんかね。そのことも含めて、エリアナさんに相談したほうが良いのかな?

 ん? おや、近くの村や町で、村長とか町長をやっていた人たちじゃないですか。どうしました? え、今後は大公家ではなく、俺に従うので、故郷を取り戻して欲しい? 大公家より、俺の方が頼りになりそうだから? うん、分かった。それなら任せておけ。大公家なんかよりも俺の方が頼りになるってハッキリと分からせてやるよ。


 いやぁ、頼りにされるって嬉しいものですね。俺、頑張っちゃいますよ!












 

 近所の廃墟を素性不明の武装集団が占拠して、難民とか住所不定無職の人達を集めて戦闘訓練をしていたら怖いですね。

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