魔法使いの事情1
愚かにも俺を攻撃してきたオリアスさんを俺が一方的にボコってフィニッシュ! めでたしめでたし!
――ってわけにはいかないだろうなぁ。はぁ、足痛いし帰りたくなってきた。もういいから、帰らせてくれませんかね。ちょっと、俺は出口をチラ見して見たり――
「どこにも行かせるわけにはいかねえな。俺がもてなしてやるって言ったろ」
オリアスさんの周囲に数個の火球が現れ、それらが一直線に俺に向かってくる。片足を光の矢が貫通しているので、素早く動けない俺は、剣で火球を全て打ち払う。だが、直後に空気の塊が石のような硬さで、俺の顔面を殴りつけた。クソ痛いです。やめてください。
顔面に食らった衝撃で身体がのけぞるのに合わせて、オリアスさんから放たれた衝撃波が俺の身体を吹っ飛ばす。
つーか、なんでオリアスさんと戦ってんだ、俺? 状況は全く分からんが、なんかヤバいかもしれん。というか、状況に全くついていけませんね。俺の理解力舐めてるだろ、コイツ。たまに鶏の方が、俺より賢いんじゃね?って思うぐらい、物事についていけないことがあるんだぞ!
「どういうことか説明して欲しそうな顔をしてるな」
「そう見えるなら、説明しろ」
俺は足の傷を回復魔法で治して、立ちあがりながら、オリアスさんに説明を要求してみた。出来れば、俺に分かるぐらい簡単に頼む。
「別にたいした理由じゃねぇよ。強いて言うなら家族の平穏な生活のためだ」
そうか、俺にも理解できる説明ありがとう。家族のためなら仕方ないよな、うん。なんか、そういうのを邪魔するのも悪いし、帰るよ。失礼しました。また、日を改めてお邪魔します。というわけで、オリアスさんの後ろのドアから帰るんでどいてくれませんかね?
そういうわけで、俺が帰ろうとして一歩踏み出た瞬間、俺の足元を風の刃が走る。
「悪いが、アイツの今後のためだ。お前はここに足止めさせてもらう」
はぁっ!? 帰らせろよ、クソが! そもそも、俺は何でここにいるんだか分かんねぇんだぞ! ん? そういや、何しに来たんだっけ? ええと、アレだ。殴り込みをかけに来たんだよな、なんで殴り込みをかけに来たんだっけか? ええと、確かババアに攫われた子を助けて欲しいって言われたような? いや、助けてとまでは言われてないんだっけ?
俺が記憶を必死に手繰り寄せようとしている最中にも関わらず、空気を読まずに、オリアスさんの魔法が飛んでくる。
古式魔法の〈火球〉や〈風刃〉が俺に襲い掛かってくるが、俺は剣を振って、それら全てを打ち払う。火球は目立つので簡単に防げるし、その〈火球〉に紛れて飛んでくる、目では見えない風の刃の〈風刃〉は、おかしな空気の流れを剣で斬り払えば、簡単に防げる。気づかないと首とか手足が簡単に飛ぶだろうけど、俺は気づくので大丈夫。
「大抵、それで終いなんだがな。ホントにバケモノだよ、お前は」
「雑魚ばかり相手にしていただけだろう?」
オリアスは「違いない」と苦笑しているが、俺は笑えないんだけど。殺意は感じないけど、当たったらかなり酷いことになる魔法だよね、これ? なんで、そういうのを平気で俺に撃ってきてるわけ? 頭がおかしいんと違いますか? これは反省案件だわ。
というわけで、俺はオリアスさんに反省を促すための殴打を加えるべく、一歩踏み込もうとした。だが、その足が、不自然に沈む。
「すまんな。石の床を変質させて泥にした」
そう言いながら、オリアスさんは俺に対して、魔法を放つ。大量の〈風刃〉が俺の方に向かってくるが、大半は向かってくるだけで、俺には当たらない。本命は全く違うとすぐに理解できた。
明確な攻撃の意思が俺に迫ってきていたので、俺はそれに対して剣を振る。当たったものは貫通力の高そうな指先ほどの大きさの風の礫のようだったが、正体は分からない。
続けて、俺の目の辺りに敵意を感じたので、頭を動かして、それを避ける。直後に、俺の目の前に小さな火が出現して消えた。
「これも当たらないとか、どういう勘をしてるんだかな。だが、これはどうだ?」
オリアスさんは、そう言いながら、自分の背後に大量の光の矢を作ると、それを俺に向かって一斉に放つ。うん、これも本命じゃないな。それよりも、空気の流れが変化しているのが気になる。これをそのままにしておくのは、良くない気がしたので、光の矢を避けながら空気の流れが普通の所に向かって走る。
「本当に良い勘だな」
オリアスさんが、ちょっとイラッとした顔になります。この野郎、俺の方がイラついてんだぞ、ぶっ殺すぞ。
オリアスさんはあてが外れたような様子でしたが、空気の流れのおかしい所に火を発生させると、直後に爆発が起こります。その衝撃で俺は吹き飛ばされつつも、余裕で受け身をとって、ノーダメージ。同時に俺の周りだけ、弱い空気の壁に覆われて息苦しくなっていたので、空気の壁を斬っておく。
「……もういいんじゃないか?」
なんか、もう面倒くさくなってきたので、俺はオリアスさんに言います。確かに強いとは思うけど、対処できない強さじゃないんだよね。面と向かって戦える力はあると思うけど、それは俺以外のが相手の場合に限ると思う。それに、使ってくる魔法の大半がセコイんだよね。すげー威力でドカンって感じに吹き飛ばすんじゃなくて、小さなナイフで後ろから静かにズサって感じだしさぁ。それじゃあ勝てないと思うよ。
「そうもいかないんだよ」
オリアスさんは、不意に疲れた顔を見せたが、まぁ、どうでも良いでしょう。俺はいい加減、面倒になってきたので、オリアスさんに向かって、一気に距離を詰めようと一歩を踏み出します。やはり、足元を泥に変えて、踏み込みを弱めてこようとしますが、最初から、そうなると予測が立てられるならば、問題はないです。
一歩を踏み出すのに必要なのは足場じゃなくて、気合だから関係なし!
俺は踏ん張りが効かない泥を踏みしめながら、踏ん張りが効かない分を全身の筋肉に活を入れることで補って、一気に間合いを詰めながら、剣を振る。
――だが、俺の剣はオリアスさんに触れることは出来ず、炎の壁に阻まれる。えーと、これってあれだよね?
「新式魔法〈ファイア・ウォール〉。俺が新式魔法を使えないと言ったか? 言ってたとしたら、悪いな。そりゃ嘘だ」
剣を炎の壁に阻まれた俺は、距離を取る。炎の壁相手に剣を振っても仕方ないし。
「新式魔法は好きじゃないが。即応性は認めるぜ。頭で〈ファイア・ウォール〉と念じつつ、その完成形を想像しながら魔力を込めれば、それだけで自分の周囲を炎の壁が囲ってくれるからな。古式魔法でこれをやろうとすると、一体いくつの工程が必要になるやら」
オリアスさんは、そんなことを言いながら手を振り、炎の壁を操る。
「新式魔法だけなら、炎の壁を出して終わりだが、古式魔法には〈操火〉っていう火を操る魔法があるから、こんなことも出来る」
オリアスさんは、炎の壁を操り、それらをバラバラに散らして大量の火球を作り出し、俺に対して撃ち放つ。
「新式魔法で魔法を生み出し、古式魔法でそれを操る。これが一番、魔力の効率が良い」
つっても、たいしたことは無いと思うけどね。オリアスさんは効率が良いって言ってるし、実際そうなのかもしれないけど、戦ってる相手からすれば、効率とかどうでも良いよね。俺は大量に迫ってくる火球に対して、当たると危険なそうなものだけ剣で打ち払って、他は身体で受ける。受けたダメージはすぐに回復魔法で治す。
オリアスさんが〈ファイア・ボール〉を俺に放つ。普通は直線にしか飛ばない〈ファイア・ボール〉を〈操火〉の魔法で操っているのか、俺を追尾してくるが、剣で斬り払うと霧消する。
〈ウインド・エッジ〉が〈操風〉の魔法により、円盤状になって投げつけられる。石の床を軽々斬り裂いて、俺に向かってくるが、俺の剣が石より柔らかいわけが無いので、目では見えない風の刃も簡単に防げる。
〈アース・ニードル〉の魔法が石の床からせり上がってくるが、蹴り飛ばして、それをへし折る。同時に〈アース・ニードル〉が〈操土〉の魔法で、鞭に変化し、俺に襲い掛かってくるが、剣を振って吹き飛ばす。
「戦い方を間違えたな」
オリアスさんは弱くはないと思うけど、正面切って戦うタイプじゃないと思うんだよね。だから、こうやって、俺は特に大きな怪我もなく、オリアスさんの前に立っていられるわけだし。
「それはお前がバケモノだから、そう思うんだよ」
そうかね? 良く分からんけど。でも、戦い方が間違ってたのは、間違いないと自信を持って言えるね。最初に俺の足をぶち抜いたように、姿を見せずに不意打ちメインで戦ってりゃ、俺をぶっ殺せたと思うよ。そういや、なんでオリアスさんと戦ってんだっけ、俺?
まぁ、いいや。とにかく問題は、オリアスさんがショボいって話しだしな。
結局の所、オリアスさんは常に安全策を取っているから、全く怖くないってのが大きい。自爆覚悟で強力な魔法でも使ってりゃ状況は違ったと思うんだけどね。俺からすれば、グレアムさんみたいに後先を考えないで思い切り良く突っ込んでくる奴のほうが怖いし。そういう点で言えば、なんだかんだで後先を考えてるオリアスさんは思い切りが悪いから、たいして怖くないんだよね。肝心なところで判断が遅れるから。
――でもまぁ、そのおかげで、俺はオリアスさんの懐に飛びこめているわけですけどね。魔法を躱しながら、少しずつ距離を詰めて、最後は一気に間合いを詰めた結果です。俺の出来ることは、剣で斬り殺すか殴り倒すしかないんで、悩まないで済むのが良いね。対処の方法がいくつもあるオリアスさんは戸惑っているようだしね。やっぱ、シンプル最高!
オリアスさんが俺からすれば一瞬ではなく、言うなれば二瞬、三瞬ぐらいの隙を見せながら、接近した俺に対して魔法を放とうとするが、残念、俺の方が速いです。
俺はオリアスさんの腹に拳を叩き込み、続けて顔面に殺さないように手加減しつつも、死にかねないを一撃を叩き込んでやりました。
まぁ、流石に剣で斬るのもね。一応、友達ぐらいの関係にはあるし良くないでしょ。っていうか、なんで俺って、オリアスさんと戦っていたんでしょうね。全く状況が分からないんですが。




