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誤算

 

 さて、オリアスの伯父を面倒というほどの苦労もなく倒せたわけで、後は囚われのお姫様を助け出して、終わりなわけだが。キリエの囚われている部屋に入ると俺は何とも言えない気持ちになった。


「つまらないな」


 思ったよりは綺麗な部屋だった。監禁目的で内側からは開かないようにはなっているが、それ以外は小奇麗なものであり、それが俺をつまらなくさせたのだ。そんな部屋に横たわっている姿を見ても、何も悲壮感など抱かない。もう少し牢のような殺風景な造りの部屋であるならば、横たわるキリエの姿も哀れを誘うのだがな。

 それに、攫われたというのに、キリエの姿も綺麗なもので、手をつけられ、身を汚されたような様子は見えない。まだ手を出されていなかったのだろう。俺は、それを見てため息を吐いた。無事であったという安堵からではない。エーデルベルト家の奴らの情けなさにため息が出たのだ。


「どうせなら、凌辱でもしてくれていた方が面白かったのだがな」


 劇的な場面ではないのが俺には退屈に感じる理由だ。それに、そんな出来事があった方が、キリエの今後は暗くなるだろうし、そうなれば俺が彼女の心の隙間に入り込むのも容易くなる。慰め癒してやれば、俺に依存するようになっていくだろうし、そうすれば俺はキリエの中で特別な価値を持つ人間になる。やはり、誰にとっても特別な人間になりたいからな、俺は。

 別に不幸を望んでいるわけでは無い。俺の物になるんだったら、どんな奴でも幸せにしてやるぐらいの気持ちはある。けれども、不幸な人間を見ると、そいつと自分を比べた時に優越感に浸れるから、俺の周りは不幸な人間が多い方が良い。そいつらが不幸であるのに対し、俺が幸福に満ち溢れているのは自分が特別であることを感じられて望ましい状況だ。

 まぁ、だからと言って、この状況からキリエを不幸にしようという気持ちは起きないがな。手間がかかるし、そんなことをするくらいなら、普通に生活をしていく中で俺に惚れさせ、後々、依存させていくほうが楽しいだろう。

 そんなことを考えながら、俺は横たわるキリエを抱きかかえる。なんの反応も無いのは面白くないので、強化の魔法を応用した、意識の覚醒を早める魔法をキリエにかける。


「……あれ……私……」


 ふむ、シチュエーションとしては中々に良いな。俺の腕に抱えられている状態でキリエは目を覚まし、俺と目が合う。俺は穏やかに笑いかける。打算しかないが、可愛い女は好きなので笑みも自然に出せる。


「心配ない。もう大丈夫だ」


 俺が柔らかな声で伝えるとキリエは安心したせいで、張り詰めていたものが切れたのだろう、堰を切ったように泣きだした。俺は何も言わず、キリエが落ち着くまで好きなように泣かせながら、オリアスの元へと戻る。オリアスもそろそろ意識を取り戻した頃だ。肉親との再会を演出してやるのも悪くはないだろう。


「あの……ありがとう……」

「気にするな。当然のことをしただけだ」


 俺の利益になることでもあるから当然助けるさ。そのうち、礼は頂くしな。いや、さっさと頂くか。

 どこか宿にでも連れ込んで思う存分その身体を好きにさせてもらうのも悪くはないかもしれないな。貧相な身体も味があると思えば美味しく頂けるだろう。それより何より、助けて貰ったと思った矢先に凌辱されたとしたら、キリエの絶望はどれほどになるだろう。だが、それでも俺に助けられた恩がある以上、憎みきれない部分もあり、相当に葛藤した思いを俺に抱くことになるに違いない。やはり特別な思いを抱かれるには、苦しめてやった方が良いかもしれないな。子でも孕めば、俺に対する思いも更に複雑なものになるだろう。

 そんな事を考えている内に、俺達はオリアスのもとに戻った。俺達が戻って来た時にはオリアスは目覚めており、倒れている伯父の傍に所在なく立っていた。殺すべきかどうか迷っているのだろう。俺が放っておいたのにも関わらず、自分が殺して良いものだろうかなどと考えているに違いない。


「やめておけ。殺す必要は無い」


 俺が声をかけると、オリアスは俺の方を見てため息を吐く。諦めたということだろう。理性が勝ったということだろうか? 色々と複雑な思いもあるだろうが、俺にはどうでも良い。

 オリアスは俺に昏倒させられた時の事は憶えていないようで、俺に対して警戒するような気配は出しておらず、普段と変わらない様子で俺に声をかける。


「助けてくれたんだな」


 オリアスは落ち着いた様子でキリエを見る。自分の身の上を明かしていないのだから、ここで露骨に喜ぶことも出来ないのだろう。自分の身の上を話したら、キリエも自分の出生を知ることになる。そんなことは知る必要が無いというのがオリアスの考えなのだろう。オリアスが教えなくても俺は教えるがな。自分にケダモノの血が流れているのを知った時の絶望を見てみたいからな。


「あの、オリアス兄さんが、どうしてここに? えっと、それに師匠は?」


 キリエの方は状況が全く分かっていないようだ。オリアスも答え辛そうにしているので、俺が代わりに教えてやる。


「お前が攫われたと聞いて助けに来たんだ。お前の師匠の方は、ギルドの方で保護している。傷は深かったが、カタリナが適切に治療しているだろう」


 キリエは胸をなで下ろして安心しきった表情になる。オリアスの方も師匠の婆さんが生きているとは思っていなかったのだろう。驚きを顔に表し、俺に対して頭を下げながら言う。


「すまない。何から何まで助かった」

「別に気にすることじゃない」


 実際、見返りもありそうだし、気にすることはない。今後も俺のために働いてくれるなら、それだけで充分だ。


「ここにいるのも空気が悪い。さっさと帰るとしよう」


 まぁ、オリアスは、はいそうですかとは言わないだろうが。オリアスは帰ろうとする俺を見ながら、立ち止まっている。

 オリアスからすれば、俺を裏切ったことになるから、俺の仲間ではいられないとでも思っているのかもしれないが、俺はそんなことは気にしない。だが、オリアスが気になるなら逃げ道を用意してやる。


「本当に悪いと思うなら、身を粉にして働くんだな。少しでも償う気があるならだが」


 これで俺の元に戻らないなら、別に構わないが。そんなことを考える必要は無かったようで、オリアスは真剣な眼差しで俺を見ながら頷き。俺の後ろをついてくる。ふむ、これで忠誠心の厚い優秀な手駒は確保できたな。今後が楽しみだ。


「なぁ、今更聞くのも変だが大丈夫なのか?」

「何がだ」


 屋敷の中を歩いているとオリアスが声をかけてくる。俺の腕に抱えられているキリエは疲れたのか眠っている。俺はそんなキリエの寝顔を見ながら、この女をどうやって貪り食ってやろうかと計画を練っていたのだが、その邪魔をしないでもらいたい。キリエを頂いたら、エリアナとカタリナも頂くのだから、俺は忙しいんだ。自重する必要も無さそうなことが理解できたしな。


「身体の状態なんだが俺の伯父に何かされてたろ。何をされたかは分からないが、少し雰囲気も違うし、心配になってな」

「別に問題は無い」


 体調に関しては、以前よりも頭が冴えているのだから、むしろ好調だろう。ただ、雰囲気が変わったのが気づかれるのは良くないな。オリアスからは俺を害しようという気配は感じないので、問題はないだろうが、余計な疑いを抱かれたくはない。


「でもまぁ、少し気になるから、かかってる魔法は解いておくな。念のためだ」


 ん? 今、なんて言った。というか、なぜ魔法の発動準備を整えている。まずい、間に合わん。いや、ホントに待て。くそ、キリエを抱えているせいですぐには動けんし、ここで下手に動くとあらぬ誤解を受ける可能性が。いや、まぁ別に、普段に戻るから変わりがないと言えば、そうなんだが――


「んー、特に何か変わった様子が無いが、気のせいだったか」

「言っただろう、別に問題ないと」


 ホントに困る野郎だぜ。別に問題ないっつーのにさ。ちょっと頭が良くなってただけだっつーの。まぁ、そんなことを言うと、今までがバカだったと思われるから言いませんけどね。というか、全然不都合を感じていないし、この状態も、あの状態もたいして変わらないんじゃね。頭の中がゴチャゴチャしてるのもいつも通りだし。

 それよりも、どうすっかなぁ。さっきまでムラムラとして、キリエちゃんとか手籠めにしようとか思ってたけど、実際にそれやって良いのか良く分からんのだよね。処女より重い物は無いみたいな話も聞くし、手を出して良いものなんでしょうか。結婚するまで控えた方が良いような気もしてきてるんだよね。俺以外の人と結婚した時の初夜に処女じゃないことがバレたら大変なことになりそうだし、将来を考えたら行為に及ぶのは避けた方が良いよね。あ、逆に考えると行為に及ばなければ何をやっても良いんじゃないってことになるな。うん、結構冴えてるな、俺。というわけで明日からはエリアナさんとかカタリナにも嫌がられない程度で、身体的接触をしていこうっと。


 おや、気づいたら外ですね。なんか、グレアムさんとかジーク君が屋敷の庭に集まってます。ああ、そう言えば帰るんでしたっけね。でもこのまま帰るのもなぁ。なんか、お土産貰って帰っても良いんじゃないかと思うんだよね。オリアスさんが、もてなしてくれるって言っていたような気がするけど、全くもてなしてもらってないし、勝手に貰っていっても良いかな。とりあえず、全員分になると、俺一人じゃ持ってこれないから、ギルドの奴らにも頼もうっと。


「お前ら、土産を頂いてこい」


 俺がそういうと、ギルドの奴らは歓声をあげて屋敷の中に飛び込んでいきました。残ったのは、肩を竦めて困ったような顔をしているオリアスさん、ニヤニヤしているグレアムさん、そして真っ青な顔になっているジーク君です。


「えっと、これって強盗じゃ……?」


 ジーク君が質問してきました。何を言っているんだ、この子はと思うが年長者としては、キチンと答えないといけない。


「向こうが強盗だと言えば、強盗になるだろうな」


 お土産貰って帰るだけでも、向こうが強盗と言い張れば強盗になってしまうのが、世の中の悲しいところだ。それをジーク君にも知ってもらわないとな。


「ええと、被害を訴えでられなければ。強盗にならないということでしょうか」


 ええ、何を言ってんの、この子。考え方が怖いんだけど。被害者を黙らせれば、罪には問われないとか考えてんの。君、普通の子だったよね、どうしてそんな怖い考えに至っちゃうの? グレアムさん、なんか言ってやって。


「これだけ手酷くやられたら面子もあるし、公にはしづらいよ。人死にがあったら違ったかもしれないけど、誰も死んでないしねぇ。言ったら恥をかくし、今後も侮られ続けるようになるから、黙ってるんじゃないかな?」


 グレアムさんは何の話をしているんでしょうかね。俺にはサッパリです。オリアスさん、グレアムさんの代わりによろしく。


「土産を貰うにしても、始末はどうすんだ? 現金はどうにでもなるが美術品とか宝石は処分に困るぜ」

「さっさと売ってしまえばいいだろう。抱えていてもしょうがないし、買ってくれる奴に言い値で売ってやればいい」


 なんか、良く分かんない話になってきましたけど。どうせ、お土産で貰える美術品とかなんて、安物だろうし、誰に売っても変わんないでしょう。だったら、早くお金に変えた方が良いよね。


「まぁ、抱えておいて、厄介ごとの種になるのもな。だったら、安くてもさっさと手放した方がいいってことだな」


 オリアスさんがなんだか納得しているようですが、何を納得しているのやら、俺には良く分からんね。そんなことよりも俺は眠くなってきたので、さっさと帰りたいんだけど。お土産貰ってくるくらいで何をやってんだろうね。


「ノロノロするな、さっさと運び出せ! かさばるものは置いていって、軽いものだけ持って来い!」


 あんまり遅いもんだから、俺も怒鳴ってしまいました。ジーク君の顔色は悪いですが、気にすることでも無さそうなので無視しておきます。

 俺の発破が効いたのか、ギルドの連中の作業は素早くなり、お土産は順調に受け取ることが出来たようです。数が多いので、荷車に乗せて運びだします。


「こんな堂々と動いて良いんですか?」


 ジーク君が俺に尋ねてくるけど、なんで堂々としちゃ駄目なのかが、分からない。むしろ堂々としていた方が喧嘩を売られずに済むと思うんだけどね。三十人の武装した集団が固まって歩いていたら、騎士団だって近寄らないと思うよ。というか、そもそも――


「なんで、堂々としてはいけないんだ?」

「いや、だって、あんなことしでかしましたし」


 あんなことが何のことを指しているのか分からないけど、大丈夫なんじゃないかな。良く分からないけど。まぁ、駄目でも文句を言って来たら、その時はキチンと話し合えば分かるんじゃないかな。話し合っても分からなければ、面倒なことになりそうだけど。

 おや、騎士団の人がいますよ。顔色が悪い感じの人が多いですね。なんか、俺に用でもあるのかね。聞いてみるか。


「話があるなら、こちらに来い」


 そう言ったら、こちらに突進してきたがっている人が何人か現れましたが、周囲の人に止められてますね。何やってんでしょうね。そんなにこちらが怖いんでしょうかね。まぁ、どうでも良いんですけど。


「散歩がしたいだけなら昼に出歩いた方が良いぞ。夜道は何が起きるか分からんからな」


 俺がそう言うと騎士団の人達が睨んできましたね。親切で言ってやったというのに、そういう態度は良くないな。文句があるならかかってくればいいと思うんだけどなんなんでしょうね。喧嘩売ってくるなら、ぶっ殺してやるんだけど。


「いやぁ、最高」


 グレアムさんがニヤニヤしながら俺に言ってきます。オリアスさんも仕方ないって顔しつつも満更ではない雰囲気ですね。おや、ジーク君は、さっきから顔が青いままですね。「ヤバいよ……ヤバい……」って何がヤバいんだか。あら、騎士団の皆さんはお帰りですか?


 まったく、なんだか良く分からない連中ばかりで困るぜ。






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