襲撃顛末と実家からの手紙
エーデルベルト家に殴り込みをかけてからは平和な日が続いている。あの日はギルドに戻ってからエリアナさんに滅茶苦茶怒られたが素直に謝っておいたので大丈夫だった。何に対して謝れば良いのか分からなかったが、とりあえず頭を下げたら許してもらえた。悪いが全く反省はしていないので、もう一回ぐらいは同じことをやりそうです。その時は、また謝っておけば済むだろう。
そういえば、助け出したキリエちゃんとキリエちゃんの師匠のババアは冒険者ギルドに加わってくれることになった。仕事は魔法道具の開発で、既に製品を完成させてもいる。
完成した製品は、魔石を使ったコンロで、起動させると調理用にちょうど良い火力の火が出るという代物だ。原理は分からないが、オリアスさん方式の魔法出しっぱなしの魔法道具と比べると、起動と停止の機能があるため、安全性が全く違うのだとか。俺としては薪代がかからなくていいねというぐらいの感想しかないけれども、世間では地味に評判になってきているとか。儲かっているなら、俺の言うことは特にないので、そのまま頑張ってという感じです。
最近では起動させると水が出る魔法道具とかを開発してるようです。湯冷ましじゃない水を飲むとか相当に抵抗あるんだけど、大丈夫なんだろうかね。
エーデルベルト家の人達から貰ったお土産は有り難く換金させていただきました。換金してくれる商人の所にはジーク君と探知一号を向かわせました。二人とも凄く嫌がっていたけれども無視して行かせた。ジーク君は『僕はまだ子供なんで、そういうのはちょっと……』とか言っていたけど、子供だっていつかは大人になるんだから、遠慮しなくて良いと思ったので、構わず行かせました。色々経験しておかないと立派な大人になれないぞ。
二人はちゃんと換金してきて、少なくない現金を手に入れることが出来ました。戻って来たジーク君が俺に『最近、村の友達と距離を感じるんですが……』などと相談されたけれども、そんなのは俺の知ったことじゃない。
お金が入ったのでエダ村の宿泊所の建設も始めた。設計はグレアムさんがして、オリアスさんが魔法使いを動員し、魔法を用いて急ピッチで建設を行っている。
グレアムさんは村の周りに堀を作ったりしていてるが、何がしたいんだろうね。堀と近くの川が繋がるようにもしているようだし、何を考えているのやら。宿泊所をつくる予定のはずなのに、村を囲むように城壁も造ってるし、訳が分からん。
あと、たいしたことじゃないけど。王都の騎士団がエダ村の様子を伺っているらしいとか、何も見るものは無いと思うんだけどね。エダ村なんて、元々は王都へ食糧供給をするために作られたっていう農村だし、今は魔法道具とか魔物製品を製造したり、素材を搬入しにきた冒険者が、そのまま休暇を取るだけの場所なんだよね。砦並みに堅固な宿泊所とか、冒険者とか魔法使いを鍛えるための訓練所も造っている最中だし、本当に見るものないんだよね。そんな場所の様子を伺ってるとか、サボりなんだろうかね。俺達の税金でメシを食ってるくせにとんでもない奴らだ。今度見かけたら、ぶちのめして性根を叩き直してやろうかな。
ああ、あとどうでも良いんだけど、最近、貴族の人達が俺の所によく来るようになった。今後はよろしくお願いしますとかなんとか言ってきたり、敵対する気持ちなどは全くありませんとか、泣きながら跪いてくる人もいたりで面倒くさかった。そういえば、食肉業者の人だとかも青い顔をして、俺の所にやってきて頭を下げてきたが、なんなんだか全く分からない。
肉と言えば、魔物の肉に中って死んでしまった人がいたとかも聞いた。魔物肉に関しての批判も出たが、食事なんてのは中る奴が悪いので、無視した。死んだ人は黒髪で珍しい肌の色の女の子だったとか、生水を飲むとか正気ではないことをしていたというので、肉ではなく、そちらが原因ではないかと俺は思う。王都で生水を飲むとか自殺願望でもあるんだろうか、王都で生水飲んだら、普通お腹壊すしな。
まぁ、なんだか最近は平和ですね。エーデルベルト家に殴り込みをかけた日の翌日辺りから、周囲の冒険者ギルドに対しての態度が軟化してきているせいでもあるんですかね。貴族の人達はビビってるみたいだし、騎士団の人は何か文句を言いたそうにしているけど、できれば関わりたくないという雰囲気がしています。俺達が殴り込みをかけたエーデルベルト家の人達もお礼参りを仕掛けてくるということもなく穏やかな日々だ。
平和なのは良いけれども、暴れる機会が無いのもつまらないもので、そういう時は、お酒を飲んで暇を潰したりしてます。オリアスさんとかグレアムさんと一緒に飲みに行くと、だいたい店が空いているので、ノンビリと飲めて良い。まぁ、俺達が行くと、店の人から『二度と来ないでくれ』とか言われるんだけどね。
そうやって、特に何もすることのない日々を過ごしつつ、エーデルベルト家に殴り込みをかけてから、二週間ほどが経ったある日のこと、俺に手紙が届いた。
送り主はアークス伯爵家であり、内容は……時候の挨拶とかなんか色々と書いてあったけど、要するに俺に会いたいというものだった。会いたいっていうなら、会いに行かないといけないよな。家族なんだしさ。手紙の内容は、会った時に聞けば良いさ。
というわけで、俺は早速アークス伯爵家の屋敷へ行くことにした。手紙には、何日後とか書いてあったような気がするけど、家族なんだし、そんな細かいことを気にする必要も無いだろうから、すぐに会いに行くべきだよな。というわけで出発。いないっていうなら、待たせてもらうから良いよね。ああ、なんか手紙にはエリアナさんの名前もあった気がするし、エリアナさんも連れていこうかな。というわけで出発!
「なんで、家に入れないんだ?」
思い立ったが吉日という勢いでギルドを出て、俺は実家の門の前で立ち往生しています。門番はひどく焦った様子だが、それは俺には関係ないよな。
「お越しになる日は、今日ではなかったと思いますが……」
「それは、お前らが間違えてるんじゃないのか? そもそも家族に会うのに日程を気にする必要があるのか?」
この門番は最悪だな。なんか俺が悪いみたいに言いやがる。
「アロルド様、ここは日を改めた方が……」
エリアナさんまで、そんなことを言いだすので、なんか俺が間違ったような気がしてくるが、まだそうと決まったわけではない。ここは交渉してみよう。
「分かった。家の中で待たせてもらおう。もし駄目なら、俺は二度とここには来ない」
「いえ、ですから今日は日が悪く……」
「家族と会うのに日が悪いとはどういうことだ? 何か都合が悪いのならハッキリと言ってもらわないことには、俺も納得は出来ないな」
なんかスゲーゴネやがるんだけど、この門番。いっそ、ぶちのめして家に上がるかな、エリアナさんもいることだし、さっさと家に入って寛ぎたいんだがな。というか、帰宅を邪魔しようとする、コイツの神経が分からんのだ、ホントにぶん殴って良いか?などと、俺が思い始めた時だ。
「何を騒いでいるんだい?」
何となく、聞き覚えのある声が俺の耳に届く。声の方を見ると、黒髪で爽やかな雰囲気の青年が立っていた。えーと、どこかであったことがあるような。
「セイリオス様!」
門番は青年の姿を見るなり跪いた。なんだ偉い人なのか?
「家族を門前払いは良くないな。僕は入れてあげても良いと思うけど」
「いえ、ですが、旦那様は……」
「次期当主の言うことを聞いておいた方が幸せに生きられると思うんだけどね」
うーん、怖いなぁ。有無を言わせない感じだし、門番なんか完全にビビってるよ。うわ、俺があんだけ頼んだのに、すぐに開けやがった。贔屓が過ぎるんじゃないかな。というか、家族って言ったかな、そういえば家族だったような気も。
「さて、じゃあ家に入ろうか。えーと、その前に、そちらのお嬢さんに挨拶をした方が良いかな?」
青年は、エリアナさんの方に向き直ると、優雅な仕草で一礼し、名を名乗る。
「はじめましてお嬢さん、僕はセイリオス・アークス。アークス伯爵家の次期当主で、アロルドの兄です」
思いだした。俺の兄貴だ、この人。いやぁ、すっかり忘れていたよ。でもまぁ、思いだしたから良いよな。それよりも久しぶりに会ったけど、話って何だろうね。楽しい話だと良いんだけど。




