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ジーク君の冒険2

 


 地竜を狩った報酬だけでは目当ての宝石には少し届きませんでした。

 

 宝石店の店員さんは僕を明らかに見下していましたし、値を釣り上げられた可能性もありますが、証拠が無いことを騒ぎ立てても事態は良くはならないので、僕は素直に金策に走ることにしました。

 幸い、貴族の方から個人依頼を一件受ければ払えそうな額ですので、それほど困ることは無いだろうと思っていたのですが、ちょっと思惑が外れたようです。


 現在、僕はとある貴族の御嬢様の護衛をしています。この御嬢様は地竜の剥製を欲していた依頼人の娘さんです。僕の腕を見込んだ依頼人が、もう一件、僕に依頼を持ってきたというわけです。


「ねぇ、あれは何?」


 僕と同じぐらいの歳頃の御嬢様は王都見学をしたかったのか、あちこちを見て回りたいと言って聞きません。護衛としてはお嬢様を危険に晒すわけにいかないので、止めようとしたのですが、引っ叩かれました。


『平民が私に意見しないで!』


 凄い剣幕だったので、僕は大人しく言うことを聞くことにしました。これが師匠やらグレアムさんやらオリアスさんだったら、血の雨を降ってもおかしくないのですが、僕はあの三人ほど凶暴ではないので、我慢できる範囲です。


「あれは何かって聞いてるんだけど!」


 お嬢様が靴の踵で僕の足を踏みます。かなり痛いですが、これも我慢できる範囲です。


「すいません。僕も何かわかりません」


 御嬢様が指さした先には屋台がありました。たぶん食べ物を売っていると思うのですが、どういう食べ物かは分かりません。どろっとした液体を鉄板の上で薄く広げて焼いているようですが、どういう料理なんでしょう? 屋台の店主は黒髪にこの辺りでは見ない肌の色をしているので、どこかの地方民で、故郷の料理を提供しているのかもしれません。


「何よ、使えないわね」


 僕が屋台を観察していると、御嬢様から肘打ちを食らいました。躱そうと思えば躱せるのですが、それをすると火に油を注ぎそうなので甘んじて受けます。傍若無人には慣れているので耐えられます。師匠とかに比べればマシです。


「もういいわ、次に行くわよ」


 御嬢様は僕のことなど全く気にせずズカズカと王都の道を進んでいきます。この人は、これでトラブルとか起こさなかったんだろうかなどと思ったりしますが、起こさない訳がなかったのだと、僕はすぐに理解することになりました。


「おい、ぶつかったぞ!」

「はぁ? そんなところに突っ立ってるアンタが悪いんじゃない!」


 速攻で喧嘩騒ぎを起こしました。御嬢様が貴族の方とぶつかったようです。

 どう考えても御嬢様が悪いです。少しは避ける努力をした方が良かったと思うんですが、堂々と体をぶつけましたからね。相手は騎士を引き連れているようですし、それなりの格の貴族のように見えます。相手を見て喧嘩を売るべきだと思いますが、そういう判断は難しいのでしょうか。


「口の利き方がなってない小娘だな。おい、少しを仕置きをくれてやれ!」


 貴族の人は護衛の騎士を見ると、そう言いました。流石に子供相手にそれは大人げないと思いますし、そもそも僕は御嬢様の護衛ですから、御嬢様が危なければ助けに入らざるを得ません。


「お怒りはごもっともだと思いますが、それはちょっと……」


 僕が割って入ると、貴族の人は僕と御嬢様を露骨に見下した表情になった。


「薄汚い小僧が騎士の真似事か?」

「ええ、そうよ。こいつは私の騎士でアンタの騎士なんかよりもよっぽど強いんだから。なんだったら試してみなさいよ! こいつが勝ったら、アンタが私に謝りなさいよ!」


 御嬢様、落ち着いてください。この国では無礼討ちは許されることが多いんです。貴族のあなたは殺されないかもしれないですが、平民の僕は殺されても文句は言えないんです。


「ほう、言ったな。では、この小僧が負けた時は、儂の靴でも舐めてもらおうかな」

「良いわよ。でも、負けないでしょうけどね」


 なんだか凄いことになってきました。ここは天下の往来で人も見ているのに決闘をやらせるんですか? 二人とも貴族なんですから、もっと体面とか考えてください。


「あんた、私の護衛なんだから強いのよね?」


 御嬢様は何も考えてなかったようです。今更になって僕の腕前を聞いてきました。勢いで生きてるだけの子なんだなって理解できます。


「小僧、死んでも後悔するなよ」


 向こうの貴族の人は僕を殺す気マンマンのようです。自分の騎士の一人に意味ありげな視線を送っていますし。本当に命が安い世界だと僕は思います。こうなったら、仕方ないので僕も覚悟を決めて決闘を受けることにします、拒否すると問答無用で殺しにかかってくる気配がしたので仕方なしです。


 僕は軽く『銀枝』に触りつつ、僕の相手らしき騎士の人に尋ねます。


「開始の合図は?」


 僕の問いを騎士は鼻で笑いながら答えました。


「ガキ相手にそんなものが必要か? いつでも好きにかかって来い」


 大層なこと言うわりには、騎士は鎧で身を固めています。対して、こちらは防御力など欠片も無い只の服です。決闘の形態としては尋常のものではありません。普通は騎士の方が鎧を脱ぐか、僕の方が鎧を着るかで装備を対等なものとするべきはずなのですが、僕にそれを言う権利はありません。

 実際に戦うのは僕と騎士でも、決闘をしているのは御嬢様と貴族の人です。御嬢様と貴族の人が、この状態での決闘を認めるならば、僕らには何も言うことはできません。単に御嬢様は知らないので、何も言わないだけだと思いますが、それでも何も言わないなら、この決闘を認めていることになります。多少は鎧で守りを固めている相手と戦うのがどういうことなのか少しは考えて欲しいのですが。


「はぁ……」


 思わずため息を吐きながら、僕はゆっくりと騎士の方に向かって歩き出しつつ、剣を抜きました。まぁ、ほとんどの人が見えていなかったと思います。たぶん周囲の人はいつの間に僕が剣を抜いていたようにしか見えないはずです。


 それは僕と対峙していた騎士の人も同じでした。もっとも、騎士の人はもっと大事なことにすら気づいてないようですが。


 ――自分の右手が地面に転がっているという、とても大事なことにすら。


「ああああああっ!?」


 傷口から血が噴き出し、騎士はようやく自分の手が斬り落とされていることに気づいて、絶叫をあげます。いつ斬られたのか彼は全く理解していないでしょう。


 僕が騎士の手を斬り落とす時に使ったのはグレアムさんから習った抜剣術です。単に素早く剣を抜き、それと同時に相手を斬るという技術ですが、奇襲や暗殺などに使うと効果は絶大です。


 まぁ、僕の場合、そこまで技術があるわけではないので、武器で補っているんですがね。


 僕の剣『銀枝』は、その名の通り枝のような細さの剣です。と言っても、細剣ほど細くはないですが。だいたい平均的な長剣の二回り細いぐらいでしょうか、それでも斬ること目的にした剣として考えると枝のような細さです。その分、軽いため、素早く振り回すことが出来ます。

 技術的にはまだまだ未熟な僕ですが、この『銀枝』によって、グレアムさん並の速さで抜剣ができるというわけです。


 僕は傷口を抑えて蹲っている騎士を見下ろし、反撃の気配が無いのを確認すると剣を下ろしました。お互いの主が多少でも思慮深ければ、負うことは無かった傷です。可哀想だとも思いますが、決闘になった以上、手心を加えるわけにもいかないので、こうする他ありませんでした。


 僕は御嬢様を見て、これで終わりにしても良いかどうかを眼で問いかけます。貴族相手の場合は殺すまでの決闘などは行われませんが、今回の決闘は貴族ではないもの同士です。そういう場合は、主が相手を殺しても良いかどうか判断します。

 御嬢様は硬直しており、判断は出来ない様子です。こんな血生臭いことになるとは思っておらず、ショックを受けているのでしょう。決闘に関して甘い考えがあったのかもしれません。もしかしたら、人が血を流すところも初めて見た可能性もあります。


 御嬢様から返事を貰えない僕は、相手の貴族を見ます。貴族の方は青ざめた表情でしたが、すぐに僕の眼差しの意味を理解し、声を上げます。


「そこまでだ!」


 いくら命が安いと言っても、自分の部下を天下の往来で殺されでもしたら面子が潰れますから、その判断は当然だと思います。道端で斬り殺されて屍を晒す程度の騎士が家臣にいるなどと思われたくはないはずですからね。


「見事だ、小僧! その腕前は素晴らしい。我が家に仕官せんか?」


 そして、自分の家臣が倒されても、倒した相手を褒めたたえることで器の大きさを示して、面子が潰れたことを誤魔化す。仕官の誘いをしてはいるものの、本音では全くそんなことは思ってないはずです。むしろ、自分の面子を潰した僕の事を殺したいくらいに憎んでいると思います。


「いえ、ありがたい話ですが、お断りさせていただきます。それよりも、この方の手当てを」


 向こうとしても、こっちが乗って来られても困るのだから、断ることに抵抗はありません。それよりも、僕が斬った、騎士の出血が思った以上なので、早めに手当てをした方が良いと思います。


「それは残念だ。また会うことがあったら、その時は気が変わってくれていると有り難いがな。では失礼するとしよう。迷惑をかけてすまなかったな」


 全く残念に思ってないのがハッキリわかります。貴族の方は、残っている騎士達に、僕が斬った騎士を運ばせつつ、自然に去って行きました。

 勝ち負けがハッキリしたら非を認めてアッサリと引くと余計な傷を負わずに済みます。こちらとしても勝ったからといって、無茶な要求などすれば白い目で見られるのですから、ああいった対応をしてくれる方がありがたいです。


「僕らも行きましょう。だいぶ目立ってしまったので、今日は屋敷に帰った方が良いと思いますが、どうしますか?」

「え、ええ、そうするわ……」


 御嬢様の顔色は青いままでした。人の手を斬り落としておいて、平然としている僕に対して恐怖感を抱いているようにも見えました。


 まぁ、人を斬って、喜んで貰える方が稀ですから気にしませんけどね。どんな悪党を斬ったところで喜ぶ人もいれば、悲しむ人もいるわけで。自分にとって都合の悪いことや細かいことを気にしなければ、喜んでいる人だけしか目に入れずに済むんでしょうけどね。そういうのは、僕にはなかなか難しいです。


 結局、御嬢様とは、それから一言も言葉を交わすことは無く。僕は屋敷へと御嬢様を送り届けると、依頼人から護衛の報酬を受け取りました。この依頼に関しては、それで終わりです。

 御嬢様とは最後まで何もなく終わりました。悪漢を撃退したら御嬢様と仲良くなれるなんていう物語のような展開が僕に訪れるわけはありません。そもそも、仲良くなったとしても身分違いですから、現実的に考えると良い結末は迎えられないでしょう。最初から縁が無いのだから気にもなりません。僕にとっては、イレイヌちゃんが、運命の人ですしね。


 まぁ、御嬢様とは縁が無かったけれども、御嬢様によって別の人とは縁が出来てしまいましたが……


 依頼を終えた帰り道、既に辺りは真っ暗になっていました。師匠達と違って、ギルドの本部に部屋を持たない僕は、借りている下宿への道を歩いています。

 夜とはいっても、季節は夏ですから、寒いということもなく、むしろ涼しくて過ごしやすい時期です。普段ならどこかで、何かお腹に入れて帰るところですが、僕はそうせずに、人通りの少ない裏道へと足を進めます。理由は……まぁ、すぐに分かります。


 後ろ暗いところがある人が集まる場所ではなく、単純に人通りが少ない裏路地を歩いていると、鎧を身に着けた男たちが十人程、ぞろぞろと姿を現します。向こうは、気づかれてないと思っていたのでしょうが、〈探知〉の魔法も使える僕は彼らの存在を把握していました。把握していて、この場所に誘い込んだわけです。まぁ、そんなことは彼らは気づいていないでしょうし、僕も教えるつもりもありませんが。


「昼間は、よくも恥をかかせてくれたな」


 男たちの間を割って、僕が昼間に斬った騎士の主が姿を現しました。その姿を見ても、僕は別に驚くことはありません。どうせ、こうなるだろうとは予測がついていましたし。


「あの小娘が貴族である以上、手は出せんが、それならば、せめて貴様を嬲り殺しにでもせんと気が済まんわ」


 まぁ、そうでしょうね。御嬢様の方を殺しでもしたら問題になるでしょうが、平民の僕が殺されてもたいした問題にならないので、狙うならば僕でしょう。ですが――


「良いんですか? こんな場所で」

「なんの不都合がある。ここならば、誰の目も気にせんで済むわ! むしろ、ここをノコノコと通ってくれたことに感謝したいくらいだ!」


 あまり分かってないようですね。まぁ、分かったところで今更どうにもならないと思いますが。


「人の目が無いということは、何が起きても誰も気づかないということなんですが、本当に良いんですか?」


 僕は囲まれ、進退窮まっている風を装いながら路地の壁に背を付けます。


「だから、好都合だと言っただろう。平民の小僧を殺したところで、誰も騒ぎ立てはせんわ!」

「それは貴方に対しても言えることです。ここでなら貴族を殺したところで、誰にも分かりませんからね」


 僕は背中にあたる壁に手を触れ、魔法を構築しながら、貴族に対して説明する。


「この国は平民にも厳しいですが、貴族にも厳しいですよ? 路地裏で野良犬のように屍を晒す貴族など、他の貴族からすれば、貴族の恥晒しですから無かったことにされて終わりです。つまり、この場なら貴方達を殺したところで、僕に咎は及ばない」


 僕は〈雷走〉の魔法を発動させました。この古式魔法は、雷を放つのではなく走らせる(・・・・)

 僕の手から走った雷は壁を駆け抜け、壁から地面を伝わり、貴族の元へ走ると、その身体を雷が駆け抜け、その威力によって貴族を昏倒させる。


 突然、倒れた貴族に周囲の騎士達は驚き、そちらを見ました。その瞬間、僕は一番近くにいた騎士の喉に向けて、『銀枝』抜き放ち、喉を斬り裂きます。僕は続けざまに剣を翻し、その傍にいた騎士の喉を『銀枝』で突きました。僕の攻撃で、二人の騎士は首から大量の血を噴き出させ、崩れ落ちます。どちらも、それほど深く刃が通ったわけではありません。ですが、それほど深く斬り込まなくても、首ならば簡単に人間は死にます。失血だったり、息が出来なくなるなどによって。


 味方が倒れたのに気づいたのか、別の騎士が僕に斬りかかってきます。僕は、その剣を『銀枝』で受けとめると同時に〈雷走〉の魔法を発動し、『銀枝』に雷を走らせます。それによって『銀枝』を通して、相手の剣にも雷が走り、僕に斬りかかってきた騎士の体も雷が駆け巡り、騎士を昏倒させます。


 僕は崩れ落ち、しなだれかかってくる騎士の体を避けると同時に、服の内に隠し持つナイフを抜き、昏倒した騎士の目に、それを突き立て〈雷走〉を発動させます。僕の〈雷走〉は外側からだと、走らせている途中でどうしても威力が散ってしまい。致命傷にはならないため、相手を殺すにはこうやって、剣やらナイフやら突き立て、相手の脳や心臓まで雷を走らせる必要があります。

 僕は、手応えから相手の脳を焼いたことを直感すると同時に、目に突き刺さっているナイフを引き抜き、僕の方に向かってくる騎士に向かって投げ、さらに、服の内からもう一本ナイフを抜いて、別の騎士に投げます。


 僕の〈雷走〉は手に触れた物体にしか走らないので、手から離したものに〈雷走〉は使えません。ですが、雷を物体の上に走らせ続ける(・・・・・・)ことは出来ます。

 〈雷走〉を変化させた僕の〈雷装〉の魔法によって、雷を帯びた二本のナイフは、一本は騎士に弾かれ、一本は別の騎士に刺さりましたが、どちらにしても結果は変わりません。僕の〈雷装〉のナイフに触れると同時に、二人の騎士の体を雷が駆け巡り、二人の体を痺れさせました。体の自由が利かなくなり、膝をつく二人の騎士に僕はすぐさまに近づき、その喉を『銀枝』で斬り裂きます。


 喉から大量の血を噴き出させる二人の騎士の姿を見て、僕から見て後ろの方にいる騎士が逃げようとしますが、僕は喉を斬った騎士の頭を掴んで、〈雷走〉を発動させました。騎士の体を通り、雷は地面を駆けて、逃げる騎士の体に雷が走り、逃げようとした騎士は体の痺れによって自由を失い、地面に転がります。魔力の消耗が多く、昏倒させるほどの威力は出せませんでしたが、動きを止めることが出来れば充分です。


 逃げられないと悟った残りの騎士が僕に襲い掛かってきますが、既に数は二人です。斬りかかってきた騎士の片方の剣を後ろに下がって躱しつつ、剣を持つ手首を斬り裂き、剣を落とさせます。同時に斬りかかってきた方は、僕に剣が届くよりも速く喉を突いて、動きを止めます。僕は剣を落とした騎士の首を『銀枝』で斬り裂き、痺れて地面に転がる、生き残っている最後の騎士の傍に近づくと、その首に『銀枝』を突き立て、命を奪いました。


 僕は別に人を殺すことに抵抗があるわけではありません。殺しておいたほうが面倒が少なければ普通に殺します。

 僕がこうやって生活できているのも、師匠が僕達を攫って奴隷にしようとした奴らを皆殺しにしてくれたおかげですし、人の死によって自由に生きていられる僕が人殺しを否定するのも、僕は何となく違う気がするんです。上手く言葉には出来ませんが。


 僕は地面に転がっている貴族に近づきます。貴族は意識を取り戻したようですが、体が痺れているせいでマトモに動けないようです。僕に何か言っているようですが、口が回らないのか、何を言っているのか聞き取れません。まぁ、たいしたことは言ってないと思うので、気にはなりません。

 僕にちょっかいをかけてこなければ、殺さずに済んだのですが、こうなった以上は殺すほかありません。後々の面倒を考えると生かしておく必要性は皆無です。僕は躊躇わず、貴族の首を『銀枝』で斬り飛ばしました。


 僕は地面に転がる貴族の首を確認すると剣を鞘に収め、その場を立ち去りました。貴族と騎士の死体は二日後の昼間に発見されたそうです。その後、僕に対する追及の手などは全くありませんでした。世間では後ろ暗いことをしている貴族の恥晒しが路上の喧嘩で死んだということになりました。十人程いた騎士の事は全く話題にはありません。やはり、命の価値は安いということでしょう。


 僕は依頼の報酬で大きな宝石の付いた指輪と花束を買って、イレイヌちゃんと仲直りをしようとしました。結果は――


『えっと……こんな高い物を貰う理由は無いんだけど……なんていうか、花束もそうだけど、ちょっと重いっていうか、全体的に無理』


 凄く嫌がられ、受け取ってすら貰えませんでした。予想外の展開で、逆に冷静になっています。結局、意味は無かったということなんですかね。

 指輪は持っていてもしょうがないと思ったので適当にそこら辺の人にあげました。持っていても後悔だけが募りますしね。

 僕が指輪をあげた人はウノさんという名前で、この辺りでは見ない肌の色をした人でした。遠い土地からやってきて、今は『クレープ』という料理を売る屋台をやっているそうです。王国に来て夢敗れて平凡に生きていくことにしたとか。

 指輪をあげたお礼として、僕は今後ウノさんのお店でお金を払わなくてもクレープが食べられるようになりました。ウノさんは『これで甘いクレープが作れるようになるぜぇ!』と喜んでいました。僕は肉と野菜を包んだクレープを食べて、甘くする必要は無いんじゃないかと思ったのですが、ウノさんにとって、そこは譲れない所だそうです。

 結局、僕が今回得ることが出来たのは、タダで食事ができる屋台くらいです。まぁ、イレイヌちゃんと仲直りは今後の課題としていこうと思い、とりあえず一人の人を幸せに出来たことを喜んでおこうと思いました。




 夢の中で、ヲルトナガルという人が現れ、いつものように『それで良いのか?』と尋ねてきますが、僕はこれで良いと思います。












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