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「ぶち殺すぞ、ゴラァ!」


 道案内をお願いしたはずだったオリアスさんがどういうわけか絶好調です。俺達に攻撃をしてくる魔法使いをちぎっては投げ、ちぎっては投げの八面六臂の大活躍。何かが吹っ切れた様子で、エーデルベルトの人達に魔法を叩き込んでいます。


「ガキの頃のことは忘れてねぇぞ! テメェ、俺のスープに犬の糞入れてやがっただろ! お前は虫を入れたよな! お前ら全員くたばれ!」


 オリアスさんは魔法で石を作ると、それをエーデルベルト家の人達の手足に叩き込み、へし折っていきます。怖いですね。俺はそんなことはせずに普通に殴り倒しています。ですが、人が多くていい加減ウンザリ。


「何人いるんだ?」

「さぁな、エーデルベルト家の門弟の奴らもいるから、結構な数だろうよ」


 まぁ、数が多くても、そんなに疲れないから良いんだけどね。相手が魔法を発動するよりも早く接近して殴るだけだし。楽勝ですよ。オリアスさんも絶好調みたいだし、特に問題はなさそうな感じだね。


 なもんで、オリアスさんの道案内のもと、邪魔する奴らをぶちのめしながら進んでいく俺達。行き先はキリエって子が囚われている場所らしい。まぁ、俺はついて行けば良いだけなので、行先とか知らなくても問題ないでしょう。そのために道案内をお願いしてるわけですし。


 そうこうしている内に気づいたら、襲ってくるエーデルベルトの奴らもいなくなりました。エーデルベルトの奴らはまだ居そうな気配があるけれども、完全に俺達にビビッているようで隠れている気配がする。隠れていても良いけど、多分グレアムさんが探し回ってボコボコにすると思うから、さっさと出てきた方が良いと思うよ。


 おっと、そんなことを考えている内に、オリアスさんの足が止まりましたよ。到着したのは、高そうな扉の前です。扉の前に立つなり、オリアスさんはいきなり扉を蹴破って中に入ります。俺もその後に続きますけどノックはしなくて良いのかとか思ったり、もっと優しく開けようぜと思わないでも無かったり。


「伯父上、死ねぇ!」


 部屋に入るなり、オリアスさんは〈火球〉の魔法を発動しました。狙いは部屋の中にいたダンディなおじさんです。伯父上とか言っていたし親族なんかな。まぁその辺は気にしないでおこう。

 そんなことよりも、不意打ち気味に放ったオリアスさんの魔法はオリアス伯父に当たらず、見えない壁に阻まれてしまったことの方が重要だ。どういうことなんざんしょと思っていると、オリアス伯父が反撃のつもりなのか〈ファイア・ボール〉を俺とオリアスさんに向けて撃ってきたので、俺がそれを剣を振って掻き消す。


「どういうつもりだ、オリアス!」

「どうもこうもねぇ! いい加減テメェらに従う気が無くなったってだけだ!」


 オリアスさんとオリアス伯父が怒鳴り合っているので、その隙に俺がオリアス伯父に斬りかかる。オリアスさんも攻撃していたし、たぶん敵なんで大丈夫だろうと思ったので攻撃したわけだが、俺の剣は容易く弾かれる。


「〈マジック・シールド〉で守りを固めてる。普通に攻撃しても無理だ!」


 オリアスさんが叫びつつ、〈風刃〉の魔法を放つが、それもオリアス伯父の〈マジック・シールド〉が防ぐ。なんか、硬すぎやしないかな? 魔力で防御壁を作る〈マジック・シールド〉の魔法は俺も使えるけど、俺のはそんなに硬くないんだけど。


「アロルド・アークス! 貴様も邪魔をするか!」


 何で俺の名前を知ってるのかを小一時間ほど問い詰めたかったが、そんな余裕は無かった。俺は殺意を感じて、オリアス伯父から素早く距離を取る。直後に俺が一瞬前までいた場所を風が押し潰した。


「気をつけろ、そいつはそれでも王国では屈指の魔法使いだ。半端な方法じゃ、どうにもできないぞ」


 さいですか。じゃあ、半端じゃない方法でやりますかね。

 俺は〈ブースト〉の魔法を自分にかけて、身体能力を上げてから、オリアス伯父に向かって一気に距離を詰めつつ、全力で剣を振り抜く。その瞬間、ガラスが砕けるような音がして、オリアス伯父の〈マジック・シールド〉が消失する。半端じゃなく力を込めればこんなもんですよ。ですが、追撃は出来なかったので、すぐにオリアス伯父から距離を取る。。

 オリアス伯父は〈マジック・シールド〉が砕けるのと同時に後ろに飛びながら〈ウインド・エッジ〉の魔法により風の刃を生み出して俺を斬り刻もうとしたので、俺は距離を取って、それを避けたわけだ。


「貴様ら、こんな真似をしてどうなるか分かっているんだろうな!?」


 オリアス伯父は俺達を睨みつけてきます。気の弱い人だったら気絶してるくらい怖い顔です。俺も繊細な方なので、少し怖いです。まぁ、我慢できるから問題ないけど。つーか質問されて、俺が答えられると思ってんのか、この野郎。答えようのない質問をキレ気味にしてくるとか最低だろ。


「分からないので、教えてくれると助かるんだがな」


 まぁ、分からないことは素直に聞いた方が良いので、オリアス伯父は気に入らないけど、我慢して答えを聞きました。おや、オリアス伯父、どうしたんですか? 顔真っ赤ですよ。


「分からんだと……こんな真似をしでかして貴様らも破滅だぞ……エーデルベルト子爵家に貴族家にこんな真似をしてタダで済むはずが無い! 王国を敵に回したのと同然なのだぞ!」

「そうか。で、それがどうした?」


 答えになってねーよ、バーカ! 俺は具体的に何がどうなるのか聞きたいんだよ、バーカ! 抽象的過ぎて分かんねーよ、バーカ!さっさと、答えを言えよ。結局、何がどうなんだよ。


「王国が敵に回るのが、そんなに問題なのか? たった、それだけのことで俺が破滅するとでも?」


 ヤバくなったら逃げれば良いだけじゃねーか。敵に回ったって、どっか別の国に行けば問題なしだろ。どう考えても破滅する要素が無いんですが、そこんとこ説明をよろしく。


「貴様、自分が何を言っているのか、分かっているのか!」

「お前よりは分かっていると思うがな」


 結局、何も具体的なことが言えない人よりは俺の方が物事を分かってると思うよ。おや、オリアス伯父が俺の方を見るのをやめて、オリアスさんの方に視線を向け始めました。


「オリアス、貴様もこんなことをすれば、あの娘がどんな目にあうか分かっているのか?」

「うるせぇよ。俺はもうグダグダと考えるのをやめたんだ。テメェの脅しも今の俺には意味はねぇし、これから先、言いなりになることもねぇ。テメェが何を言おうが、俺はキリエを助ける。ついでにテメェは死ね!」


 うーん、良く分からんが、コイツがキリエを捕まえてんのか。つまり悪い奴ってことか、じゃあ、ぶちのめさないとな。


「貴様ら……揃いも揃って、エーデルベルト家を舐めおって……ここを切り抜けたところで、貴様らに未来は無いぞ! エーデルベルト家の総力を挙げて貴様ら、絶望へと叩き落としてくれる!」


 うーん、なんだか、また抽象的なこと言いやがってるぞ、コイツ。だから、未来って何時なんだよ! それに何をすんだよ! 将来何か大変なことがあるなんて、そこらの占い師の言葉と同じだな。言葉に重みが無さ過ぎるわ、コイツ。


「もういい。相手をしたところで意味がない」

「そうだな、さっさと終わらせて、キリエを助けるか」


 なんか話しても何も得るものがなさそうな上に、悪い奴っぽいので、オリアス伯父をぶちのめすことに俺は決めました。場合によってはぶち殺すと思います。

 俺とオリアスさんが構えると、オリアス伯父は、チラッと後ろの壁に視線を向けました。壁の後ろに女の子の気配がありますね。なんかぐったりしてるような気配です。気にした方が良いことかは分からんので保留。


「オリアス! そいつを殺せ! さもないとキリエが――」

「うるせぇ!」


 なんか言おうとしていたオリアス伯父に向かって、オリアスさんの魔法が飛んでいきますが、オリアス伯父の〈マジック・シールド〉が、それを防ぎます。

 それは良いんですが、壁の後ろが気になりますね。オリアスさんとオリアス伯父は、がっつんがっつん魔法をぶつけ合ってるので俺は暇です。しかし、なんでもっと強力な魔法を使わないのかね。屋敷が崩れるからかな? 形あるものはいつか壊れるんだし、ドカンとやっちゃうのに何か問題があるだろうか、俺は無いと思うんだけど、どうなんだろ?

 しかし、することないね、俺。一応、俺の方にもオリアス伯父の魔法は飛んでくるんだけど、躱したり剣で斬り払ったりしてるから、特に問題起きないし、かといってオリアスさんとオリアス伯父の間は魔法が激しすぎて割り込めないんだよね。タイミングを見て俺も〈ファイア・ボール〉を撃ったりしてるけど、オリアス伯父の〈マジック・シールド〉に全部防がれて意味がない。そういうわけで、特にやることが無い俺です。


 まぁ、やることは見つけるものだし、何かするとしますか。とりあえず、気になってる壁の後ろでも見てみようかな。


「貴様っ!?」


 オリアス伯父の隙を突いて、俺は壁を蹴破る。なんか仕掛けがしてあったような手ごたえだったけど、力技で、ぶち破れるんだからたいしたことないよね。というわけで、隠し部屋を御拝見。って、なんですかね、女の子が一人いそうな気配はあったけど、そこにいたのは前に会った、貧相さんでした。なんだか妙にぐったりしてるし、手枷足枷、猿ぐつわまでさせられてますよ。


「キリエ!」


 オリアスさんが叫んでます。ああ、そういえば貧相さんはキリエって名前だったね。いやぁ、ようやく思いだした。なんかスッキリした感じがするね。まぁ、それはそれとして、オリアスさん危ないですよっと。


「貴様らぁ!」


 オリアス伯父の魔力が一気に増え、それと同時にオリアス伯父は巨大な〈ファイア・ボール〉をオリアスさんに向けて放つ。オリアスさんも魔法で防御したようだけど、防ぎきれずに吹っ飛ばされていった。まあそれはどうでもいいとして、俺に殺気を向けているオリアス伯父をどうするかの方が大事だと思う


「こちらが手加減しておれば、調子に乗りおって、ただでは済まさんぞ!」

「手加減ではなくて、全力を出し続けられるほど体力に余裕が無いというだけだろう?」


 なんか、言ってますけど。バレバレですよ。僅かに息が上がってるんで、簡単に分かります。体力ないってね。

 俺の言葉が図星だったのか、オリアス伯父は炎の槍を撃ちだす〈ファイア・ランス〉を俺に向かって発動した。〈ファイア・ボール〉よりかは速いけど、斬り払えないほどでもない。俺はオリアス伯父の魔法を剣で斬り払い、掻き消すと、オリアス伯父の懐に飛び込んで剣を叩きつける。

 しかし、俺の剣は〈マジック・シールド〉によって防がれ、届かない。どうやら、さっき砕いた時よりも硬くなっているようだ。直後にオリアス伯父が魔法を発動しようとした気配がしたので、俺は即座に飛び退いてオリアス伯父の魔法を躱す。

 うーん、攻め手がない。オリアス伯父の魔法は発動の瞬間が分かるので回避は余裕だし、避けられなくても剣で弾いたり、掻き消したりできるので、特に問題は無し。しかし、俺の方からオリアス伯父に攻撃を届かせる方法も無いわけで。これは困った。帰りたくなってきたぞ。帰ってお酒でも飲んで寝たいな。夜だし、帰っても良いんじゃないかな。『明日早いんで』とか言ったら帰れる感じじゃない? もしかしたら、向こうも帰りたくなってるかもしれないし、聞いてみるか。


「どうした? 帰りたくなったか? いいぞ、どこへなりとでも行くが良い」

「小僧が舐めおって!」


 言ってしまって、俺はミスに気づいた。ここがオリアス伯父の家じゃん。何言ってんだ俺。スゲー恥ずかしい奴だな。

おっと、オリアス伯父が氷の矢を大量に降らせてきました。そういうのって意味ないと思うよ。もう失言はしたくないので、何も言いませんが。俺は氷の矢を剣で払って防ぎつつ、オリアス伯父に近づき〈マジック・シールド〉に剣を叩きつける。オリアス伯父の魔力が膨れ上がっていたので、大きな魔法が来そうだから邪魔してやるための攻撃だ。当てるつもりは無いので、届かなくても別に気にはしない。オリアス伯父の魔法を止めたら、近づいていてもそんなにメリットは無いので、すぐに後退する。近距離だと対応しづらい魔法が多そうだったので、距離を取った方が安全な感じがするからだ。

 飛び道具が多い魔法使い相手に距離を取るなんていうのは、自殺行為だとか言う奴もいるけど、俺自身が飛び道具みたいなものなので、問題なし。というか、俺の方が飛び道具より速いしね。いやぁ、鍛えておいて良かった。


 距離を取った俺を見ながら、オリアス伯父は何かを考えている風になりました。考え事を邪魔するのも可哀想なので、放っておきます。それよりも、オリアスさんがようやく動けるようになったのか、床を這っているほうが気になります。まぁオリアス伯父の俺を見定めようとしてくる目も気になるんですがね。


「人間離れした速さ」

 毎日走りこんでいましたから。


「ありえないほどの腕力」

 毎日大岩を持ち上げてましたから


「神速の剣技」

 毎日素振りしてましたから


「魔力の流れを見て、魔法の発動を予測する能力」

 見えないけど勘で分かるだけです。山籠もりして動物のような生活をすれば習得できますよ。


「隠されてはいるものの、身に絡みつく強力な魔力」

 それは分かりません。


 というか、何を言いたいんですかね、オリアス伯父。考え事は終わったんですか? 考え事タイムを取ってやったんだから、俺の考え事タイムも認めろよ。


「ふふ、そうか。なるほどな。どうやら、貴様は伝説にある勇者という存在というわけか。そう考えなければ、その強さは説明できん」

「なんの話だ」


 マジでなんの話なんでしょうかね? 勇者ってなんなんでしょう聞いたことないで……いや、聞いたことがあるような気がするようなしないような。うーん、思いだせない。なんか偉い人に言われたような気が……


「勇者は神々の魔力によって力を与えられているという。貴様の身に絡みつく魔力が神々の力の証なのだろう。そうでなければ、私が追い込まれるわけはない」


 いや、マジでなんなの。ちゃんと説明して。自己完結はやめてくれよ。お前の甥も自己完結型だし、エーデルベルト家の人間てそういうのしかいないの? 滅んだ方が良いんじゃないか?


「だが、タネが分かれば、幾らでも対処の方法はある。結局、貴様の力は、神々から供給されている魔力によるものだ。ならば、その流れを断ち切り、魔力を遮断すれば良い!」


 え、何をする気なんですかね。全然悪い予感がしないんだけど。


「アロルド!」


 オリアスさんが叫んでるけど大丈夫だと思います。なんか問題なさそうです。オリアス伯父は手をかざし、俺に光を浴びせてくるけど、避ける必要ない感じもするし、大丈夫そ――


「うっ」


 なんだか急に頭が痛くなって、俺はしゃがみ込んでしまった。これは……


「アロルド!」


 オリアスが駆け寄ってくる。オリアスの伯父は勝利を確信した様子で、こちらを見ている。なるほど、これはマズいな。極めてマズい。


「大丈夫かアロルド!」


 心配した表情で俺に手を貸そうとするオリアス。確かに常識に則るなら、そうするべきだが、現状でそれをされても、俺は困るだけだ。なので、俺はオリアスの行為に感謝しつつ――




 その意識を刈り取った。




 オリアスの顎先に拳をかすらせ、意識を飛ばさせる。起きていられると困るからだ。ここから先を見聞きさせるのは後々の厄介事の種になりかねない。

俺がオリアスを気絶させるのを目にしたオリアスの伯父は表情に困惑の色を浮かべている。それはそうだろう、いきなり仲間を殴り倒したのだから、困惑もするはずだ。だが、わざわざ、その困惑を解消してやる義理など俺にはない。そのまま、ずっと困惑してもらっていた方が面倒が少なくていいくらいだ。


「どういうつもりだ?」

「敵に質問をするなよ、御当主殿」


 オリアスの伯父は俺に対して警戒の色を強める。オリアスの伯父からは恐怖の気配は全く感じない。随分と油断してくれているようだ。


「力を失ったというのに随分と強気だな」


 力? ああ、そうか『力』か。そうだったな、お前はそう理解したんだったな。そうかそうか、アレが力に見えたか。まぁ、力でも間違いではないんだがな。いやはや、全く見当違いで面白いな。思わず笑みがこぼれてしまうほどに。


「力を失い、たった一人で勝てるとでも思っているのか?」

「俺が一人で勝てないと思うか? 貴様の言う力を失った程度で勝てないとでも?」



 愚問だ。答える価値などない。そもそも、質問すること自体が間違っている。だから、ハッキリと行ってやる必要がある。そもそも――



「お前みたいなカスが俺に勝てるわけがないだろうが」









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